• 検索結果がありません。

取 締 役 の 競 業 避 止 義 務

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "取 締 役 の 競 業 避 止 義 務"

Copied!
24
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)長. 七. 取締役の競業避止義務 ーその忠実義務との関連においてーーー. は. き. 取締役の競業に関する法規整とその類型. が. 一. し. 二 商法第二六四条の間題点. e 取締役の競業避止義務の法的性格. 三. き. 競業行為に対する認許の意義およびその効果. が. 重要なる事実の開示. し. 日. は. 口. 一. ノ. 取締役の競業避止義務. 一四七︵一四七︶. 昭和一三年度に︑従前の規定に若干の軽微な改正が加えられたが︑それもドィッ法の改正にならつた結果にすぎ. 定を範として定められたものである︒. わが株式会社法上の取締役の競業避止義務は制定の当初から︑ドイッ法における取締役の競業避止義務に関する規. 星.

(2) 論. 説︵星川︶. 一四八︵一四八︶. ず︑改正を余儀なくせしめる事情が規整対象の中に生じたためではなかつた︒それゆえ︑取締役の競業避止義務に関. するわが法の規定は︑終始︑その趣旨においても規整形式においても︑大体ドイツ法のそれと同様のものとなつてい. た︒すなわち︑取締役は株主総会の認許をうるのでなけれぽ︑自己または第三者のために︑会社の営業の部類に属す. る取引をなし︑または同種の営業を目的とする他の会社の無限責任社員もしくは取締役となることをえない︑と︒. ドイッ法との内容的な差異は︑取締役がみずから商業を営むことを禁止しない点と︑競業行為についての認許機関. が監査役ではなく︑株主総会とされている点のみである︒もっとも︑ドイッ法上監査役会︵︾鼠段9貸母︶は大株主会. としての機能を果していたことに着目するなら︑認許機関の差異も問題とするに足りない︑といつて差支えないであ ろう︒. ところで周知のように︑昭和二五年の商法改正は︑わが株式会社法の母法となつていた大陸法とは全く異なる法系. に属する英米会社法上の諸制度︑すなわち授権資本制度︑無額面株式制度および取締役会制度を摂取した劃期的なも. のであり︑とりわけ取締役制度に関する改正部分は︑大陸法的思考とはかなり異なる法理論をその基底に蔵する制度. の導入であつたため︑その義務や責任にも重大な変容がもたらされることになつたといえる︒詳言すれば︑英米会社. 法上の取締役の地位は︑必ずしも大陸法にいう機関関係や委任関係として把握されず︑会社の名において行為する. 謎o旨であると同時に受託者的地位において業務を執行すべぎ者と考えられており︑とくにこの会社との信認的法律. 関係のうちに︑いわゆる忠実義務︵豊琴冨曙含蔓︶の観念がみとめられているのである︒取締役会︵び8巳9島89−. oお︶制度鳳︑この義務の上に開花発展せしめられてきたのである︒したがって︑取締役会制度をわが株式会社法へ.

(3) 導入するには︑当然その基盤たる忠実義務の観念をも継受することが必要であり︑第二五四条ノニをもつて︑. ﹁取締. 役は法令及び定款の定並に総会の決議を遵守し会社の為忠実に其の職務を遂行する義務を負う﹂と規定したのは︑こ. ﹁取締役が自己又は第三者の為に会社の営業の部類に属する取引. のためにほかならない︒そして︑右の忠実義務の観念がみとめられたことと関連して︑取締役の競業避止義務にも次 のような改正が加えられるにいたつた︒すなわち︑. をなすには株主総会に於て其の取引に付重要なる事実を開示し其の認許を受くることを要す︒. 前項の認許は発行済株式の総数の三分の二以上の多数を以て之をなす﹂︵商二六四条一.二項︶と︒. この改正規定と旧規定との形式的な差異を指摘すれば︑取締役が競業行為を行なづときは︑株主総会において︑そ. の競業取引に関する重要なる事実を開示すべぎことが要求されたこと︑認許を与えるための総会の決議は︑通常決議. ではなく発行済株式総数の三分の二以上の多数決によるべきものとされたこと︑および取締役が他の競争会社の代表. 社員や取締役となる場合には︑認許をうることを要する旨の文言が削除されたこと︑の三点に求められる︒. 取締役の競業避止義務は︑前述したように︑従前よりみとめられていたのであるから︑改正条文も表面的には単な. る字句的な改正と読みとられやすい︒しかし︑この改正は英米会社法上の取締役会制度ならびに取締役の忠実義務の. 観念の導入によるものであることは疑いのないところであり︑改正部分をささえる法理論は︑大陸法のそれと著しく 異なることを看過してはならないであろ5︒. 一四九︵一四九︶. 現在行なわれている︑第二六四条の解釈に関する多数の見解は︑旧来のこの制度に対する観念に捉われて︑従前の 解釈をそのままに踏襲する誤りを犯していると考えられる︒ 取締役の競業避止義務.

