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機械システムの受動性に基づく非線形制御に関する研究

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(1)

Author(s)

清水, 年美

Report No.(Doctoral

Degree)

博士(工学) 甲第196号

Issue Date

2003-03-25

Type

博士論文

Version

publisher

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12099/1917

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

(2)

機械システムの受動性に基づく非線形制御に関する研究

Non-1inearControlofMechanicalSystemsBasedonPassivity

1■■■■■■-tt■r-,い■、■-、【-■¶■T■【●■←一一"一←叫、▼一=■岬●■▼仰

学才詫、▼ト.-.至(工学)甲

2002年

(3)

1序論 1.1線形制御と非線形制御 ‥‥ 1.2 非線形制御の流れと現在の動向. 1.2.1厳密な線形化 ‥‥‥ 1.2.2 適応制御. 1.2.3IQC ‥‥‥‥ 1.2.4 非線形最適制御.‥‥‥‥ 1.3 受動性にもとづく非線形制御の現在の動向 ‥. 1.4 本研究の目的. 1.5 本論文の構成 ‥. 2 剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド制御 2.1 はじめに‥ 2.2 剛体球磁気浮上系に対するモデリング 2.2.1支配方程式の書き換え. 2.2.2 支配方程式の性質‥‥ 2.3 剛体球磁気浮上系に対する受動性解析 2.4 剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出.‥‥‥.‥.‥‥. 2.4.1 コントローラの導出に利用する命題.‥‥‥.. 2.4.2 コントローラの設計 ‥ 2.4.3 安定性解析 ‥‥ 2.5 数値シミュレーション.‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥.‥. 2.5.1 シミュレーション条件 ‥‥‥‥‥.‥‥ 2.5.2 シミュレーション結果 ‥‥‥.‥.‥‥‥. 1 1 2 3 3 4 4 5 6 7 8 8 9 11 13 14 15 16 18 21 22 22 23

(4)

目次 ii 2.6 実験 ‥‥‥ ‥.‥ ‥. 2.6.1実験条件. 2.6.2 実験結果‥ 2.6.3 速度信号の改善.‥ 2.7 まとめ ‥ 3 剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系を分離した制御 3.1 はじめに... 3.2 支配方程式の書き換えとサブシステムへの分割‥‥‥‥. 3.3 コントローラの導出 3.3.1制御入力祝の決定.‥‥‥.‥ 3.3.2 目標磁束¢dの決定‥‥‥‥‥ 3・3・3 目標力んag。の決定‥・ 3.3.4 安定性解析 3.4 数値シミュレーション ‥. 3.5 実験. 3.6 線形コントローラとの比較. 3.6.1線系モデルの導出‥ 3.6.2 実験条件‥. 3.7 まとめ ‥ 4 柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性にもとづく制御 4.1 はじめに.... 4.1.1柔軟構造物に対する研究動向 4.1.2 柔軟構造物に対する磁気浮上系に関する研究動向.‥. 4.2 柔軟ビーム磁気浮上系のモデリング‥. 4.2.1座標系の設定と柔軟ビームの運動の記述 ‥ 4.2.2 基準座標系で観測した柔軟ビーム磁気浮上系のエネルギ 4.2.3 運動方程式の導出‥‥ 4.2.4 電気系のエネルギに関する考察 ‥ 4.3 柔軟ビーム磁気浮上系に対する受動性解析 ‥.‥..‥‥‥.‥. 27 27 27 30 32 34 34 35 37 38 38 39 40 42 44 46 46 47 51 52 52 52 53 54 54 55 57 59 61

(5)

4・3・1Lagrange関数による支配方程式の表現 ….. 4.3.2 サブシステムへの分割 4.4 柔軟ビーム磁気浮上系に対するコントローラ導出 ‥‥ 4.4.1磁束を用いた支配方程式. 4.4.2 コントローラの導出 4.5 数値シミュレーション 4.5.1 シミュレーション条件 4.5.2 シミュレーション結果 4.6 実験 4.6.1 コントローラの実装に関する検討‥‥ 4.6.2 実験条件‥‥. 4.6.3 実験結果.‥ 4.7 位相進み補償による応答の改善 4.8 4.7.1モデルベースド型コントローラ,軌道追従制御‥ 4・7・2 モデルベースド型コントローラ,ステップ入力に対する定値制御‥ 4.7.3 重力補償付きPDコントローラ,追従制御. 4・7・4 重力補償付きPDコントローラ,ステップ入力に対する定値制御‥ 4.7.5 実験結果まとめ ‥ まとめ ‥ .‥.‥..‥.‥..‥. 5 結論 5.1本研究で得られた成果 5.2 今後の展開 謝辞 参考文献 A 受動性に関する表記法と諸定理 62 63 69 69 71 78 78 80 88 88 89 90 92 92 96 96 98 98 100 102 102 103 105 114 115

(6)

第1章

序論

1.1

線形制御と非線形制御

1960年にKalman[1]によって創始された状態空間法にもとづく現代制御理論は,最適

制御やカルマンフィルタなどの制御系設計法を世に送り出し,さまざまな機械システムに 適用され大きな成功を収めた.しかし,現代制御理論は制御対象となるプラントのモデル にもとづく制御方法であるため,プラントモデルが正確に分かっている必要がある.実際 にはプラントモデルを正確に求めることやパラメータを正確に得ることは事実上不可能で あり,パラメータの不確かさやモデル化誤差を含んだプラントモデルに対してコントロー ラ設計が余儀なくされている.また,実際のプラントは開いた系であるので,外部環境の 変化に応じてプラントの特性も変化する.このような場合,線形制御理論にもとづいたコ

ントローラでは制御性能の劣化,あるいは安定性が保証されなくなる[2][3]・

このような現代制御理論が抱える問題に対処するため,1981年にZames[4]によって月云

制御理論が提案され,Doyle[5]らによって周波数領域におけるループ整形の重要性が指摘

された.これらの先駆的な研究をきっかけとして,今日ではロバスト制御に関する研究が 数多くなされている.ロバスト制御理論では,制御対象となるプラントのモデルはノミナ ルモデルにある大きさ以下の構造的,あるいは非構造的不確かさが存在するものとして扱 われる.このとき,ノミナルモデルを中心として最大の摂動幅を半径とする円板状のプラ ントモデルの集合が得られる.ロバスト制御理論はこのプラントモデルの集合に含まれる すべてのプラントに対して指定された制御性能を満足するコントローラを設計するための

手法を与える[6].実システムの完全な数学モデルを得るのは事実上不可能であるため,制

御対象として不確かさを含んだプラントの集合を用いるロバスト制御理論は,ノミナルモ デルのみに対する現代制御理論と比較して,非常に有効であると考えられる. 1

(7)

非線形モデルとして与えられる制御対象を制御する場合,現代制御理論ではモデル化 によって得られた非線形のプラントモデルを動作点近傍で線形近似し,得られた線形近似 モデルに対してコントローラが設計される.しかし,線形近似モデルでは動作点近傍のご く狭い範囲でしか実システムを記述できないため,現代制御理論を用いて得られたコント ローラは動作点近近傍のごく狭い範囲でしか安定性を保証できない.一方,ノミナルモデ ルを線形近似モデルとし,線形領域から外れることで現われる非線形性を非構造的不確か さとして扱い,線形ロバスト制御理論を適用することで非線形系に対しても十分な制御性

能を達成できる場合があり,この設計方法を実プラントに適用した文献も見られる[7ト[9].

しかし,安定領域を広く取るためには,不確かさの最大値を大きくする必要がある.一般 に線形ロバスト制御理論は与えられたプラント集合の最悪値に対するコントローラ設計法 であると考えられるので,不確かさの最大値を大きく設定して安定領域を広げることと制 御性能の間にはトレードオフの関係がある.このことより,非線形系に線形ロバスト制御 を適用することの限界が見えてくる. これに対して非線形制御理論では制御対象のプラントモデルを線形近似する必要がない ため,コントローラの安定範囲を大きく取ることができる.また,非線形項を陽に扱うの で,不確かさを考慮し,不確かさを含むプラント集合に対するコントローラ設計を行う場 合,不確かさの最大値を小さく見積もることができる.したがって,非線形制御を行うこ とで線形制御と比較して高い制御性能が得られると期待できる.しかし,非線形系に対し ては平衡点の安定性に関する必要十分条件が存在せず,Lyapunov関数を試行錯誤的に探索 することでしか安定性を証明することができない.また,可積分性などの数学的な厳密性 が要求され,扱う系を数学的に厳密に特定する必要がある.これらの理由に加え数学的な 難しさも伴って,実システムに非線系制御理論を適用した例は少なく,理論を中心とした

研究が多く行われている[10].次節では非線系制御に関する研究の流れを簡単に示し,現

在の非線形制御に関する研究動向を手短に述べる.

