複断面開水路における大規模水平渦が流れの抵抗に及ぼす影響 Effects of the Large Scale-Horizontal Vortices in Compound Open Channels on
Resistance to Flow
土木工学専攻
25号 銭 潮潮
Chaochao Qian1.はじめに
日本の河川の中・下流部の多くは低水路と高水敷か らなる複断面形状をなしている
1).大規模洪水が発生 した際,流れが高水敷に乗り上げ,複断面流れとなる.
低水路・高水敷間の流速差により,低水路・高水敷境 界部近傍における大規模水平渦が発生する.これによ り,低水路・高水敷間の物質輸送や運動量交換が活発 化し,高水敷の土砂堆積や流れの抵抗として働くこと を引き起こす.大規模水平渦をはじめ,洪水流とその 乱れは河川計画,河道設計における外力評価の面にお いて非常に重要であり,また,自然現象としても極め て興味深いものである.
Sellin2)
は複断面水路流れにおいてアルミ粉末を用い
た水面流況の移動撮影を行い,水平渦の存在を初めて 示して以来,複断面開水路における大規模水平渦に関 する多くの研究がなされてきた.大規模水平渦発生の 理論的研究として,木村・細田・友近
3)はせん断不安定 解析による渦の再現が可能であることを確認している.
池田ら
4), 5)は線形解析や実験を用いて水平渦の安定性
及び低水路・高水敷境界における運動量輸送について 解明している.福岡・藤田
6)は,境界混合係数を用いる ことで,横断方向の運動量交換を定量的に表現できる ことを示している.数値計算を用いて水平渦の構造を 解明する研究としては,佐藤ら
7),木村ら
8)による
LESモデルを用いた研究などがある.
本研究では,武内・本永ら
9)の解析手法を継承し,
高水敷・低水路間のせん断厚さ,撹乱波数が水平渦の 波 長 に 及 ぼ す 影 響 を 解 析 的 に 示 す と 共 に ,
Smagorinsky
モデル
10)を用いて
2次元数値シミュレーションによる水平渦を再現し,水平渦の挙動及び水平 渦が流れに及ぼす抵抗特性を示した.
2.線形安定性解析
2-1.水平渦の波長とせん断厚さ,水路幅の関係 本節では,自由表面を考慮せず
Rayleigh方程式を用 いて高水敷幅,低水路幅を考慮した二次元せん断流れ
に対して線形安定解析を行ない,せん断厚さ,河川幅 が水平渦の発生波長に及ぼす影響を検討した.
(1), (2)式に示すように微小撹乱に微小振幅の波が生
じると考える.
(3)式の
Rayleigh方程式が得られる.
)]
( exp[
) ˆ( ) , , ,
(x y z t wz i x y t
w
(1) )]
( exp[
) ˆ( ) , , ,
(x y z t p z i x y t
p (2)
( ) ˆ( ) 0) ˆ( )
( 2
2 2
2
2
w z
dz z U z d w dz k
c d z
U
(3)
) ( ˆ ), ( ˆ z p z w
ここに : 無次元撹乱の振幅,c:位相速 度,k:無次元波数(k222)である.水路幅を考慮 した二次元せん断流れの概要を図1に示す.式(4)~式
(6)は各領域における無次元主流速分布である.
1 1
, 1 )
(z z b
U
(領域Ⅰ) (4)
11 , )
(z z z
U
(領域Ⅱ) (5) 1
, 1 )
(z b2 z
U
(領域Ⅲ) (6) 図中領域Ⅰ・Ⅱ,領域Ⅱ・Ⅲの境界でそれぞれ無次元 圧力と無次元
z方向流速が連続し,壁面(河岸)にお いて無次元
z方向流速が
0となる境界条件(図1に示 す)のもとに(3)式を区分的に解けば定数を決定するた めの行列が得られる.定数が解を有するためには,定 数の係数行列[H]において
det|H|=0を解き,角振動数
ωについて表せば良い.角振動数の解析解を複素速度
cを用いて(7)式で表す,その虚数部は撹乱の増幅率を表 図1 線形解析に適用した 2 次元せん断流概要
x z
hs(=1) b1
b2
U(z) 領域Ⅰ
領域Ⅱ
領域Ⅲ hs (=1)
1
1
z b wˆ10 at 1
p p w w
ˆ ˆ
ˆ ˆ
2 1
2 1
hs
z at
hs
z p at p
w w
ˆ ˆ
ˆ ˆ
3 2
3 2
z b wˆ30 at 2
す.
波数
kと,増幅率を表す角振動数の虚部
ωiの関係を 解析的に求め図2 に示す.
ωiが正となる波数
kの範囲 で不安定となり,撹乱が発達し最大増幅率
ωimaxを与え る波数
kで水平渦が発生する.水路幅
bが狭いほど最 大増幅率を与える波数
kが小さくなり,幅
bが広くな れば水平渦が発生するときの波数
kが
0.4に近づく.