(4) 論. 説︵星川︶. 一五〇︵一五〇︶. したがつて︑本稿では︑取締役の競業避止義務の性格転換のモメントをその忠実義務の設定に求め︑第二六四条に. 取締役の競業に関する法規整とその類型. おける取引についての重要なる事実の開示および認許決議の意義ならびにその効果について︑若干の考察を試みたい と思う︒. 二. さて︑取締役の競業行為に関する法規整には︑大別して二つの対照的な類型が存する︒その一は︑ドイッ法を中心. とする大陸法系の諸国にみられるような︑取締役の会社との競業行為を︑一般的・直接的に禁止するものであり︑他 は英米法系の諸国のように︑個別的・間接的にこれを禁止するものである︒. わが現行株式会社法上の競業禁止制度は︑その趣旨や法形式について︑右の二つの制度を部分的に継受しているこ. とは前述した︒そこで︑この制度に関する両法制の理解は︑わが法制の解釈の起点であると同時に終結点でもある︒. これをまず︑ドイッ法についてみるに︑取締役の競業避止義務は︑系譜的には︑古い都市法にみい出される主人に. 対する商業使用人の忠勤義務の中にその淵源が求められる︒そこでは︑主人から営業の遂行を委ねられた商業使用み. は︑主人との競業行為を禁止されており︑かつその労力を専ら主人のために提供すべき義務を負わされていた︒これ. が後に株式会社の取締役にもみとめられるにいたつたのであるが︑その最初の立法は︸八八四年の第二株式改正法と されている︒. かような沿革的な理由にもとづぎ︑同法においては︑取締役員は株主総会の認許なくして自己もしくは他人の計算.

(5) において︑会社の営業の部類に属する行為をなし︑または他の同種の会社の無限責任社員となることをえない旨を規. 定し︵同法二六三条︶︑取締役の好ましからざる競争的行為の禁止のみならず︑労力の確保をともにこの制度に包含せ ︵一︶. しめていた︒その後一八九七年の新商法では︑取締役がみずから商業を営むことが禁止され︑さらに一九三七年の株. 式法では︑他の競争会社の取締役となることも禁止されるにいたつた︒そして取締役がこの禁止に違反して競争的行. 為を行なつた場含は︑その取引行為自体は有効であるが︑会社はこれに因って生じた損害の賠償を請求し︑または当 該行為を会社のためになしたものとみなす権利を有するものとされた︒. ついで︑英米法をみると︑取締役は会社に対しお①暮たる地位を有すると同時にけ霊馨8としての地位にあるも. のとみられている︒厳密にいえば信託における受託者と同視Lうるものではないが︑その負担せしめられる義務は︑ ︵二︶ 受託者のそれと大差がなく︑会社ならびに全株主に対し忠実義務を負うものとされている︒会社に対する取締役の地. 位や忠実義務は︑衡平法裁判所の判例によつて確立されてぎたので︑忠実義務の内容も複雑をきわめているが︑概括. 的には︑会社の利益と取締役個人の利益とが抵触する場合には︑常に前者を優先せしめなければならないことが︑・〆︑ の重要な内容とされている︒. 英米会社法は一般的に︑競業行為を行なつてはならないとする義務を取締役に課してはいないが︑個々の競業行為. が忠実義務に違反するとみとめられる場合は︑その行為の効果を取締役が享受することは許されない︒その意味で は︑取締役に消極的な競業避止義務が存するといつて差支えないであろう︒. 一五一︵一五一︶. このように︑取締役の競業行為に関する義務は︑忠実義務より派生するものと把握するのが英米法の基本的立場で 取締役の競業避止義務.

(6) 論 説︵星川︶. 一五二︵一五二︶. ある︒しかし︑この理念の具体的事案における展開過程では︑イギリスとアメリカとでその発現の形態に若干の相違 がみとめられる︒. イギリスにおいては︑信託の原則により︑受託者はその地位にある間︑受益者と競争関係にたつことが厳重に禁止. され︑このことは一八九〇年の勺貰9R筈昼︾9第三〇条においては明文化されている︒しかし︑株式会社の取締. 役に対しては同様の法則が適用されるわけではない︒判例でも︑取締役が競争会社の取締役として行動することに制. 約を課していないように思われる︒もつともこの場合︑取締役がその地位にあつて︑内密に知りえた情報を︑他の会. 社に漏洩している事実があれば︑信用の濫用︵ぎ拐①亀8島号蓉①︶として忠実義務の違反となる︒また︑会社が附. 属定款をもつて︑取締役が会社と競業行為を営むことや他の会社の取締役に就任することを禁ずるときは︑当然これ. にしたがわなければならない︒他方︑取締役が会社との契約により︑役員︵o田oR︶として業務の執行を行なう場合. も︑会社の勤務時間内に自己もしくは第三者のために︑行動することは許されない︒. 最近の判例によれば︑主人と使用人という関係からみとめられる忠勤義務によつて︑使用人はたとえ勤務時間外で も︑競争者のために行動することは許されないとされた事例がみい出される︒. もつとも︑この点に関し︑使用人の忠勤義務は︑取締役やその他信認関係にある代理人に課される誠実義務と比較. すれば︑内容的にはるかに低度の要請にもとづくものと考えられ︑それゆえ︑かような従属的な使用人に競業行為が. 許されないというのであれば︑当然取締役に許されてよい筈はないと思われるのに︑これが許されていることは再検. 討を要する問題であるとする見解︑さらに︑常勤の取締役には競業行為が許されないとする立場から︑このことを他.