1.2

非線形制御の流れと現在の動向

非線形制御に関する研究の歴史は意外と古く,1970年代にBrockett,Hermann,Krener, Fliess,Sussmannらによって線形システムで得られた可制御性,可観測性などの概念を非

線形システムに拡張する試みがなされたのが始まりであるとされている[11].1980年代に

はIsidori,Krener,Gori-Giorgi,Monacoらによって可制御性,可観測性だけでなく,線

(8)

3 1.2.非線形制御の流れと現在の動向 形系における多くの結果が非線形システムに拡張された.また,これらの研究と平行して IsidoriとFliessらにより非線形システムを状態フィードバックと座標変換により線形化す

る手法が考案されている.これは微分幾何学[12]をツールとするコントローラ設計手法で

あり,ここで得られた結果がIsidoriの著書[13]にまとめられている・

以下に現在行われている非線形制御のうち,代表的なものについて述べる. 1.2.1

厳密な線形化

厳密な線形化はIsidoriによって提案されたコントローラ設計手法[13]であり,設計ツー

ルとして微分幾何学を用いた設計理論である.厳密な線形化手法ではアファインな非線形 システム よ

=J(諾)+タ(∬)祝

y =

九(£)

に対して,座標変換と状態フィードバックを行い線形化を行う.厳密な線形化は平衡点近傍 で恥ylor展開を行って線形近似するのではなく,非線形系が線形系となるように座標変換 を行い,さらに非線形項を打ち消すような状態フィードバックを施して線形化を行う.いっ たん厳密な線形化がなされれば,適当な線形コントローラを適用することで安定化を実現 することができる.厳密な線形化手法を実プラントに適用した事例は比較的多い.杉江ら

[14]は磁気浮上系に適用して,得られた線形システムに対して月云制御を行い,また松村

ら[15]は磁気軸受けに対して厳密な線形化手法を適用し,得られた線形系に対してLQ制

御を行った.両者とも,安定領域を広く取れるという点でよい結果が得られており,これ らの設計手法が有効であることを示している.ただし,非線形システムが完全な相対次数 を持つことが厳密な線形化を行なえるための必要条件の1つであるため,そうでないシス テムには厳密な線形化を適用することができない. 1.2.2

適応制御

コントローラは通常プラントモデルをもとにして設計されるので,その動特性を十分 に把握する必要があるが,実際にはプラントは開いた系であり,外部環境の変化に応じて プラントのパラメータは変動する.プラントパラメータの変動が大きいときには制御性能 の劣化,あるいは不安定が引き起こされる.このような場合に,オンラインでプラントの

(9)

パラメータを推定し,プラントモデルを逐次更新していく制御方法が考案されている.適

応制御には大別してモデル規範型適応制御(MRACS)とセルフチューニングレギュレ一夕

(STR)がある.MRACSは1950年代後半にWhitakerによって航空機の自動操縦に適用さ

れたのが最初の研究とされている[16].1980年代になると高い非線形性を有するロボット

マニピュレータに対して適応制御が適用され,1980年代後半頃にはロボットマニピュレー

タの動特性の物理的構造を考慮したロボット特有の適応制御がSlotine[17]らによって考案

され,その後多くの研究者によってさまざまなロボットマニピュレータシステムに適用さ

れて,大きな成果をあげている[18卜[20].

1.2.3

IQC

IQC(IntegralQuadraticConstraint)は近年注目を集めている非線形/時変/不確定要

素を含むシステムに対する安定性解析のためのツールである[21].1970年代にロシアの

Yakubovichが非線形システムの安定性を解析するためにIQCを用いたのが始まりとされ

ている・近年ではMegretskiとRantzerがIQCに関する研究を行っている[22],[23].IQC

は周波数領域で与えられた信号祝とyに対する,ある関数◎に対して次式で表される2次 形式の積分型の制約条件である.

自㌶臣可霊,]du≧0

(1・3)

IQCを用いることにより,〝解析や非線系フィードバック系の安定性解析で得られている 結果の多くを統一的に扱うことができる.安定性解析はLMIに帰着でき,特にロバスト

安定化条件はBMI(BilinearMatrixInequality)で記述される非凸計画問題に帰着できるこ

とが知られている[24].しかし,実プラントに対してIQCを適用し,コントローラ設計を

行った事例は見当たらないため,いまだ理論の域を抜け出ていない感がある. 1.2.4

非線形最適制御

線形系の最適制御を非線形系に拡張したものであり,与えられた評価関数を最小化する ような制御入力を求める問題である.線形最適化問題の解は代数Ricatti方程式を解くこと

で得られるが,非線形最適化問題ではHJB(Haimilton-Jacobi-Be11man)方程式を解く必要

がある.非線形月云制御では外乱入力から制御出力までの£2ゲインを最小化するような

制御入力を求める問題であり,HJI(Hamilton-Jacobi-Isaacs)方程式を解かなければならな

(10)

5 1.3.受動性にもとづく非線形制御の現在の動向

い.代数Ricatti方程式は有本-Potterの方法[25]を用いて比較的容易に解くことができる

が,HJB方程式,HJI方程式はいずれも解析的な解を求めるのは非常に困難である.その ため,与えられた問題を部分最適化問題に簡略化し,部分最適化問題を繰り返し計算する

ことで近似解を得る方法が考案されている[26].また,ある制御入力が与えられたときに,

この制御入力によって最小化される評価関数を逆に求める,逆最適制御に関する研究も行

われている[27].

1.3

受動性にもとづく非線形制御の現在の動向

受動性は外部入力がある場合に,システムに蓄えられるエネルギと外部からの供給エネ ルギとの関係から,エネルギの減衰特性に焦点を当てた概念である.システムが受動的で あるとは,入力を払

出力を討とし,エネルギ供給率をぴ(叫牒)とするシステムに対し,ス

トレージ関数と呼ばれる準正定関数ガ(f)が存在して,任意のr>0に対して消散不等式

叩)≦卯)+上rぴ(叫牒)df

(1・4)

が成り立つことをいう.(1.4)式はシステムに蓄えられるエネルギは外部から供給されるエ

ネルギより小さい,すなわち,システム内部でエネルギが消費され,システム内部にエネ

ルギの発生源がないことを示している[28]・

受動性は電気回路の性質を示す概念として古くから知られていたが,1981年に1もkegaki[29]

が剛体リンクマニピュレータの定値制御を行うために機械システムに対して受動性を導入 した.それまで,単純なPD制御を用いることで非常に高い非線形性を有する剛体リンク マニピュレータをうまく制御できることが経験的に知られていたが,理論的な根拠が示さ れたことがなかった.この論文は,受動性を導入することで剛体リンクマニピュレータに 対するPD制御の有効性を示した.この論文をきっかけに,特に剛体リンクマニピュレー

タに対する適応制御[30]や学習制御[31][32]の分野で受動性を用いた安定性に関する議論

が多くなされた. 一般的な受動性にもとづくコントローラ設計では,制御入力によって閉ループ系が受動 性を有するようにコントローラ設計が行われる.このとき,コントローラの設計パラメータ として閉ループ系のストレージ関数を指定する.ストレージ関数は完全駆動系,すなわち, システムの自由度とアクチュエータの数が等しく,定値制御を考えるときにはシステムの ポテンシャルエネルギを変更し,減衰項を挿入することで指定する.また,完全駆動系の

(11)

追従制御を考えるときは,ポテンシャルエネルギの変更と減衰項の挿入に加えて,運動エ

ネルギも変更してストレージ関数を指定する[33].また,受動性はシステムのパラメータ

に依存しないため,パラメータ変動に対してロバストである.したがって,受動性にもと

づくコントローラはパラメータ変動に対してロバストとなることが知られている[34].受

動性にもとづくコントローラ設計はシステムが有する非線形性をふまえた上で受動性とい うそのシステムが有する本質的な特質を利用した制御であるため,この意味で,受動性に もとづくコントローラ設計をダイナミクスペースト制御と呼び,従来のプラントモデルに

もとづくコントローラ設計をモデルベースト制御と呼ぶこともある[35].

