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博士(農学)西脇森衛 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(農学)西脇森衛 学位論文題名

植物表皮細胞の全能性発現に関する生理学的研究 学位論文内容の要旨

  本研究はニンジン実生の胚軸表皮細胞から2,4‑ジク口口フェノキシ酢酸(2,4‐ D)やア ブ シジ ン 酸(ABA)によって不 定胚が形成 されること を明かにし 、その 作用機作の解明を試みるとともに、体細胞の全能性獲得の機構を細胞生理学的見 地から考察することを目的として行ったものである。

(1)2,4‑D処理により胚軸の表皮細胞から直接不定胚が形成された。その際カ ルス化を促進する未知の因子が培地中に放出されている可能性が示された。因子 が多量に培地中に存在すると、胚軸表皮は脱分化ののち盛んに分裂した。この因 子が適当なIだけ存在したときに、部分的な胚軸のカルス化の後直接不定胚を形 成した。さらにこの因子が少量の場合、表皮細胞は伸長しながら液胞化し遊離し、

また不定根の驍導が見られた。培地中の2,4‑DとIAAのIを測定した結果、カル ス化を誘導するために有効なIの2,4‑DとIAAは存在しないと結諭を下した。こ の 因 子 は カ ル ボ キ シ ル 基 を 有 す る 酸 性 物 質 で あ る と 考 え ら れ た 。 (2) ABAを含む培地 で培養した 実生は胚軸表皮に不定胚をが形成した。形成さ れた不定胚は母体の実生に癒着していた。その様式は2,4‑Dによる場合と異なっ ており、まず気孔が周囲の表皮細胞に持ち上げられ管状の突起構造を形成した。

その後管状の突起構造分裂しながら内部の空洞がなくなり、表皮系・雑管東系を 形成し、器官状の多細胞からなる突起状構造を形成した。その後突起状構造の先 端の内部に大きさが密の細胞集団が出現し、その細胞群が不定胚を形成したと考 えられた。

(3) 3X10‑4M ABAの 処理で形成 された不定胚はその個数がもっとも多かった。

それ以上の濃度では実生は枯死し、SAMを除いた場合全く不定胚形成が見られな かった。品種ではダンバースが最も不定胚の形成数が多く、それ以外の品種では あまり差がなかった。材料として用いた実生の長さは特に重要でlcm以上では胚 はほとんど形成されなかった。種子をABAを含む培地で培養することによっても 不定 胚を銹導で きた。その ときにABAに対する感 受性は実生 をABA処理するこ とよりも高いことが示された。種子から取り出した胚はABAを含む培地で培養す

(2)

ることにより、巨大な多胚構造を形成した。

(4)不定 胚形成と同 様に突起状 構造の形成 においても実生の齢が若い方が突起 状構造の数が多いことが明らかになった。また突起状構造はフックの外側に多く 偏在して いた。実生にABAとともにNPAを投与したところ、促進効果を示した。

これらの結果から内生のオーキシンが突起状構造の形成に深く関与している可能 性が示唆された。しかしながら外性のオーキシンでは突起状構造の形成を促進す ることは出来なかった。

(5)実生にお よぼすABAの効果を調べたところ、生重および乾重の増加が対照 よりも抑えられており、実生の長さも短いままであった。そこで胚軸の長さ当た りの乾物重を算出したところ対照はほとんど変化がないのに対し5倍に増加して いた。この結果からABAの処理により貯蔵物質が蓄積している可能性が示唆され た。

(6) ABA誘導性 タンバク質 であるRPER1の抗体によ ルニンジン 組織のウェ スタ ンプロッティングを行った。その結果RPER1の発現量は発芽後急速に低下したの に対し、ABA存在下 では発現Iは回復 し増加した 。しかし胚軸単独に対するABA 処理では発現量の増加は見られなかった。抗RPER1抗体を用いた免疫組織染色を 行った結果、染色は実生の白い部分にのみ見られた。免疫電顕の結果から抗RPER1 抗体に反応する抗原はアミロプラス卜に存在しているのが明らかになりABAは実 生を胚的 な状態へ戻し、アミロプラス卜の数、RPER1の発現Iが増加したと考え られる。RPER1の発現と不定胚形成とに相関が見られた。