(7) の取締役にも推及すべきではないかとする見解等もみられる︒しかし︑これらの学説も︑取締役は会社と同種の営業. を営みえないというのか︑あるいは競争業が営まれることによつて︑会社が積極的に何らかの損害を被るような場合 ︵三︶. に︑たとえば.会社が独占にちかい地位を業界に占めているような場合に限つて︑競争業を抑制しようというのか︑ その意図が必ずしも明らかでない︒. ともあれ︑イギリスにおける近時の判例や学説の傾向は︑取締役が忠実義務の枠を逸脱しない限り︑競業行為が許. されるとする伝統的な立場を維持してはいるが︑他の会社のために行動することは︑忠実義務の観点から好ましくな いとしているように推測される︒. ついで︑アメリカ法をみるに︑取締役は個人的に商業を営むことはもちろん︑会社と同種の営業に従事すること. も︑それ自体としては何ら禁止されていない︒けだし︑取締役は商業使用人と異なり︑自己の全時間を会社に提供す ︵四︶. ることを約束するものではないから︑会社に損失を与えない限り︑他の事業上の利益をうることは︑完全に適法と考. ﹁個人的利益のために. えられるからである︒しかし︑イギリスにおけると同様︑取締役は会社の利益を擁護すべぎ地位にあるので︑会社の. 利益を犠牲にしてまで自己の利益を追求することは許されていない︒そのことから取締役は︑ ︵五︶. 衡平かつ正当にみて︑会社に属する商機を奪つてはならない﹂とする原則が導き出されている︒これがいわゆる会社. に属すべき取引の機会に関する法理︵30鼠ま98壱o声富o竈目ε菖蔓︶である︒この法理によれば︑会社の営業. の部類に属する取引の機会につき︑会社はこれを優先的に利用しうべき権利を有し︑会祉に対し受任者たる地位を占. 一五三︵一五三︶. める取締役は︑会社に属するかかる商機を個人的に流用することは許されないのである︒したがつて︑この法理の機 取締役 の 競 業 避 止 義 務.

(8) 論. 説︵星川︶. 一五四︵一五四︶. 能する局面において︑取締役は会社との競業行為を回避すべぎ義務を負うことになるし︑また︑会社と実質的かつ直 ︵六︶ 接的に競争関係にたつ営業を行なうことも制約されることになる︒しかし︑この法理は取締役の注意をひくすべての. 商機︵どωぎ霧ωo毛o旨目一隷霧︶に関して適用されるのではなく︑公正にみて︑会社に属する取引とみとめえないもの. は︑取締役の個人的事業活動の範囲に属し︑これを自由に行なうことができる︒ただいかなる商機が会祉に属するか ︵七︶ は︑具体的事案の諸事情によつて判断されることになるが︑裁判所は会社に属する取引とそうでないものとは明確に ︵八︶ 区別さるべきであるとの態度をとつている︒. かくて︑取締役が会社に属する取引の機会を弓ばい︑自己のために取引を行なつて︑会祉に損害を生ぜしめれば︑ ︵九︶. 会社は普通法上の損害賠償を請求しうることもちろんであるが︑衡平法上からも︑当該取締役の取得した利益の返還 を請求することができる︒. 以上の素描からも知られるように︑取締役の競業的行為に対する基本的な思考や規整方式は︑ドイッ法と英米法と. で著しく異なつている︒これは取締役の地位に関する両者の社会的・経済的事情や法的思惟の相違に因るものと思わ. ドイッ法における取締役の競業避止義務は︑その淵源が営業主に対する商業使用人の忠勤義務に求められている. れるが︑その異同を要約すれば次の通りである︒. O. が︑英米法では会社と取締役との間に存する信認的法律関係にもとづく忠実義務より派生する義務とされている︒. ⇔ ドイッ法においては︑競業行為の範囲がひろく︑会社の営業の部類に属する行為を行なうことのみでなく︑取締. 役がみずから商業を営むこと︑競争会社の無限責任社員もしくは取締役となることをも禁止する︒これに対し︑英米.

(9) 法は本来の競争的行為によつて会社に損害を生ずる場合を救済の対象としている︒. ⇔ ドイッ法は明文をもつイ︑競業避止義務を課しているが︑英米法では制定法上この義務が明確化されイ. ︑いない︒. ひるがえつて︑︑わが株式会笹.法上の取締役の競業避止義務は︑既述のように︑制定の当初においてはドイソ法の類. 型に属するものであつたが︑近時の改正で︑英米法的な観点にもとづく改正が加えられ︑現行法りてれは両法制の混. 血的な性格を帯びるにいたつている︒すなわち︑取締役の競業行為を一般的に禁止し︑その違反に対して会社に介入. 権を与えている点は︑ドイツ法と同一の立場にあるとみられるが︑競業行為の認語をうける場合に︑株主総会におい. て︑その取引について重要な事実の開示を要求し︑かつ認許決議の要件を極めて厳格化した点は︑英米法的な思想を. 反映した部分と考えられる︒それゆえ︑競業避止義務に関する第二六四条の解釈にあたつては︑ドイッ法的な部分︑. 英米法的な部分のそれぞれについて︑その制度的趣旨を充分に把握した上で︑綜合的に調和的な解釈をなすべきもの. ︵三︶. ︵二︶. ︵一︶. O篤嵩鵬ρOO葛o賞江o鄭圏帥名臨o﹃O塗8お餌p臨臣諾90鵠vおしo即P餐鱒︒. Oo名oさ客o号露08らき蜜同﹄ヨω&oρお竃. 拙稿・﹁取締役の忠実義務と責任についての一考察﹂︵株式会社法の論理と課題︶八i九頁︒. 大隅健一郎・﹁取締役の競業禁止﹂︵会社法の諸間題︶一八八i一八九頁︒. と考えられるのである︒. ︵四︶. ○一⑦o芦属oα段旨OO壱o轟訟o目ピ帥司︶<o一︒ρお$. P刈OOQ■. 一五五︵一五五︶. .小町谷操三.イギリス会社法概説二九四ー二九五頁︒. ︵五︶. 山口幸五郎・﹁取締役の競業避止義務﹂甲南論集第四集三三頁以下︒. マお. ︵六︶. 取締役の競業避止義務.