近年では運動方程式が偏微分方程式として表されるフレキシブルリンクマニピュレータ

に対して,受動性にもとづくコントローラ設計が多く報告されている[36ト[38].これらの

論文では,受動性を用いることで関節角度と関節速度,およびフレキシブルリンクの根元

のひずみを直接フィードバック(PDS制御)することで関節角度を目標値に収束させ,なお

かつ弾性振動が減衰できることが示されている.これらの文献で得られるコントローラは, 実装が容易で,なおかつコントローラ設計において有限次元化を行わないためスピルオー バーが生じないという特徴がある. これらの研究に対して,一方では理論的な研究も行われている.SchaftはHamilton系 として記述される一般的なシステムに対して受動性を考察し,£2ゲインと受動性を関連付

けて議論を行った[26].また,申ら[39][40]は閉ループ系のストレージ関数をバックステッ

ビング法を用いて構成し,不確かさを持っシステムに対して,閉ループ系をロバスト受動 化することでロバスト安定化またはロバスト£2外乱抑制特性を達成する非線形ロバスト コントローラの設計方法を示した. 1.4

本研究の目的

本研究ではこれらの背景をもとにして,機械系システムに対する受動性にもとづく,特 に分布定数系を含む機械系システムに対する非線形制御を考える.本研究では非線形モデ ルで記述される機械系システムの一例として,磁気浮上系を考え,これに対して受動性にも とづく非線形コントローラ設計を行う.浮上対象物体としては剛体球と柔軟ビームを考え, 特に柔軟ビームに焦点を当てて議論を進める.これまでの柔軟物体を含む機械システムの 受動性の証明はHamiltonの原理から運動方程式を導出し,得られた運動方程式に対して直 接受動性の計算が行われている.通常,フレキシブルマニピュレータのような分布定数系を

(12)

7 1.5.本論文の構成 含む機械システムでは非常に長く複雑な運動方程式が得られるため,受動性の証明には多 大なる労力と時間を要する.そこで,本研究では柔軟物体を含む機械システムをLagrange 関数を用い,Lagrange系が有する性質に着目して受動性の証明を試みる・Lagrange関数 を用いて運動方程式を記述することで,分布定数系を含む機械システムの受動性を非常に 容易,かつエレガントに示すことができる.また,運動方程式を変形して系をいくつかの サブシステムに分割し,それぞれのサブシステムに対して非線形コントローラを設計する 手法を用いることで,コントローラ設計が容易になることを示す.さらに,フレキシブル マニピュレータの場合に得られている結果と同様に,柔軟ビームに対してたわみに関連す る量をフィードバックすることで柔軟ビームに生じる弾性振動を抑制できることを示す.

1.5

本論文の構成

本論文は以下5つの章から構成される. 第1章では線形制御と非線形制御の比較を行い,非線形制御の優位性を挙げる.さら に非線形制御系の設計手法を述べながら最近の研究動向をまとめ,本研究の目的を端的に 述べる.第2章,第3章では,柔軟ビームを対象とした磁気浮上系に対する制御を行うた めの前段階として,剛体球を対象とした磁気浮上系を取り上げ,これに対して受動性を用 いて非線形コントローラを設計する.第2章では対象とするシステム全体の受動性を考え, システム全体に対する受動性にもとづくコントローラが設計される.第3章では対象とな るシステムを複数のサブシステムに分割し,それぞれのサブシステムに対して独立にコン トローラが設計される.さらに,Kalmanフィルタを用いたLQG線形コントローラを設計 し,得られた非線形コントローラとの比較検証を実験により行い,非線形コントローラの 優位性を示す.第4章では第2章,第3章で得られた結果と知見をもとに,柔軟ビームを 対象とした磁気浮上系に対して受動性を用いてコントローラを設計する.ここでは第3章 と同様にシステムを複数のサブシステムに分割し,それぞれのサブシステムに対して独立 にコントローラを設計する.第5章では本研究で得られた知見をまとめ,結論とする.

(13)

剛体球磁気浮上系に対するモデルベースド

制御

2.1

はじめに

本章では非線形性を有する機械システムの一例として剛体球磁気浮上系を考える.磁気 浮上技術に関する研究は,磁気浮上鉄道,磁気軸受,クリーンルーム等での搬送装置等の 分野などで広く行われており,すでに実用段階にある技術である.磁気浮上系は元来不安 定なシステムであるために,なんらかのフィードバックを施し安定化する必要がある.磁 気浮上系を対象とした最近の研究では,浮上自体を目的とする研究から,高精度化,ロバ

スト安定化,外乱抑制[41]-[44]を目指した研究が中心になっている.また,電流と磁束を

用いて浮上対象物体の位置を推定し,位置センサレスを目指したセルフセンシング方式の

磁気浮上系に関する研究[45]-[48]も盛んに行われている.これらの多くの研究では導出さ

れた磁気浮上系モデルを線形近似し,LQG/mR,月云制御等の線形制御則を適用して平衡

点近傍での安定浮上を実現している.しかし,元来非線形系であるシステムを線形化して コントローラを導出しているので,コントローラを線形領域で動作させなければ系の安定 性が保証されない.これは対象物体の浮上量を大きく取れないことを意味している.磁気 浮上搬送系を利用した塗装システムなどでは,大きな浮上量が要求されることがあり,こ のような場合には線形コントローラでは安定な浮上が困難になるものと考えられる. これらの問題に対処するために,磁気浮上系に対して非線形制御を適用する研究も行わ

れているが,その数は線形制御に比べると非常に少ない.杉江ら[14]は磁気浮上系に対し,

厳密な線形化により非線形補償を行い,g∞制御で非構造的なモデル化誤差に対処するこ

とで制御性能の向上と安定範囲の広域化を行った.Linら[49]は磁気軸受系に対し,厳密な

8

(14)

9 2.2.剛体球磁気浮上系に対するモデリング 線形化を行い,得られた線形系にファジィ制御を適用することでパラメータ変動と外乱に

対する過渡特性とロバスト性の改善を行った.楊ら[50]はバックステッビング手法を用い

て速度誤差による位置誤差を除去するためにPI制御を用いた仮想入力と,モデリング誤差 に対処するために非線形減衰項を挿入して速度誤差の安定化をはかることで,浮上対象物 体を広範囲で精度良く目標軌道に追従させることができることを示した.また,Lyapunov

の直接法を用いた非線形制御[51]も提案されている・

一方,ロボット工学の分野では,近年,受動性をもとにした制御[35]が脚光を浴びてい

る.受動性を用いれば,非線形性の強いロボットアームがPD制御を用いることで漸近安定

化できることが知られている[29].そこで,本章では非線形系である磁気浮上系が有する受

動性を利用し,与えられた軌道に漸近追従する非線形なコントローラを導出する.一般的 な受動性にもとづくコントローラ設計法にならって,閉ループ系が受動系となるようなコ ントローラを設計する.このとき,閉ループ系のストレージ関数は運動エネルギの整形と

減衰項の挿入によって構築される.本研究で得られるコントローラは文献[33]によって導

出されたコントローラをもとにし,磁気浮上系プラントのダイナミクスにもとづくフィー ドフォワード部分と位置と速度のフィードバック部分から構成される.また,数値シミュ レーションと実験を行い,本研究で得られたコントローラの有効性を検証する.

2.2

剛体球磁気浮上系に対するモデリング

本章ではFigure2.1に示す1つの電磁石を用いて剛体球を浮上させる磁気浮上系を考え る.電磁石への印加電圧を叫 電磁石に流れる電流を豆。とし,電磁石のインダクタンスと 内部抵抗をそれぞれん 一札とする.また,電磁石下端面に沿って∬0軸を持ち,電磁石の 中心に沿って鉛直上向きを正とするy。軸を持っ∬0一封0座標系を設定する.剛体球の位置 は帥を用いて記述される.剛体球の質量をmとし,剛体球に作用する重力と電磁力をそ

れぞれふんagとする・ここで,記述を簡単にするために,以下の仮定を設ける・

1.漏れインダクタンスは十分小さく,無視できるものと仮定する. 2.剛体球はy。方向の並進運動のみを行い,水平方向の並進運動,および各軸方向の回 転運動は行わないものと仮定する. 一般的に,電磁石のインダクタンスエは封0の関数として,

ム(yo)=訂㌔+エ0

(2.1)

(15)

Figure2・1:Magneticlevitationsystemわrarigidball.