げ)タバ コ、シ口イ ヌナズナ、 バレイショ に対してもABAは表皮細胞の形態を 変化させるのに十分な効果を持つことが明らかになった。その結果タバコからは 不定芽が誘導でき、シロイヌナズナからは表皮細胞の突起状構造に加え、細胞内 に大量のアミロブラストおよびりピドボディが増加するのが観察された。バレイ ショのシュ一卜培養ではニンジン同様、気孔が先端に存在する突起状構造が観察 された。

  本研究によって休眠芽形成や離屈形成を促すホルモンであるABAによる不定胚 形成の様式は2,4‑Dによる不定胚形成とは全く異なっており、胚軸表皮細胞の突 起状構造から不定胚を形成すること、表皮細胞は多分化能を有し、かつ全能性を 有する組繊細胞であり、実生自身のABAの生理活性に対する感受性の変化に基づ いて不定胚を形成することが明らかである。

(3)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

喜久田 小林 幸田 増田

学 位 論 文 題 名

嘉郎 喜六 泰則     

植物 表皮細 胞の全能 性発現に関する生理学的研究

  本 論 文 は 図44、 表4を 含 み 、7章 か ら な る 総 頁 数123の 和 文 論 文 で あ り 、 別 に 参 考 論 文2編 が 添 え ら れ て い る 。

  本 研 究 は ニ ン ジ ン 芽 生 え の 胚 軸 表 皮 細 胞 か ら24― ジ ク ロ 口 フ ェ ノ キ シ 酢 酸

24D) や ア ブ シ ジ ン 酸(ABA)に よ っ て 不定 胚 が 形成 さ れ るこ と を 明ら か に し、

植 物 表 皮 組 織 細 胞 の 全 能 性 発 現 の 機 構 を 細 胞 生 理 学 的 見 地 か ら 考 察 す る こ と を 目 的 と し て 行 っ た も の で あ る 。

124D処 理 に よ り 胚 軸 の 表 皮 細胞 か ら 直 接不 定 胚 が形 成 さ れた 。 そ の際 カ ル ス 化 を 促 進 す る 未 知 の 因 子 が 培 地 中 に 放 出さ れ て い る可 能 性 が示 さ れ た。 こ の 因子 が 多 量 に 培 地 中 に 存 在 す る と 、 胚 軸 表 皮 は脱 分 化 し たの ち 盛 んに 分 裂 した 。 こ の因 子 が 適 当 な 量 だ け 存 在 し た と き に 、 部 分 的な 胚 軸 の カル ス 化 の後 直 接 不定 胚 を 形成 し た 。 さ ら に こ の 因 子 が 少 量 の 場 合 、 表 皮細 胞 は 伸 長し な が ら液 胞 化 し遊 離 し 、ま た 不 定 根 の 誘 導 が 見 ら れ た 。 培 地 中 の2,4DIAAの 量を 測 定 した 結 果 、カ ル ス 化 を 誘 導 す る た め に 有 効 な 量 の24DとIAAは 存在 し な いと 結 論 を下 し た 。こ の 因 子 は カ ル ボ キ シ ル 基 を 有 す る 酸 性 物 質 で あ る と 考 え ら れ た 。

(2) ABAを 含 む 培 地 で 培 養 し た ( 実 生 ) は 胚 軸 表 皮 に 不 定 胚 を 形 成 し た 。 形 成 さ れ た 不 定 胚 は 母 体 の 芽 生 え に 癒 着 し て い た 。 そ の 様 式 は24Dに よる 場 合 と異 な っ て お り 、 ま ず 気 孔 が 周 囲 の 表 皮 細 胞 に 持ち 上 げ ら れ管 状 の 突起 構 造 を形 成 し た。

そ の 後 管 状 の 突 起 構 造 は 分 裂 し な が ら 内 部の 空 洞 が なく な り 、表 皮 系 ・維 管 束 系を 形 成 し 、 器 官 状 の 多 細 胞 か ら な る 突 起 状 構造 を 形 成 した 。 そ の後 突 起 状構 造 の 先端 の 内 部 に 大 き さ が 密 の 細 胞 集 団 が 出 現 し 、そ の 細 胞 群が 不 定 胚を 形 成 した と 考 えら れ た 。