(10) 論 ︵七︶. 説︵星川︶ 切巴富暮ぎρ○昌Oo壱o鍔賦o富︶おく︒aー℃一濾ρやN8●. ︵八︶ ○一8貫oや98窄蕊9. ︵九︶ 山口・前掲三四−三五頁Q. 一五六. ︵一五六︶. これは衡平法上受任者の背任的行為にもとづく利得返還の方法として︑ 受任者の取得財産上に設定される強制信託︵8亭. 商法第二六四条の問題点. ω霞琴餓お耳q簿︶の法理によるのであるo. 三 O 取締役の競業避止義務の法的性格. 前述した通り︑わが株式会社法上の取締役の競業禁止の制度は︑ドイッ法的な性格と英米法的な性格を併有する特. 異な制度となつている︒そのため︑第二六四条の解釈を試みるにあたつては︑まず現行法における取締役の競業避止. 義務の性格を明らかにすることからはじめなければならない︒けだし︑第二六四条の解釈をめぐる論争はこの点にあ. ると思われるからであり︑これを取締役に課された特別の不作為義務と解するか︑もしくは取締役の忠実義務より派. 生する義務と解するかによつて︑その結論も著しく異なるものとならざるをえないからである︒. 取締役の競業避止義務の性格を︑取締役に課された特別の不作為義務と解する学説は︑会社と取締役との関係に委. 任に関する規定が適用されることから︑その一般的義務は善良なる管理者の注意義務であり︑その範疇に属さないそ︑. れ以外の義務は特別義務と把握する立場にたつている︒すなわち︑委任関係からみとめられる一般的義務としての善.

(11) 管義務は︑取締役が会社の業務執行に際して用うべぎ注意に関するものであるから︑取締役の会社外における行動と. はいかなる関連も有しない︒したがつて︑この一般的義務より競業避止義務を抽出することはでぎないわけである︒. しかし︑取締役は経営の中枢部にあつて会社の経営上の機密をあますところなく知悉しているので︑これに会社との. 競業行為を無条件に許容するときは︑直接・間接に会社の利益が害されるおそれの生ずることは想像に難くない︒そ. のために取締役に競業行為を回避すべき特別の不作為義務が課されたとするのである︒昭和二五年の商法改正前にお. いては︑この見解が一般的に承認されており︑異説と思われるものは存しなかつたのであるが︑前記の改正で取締役. に善管義務のほかに忠実義務︵商二五四条ノニ︶が課されて以来︑既存の善管義務と新たに課された忠実義務とはいか ︵一︶ なる関係にたつかについて学説がわかれることとなつた︒この点︑別稿で触れたこともあるので︑詳論を避けるが︑. 一説によれば︑会社と取締役との法律関係が委任関係しし把握される以上︑取締役の会社に対して負う一般的義務は︑. 善管者の注意義務であり︑しかもこの義務は通常の知識と経験を有する人が︑委託された事務を処理するに当つて用. うべき注意を基準とするものであるから︑これを高めることも低めることも意味のないことである︒それゆえ︑取締. 役に会社のために忠実に職務を遂行する義務を課したとしても︑注意義務自体を強化することにはならない︒だが︑. 善管者の注意義務ばややもすれぼ閑却されがちなので︑取締役の権限強化との関連において︑これについて注意を喚. 起すべく忠実義務を課したにすぎないとしている︒この見解は忠実義務をその本質において善管義務と異なるもので. 一五七︵一五七︶. ないと解するため︑取締役に忠実義務が課されたとしても競業避止義務には何らの影響もなく︑それは依然として特 別の不作為義務であるとみている︒ 取締役 の 競 業 避 止 義 務.

(12) 論 説︵星川︶. 一五八︵一五八︶. これに対し︑取締役の忠実義務を︑英米法上のそれと同趣旨のものであり︑取締役に受託者たる任務を強調する趣. 旨をもつて明文が設けられた︑と解する見解がある︒この立場にあつては︑忠実義務は善管義務のように︑単に︑業. 務執行上の注意に関する義務ではなく︑会社の経営をになう取締役に課せられた最高の義務とされる︒そしてこの義. 務の内容は︑取締役は常に会社の利益のために行動すべく︑とりわけ取締役たる地位を利用して自己の個人的利益を. えてはならないとするものであり︑英米法では︑夙に判例法によつてみとめられているところである︒そこで継受法. 解釈の原則にしたがい商法第二五四条ノニに規定する忠実義務も︑これと内容を同じくするものと理解する学説が有 力に主張されている︒. この見解は︑会社と取締役との関係において︑委任の法理のみでは規律しえない局面について︑信託における受託 ︵二︶ 者的地位をみとめその法理を適用するので︑善管義務と忠実義務とを同質的のものとは考えない︒それゆえ競業避止 ︵三︶. 義務に関しても︑これを善管義務の例外的義務たらしめず︑忠実義務より派生する義務ないしはその分肢的義務と理 解するのである︒. このうち前説︑すなわち忠実義務を善管義務と同質的に考える学説は︑第二六四条に加えられた改正を︑取締役の ︵四︶ 権限の強化に対応し︑その義務を加重し尤にすぎないものと解している︒しかし︑この立場から︑取引について重要. なる事実の開示が︑なにゆえ要求されるのか︑またそれがいかなる意義を有するかについて︑含理的な解釈を与える. ことは必ずしも容易ではなく︑後述するように︑この点に関する疑念すら提起されることになる︒これは︑認許決議の. 要件の厳格化の意義に関しても同様である︒したがつて︑競業避止義務を忠実義務の派生的・分肢的義務と解する立.