と表される[52ト

ニこで,Clとc2はそれぞれインダクタンス定数とギャップ定数であり,上0 は漏れインダクタンスである.本研究では漏れインダクタンスを無視しているのでエ0≡0 である. Euler-Lagrangeの方程式を用いてプラントモデルを導出するために,電気系のエネル ギ㌔と剛体球の運動エネルギコ㌦を求めると,それぞれ次のようになる.

℃=…抽0)d≡

㍍=…m由呂

また,Rayleigbの散逸関数は電磁石の抵抗月eを用いて以下のように定義される.

摘)=去月e亘2

(2.2)

(2.3)

(2.4)

剛体球のポテンシャルエネルギ鴨(的)は封0=C2においてエ(帥)→00となることを考慮し

て‥点yo=C2をポテンシャルエネルギが0となる点とする.重力加速度をg(=9.80665>

0[m/sec2])とすると,帥は鉛直上向きを正としているので,ポテンシャルエネルギは次式

で与えられる.

鴨(yo)=一上;0ト汀もg)dモ=-mタ(c2一的)

(2.5)

(16)

11 2.2.剛体球磁気浮上系に対するモデリング これらより,剛体球磁気浮上系のLagrange関数Laは ム。=

二㌦+℃一鴨

去エ(封0)か去mか明(c2-yO)

として与えられる.式(2.6)を散逸項を含めたLagrangeの運動方程式

d一虎 d一成 ・帥 ∂

)

=`tムー ∂エ。

∂ダ(豆。)

∂yo =0

(2.6)

(2.7)

(2.8)

に代入すれば,電気系の回路方程式と機械系の運動方程式としてそれぞれ次式を得る.

エ(yo極+

m弘 Cl

(c2-y。)2

1 cl

2(c2-y。)2

yo豆。+月。亘。=祝

d2+mg=0

(2.9)

(2・10)

2.2.1

支配方程式の書き換え

ロボット工学の分野では関節変数を一般化座標として,慣性行列を用いた運動方程式

刀(q柏+C(q,亘拍+g(q)=丁

(2・11)

が一般的に用いられる[53].qは一般化座標ベクトル,か(q)は慣性行列,C(亘,q)はコリ

オリカなどの速度の2乗に比例する項の係数行列,gは重力ベクトル,丁は一般化カベク トルである.この運動方程式を調べることで慣性行列の正定対称性など多くの有用な性質 が導かれ,それらの結果をもとにモデルベースド適応制御など数多くの制御法が提案され

ている[20].

そこで,本研究においても剛体球磁気浮上系の支配方程式(2.9),(2.10)を(2.11)式の

ような一般化座標と慣性行列を用いて表し,支配方程式が持つ性質を調べ,その結果をコ ントローラ設計に利用する. そのために,まず,一般化座標を

q=二≡三:

(2.12)

(17)

と定義する・系の支配方程式(2.9),(2.10)より慣性行列は

瑚)=[エ曾0)ヱ]

(2・13)

と定義できる.このとき,電気系のエネルギと機械系の運動エネルギの和rは慣性行列

β(9)を用いて,

r = コ㌦+℃

主砲0)か芸m洩言

芸西(函

(2・14)

と与えられることは明らかである・したがって,Lagrange関数(2.6)は慣性行列を用いて

エα=芸西(q)巨鴨(q)

と書くことができる.これを散逸項を含めたLagrange方程式に代入すれば, d一成

)

孟〈孟(主軸)叶芸〈主軸拍瑚)〉

瑚+カ輌一芸〈芸西(叫+空箸

∂ダ(¢。)

∂亘

擁)仁志〈芸西(q)亘〉全c(抽

なる行列C(q,d)を導入し,重力項gを

g(q)=

∂鴨(q)

∂q

とすれば支配方程式(2.9),(2.10)は以下のように書き直される.

か(q)亘+C(q,亘)亘+g(q)=〟祝一月亘

(2・15)

(2・16)

(2.17)

(2.18)

(2・19)

(18)

13 2.2.剛体球磁気浮上系に対するモデリング ここで,

C(亘,q)

1 cl

2(c2一帥)2

封O qe -qe O

(2.20)

(2.21)

(2.22)

(2.23)

である.支配方程式(2.19)において外部入力項は〃祝∈f㍗として表されていることに注

意する.〃∈月陀×乃uは定数行列で祝∈月㌣は制御入力である・れ,れ祝はそれぞれシステ ムの自由度と制御入力の数である.れ祝<れのときにはアクチュエータの数がシステムの 自由度よりも少ないことを意味し,劣駆動系であることを示している.この場合はれ=2, れ祝=1であるので,剛体球磁気浮上系は劣駆動系となる・ 2.2.2

支配方程式の性質

結論から述べると,前項で得られた剛体球磁気浮上系の慣性行列を用いた支配方程式

(2.19)において以下の性質が成立する・

命題2.1

1.慣性行列か(q)は正定対称行列である・

2.行列カ(q)-2C(q,亘)はひずみ対称行列である・

証明2.1(1)については慣性行列の定義とエ(yo)>0,m>0より自明である・(2)につい

ては次のように示すことができる.まず,慣性行列(2.13)を用いれば,剛体球磁気浮上系

の全エネルギβは次式で与えられる.

芸西(q)亘+榊)

(2.24)

(19)

上式を時間微分すると, dβ

孟〈芸西(如+醐〉

仕丁餉)亘+芸西(如+亘r塑

中榊+言ゎ輌+笥

(2.25)

となる・支配方程式(2・16)において,すべての外力項を0,すなわち,右辺=0とした式,

瑚+カ領一芸〈芸西(叫+箸=0

を(2.25)式に代入すれば,

d月

=叶主軸亘+芸〈主軸)叫

を得る.さらに,

瑞〈揮(如〉=押(如〉

となる[54]ので,次式が成立する.

芸=一抽軸一芸〈主軸)瑚=0

(2・26)

(2.27)

(2・28)

(2・29)

上式にC(q,亘)の定義(2.17)を代入すれば,剛体球磁気浮上系の全エネルギの時間微分は

=去亘r〈力㈲-2C(㈹〉亘=0

(2・30)

となる・これは行列β(q)-2C(9,亘)がひずみ対称行列であることを示している.q

これらはマルチボディシステムではよく知られた結果[55]であるが,これらの結果が

電磁気回路を含む剛体球磁気浮上系でも成立することが示された.

2.3

剛体球磁気浮上系に対する受動性解析

この節では前節で得られた支配方程式をもとに,剛体球磁気浮上系の受動性に関して 議論する・結論から述べると,得られた剛体球磁気浮上系に対して以下の命題が成立する. 受動性に関する諸定義は付録A章に示す. 命題2・2

剛体球磁気浮上系(2・19)は受動的な写像ぶ:祝→〃r9を定義する.

(20)

15 2.4.剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出

証明2.2前節の支配方程式(2.19)の性質を調べるときに得られた,系の全エネルギの時

間微分(2・25)

芸=中(銅+主力輌+空欝]

に系の支配方程式(2.19)を代入すれば次式を得る・

誓=省三力領一C(由掴一月亘+肌]

(2・31)

(2.32)

ここで,行列カ(q)-2C(q,亘)のひずみ対称性と,行列Rが準正定行列であることより

仕丁月々≧0となることを用いると,以下の不等式が成り立っ.

有=仕丁(肋卜√月々≦仕丁(肋)

上式の両辺を区間[0,r]で時間積分すると,次式を得る・

上r芸df=瑚(r))一瑚0))≦上r(昭)r祝虎

(2.33)

(2.34)

ゆえに消散不等式が成立し,剛体球磁気浮上系はストレージ関数を系の全エネルギとし,エ ネルギ供給率を

ぴ(〃r如)=(〃r亘)㌦=如

とする受動系であることを示している.q

(2.35)

この結果は,剛体球磁気浮上系が入力を電磁石の印加電圧仇 出力を電磁石を流れる電 流d。とする受動系であることを示している.したがって,電磁石の印加電圧祝を用いて電 流d。を制御するのは容易であるといえる.しかし,本研究で制御対象となるのは剛体球の 位置であるが,電磁石の印加電圧を入力として剛体球の位置を出力とした場合には受動性 が成立しないため,剛体球の位置制御を容易に行うことができるとは結論付けられない.こ れは,剛体球磁気浮上系の入力が電磁石の印加電圧1つのみであるのに対して,出力が電 磁石を流れる電流と剛体球の位置の2つである劣駆動系となっていることに起因している.