次に水路幅と水平渦の発生波長の関係を図3に示す.
図中縦軸は水平渦発生波長とせん断厚さ
2hsの比を表 している.これより,水路幅が狭いほど水平渦の発生 波長が増大し,水路幅が十分に広くなる極限では,水 平渦発生波長はせん断厚さ
2hsの約
7.85倍となる 片側複断面開水路,両側複断面開水路のいずれにおい ても,低水路・高水敷流速差が増大するに伴い発生す る水平渦の波長は概ね増大する傾向がある.ただし,
両側複断面開水路において高水敷幅が狭い場合には水 平渦波長の増大が明確でない場合もある.
2-2.最大増幅率のみが波長に影響を与える理由 本節は,上節で波数
kを決める最大増幅率のみ最終 的に水平渦の波長に作用する理由を解析的に説明する.
i kx i kx i
kx
i r
e
r ie
re
ie
( )
( ( ) )
( )ωi
は増幅率,τ は時 間である.最大増幅率を与える波数を
k0とすると,
2
0
2
ko
k i
k
のもとに
0
k
iを満たす
k0 (10)角振動数
(k)を
k0
のまわりで展開すし, ( k
0) =
0とおく.
一般に2次元波形伝播を書くと:
i kx dk
k
I
∞( , ) exp ( )
0
0増幅率最大点 鞍部点
k k
k
k
s共 に 近 い , 鞍 部 点 :
) 0
(
dk kx
d
となる.
(13)鞍部点において,長時間近似すると,
''0 2 ' 0 0
0
) (
2 ) 1
(
x
x k k x
k
s s(5)式に関する鞍部点法の積分を実行し,(14)式を代入
して整理すると,以下の
(15)式が得られる.
) 7 (
k
ic i
ic
r ir
図2 波数
kと角振動数の虚数部
ωiの関係
図3 水路幅
bと水平渦発生波長
λの関係
2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
b / h
λ/ 2h
λ:Wave Length b1=b2=b
b/hs λ/2hs
i i
d da a
d e e da
a
i i
1 ,
(8)
(9)
(11) (12)
(14)
)
) 4 ( sgn (
exp ) , ( ) (
) 1 (
1
I 2 ''
2 '' 0
' 0 '' ' 0 '' 0
s s
s s
s ikx k
x k
τ
が十分に大きいとき,
i x
i rs
s, )exp ( )exp exp
2 (
I '' 0 0
0
となる.ここで
'' 0
' 2 0 ''
0 '' 0
' 2 0 ''
0
Im 2 ) 1 , (
Re 2 ) 1 , (
x x r
x x
(16)式右辺最初の因子は,
'' 0
' 2 0 '' 0 ''
0 ''
0
Im 2 exp 1 ) 2
, (
2 exp x
x
r
は ,
Im[ω0’’]<0
より以下の形をしている.
よって,撹乱の振幅は空間的に
x0'を中心とし
て両側に向かって減少し,減少率
'' 0
''
Im 0
2
1
も時間
の増加とともに減少することが分かった.非同期撹 乱は, が十分大きくなると,漸近波形は振幅変化の 小さく,ほとんど正弦波と変わらない単色波になる.
3.水平渦の抵抗特性
水平渦が発生することによって,低水路・高水敷境 界部付近の運動量交換が活発し,流れの抵抗となり,
河道の流下能力を低下させる.水平渦の効果を考慮す る 2 次元不定流計算と断面分割法から算出する流量関 係を 図4 に示す.図4 から,横断方向流速を考慮する 場合はそれを考慮しない場合より
5~40%程度少ないことが分かった.
3-1.水平渦の波長と水平渦による抵抗特性の関係 線形解析により,水平渦の波長はせん断厚さと川幅 によって決まることが分かった.本節で,水平渦の波 長とレイノルズ応力
u'v'(運動量交換による抵抗)
の関係について検証する.図5,図6は両側・片側複
(15)(23)
(24) (16)
(17)
図5 波長と境界部レイノルズ応力の関係(両側高水敷)
レイノルズ応力[Kgf/m2]
100 200 300 400
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
波長 [m/s]
見かけのせん断応力[kgf/m2 ]
B45 Bm 15 Bf15 B60 Bm 30 Bf15 B90 Bm 30 Bf30 B90 Bm 60 Bf15 B120 Bm 90 Bf15 B150 Bm 120 Bf15 B180 Bm 90 Bf45 B200 Bm 150 Bf25 B250 Bm 150 Bf50 B350 Bm 210 Bf70 B370 Bm 150 Bf110 B500 Bm 300 Bf100
:周期的
:非周期的
波長[m]
図6 波長と境界部レイノルズ応力の関係(片側高水敷)
100 200 300 400 500
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
波長[m]
見かけのせん断応力[kgf/m2 ]
B=100m, Nmc=0.020 B=100m, Nmc=0.025 B=200m, Nmc=0.020 B=200m, Nmc=0.025
:周期的
:非周期的
レイノルズ応力[Kgf/m2]
図4 断面分割法と 2 次元不定流計算による流量関係
0 2000 4000 6000
0 2000 4000
6000 :2次元不定流計算 断面分割法(井田法)(v≠0) ⇔
:2次元不定流計算(v=0) ⇔ 断面分割法(井田法)
断面分割法による流量[m3/s]
2次元不定流計算による流量[m3 /s]
断面開水路の場合における水平渦の波長とレイノルズ 応力の関係を示した図である.これらは両側複断面開 水路の数値計算結果について,同一水路幅,同一高水 敷幅の組み合わせのケース同士をまとめている.