(13) 重要なる事実の開示. 場から︑前記の諸点について︑いかなる意義がみとめられるべぎかを次に考察しよう︒. ⇔. ところで︑わが株式会社法上︑事実の開示とい5語句は︑嘗つて用いられていない︒語句として用いられなかつた. というばかりでなく︑法的思惟ないしは法的概念として存在しなかつたというほ弓が妥当であるかもしれない︒ ︵五︶ 英米法では開示︵象巴8畦︒︶の観念はかなり古くからみとめられており︑それが取締役の行為に関連して適用さ. れるときは︑いずれも取締役の忠実義務と不可分離的な関係にあることが知られる︒詳言すれば︑取締役の地位にあ. る者が︑何らかの行為によつて利益を取得する場合に︑それが取締役とLて取得することを許される性質のものであ. るか否かを明確ならしめる必要あるとぎ︑あるいはまた︑取締役個人の利益と会社の利益とが抵触するおそれがある. 行為︑たとえば︑取締役の自己取引とか︑取締役が会社より金銭の貸付をうけるときなど︑取締役会や株主総会の承. 認をうくべぎ場合に要求されている︒このことからも知られるように︑従来︑わが法上にこの語句が存在しなかつた. ということは︑取締役に忠実義務が課されていなかつたために︑この観念を容れる素地が存しなかつたことを意味す. る︒しかし︑現行法では既述のように忠実義務が課されることになつたのであるから︑競業避止義務も既存のそれを. 忠実義務の観点から再検討し︑これに改正を加えたものと解すべきである︒芳︑の結果︑競業行為について株主総会の. 認許をえなければならないのは︑それが単に会社に損害を与える危険性ある行為であるばかりでなく︑加えて︑取締役. 一五九︵一五九︶. の忠実義務に違反するか否かも問題とされるからにほかならない︒かくして競業行為に対する認許決議は︑当該競業 取締役の競業避止義務.

(14) 論. 説︵星川︶. 一六〇︵一六〇︶. 取引についての重要なる事実の開示にもとづいて与えられるべぎものとされたのである︒それは︑まさに英米法にお. いて︑取締役の忠実義務が問題とされる諸行為に関して要求される事実の開示と︑その趣旨を同じくする︒したがつ. て︑ここにいう﹁取引についての重要なる事実の開示﹂には︑二つの別個の要請が存すると考えられる︒すなわち︑. その一は取締役の当該取引が会社の利益を害するおそれある取引であるか否かを株主総会に判断せしめる資料の提供. であり︑他の一は取締役がその地位を利用して当該取引を行ない︑会祉の犠牲において私利を図るものであるか否か を判断せしめる 資 料 の 開 示 で あ る ︒. この点︑多数説によると︑ ﹁重要なる事実の開示とは其の取引の内容中会社の利益と対立するが如き重要なる部 ︵六︶ 分︑例えば︑取引の相手方︑目的物︑数量︑価額︑取引期間︑利益の如きをいう﹂とし︑あるいは︑ ﹁当該取引に関. する重要事実の開示を要するのは︑株主に認許の決定に必要な判断の資料を与えるにあるから︑いわゆる重要事実の決 ︵七︶ 定もかかる見地からなさるべきであつて︑売買ならば相手方︑目的物︑価格などがこれに属する﹂とし︑あるいはま ︵八︶ た︑﹁取引の範囲︑規模などそれにより会社の営業が今後5ける影響を予測しうる程度の具体的事実をいう﹂とする︒. 表現に多少の差異はあつてもその思考の基調が同一であることは疑いない︒. しかしながら︑取締役の競業行為に関して︑右の諸点が問題となることはいうまでもないが︑とくにその行為は取. 締役によつてなきれているという事実が重視されなければなるまい︒けだし︑競業行為それ自体としては︑自由競争. の承認されている経済社会において︑何ら非難さるべき性質のものではない︒にも拘らず︑取締役について株主総. 会の認許なくしてこれを行なうことを禁止するゆえんは︑これが忠実義務に違反してなされ︑その結果会社に損害の.

(15) 生ずることが懸念されるからにほかならない︒とすれば取締役の競業取引についての重要なる事実は︑この義務との. 関連において把握されなければならない︒それゆえ前者の観点からは︑当該取引の相手方︑目的物︑価額︑数量︑取. 引期間等を明確ならしめることが要求され︑後者の観点からは︑それが忠実義務に関連するがゆえに︑取締役がその. 地位において︑内密に知りえた情報を不当に利用して行なう取引でないか否か︑あるいは会社に属する商機の背任的. 流用でないか否かが間題とされるのである︒そして後者の要譜を︑競業行為を行なわんとする取締役の側からみれ. ば︑自己の行為が忠実義務に抵触するものでないことを明確になしうる資料の開示ということになるであろう︒もっ. とも︑いかなる資料をもつてそれを明瞭ならしめるものと解すべきかは︑具体的な取引について決定されなければな らないことであろう︒. このように︑取引についての重要なる事実の開示とは︑取引自体に関する重要なる事実のみならず︑取締役に課さ. れた忠実義務の観点から重要と思量される事実の開示と解すべきであり︑とくに後者を重視するのが︑現行法上の競 業避止制度の趣旨にも合致すると考えられる︒. ともあれ︑取引についての重要なる事実の開示は︑取締役の義務と責任に重大な影響をもたらすものであるから︑. 一般に株主総会の決議事項に関して行なわれる︑いわゆる提案理由の説明などと同一視さるべぎものではない︒提案. 理由の説明などは︑それがいかに簡単であろうと︑もしくはそれを議題に掲げるのみで︑省略したとしても︑それに. ついて決議がなされるとぎは︑そのことのために決議取消の訴の原因となることはないが︑取締役の競業行為に認許. 一六一︵一六一︶. を与えるための決議にあつては︑取引についての重要なる事実の開示がなされなければ︑たとえ認許決議がなされた 取締役の競業避止義務.