2.4

剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出

前節で示したとおり,剛体球磁気浮上系は劣駆動系であるので,電磁石の印加電圧祝の みを用いて電磁石の電流d。と剛体球の位置封0を制御するには何らかの工夫が必要である. 剛体球の位置制御を行うための方法として,

(21)

1.系の全エネルギを整形して,閉ループ系が劣駆動系とならないようなコントローラを 設計する. 2.電流d。が目標電流に収束すると,剛体球の位置軌道も目標軌道に収束するようなコ ントローラを設計する. の二つが考えられる.本章では前者の考えをもとにコントローラを設計し,次章で後者の 考えにもとづくコントローラについて議論する. 2.4.1

コントローラの導出に利用する命題

はじめに,閉ループ系が完全駆動系になるようなコントローラを設計する際に有用とな

る命題[33]を以下に示す.

命題2.3 微分方程式

か(q)烏+(C(可,亘)+gd(q,亘))β=少

(2・36)

は入力を中∈Rm,出力をβ∈R陀とする出力強受動系である.ここで,β(9)∈R…と

gd(q,亘)∈月几×乃は正定で,C(q,亘)∈月乃×陀は

か(q)-2C(9,亘)

がひずみ対称行列となるような行列である.

証明2・3与えられた微分方程式(2.36)のストレージ関数として,

仇=土βr瑚)β≧0

2

(2・37)

(2・38)

を考える・(2・38)式を微分方程式(2.36)に沿って時間微分して,か(q)-2C(q,d)のひず

み対称性を利用すれば, 仇

紬(q)β+去βr軸)β

βr(中一C(抽一札函,擁)+去βr軸)β

(22)

17 2.4.剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出

βr少+去βT〈軸)-2C領)〉…rg両)β

-βr∬d(q,亘)β+中rβ

(2・39)

を得る.ここで,∬dの正定性よりある正の定数α乞(哀=1,…,れ)が存在して次式が成立

する.

βrgdβ≧∑α宜βぎ

ここで,β宜(豆=1,…,れ)はβの第乞要素である・いま,α=min(α豆)とおくと

βr∬dβ ≧

∑α盲βZ

宜=1

βrdiag(α1,…,αm)β

> αβTβ =

αl酬2

となるので,これを(2.39)式に適用すると,

ガム =

-βr∬d(9,射β+中rβ

-αllβ】l2+中Tβ

を得る.上式の両辺を0からrで時間積分すれば,

瑚(r),細卜瑚(0),紳))=一上rβrgd(抽机上r中Tβdt

(2.40)

(2.41)

(2.42)

≦一上rα‖β冊+上r中rβdf

(2・43)

となるので,以下の消散不等式を得る.

仇(q(r),亘(r))-仇(q(0),亘(0))+αl酬…r≦〈少lβ〉r

(2.44)

(23)

上式は(2・36)式がストレージ関数を(2.38)式,エネルギ供給率を

ぴ(中,β)=中Tβ-αl酬…r

とする出力強受動性であることを示している.q

(2・45)

出力強受動系は£2安定であるので,微分方程式(2.36)において中∈£2であればβ∈£2

である.したがって,中=0のときβ∈£2である.本章ではこの命題を用いてコントロー ラを設計する. 2.4.2

コントローラの設計

本研究の目的は剛体球の既知な目標軌道yod(りが与えられたときに,剛体球の位置y。

を目標軌道に追従させることである.受動性にもとづくコントローラ設計を行うので,コ ントローラの設計指針として, 1.閉ループ系が受動系となるようなコントローラを設計し, 2.追従問題であるので,閉ループ系のストレージ関数をポテンシャルエネルギの整形と ダンピングの挿入に加えて,運動エネルギの整形を行うことで指定する. いま,運動エネルギを整形することで,閉ループ系のストレージ関数が

仇=去βr瑚)β

となるようなコントローラを考える.ここで, β=亘+A亘,亘=9-甘か

9d=ほ:]

A=[㍑]

(2.46)

(2.47)

(2.48)

であり, は目標軌道,亘は軌道誤差である.いま,制御の対象となるのは電荷q。ではなく,剛体球 の位置封0と電流d。であるのでAは上のように選ぶことができる.

命題2・3より,(2・36)式で与えられる常微分方程式はストレージ関数を(2.38)式とする

出力強受動系となるので,剛体球磁気浮上系の閉ループ系のダイナミクスが

β(q)占+(C(亘,q)+Rd)β=中

(2.49)

(24)

19 2.4.剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出 となるようなコントローラを考えれば,剛体球磁気浮上系の閉ループ系はストレージ関数

を(2.46)式とする出力強受動系となり£2安定が保証される・ここで,月d>0は

Rd=月+∬d,」打d= 乾 0 垢。

芸m]>0

(2・50)

であり,∬dは閉ループ系に挿入されるダンピングで,鶴e>0,j㌔m>0である.(2・49)

瑚)(る+A占)+C(如)(占+A亘)+Rd(占+A亘)+∬dβ

瑚)〈(亘一亘。)+A占〉+C(如)掴一々。)+A亘)+昆H(亘一々d)+A亘)+∬dβ

刀(q)亘+C(亘,q)亘+昂適

ー〈瑚)(亘。-Aさ)+C(如)(亘。-A亘)+品(亘。-A叫+∬dβ

=

〃祝一夕-(β(q柏γ+C(亘,q)亘γ+見料)+∬dβ

(2・51)

を得る.ここで,亘r=亘-A亘である.少=0のときβ∈£2となるので少=0とおけば, コントローラ

〟祝=か(q拍r+C(亘,亘)亘γ+見料+g-∬dβ

を得る.さらに,上式を展開すれば以下の2式を得る. Cl l cl l cl 祝=-⊥」-一亘ed+豆C2 yO お0¢。+

(c2-y。)2洲Ye■2(c2-y。)2

+月。由一穐。亘。

0=m(弘d-Am壷。)

1 cl

2(c2-y。)2

亘。(如d-Am釦)

(2.52)

(2・53)

如。d+mダー穐m(壷。+Am威0)(2・54)

上式第1式は電磁石の印加電圧祝を決定する式である.第2式は制御中に常に成り立たな ければならない式であり,

J(¢。,由,yO,血,帥d,如d,弘d)=0

(2.55)

(25)

と表すことができる・ここで,センサによって電磁石を流れる電流豆。,剛体球の位置封0と

速度由が測定できるとすれば,(2.54)式における不定元は電流の目標値豆。dのみであるの

で,これより電流の目標値由を決定することができる.したがって,電流の目標値由と その微分値範dは以下のように決定できる. qe(ま 範d

2(c2-y。)2

Clqe

2(c2-yO)

Cl豆2

〈m(弘d-Am壷。)+昭一垢m(壷。+Am威0)〉

(2・56)

(2如0+鮎(c2-yO))〈m(弘d-Am壷。)+mダー垢m(壷。+Am釦)〉

Clqe

〈m(碧-Am毒0ト叫0+Am壷0)〉

(2・57)

Figure2・2に(2・52)式をもとに描いた,コントローラのブロック線図を示す.(2.53),

(2.54)式より,得られたコントローラでは,フィードフォワード部分に相当する参照モデ

ルのパラメータ,インダクタンス定数cl,ギャップ定数c2,電磁石の抵抗月。,剛体球の質 量m,および重力加速度タと,フィードバック部分に相当するゲインAm,j㌔。,j㍍mを調 節できる. [!! ⊂コ ⊂==コ ==コ ニコ「ニコ [コ = ===「.∴ r∴ =.-ノ こ⊥「 ⊥.∴ L=」」二二 ==二一 Position,Velocity,andcurrentfeedback Figure2.2:Blockdiagramofthepassivitycontroller. ブロック線図から分かるように,導出されたコントローラは剛体球の位置と速度,およ び電流のフィードバックと,プラントの参照モデルによるフィードフォワードから構成さ

れる・このコントローラの構成は,ロボット工学におけるモデルベースド適応制御[56]の

適応機構を除いたコントローラと同じ構成になっている.モデルベースド適応制御の言葉

を借りれば,亘rは参照速度,βは剰余誤差と呼ばれる.なお,(2.56),(2.57)式において,

(26)

21 2.4.剛体球磁気浮上系に対するコントローラの導出 電流の目標値を決定するときに電流による除算が含まれるため,電流が0とならないよう に注意する必要がある. 2.4.3

安定性解析

閉ループ系が受動的になるようなコントローラを設計することで,閉ループ系が£2安 定,この場合はβ∈£2,となることが保証される.しかし,£2安定性は信号の有界性の みを保証するものであり,漸近安定性を保証するものではない・そこで,得られたコント ローラの漸近安定性を示すために,Lyapunovの安定定理を用いる・前項で得られたコント ローラに対して,以下の命題が成立する. 命題2.4

導出されたコントローラ(2.52)は剛体球磁気浮上系を漸近安定化し,f→∞に

おいて q→0,亘→0 となる.