(3) 3xio4M ABAの 処 理 で 形 成 さ れ た 不 定 胚 は そ の 個 数 が も っ と も 多 か っ た 。 そ れ 以 上 の 濃 度 で は 芽 生 え は 枯 死 し 、 茎 頂 分裂 組 織 を 除い た 場 合全 く 不 定胚 形 成 が見 ら れ な か っ た 。 品 種 で は ダ ン バ ー ス が 最 も不 定 胚 の 形成 数 が 多く 、 そ れ以 外 の 品種 で は あ ま り 差 が な か っ た 。 材 料 と し て 用 い た 芽 生 え の 長 さ は 特に 重 要 でlcm以上 で は 胚 は ほ と ん ど 形 成 さ れ な か っ た 。 種 子 をABAを 含 む 培 地 で 培 養 す るこ と に よっ て

(4)

も 不定 胚を誘 導で きた 。種 子のABAに対す る感 受性 は、 芽生 えをABA処理する場合 よ りも 高いこ とが 示さ れた 。種 子か ら取り出した胚はABAを含む培地で培養するこ とにより、巨大な多胚構造を形成した。

(4)不定 胚 形 成 と 同様 に突 起状 構造 の形 成に おい ても、 芽生 えの 齢の 若い 方が 突 起状構造の形成数が多かった。また突起状構造はフックの外側に多く偏在していた。

ABAとと も に オ ー キシ ン極 性輸 送阻 害剤 であ るナ フチル フタ ル酸 を芽 生え に投 与 し たと ころ、促進効果を示した。これらの結果から内生のオーキシンが突起状構造 の 形成 に深く関与している可能性が示唆された。しかしながらオーキシン処理では 突起状構造の形成を促進することは出来なかった。

(5)ニン ジ ン の 生 育 に お よ ば すABAの 効 果 を 調 べ たとこ ろ、 生重 の増 加が 対照 よ り も抑 えられており、胚軸の長さも短いままであった。胚軸の長さ当たりの乾物重 を 算出 したと ころ 対照 はほ とん ど変 化が ない のに 対し 、ABAの処 理により5倍に増 加 して いた。 この 結果 からABA処理 した芽生えは貯蔵物質が蓄積している可能性が 示唆された。

(6)胚 特 異 的 でABA誘 導 性 タ ン パ ク 質 で あ るRPER1の 抗体 によ ルニ ンジ ン組 織の ベ ルオ キシ レドキシンの発現解析を行った。その結果ニンジンにおけるRPER1の遺 伝 子は 、不 定胚の誘導条件のみに発現することが明らかになった。RPER1の発現量 は 発芽 後急 速に低下したが、ABA存在下では発現量は回復した。しかし胚軸組織切 片 に対 するABA処 理で は発 現量 の増 加は 見られなかった。抗RPER1抗体を用いた免 疫組織染色を行った結果、細胞内にクロロプラストが分化した胚軸は染色されなか ったのに対し、クロ口プラストが分化していない芽生えは染色された。免疫電顕に よ り抗RPER1抗体 に反 応す る抗 原は アミ ロプ ラス トに 局在 して いるこ とが明らか となった。これらの結果から芽生えが胚的な状態であることが不定胚を誘導するた めに必要であることが示された。

(7)タ バ コ 、 シ ロ イヌ ナ ズナ 、バ レイ ショ に対 して もABAは表 皮細 胞の 再分 化を 誘導させるのに十分な効果を持つことが明らかになった。タノミコからは不定芽が誘 導でき、シロイヌナズナからは表皮細胞の突起状構造に加え、細胞内に大量のアミ ロプラストおよびりピドポディが増加するのが観察された。ノくレイショのシュー卜 培 養 で は ニ ン ジ ン 同 様 、 気 孔 が 先 端 に 存 在 す る 突 起 状 構 造 が 観 察 さ れ た 。   本研 究に は休 眠芽 形成 や離 層形成 を促 すホ ルモ ンで あるABAが 不定胚を形成す る がそ の様式は2,4―Dによる不定胚形成とは全く異なって、胚軸表皮細胞の突起 状構造から不定胚を形成すること、表皮細胞は多分化能を有し、かつ全能性を有す る 組織 細胞であり、芽生え自身のABAの生理活性に対する感受性の変化に基づいて 不定胚を形成することが明らかとなった。

  以上の研究成果は、学術的にも高く評価されるとともに、培養系による新品種作 出の技術の発展に寄与するところが極めて大きい。よって審査員ー同は、本論文の 提出者である西脇森衛が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するもの と認めた。

参照

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