(16) 論. 説︵星川︶. としても︑その決議は当然無効と解される︒. 一六二︵一六二︶. 株式会社法上︑株主総会の決議を要するとされている事項は︑取締役の競業の認許決議のほかにも多数存在し︑いず. れも会社にとつて重要な意義を有している︒たとえば︑営業全部の譲渡︑営業全部の賃貸・経営の委任等々である︒. しかし︑これらの場合︑決議の目的たる事項について︑その要領を招集通知に記載することを要するのみで︑それに ︵九︶. ついての重要なる事実の開示を総会においてなすべきことを︑法はとくに要求していない︒この点︑決議事項の重要. 度から前者との不均衡を指摘する学説もみられるが︑ここで留意されなければならないのは︑第二六四条にいう開示. さるべき事実に関する重要性とは︑その決議事項自体が会社にとつてどれほど重要性を有するかを示すものではなく︑. 同条の趣旨における重要性︑すなわち前記のように競業行為が取締役の忠実義務に抵触していないかどうかを示すも のであつて︑もとよりこの非難は当らないとしなければならないことである︒. ◎ 競業行為に対する認許の意義およびその効果. 株主総会の認許について︑当該の取引に関する重要なる事実の開示を要求しなかつた従前の規定では︑認許決議の. 成立は︑一般的に禁止されている会社との競業行為を行なうことを総会が承認しかつ許可したという意味を有してい. た︒詳言するなら︑認許決議をうることなく︑取締役が行なえば違法行為とされる競業行為が︑認許決議を与えられ. ることによつて適法行為となり︑その取引について会社はもはや取締役に損害賠償を請求することも.介入権を行使 することもでぎないという効果を生じたのである︒.

(17) しかし︑しぼしば触れたように︑競業避止義務が忠実義務より派生する義務とされ︑重要なる事実の開示をなすべ. きことが要求されている現行法の下においては︑認許の意義を従前と同様に解することはできない︒けだし︑株主総. 会は︑当該競業取引が忠実義務に違反するか否かを判断しうる資料の提供をうけて︑認許決議をなすべきものとされ. ていること︑前述した通りであるからである︒しかりとすれば︑右の認許決議は忠実義務に違反しないことの確認な. いし免責たる意義をもつと同時に︑競業禁止の解除たる意義を有するものと考えられる︒. 取締役の競業行為に対する株主総会の認許の意義をかようなものと把握するときは︑取引についての重要なる事実. の開示にもとづいて与えられた認許決議のみが︑第二六四条にいうところの認許であり︑この開示がなされずに与え. られた認許は︑当該取締役の競業行為をして適法行為たらしめるものではないといわなければならない︒旧規定の下. では︑重要なる事実の開示が要求されなかつたために︑通常決議をもってする認許によつて競業行為が適法行為とさ. れ︑その競業取引から会社が損害を被ることがあつても︑取締役に損害賠償を請求することも介入権を行使すること. もできなかつた︒しかし︑現行法では︑認許は︑後述するように決議要件も厳格化され︑またその内容も文字通り承 認と許可を含むものとなつていることに留意すべきである︒. それでは︑開示された重要なる事実が虚偽のものであつた場合︑それに対して与えられた認許決議の効果はどう. か︒この点開示された重要なる事実がたとえ虚偽のものであつたとしても︑株主総会において︑それについて認許決. 議をなせば︑当該取引は適法となり︑会社は損害賠償の請求も介入権の行使もなしえないとすることも考えられる︒. 一六三︵一六三︶. しかし︑重要なる事実の開示を法が要求しているのは︑当該取引が取締役の忠実義務に違反していないか否かを判断 取締 役 の 競 業 避 止 義 務.

(18) 論. 説︵星川︶. 一六四︵一六四︶. せしめるためであるから︑その判断を誤まらしめるような虚偽の事実を開示しても︑それは適法な開示とはなりえ. ず︑これに対して認許決議が与えられたとしても︑忠実義務に対する免責的効果も︑競業禁止を解除する効果も生じ. ない︒それはあたかも︑開示なくしてなされた認許決議と同様無効と解すべきであろ5︒それゆえ︑会社は損害賠償. の請求はもちろん介入権の行使もなしうると考えられる︒もつとも︑この解釈にも全く疑問の余地がないとはいえな. い︒たとえば︑売買取引の臼的物・数量・価額等取引自体の開示に虚偽があった場合と︑取締役の忠実義務に関する. 部分の開示︑すなわち当該取引が会社に属する商機の背任的流用となっていないかどうかの点に関する開示に虚偽が. あった場合とでは︑評価が異なりはしまいか︒換言するなら︑この二つの開示事実は同価値的に判断さるべぎもの. か︑が問題となると思われる︒取引についての重要なる事実の開示は︑取締役の忠実義務に関連するとの観点から要. 求されているとする立場よりすれば︑当然後者が重視されることになろう︒しかもこの部分の虚偽の開示が︑過失に. よるとは考えられず故意の場合であるから︑認許決議を常に無効と解することが︑制度の趣旨にも合致すると思われ. る︒これに対し︑取引自体の虚偽の開示は過失による場合も考えられるので︑故意の場合にのみ決議を無効とすべき ではなかろうか︒. 認許決議に関する他の間題点は︑それが競業行為に関して個別的に与えらるべぎか︑あるいは包括的にも与えうる. か︑また認許決議は事前に与えられなければならないか︑もしくは事後にも年えうるか︑という問題である︒ ︵︸O︶. 第一点については︑学説がわかれている︒すなわち︑認許は具体的な競業取引について与えられることを要し︑包. 括的・抽象的には与えられないとする説と︑認許は漠然と包括的に与えることは許されないが︑必ずしも個々の取引.