(2.58)

証明2.4受動系において,ストレージ関数がLyapunov関数の候補となり得る[40]ので,

Lyapunov関数の候補として,ストレージ関数(2・46)

仇=土βT瑚)β

2

(2.59)

を考える.このとき,月云はβ=0において大域的な最小値j㌔=0をとる正定値関数であ

る.いま,(2.59)式を閉ループ系のダイナミクス(2・49)に沿って時間微分して整理すると

島=紬(9)β+去㌔如)β

ーβrR。(q,亘)β+中rβ

いま,中=0とおいているので上式は月dの正定性より

島=-βrRd(q,亘)β≦0

(2.60)

(2.61)

となる.月云はβ=0のみで0となることは明らかであるので,月云は負定関数となり Lyapunov関数である.したがって,Lyapunovの安定定理よりf→∞のときs→0,す

(27)

なわち となる.q 9一+0,亘→0

(2.62)

2.5

数値シミュレーション

本章で得られたコントローラの有効性を検証するために数値シミュレーションを行う. 2.5.1

シミュレーション条件

コントローラの導出には電磁石の漏れインダクタンスを無視した剛体球磁気浮上系のモ デルを用いたが,数値シミュレーションでは,制御対象として電磁石の漏れインダクタン スを考慮した次式で与えられるプラントモデルを考える.

(云㌔+ム0)範+

myo

(∬。一帥)2

(z。-的)2

d2+mg=0

封0豆。+月1亘。=祝

(2.63)

(2・64)

ここで,Qはインダクタンス定数,エ0は漏れインダクタンス,Zoと諾0はギャップ定数,た は磁気吸引定数,mは剛体球の質量,gは重力加速度定数であり,実験装置を同定するこ とで得られれるパラメータである.理論的にはQ=2た,ご0=Z。であり,コントローラの 導出のために用いたプラントモデルではQ=2た=Cl,∬0=Z。=C2としていたが,本研 究で用いた実験装置を同定した結果Q≠2たとなった.これより,本研究ではQとたは互 いに独立なパラメータとして扱うことにする.実験装置を同定して得られた各パラメータ をTable2.1に示す.

プラントモデルとコントローラはMATLAB/Simulinkを用いて構築し,サンプリング

時間を1[msec]として4次のRunge-Kutta法を用いて数値計算を行った.本章で得られた

コントローラは電流の目標値d。dを求めるときに電流亘。による除算を行うので,制御開始

時の電流を0[A]に設定することはできない・そこで,電流の初期値を0[A]に設定してお

き,5・0[Ⅴ]の初期電圧を1[sec]印加して電流が一定値になった後に制御を開始した.剛体

球の初期位置は,実験装置の制約により実現できるギャップが制限されることを考慮して

-10[mm]とした.

(28)

23 2.5.数値シミュレーション

1もble2.1:Identifiedplantparameters.

Parameter SyInbol Idemiifiedvalue

Inductanceconstant Q 8.45×10 5

[Hm]

Leakageinductance エ0 1.19×10 1

[H]

Inductancegapconstant Zo 2.20×10-3

Magenticforcegapconstant 諾0 2.20×10 3

Magneticforcecoe伍・Cient た 5.53×10 5

[Nm2/A2]

Coilresistance 月。 4.57

Ballmass 田 63.7×10 3

[kg]

Gravityacceleration 9.80665

[m/sec2]

目標軌道はFigure2.3に示すものを用いる.これは-10[mm]から-5[mm]までの5[mm]

の浮上量を2.0[sec]で滑らかに移動する軌道で,電流の微分の目標値を計算するときに目

標軌道の3階微分を必要とするので,加加速度までが滑らかになるように次式に示す時間 に関する7次の多項式を用いた.

封。。(り=一0.00078125壬7+0.00546875f6-0・013125f5+0・010937f4-0・01(2・65)

この軌道ではyoが-10[mm]から-5[mm]に変化するとき,(2・63)式のインダクタンスと

(2.64)式第2項目の電磁力の係数は,それぞれ1・04倍,2・87倍となり,系は非線形を示す・

2.5.2

シミュレーション結果

1もble2.2に示すようなゲインと参照モデルのパラメータを用いて数値シミュレーション

を行った結果をFigure2.4に示す.シミュレーション結果では時刻1[sec]において制御が

開始されている.Figure2.4より浮上量を5[mm]としても位置,速度ともに目標軌道に非

常に精度よく追従していることが確認できる.電流については制御開始時にコントローラ によって計算された目標値と観測された値が大きく異なる.これは制御開始時の電流値を

5[Ⅴ]の制御電圧を印加したときに回路に流れる電流値とし,系を平衡に保つような電流に

設定していないためである.また,この影響により制御電圧にもスパイク状の立ち上がり が生じていることが確認されるが,位置と速度には影響を与えていないことが分かる.

(29)

[且已○芸岩d [NUOの竜]⊆層扇誌tひUUく -5.0 -6.0 -7.0 -8.0 -9.0 -10.0 0.0 1.0 2.0 3.O Time[sec] (a)Desiredposition. 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 -2.0 -4.0 -6.0 -8.0 -10.0 0.0 1.0 2.0 3.O Time[sec] (C)Desiredacceleration. [OU∽\∈]倉UO-OA [cUO∽竜]七〇→ 0 0 5 4 0 0 0 つJ 2 1 0.03 0.02 0.01 0.00 -0.01 -0.02 -0.03 -0.04 0 1.0 2.0 3.O Time[sec] (b)Desiredvelocity. 0.0 Figure2.3:Desiredtrajectory. 1.0 2.O Time[sec] (d)Desiredjerk. Table2.2:Gainsandparametersofthereferencemodel. 3.0

Parameter Symbol Value

Referencegaln Am 100

Fbedbackgain(mechanicalsubsystem)

鶴m 1.5

Fbedbackgain(electricalsusbystem)

穐。 20.0 Coilinductanceconstant Cl 11.06×10 5

[Hm]

Gapconstant C2 2.20×10-3

Coilresistance 月。 4.57

[n]

Ballmass 63.7×10 3

[Kg]

Gravityconstant g 9.80665

[m/sec2]

(30)

25 2.5.数値シミュレーション Tヱl三一-′=.- [Ou∽\且首00-UA 【>]論題〇三nd占 0 0 2. 〇. 0.0 2.0 4.O Ti皿e【sec] 匝)Velocity仕如ectoⅣ. 6.0 2.0 4.0 6.O Ti皿e[sec] (d)Inputvoltage. Figure2.4:Simulationresultofmodelbasedcontroller.

(31)

ゲインと参照モデルのパラメータの決定は試行錯誤的に行った.ゲインを大きくする と追従特性は改善されるが,制御開始時の制御電圧のスパイク状の立ち上がりが過大に なる傾向が見られる・参照モデルパラメータを適切に調節し,フィードフォワードの影 響を大きくしフィードバックの影響を小さくすることで,制御電圧が過大になるのを防 ぐことができる・Figure2.5に制御電圧におけるフィードフォワード成分とフィードバッ

ク成分を示す・ゲインは恥ble2・2に示された値を用い,参照モデルのパラメータを,(a)

図ではcl=11・06×10-5[Hm],C2=2・20×10

3[m],Rl=4.57[0]とし,(b)図では

Cl=8・00×10

5[Hm],C2=1・50×10-3[m],凡=3.50[n]とした.なお,制御開始時にス

パイク状の大きな電圧が現れ,定常状態の電圧の変化が読み取りにくくなるので,制御開

始時における電圧の変化を省いた.(a)図は参照モデルのパラメータを適切に調整した場

合に対応し,(b)図は参照モデルのパラメータを不適切に調整した場合の結果に対応する.