図5より,両側複断面開水路については発生する大 規模水平渦の波長が発達するに伴い,レイノルズ応力 も増大する傾向にあることが分かる.これは,波長が 増大することは, せん断厚さが大きいことを意味する.
せん断厚さが大きいため,運動量の範囲が広く,レイ ノルズ応力は増大する.しかし,図6 より,同一水路 幅,同一低水路粗度係数の片側複断面開水路において は,高水敷粗度係数を変化させることで低水路・高水 敷流速差を変化させることで発生する水平渦の波長及 び挙動が変化しても,それによってレイノルズ応力に 明確な違いは生じていないことがわかる.
3-2.水平渦の挙動と水平渦による抵抗特性の関係 水平渦には周期的なものとカオス的なものがあるこ とは武内・本永ら
9)によって確認されている.本節で は,水平渦の挙動が水平渦による抵抗特性との関係を 検証する.図5より,同一の断面形状において挙動が 周期的な場合とカオス的な場合の水平渦が発生するケ ースについて数値計算結果を見ると,水平渦の挙動が 周期的な場合の方がカオス的な場合よりもレイノルズ 応力が大きい.しかし,片側複断面水路の数値計算結 果から,このような結果が見られなかった.
このように,水平渦の波長及び挙動とレイノルズ応 力の関係が,片側複断面開水路の場合と両側複断面開 水路の場合で異なることが判明した.一般的な河道に おいては両側複断面形状を有するものと思われる.こ のことからも,今後複断面開水路流れにおいて発生す る大規模水平渦の挙動や断面形状が流れに働く抵抗の 違いについてより詳細に調べることが重要である.
4.まとめ
本研究で用いた線形安定解析や微小振幅波理論(線 形理論)により,以下の
1),2),3)の知見がいられた得られた知見を以下に示す.
1).
初期乱れの波数
kが
0<k<0.64[m-1]である場合,撹乱が増幅され,流れが不安定になる.
2).
水路幅が広いほど大規模水平渦の発生波長が増大 し,水路幅が十分広い場合は,大規模水平渦の発 生波長はせん断厚さ
2hsの
7.8倍となる.
3).
十分長い時間が経つと,撹乱の増幅率が最大とな る波長以外の撹乱はすべて消失し,発生した水平 渦の縦断波形は振幅変化の小さい単一波になる.
4).
本研究で明らかになった単色波の発生原理は線形 理論であり,流れの非線形性がほとんど表れない 段階でのみ適用が可能である.
5).
単断面開水路の場合,大規模水平渦に伴う低水 路・高水敷間の運動量輸送に起因して発生する低 水路・高水敷境界部近傍のレイノルズ応力は,同 一断面形状,同一低水路粗度係数のケースにおい て,水平渦の波長及び挙動の違いによる明確な違 いが見られなかった.
6).
両側複断面開水路の場合,大規模水平渦に伴う低 水路・高水敷間の運動量輸送に起因して発生する 低水路・高水敷境界部近傍のレイノルズ応力は,
同一断面形状のケースにおいて,水平渦の波長が 増大するに伴って増大する傾向が見られた.また,
水平渦の挙動が周期的な場合の方がカオス的な 場合よりも低水路・高水敷境界部近傍のレイノル ズ応力が大きい傾向が見られる.
参考文献
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,No. 509/Ⅱ
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池田駿介,村山宣義,空閑健:複断面水路水平渦の 安定性とその
3次元構造
,土木学会論文集,
No. 509/Ⅱ
-30, pp. 131-142, 19955)
池田駿介,空閑健:直線複断面開水路流れに発生す る大規模水平渦列の安定性と運動量輸送に関する実 験的研究,土木学会論文集,
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福岡捷二,藤田光一:複断面河道の抵抗予測と河道 計画への応用,土木学会論文集,
No. 411/Ⅱ
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7)
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LESによる複断面直線開水路 乱流の解析,応用力学論文集
, Vol.1, pp.673-682, 1998 8)木村一郎,細田尚,村本嘉雄,安永良:平面二層モ
デルによる複断面開水路流れの水平渦運動解析,水 工学論文集,第
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19969)