(19) ︵二︶. 毎でなく︑同種の定型的な取引の反覆︵たとえば一定地域における貨物運送業︶に関する限り︑一般的に認許しても よいとする説 が そ れ で あ る ︒. 取締役の競業行為を専ら会社に損害を与えるか否かの観点から︑忠実義務との関速を顧慮せずに考えるときは︑個. 別的・具体的に与えられるべきであるとの結論が導かれ易い︒しかし︑忠実義務との関連において考慮するときは︑. 競業取引について重要なる事実の開示が間題となるのでそれが可能である限り︑必ずしも個別的であることを要せず 包括的にも与えうるものと解される︒. 第二点に関し︑認許決議が競業取引の事前に与えられるべきことに異論はない︒けだし︑もし事後においてもこれ. を認許しうるとすれば︑認許なくして行なつた競業行為の責任は︑総株主の同意をもつてのみ免除しうるにかかわら. ず︵商二六六条四項︶︑事実上発行済株式総数の三分の二以上の多数をもつて免除しうる結果となり︑前記規定の趣 旨が没却されることになるからである︒. 取締役の競業行為を認許する株主総会の決議要件が︑旧規定に比L著しく厳格化されたことは︑前述した︒すなわ. ﹁競業の認許が会社及び株主にとつて重要な事項であることは疑いないとしても︑これに. ち︑従前には通常決議をもって足りたものが︑現在では︑発行済株式総数の三分の二以上の多数をもつてなすべぎも のとなつている︒. この厳格化に対しては︑ ︵=一︶. ついて会社の合併・解散・営業全部の譲渡などについてよりも一層厳格な決議を要求しなければならない理由は十分. 一六五︵一六五︶. 理解できない﹂との批判が加えられている︒たしかに︑決議要件が厳格にすぎることはみとめるが︑右の論拠には︑ 取締役の競業避止義務.

(20) 論. 説︵星川︶. 一六六︵一六六︶. にわかに承服しがたいものがある︒けだし︑競業避止義務を忠実義務より派生する義務と把握する立場からすれば︑. この決議は直接的には︑取締役の競業行為自体にむけられていても︑間接的には株主の取締役に対する信認にもつな. がることが看過されてはならないからである︒したがって︑可能な限り︑多数の株主の意思を決議に反映せしめるこ. とがのぞましいことはいうまでもなく︑決議要件の厳格化はかような考慮によるものと思われる︒それゆえ︑会祉の. 合併や解散の場合に要求される決議要件との対比において︑その寛厳が論ぜらるべぎではなく︑むしろその信認が間. 題とされる︑取締役の選任︵商二五六条ノニ︶および解任︵商二五七条二項︶の場合の決議要件との均衡から検討されな. ければならない︒そLてこの面よりするも現行規定はやや厳格にすぎるきらいがある︒おそらく英米における取締役. の忠実義務に関するとり扱いの厳重さに眩惑されて︑既存の規定との均衡を検討することなく規定したものであろ. う︒ともあれ︑右の選任決議との不均衡が具体的な問題として現われるのは︑現在︑同種の営業を目的とする他の会. ﹁会社が現に同種の営業を目的とする他の会社の取締役である者を︑そ. 社の代表取締役である者を︑取締役に選任するような場合であり︑この際︑選任決議のほかに︑競業の認許のための 決議を必要とすることである︒大隅教授は︑. れと知りながら自己の取締役に選任した以上は︑それで同時に競業の認許をも与えているものとするのが︑事の性質 ︵一三︶. からいつて合理的であるといわなければならない︒従つて︑競業の認許は取締役選任の権限をもつ機関が︑その選任. と同じ要件の下に与えるものとするのが適当である﹂とされておられる︒まことに示唆に富む見解と考えられるが︑. これは決議要件についてのみであり︑取引についての重要なる事実の開示の必要なことはいうまでもない︒. なお︑旧規定においては︑取締役が同種の営業を目的とする他の会社の無限責任社員もしくは取締役となる場合に.

(21) も︑株主総会の認許をうくべぎものとされていたが︑現行法ではこの部分が削除されている︒したがつて︑表面上︑. 取締役は会社と同種の営業を目的とする他の会社の無限責任社員もしくは取締役となることができるようにもみえ. る︒しかし︑取締役が会社と同種の営業を目的とする他の会社の代表社員または代表取締役となつて︑その会社のた. めに営業活動をなすことは︑第三者のための競業行為となるので︑この場合は第二六四条一項の適用をうけ株主総会. において認許決議をえなければならない︒しかもその認許は︑前述したように︑取引についての重要なる事実の開示. に対して与えられることになるから︑当該取締役の代表行為および執行行為は︑必然的に開示可能な範囲に制約され. ざるをえない︒もっとも︑こうしたことは︑多く親子関係ないしは系列関係にある会社間にみられることで︑実質的 に︑これらの会社の間に競業関係が存在するとみるべきか否かは間題であろう︒. ところで現行法が︑前掲部分を削除Lたのは︑明文をもつて規定せずとも解釈上︑明文を設けている場合と同様の. 結論をうると考えられた結果か︑それとも他の何らかの理由によるものか必ずしも明らかでない︒英米法では取締役. に課される忠実義務の面から︑こうした事例を好ましくないとする傾向にあり︑また︑取締役が現実に競争関係にあ. る他の会社の取締役を兼任するときは︑両会社に対するい2巴なの義務を同時に満足させることが困難であるため︑ ︵一四︶ いずれか﹃力の会社を辞任すべぎである︑との見解もみられる︒しかし︑改正法の立案者によると︑﹁旧法では同種の. 営業を目的とする他の会社の無限責任祉員又は取締役となるにも亦株主総会の認許を要するものとしているが︵旧二. コハ七︵ニハ七︶. 六四条一項︶︑独占禁止法︵二二条︶によれば︑会社の役員は競争関係にある他の会社の役員の地位を兼ねることを禁じ ︵一五︶ ているので︑商法としては会社の利益保護の観点から競業の禁止のみを規定するを以て足るとしたのである﹂と述べ 取締役の競業避止義務.