この結果より,参照モデルのパラメータを適切に調整した場合はフィードフォワード成分 が大きくなり,フィードバック成分は小さくなる.逆に参照モデルのパラメータが適切に 調節されていない場合には,フィードフォワード成分の影響が小さくなり,フィードバッ ク成分の影響が大きくなることが分かる.したがって,参照モデルのパラメータを適切に 調節しておき,フィードフォワードをメインにし,フィードフォワードでは補償しきれな い分をフィードバックで補償するようなゲインとパラメータ設定にするのが効果的である といえる.また,調整された参照モデルのパラメータは,同定により得られたパラメータ と異なる値となっている.これは,制御対象としたプラントモデルが漏れインダクタンス を考慮しているためである.さらに,参照モデルのパラメータは軌道誤差が小さくなるよ うに設定されれば良く,必ずしも同定されたプラントのパラメータと同じ値に設定されな くても良い.これは,モデルベースド適応制御ではよく知られた事実であり,パラメータ

推定値が真値に収束することは保証されていない[57].

(32)

2.6.実験 【>】乱雲○ヱnd亡-6.0 4.0 2.0 0.0 -2.01.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.O Time[sec] [>]乱雲〇三已ロ】 6.0 4.0 2.0 0.0 -2.01.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.O Ti皿e[sec] (a)c】=11.06xlO 5,C2=2.20xlO-3,糧司.57. 仲)cl=8.00x10▼5,C2=l.5触10-3,糧=3.50. Figure2.5:Feedbackandfeedforwardcomponentsofthemodelbasedcontroller.

2.6

実験

2.6.1

実験条件

本章で導出されたコントローラの実機での有効性を検証するために実験を行う.コント

ローラはMATLAB/Simulinkを用いてCコードを生成し,それをDSPにダウンロードす

ることで実装する.実験装置の概要をFigwe2.6に示す. 剛体球の変位はレーザー変位計を用いて測定し,速度,加速度は変位の後退差分を用

いて近似的に微分して求める.電流は0.1囲の基準抵抗の両端の電圧を増幅器で10倍に

増幅して測定する.電流の微分範は測定された電流を後退差分を用いて求める.サンプ

リング周期は1[msec]とした.位置と速度の初期値はシミュレーションと同様にそれぞれ

-10[mm],0[m/sec]とし,制御開始時の電流の初期値は5[V]の制御入力を印加したときに

電磁石を流れる電流値とする.また,目標軌道はシミュレーションで用いたものと同じ時 間に関する7次の多項式を用いた. 2.6.2

実験結果

ゲインと参照モデルのパラメータをTable2.3に示す値に設定したときの実験結果を

Figure2■7に示す・実験では時刻1[sec]から制御が開始されている.実験ではゲインを高く

設定すると,振動が励起されて不安定になりやすくなる.そのため,実験ではゲインを低め に設定し,参照モデルのパラメータcl,C2,月。をより詳細に調節し,フィードフォーワー ドの効果を大きくすることで制御性能の向上を図った.実験では制御開始時に若干の位置

(33)

stage LaserSensor yo

Figure2.6:Experimentalsystem.

「mble2.3:Gainsandparametersofthereferencemodel.

Parameter Symbol Value

Referencegaln Am 225

Fbedbackgain(mechanicalsubsystem)

穐m 2.0

Fbedbackgain(electricalsusbystem)

穐。 10.0 Coilinductanceconstant Cl 10.50×10 5

[Hm]

Gapconstant C2 2.00×10-3

Coilresistance 月。 4.55

[n]

Ballmass 63.7×10 3

[Kg]

Gravityconstant g 9.80665

[m/sec2]

軌道誤差が生じるが,ただちに目標軌道に収束していることが確認できる.また,速度は

レーザー変位計の分解能が5[〃m]であり,速度があまり大きくならないような軌道を用い,

さらにレーザー変位計の出力を後退差分を用いて近似的に微分したものであるので,量子 化ノイズの影響が大きく現れていることが確認できる.この速度信号をフィードバックに 利用しているため,制御電圧には激しい振動が現れる.しかし,電磁石の励磁コイルが約

20[Hz]をカットオフ周波数とするローパス特性を有する[58]ので,電磁石を流れる電流に

はこの影響はあまり大きく現れず,位置軌道にもほとんど影響を及ぼしていないことが確 認できる.したがって,この実験では電磁石の持つローパス特性が良い方向に働いている といえる.このゲイン・パラメータ設定の場合,フィードバック成分を抑えてフィードフオ

(34)

29 2.臥 実験 ワード成分に頼った制御になる.このため,長時間運転による励磁コイルの発熱による抵 抗の変化などのモデルパラメータの変動が生じた場合にはフィードバックによる誤差修正 が強く行われず,位置,速度,電流軌道に偏差が現れる.この場合ゲインの再調整が必要 となる. ー3 1 1 l [≡〓…〓…ニ l Rcsult D(:Si†Cd 1 0.0 2.0 4.O Thle[sec] (a)Positiontrajectory. 5 爪U 5 [皇}uUh≒U [>]乱雲〇三コd月 J〇一こ告Od∈OU 6.0 2.0 4.0 6.O T血e[sec] (C)Cu汀ent. [Uひ∽、五首旨-ひ> 【己乱雲○>lnd月 10.0 5.0 0.0 -5.0 -10.0 0.0 2.0 4.O Ti皿e[sec] (b)Velocitytr毎ectory. 0.0 2.0 4.0 (i.O T血ersec] (e)Ccomponentsofinputvoltage. Figure2.7:Experimentalresultofthemodelbasedcontroller.

(35)

2.6.3

速度信号の改善

前項で得られた実験結果では剛体球の速度信号がレーザ変位計の量子化誤差と後退差分 による近似微分の影響により激しいノイズが現れた.微分器は周波数が高くなるにしたが いゲインが高くなる特性を持つ.一般にノイズは高い周波数を持つため,単純に微分を行 うとノイズが増幅されてしまい,制御性能の劣化を引き起こす.実験を行う場合,電磁石 の持つローパス特性が良い方向に働くためこの影響はあまり大きく現れないが,制御電圧 が激しく振動するなど,制御系に何らかの悪影響を与えていると考えられる.特に,量子 化誤差を含む速度信号を微分して加速度を求めた場合にはおおよそ加速度とはかけ離れた

信号になっていると考えられる.そこで,文献[59]に示される,伝達関数表現による擬似

微分器を用いて剛体球の速度信号を得ることを考える.本研究では電磁石のカットオフ周

波数が約20[Hz]付近にあることをを考慮して,50[Hz]で折点を持つ一次遅れ系と微分を組

み合わせた,伝達関数が

C(β)=

0.0031831β+1

(2.66)

で与えられる近似微分器と,その2倍の100[Hz]で折点を持っ一準遅れ系と微分を組み合

わせた,伝達関数が

C(β)=

0.001592β+1

(2・67)

で与えられる近似微分器を用いた場合について実験を行った. 実験で用いたゲインと参照モデルのパラメータを1もble2.4に示す.ゲインAmはカット

オフ周波数が50[Hz]のときはAm=120とし,100[Hz]のときはAm=170とした.なお,

カットオフ周波数が50[Hz]のときにAm=170とした場合には,系は不安定となり激しい

振動が生じた・Figure2・8にカットオフ周波数を50[Hz]としたとき,Figure2.9にカットオ

フ周波数を100[Hz]としたときの実験結果をそれぞれ示す.また,Figuer2.10に剛体球の

位置の軌道誤差を示す.実験結果より,速度信号を近似微分器を用いて生成した場合,速 度信号に現われるにノイズの影響を抑えることができることが確認できる.しかし,後退 差分を用いて速度信号を生成したときと比較した場合には,定性的に以下のことがいえる. 1.ゲインを大きく設定することができない. 2.剛体球の位置と速度は振動的になり,不安定になりやすくなる. 3.目標軌道への追従特性が劣化し,定常偏差が生じる.

(36)

31 2.6.実験

Table2.4:Gain5andparametersofthereferencemodel.