(22) 論. られている︒. 説︵星川︶. 一六八︵ニハ八︶. この見解では︑取締役の忠実義務にもとづく考慮が全くなされていないし︑また削除の理由が独禁法に禁止規定が. あるからというのであれば首肯しがたい︒独禁法は私的独占や不当な取引制限を排除して︑自由かつ公正な取引の確. ﹁独占禁止法の役員兼任の禁止と商法における取締役の競業禁止とは︑その範囲においても完. 保を図るもので︑取締役の好ましからざる競業行為から会社の利益を守ることを意図する商法とは︑その趣旨を異に する︒換言するなら︑. 全に相おおうべきはずのものではない︒たとえば同種の営業を目的とする会社であっても︑その間に現実的にも潜在 ︵一六︶. 的にも競争の可能性が存しない限り︑独占禁止法の立場からはそれらの会社における役員の兼任を禁止する理由はあ. りえない﹂と考えられるのである︒それゆえ︑右の削除がかかる理由によるものとすれば︑まさに立法の過誤という べきであろう︒ ︵一︶ 拙稿・前掲四頁以下参照︒. ︵二︶ 大阪谷公雄・﹁取締役の責任﹂株式会社法講座三巻一一一七頁以下︑大浜信泉・﹁取締役と取締役会﹂株式会社法講座三巻 一〇六五頁︑田中誠二・会社法上巻三〇三頁︒. 大陸法における委任と英米法における信託とはともに︑人的信頼関係に基礎をおく法律関係であるが︑前者においては善. 管義務のみをみとめ︑忠実義務についてはこれを倫理的要請にとどめ法上の義務にまで高めていない︒このことは大陸諸国. と英米の法思想の相違によるものと思われる︒この点について興味ある見解を示されるのが山口教授で︑同教授は次のよう. に述べておられる︒ ﹁わが国の民法においては︑委任は典型的契約の一つとして把握せられ且つ規定せられているにとどま. るが︑アメリカ法においては︑かかる委任の関係をも含めた信任関係︵国含o醇q園巴緯圃8鴇一℃︶の法理なるものが存在し.

(23) ていると解せられている︒. この信任関係の法理は︑わが国の委任に関する規定の背後にも存すると解すべきであつて︑わが商法が﹃会社と取締役と. の問の関係は委任に関する規定に従う﹄と規定しているのは︑実はこのような信任の関係に関する基礎的法理の適用あるこ. とを意味するにほかならないのである︒してみれば︑わが国の多くの学説が︑右の商法の規定から直ちに善管注意のみを引. O蔭蔓鼠U器O巽Φ︶のほかになお忠実の義務︵ピo鴇巴蔓︶を包含﹂する. 用し来たるのは早計といわなければならない◎⁝⁝⁝このようにして﹃会社と取締役との間の関係は委任に関する規定に従 う﹄とは︑右の注意の義務︵O震①餌5αU筐磯窪8. ︵四︶. ︵三︶. イギリスでは一七六五年のω9︒昌悶9団昌αq冨&のp ︒辞一〇一①ωo協窃ω8冨謡窪にすでにこの観念がとり入れられていたとい. 岡咲 恕 一 ・ 改 正 会 社 法 九 九 頁 o. 山口・前掲三三・四八頁︒. 趣旨とされ︑委任関係の中に忠実義務が包含されるとされている︵山口・前掲四五頁︶Q. ︵五︶. 松田二郎H鈴木忠一・条解株式会社法上二九七頁Q. う︒函oヨω冨圃Pρ暮o蚕は魯い勢巧9昌幽℃冨o笥oρ<〇一●ど一3仰や㎝麿︒. ︵六︶. ︵八︶. 西原寛一・会社法︵商法講義H︶二一〇頁o. ︵七︶ 大隅健一郎H大森忠夫・遂条改正会社法解説二七八頁︒. ︵九︶ 大隅・前掲書二〇七頁o. 一六九︵一六九︶. ︵一〇︶ 鈴木竹雄H石井照久・改正株式会社法解説一七〇!一七一頁︑大隅甜大森・前掲書二七八頁︒. 石井照久・商法1ご二六頁︑大隅・前掲書二〇一頁︑松田K鈴木・前掲書二九六頁o. ︵一二︶ 大隅・前掲書二〇五頁︒. ︵一一︶. 取締役の競業避止義務.

(24) ︵一四︶. ︵一三︶. 岡咲恕一・新会社法と施行法八八頁︒. 山口・前掲三四頁︒. 大隅・前掲書二〇六頁︒. 説︵星川︶. ︵一五︶. 論. ︵一六︶. 大隅・前掲書二〇〇頁Q. 一七〇︵一七〇︶. ︵昭和三八・一〇・三一︶.

(25)

参照

関連したドキュメント

 当社は取締役会において、取締役の個人別の報酬等の内容にかかる決定方針を決めておりま

  

2 当会社は、会社法第427 条第1項の規定により、取 締役(業務執行取締役等で ある者を除く。)との間

によれば、東京証券取引所に上場する内国会社(2,103 社)のうち、回答企業(1,363

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

Hopt, Richard Nowak & Gerard Van Solinge (eds.), Corporate Boards in Law and Practice: A Comparative Analysis in Europe

① 新株予約権行使時にお いて、当社または当社 子会社の取締役または 従業員その他これに準 ずる地位にあることを

2)海を取り巻く国際社会の動向