Parameter Symbol Vallユe

Feedbackgain(mechanicalsubsystem)

亀m 1.0

Feedbackgain(electricalsusbystem)

_打de 5.0 Coilinductanceconstant Cl 10て5×10 5

[Ⅱm]

Gapconstant C2 2.00×10▼3

Coilresistance 月1 4.5

†り〕

Ballmass 63.7×10 3

[Kg]

Gravityconstant g 9.80665

[m/sec2]

2つ目と3つ目の特性はゲインを大きく設定できないことに起因すると考えられる.近似 微分器のカットオフ周波数を高くすると,ゲインをより高く設定できることを考慮すると, ゲインを大きく設定できない理由は,ゲインを大きくしたときに機械系の固有振動数が挿 入された近似微分器の折点よりも高周波側に移動し,速度信号の位相が遅れるためである と考えられる.ゲインを大きく設定できるようにカットオフ周波数を高く設定すると,速 度信号に現われる量子化誤差が十分に減衰できなくなることと,上述の結果を考慮すると, 速度信号を生成するために近似微分器を用いるよりも,後退差分を用いたほうが有利であ るといえる. [且已○雲岩d 0.0 2.0 4.O Tlme[sec] (a)Positiontr8jectoけ. 6.0 【00∽\且倉001むA 0.04 0.02 0.00 -0.02 -0.04 0.0 2.0 4.0 6.O Time[sec】 (b)VelocitytraJeCtOry.

Figure2・8:Experimentalresultwithapproximatedderivationofcut-0fffreq.at50[Hz].

(37)

【己】旨≡岩丸

12・㌔

0 2.0 4.O T血e[sec] (a)Positiontr如ectory. 6.0 【UUの\百]倉U〇一U> 0.04 0.02 0.00 -0.02 -0.04 0.0 2.0 4.0 (5.O Time【sec】 (b)Velocitytrq)eCtOry.

Figure2・9=Experimentalresultwithapproximatedderivationofcut-0fffreq・atlOO[Hzユ,

【且】○ヒリ告三SOd 5.0 0.0 -5.0 -10.0

-15・%

0 2.0 4.0 6.O Time[sec] (a)Cuト0ぼ丘equency50[Hz]. [且hOヒリ口○州)叫岩d 5.0 0.0 -5.0 -10.0

-15・%

x10 0 2.0 4.0 6.O Time[sec] (b)Cut-Off丘equencylOO[Hz].

Figure2・10=Experimentalresultwithapproximatedderivation(positionerror),

2.7

まとめ

本章では剛体球磁気浮上系に対して,受動性にもとづくコントローラの導出を行った. 本章では磁気浮上系の支配方程式を一般化座標ベクトルと慣性行列,粘性行列を用いて表 し,慣性行列が正定対称性とカー2Cのひずみ対称性が剛体球磁気浮上系でも成り立つこ とを示した.さらに剛体球磁気浮上系が電磁石の印加電圧を入力とし,電磁石を流れる電 流を出力とする受動系であることを示した.これらの結果をもとに閉ループ系が受動系に なるようなコントローラを設計した.コントローラ設計では追従制御を考え,閉ループ系 のストレージ関数を構築するためにポテンシャルエネルギの整形とダンピングの挿入,お

(38)

33 2・7・まとめ よび運動エネルギの整形を行った.得られたコントローラはプラントダイナミクスにもと づくフィードフォワード部分と剛体球の位置,速度および電流のフィードバック部分から 構成される.また,得られたコントローラが与えられた目標軌道に漸近追従することを示 した.さらに,数値シミュレーションと実験を行った結果,非常に良い追従特性を得るこ とができ,その有効性を確認した.

(39)

剛体球磁気浮上系に対する電気系と機械系

を分離した制御

3.1

はじめに

第2章では系の全エネルギを整形して,閉ループ系が劣駆動系とならないようなコント ローラを設計した・一方,電磁石を流れる電流が目標電流に収束すると,剛体球の位置軌 道も目標軌道に収束するようなコントローラを設計するという考え方もある.これは,電 磁石を独立したアクチュエータと見なし,このアクチュエータに対して剛体球に目標とな る運動を行わせるための力を発生させることで剛体球の運動を制御しようとする立場であ る・この場合,電磁石と剛体球に対してそれぞれ独立に安定なコントローラを設計するこ とで系全体を安定化できると期待できる.ただし,このようなコントローラを設計するた めには電磁石と剛体球のダイナミクスが独立した系でなければならない. このような考えをもとに,本章では剛体球磁気浮上系を電気系サブシステムと機械系サ ブシステムに分割し,それぞれのサブシステムに対して独立にコントローラを設計する.こ のために,まず剛体球磁気浮上系の支配方程式を磁束を用いて記述し,電気系サブシステ ムと機械系サブシステムのそれぞれについて受動性を解析し,それぞれのサブシステムに 対して独立にコントローラ設計ができることを示す.得られた結果をもとに,それぞれの サブシステムに対して安定化を実現するコントローラを設計する.本章で得られるコント ローラは電気系サブシステムに対しては何らフィードバックを必要とせず,機械系サブシス テムに対しては剛体球の位置と速度のフィードバックからなるコントローラとなる.また, 数値シミュレーションと実験を行い,本章で得られたコントローラの有効性を検証する. 34

(40)

35 3.2.支配方程式の書き換えとサブシステムヘの分割

3.2

支配方程式の書き換えとサブシステムヘの分割

2.2節で得られた支配方程式(2.9),(2.10)を磁束¢を用いて書き換え,電気系と機械系

を分離することを考える.磁束¢は電磁石の漏れインダクタンスを無視すると次式で定義

¢=拍0)¢e=訂㌔qe

磁束¢を用いて磁気浮上系の支配方程式(2.9),(2・10)を書き換えると次式を得る・

β: ¢

一芸(c2-yO)¢…

んag=去¢2

m弘 = ム。ag-mタ このとき,電気系の回路方程式と機械系の運動方程式は静的な関係

んag=去¢2

(3.1)

(3.2)

(3.3)

によって結合されており,磁気浮上系を電気系と機械系の2つのサブシステムに分離でき る.そこで,電気系サブシステムをβ1,機械系サブシステムを量とすると,2つのサブシ ステムβ1,β2に対して以下の命題が成立する. 命題3.1電気系サブシステムβ1:祝}¢は出力強受動系である. 証明3.1電気系サブシステムβ1のストレージ関数を

穐=去¢2

(3・4)

とする.これを電気系サブシステムの支配方程式(3.2)第1式に沿って時間微分すれば,

毎=扁=一芸(c2-yO)が+如

を得る.ここで,α=月。/cl>0とおくと,yO<0よりc2-帥>0となるので,

月ふ

=

-α(c2-yO)¢2+如

-α¢2+如

(3.5)

(3.6)

(41)

を得る.上式の両辺を0からrまで時間積分すれば,

上r如=脚卜卿)

≦-α上r¢2dけ上丁如d壬

上r如虎≧α上r¢2糾脚)一柳)

となり,消散不等式

(3.7)

(3・8)

が成立する・(3・8)式は電気系サブシステムgl:祝→¢がストレージ関数を(3.4)式,エネ

ルギ供給率をぴ(¢,祝)=画一α¢2とする出力強受動系であることを示している.q

命題3・2

機械系サブシステム量:(んag-mタ)}由は受動系である.

証明3・2機械系サブシステムβ2のストレージ関数を機械系の運動エネルギ(2.3)とする.

これを機械系サブシステムの支配方程式(3.2)第3式に沿って時間微分すれば,

二㌦=m由弘=由(んag-mタ)

を得る.上式の両辺を0からrまで時間積分すれば,

上r加=㍍(rト瑚)

上r蝿ag-mタ)df

(3.9)

(3・10)

が成立する・上式は機械系サブシステム銭‥(んag-mタ)→如がストレージ関数を機械系

サブシステムの運動エネルギ(2・3),エネルギ供給率をぴ(如,んag-mタ)=匁。(んag-mタ)

とする受動系であることを示している.q これらの命題より電気系サブシステムについては,電磁石への入力電圧祝を用いて磁 束¢を制御することは容易であるといえる.同様に機械系サブシステムについては,剛体 球に作用する力んagを用いて剛体球の速度如を制御するのは容易であるといえる.また,

電磁力んagと磁束¢の間には静的な関係式として(3.2)第2式が成り立っ.これらより,

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