バインダ性状の違いがアスファルト混合物の疲労挙動に及ぼす影響 Influence on difference of binder properties exerts on fatigue behavior of asphalt mixtures
土木工学専攻 40 号 和地 敬 Takashi Wachi
1. 背景
道路舗装においてアスファルト混合物は表層・基層 に広く使用されており,舗装を安全かつ効率的に維持 管理することが重要である.しかしアスファルト混合 物は粘弾性特性などの複雑な性状を持ちわせているた め,アスファルト混合物の疲労メカニズムに関して未 解明な部分が多い.また供用中の舗装は太陽からの紫 外線や舗装の温度上昇にともなう熱などによる外部環 境の影響を受けるためアスファルト混合物の疲労性状 を把握することが難しいとされている.既往の研究で は向後ら
1)が新規のストレートアスファルトバインダ を使用した混合物に対する疲労性状の検討をおこない 混合物の疲労限界等の見解を示したが混合物のバイン ダ種やバインダ性状を変化させた検討はおこなってい ない.またアスファルト混合物の疲労ダメージを評価 する指標の一つである,スティフネスの変化に着目し た検討はおこなっていない.
2. 目的
本研究では push-pull 一軸疲労試験装置を使用した室 内試験の実施し,スティフネスに着目したストレート アスファルト混合物,(以下 StAs 混合物),重交通路線 に使用される改質Ⅱ型アスファルト混合物(以下改質
Ⅱ型混合物),熱劣化を伴ったストレートアスファルト 混合物(以下熱劣化 StAs 混合物)の疲労性状の把握をお こなうことを目的とする.
3. 試験概要
3.1. push-pull 一軸疲労試験
本研究で使用した pull-push 一軸疲労試験装置の試験 状況を写真-1 に示す.供試体に生じるひずみは,供試 体の円周上に 120°間隔で設置した 3 基の作動トランス から平均ひずみとして得られる.
3.2. 供試体
push-pull 一軸疲労試験の供試体は,混合物を所定の
密度となるよう 300×300×100mm に成形し,その中央 部分を円筒形(直径 75mm×高さ 120mm×3 本)に切断
した後,研磨装置を用いて上下面が平行となるよう研 磨したものを用いた.熱劣化混合物はストレートアス ファルトと骨材の練り混ぜ後にバットに敷きならした
後 120℃の恒温槽に 24 時間, 48 時間養生したものを未
劣化のものと同様の作製手法で作製したものである.
3.3. 試験条件
push-pull 一軸疲労試験の試験条件を表-2 に示す.制
御モードはひずみ制御である.試験条件は既往の研究 において実施例の多い 10℃とした.
3.4. スティフネスの変化例
室内でのアスファルト混合物に対するひずみ制御に よる一軸疲労試験において,アスファルト混合物のス ティフネスの変化は 3 つの段階(phaseⅠ〜phaseⅢ)に変 化をするとされている
1).本研究で実施した疲労試験の 一例を図-1 に示す.本研究においても StAs 混合物,改 質Ⅱ型混合物,熱劣化 StAs 混合物の試験結果において も同様の傾向が確認できた.
4. バインダ種が異なる混合物の試験結果 4.1.破壊に到る載荷回数の検討
StAs 混合物,改質Ⅱ型混合物に対するひずみ振幅を 変化させた場合の破壊到達載荷回数の検討を行った.
混合物の破壊は試験時にスティフネスが応力の安定す る初期スティフネス(載荷 500 回)の 50%低下した時を 破壊到達載荷回数とした.また所定載荷回数内で試験
図-1 スティフネスの変化例
供試体寸法 円筒形
直径75mm、高 さ120mm バインダ種 StAs,改質Ⅱ型 制御モード ひずみ制御
載荷波形 正弦波,5Hz ひずみ振幅 2 0μ〜260μ
試験温度 10℃
表-1試験条件
写真-1 pull-push一軸疲労試験
0 200,000 400,000 600,000 800,000 0
2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000
Phase Ⅲ Phase Ⅱ
Phase Ⅰ
スティフネス (MPa)
載荷回数 (回)
改質Ⅱ型 170μ 0 20,000 40,000 60,000 80,000
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000
Phase Ⅲ Phase Ⅱ
Phase Ⅰ
スティフネス (MPa)
載荷回数 (回)
ストアス 170μ
が終了しない混合物に関しては既往の研究
1)で明らか になっている,破壊到達載荷回数の推定値を使用した.
実験結果を図-2 に示す.
図-2 破壊到達載荷回数
図-2 よりバインダ種の違いにより破壊到達載荷回数 に差が見られる.同ひずみ振幅で比較すると改質Ⅱ混 合物は,StAs 混合物と比べて概ねひずみ振幅 100μ 以 上では破壊到達載荷回数が大きく,疲労寿命が長いこ とが確認される.しかしひずみ振幅 100μ 以下では両混 合物ともにほぼ同等の疲労抵抗性を示す.このことか ら概ねひずみ振幅 100μにおいて疲労性状が変化する 可能性があると考え以降の諸検討をおこなう.
4.2.スティフネス変化の検討
アスファルト混合物の疲労特性の把握をスティフ ネス変化の観点から検討をおこなう.図-3 に StAs 混合 物,改質Ⅱ型混合物のスティフネスの変化例を示す.
図-3 より StAs 混合物,改質Ⅱ型混合物で同ひずみ振幅
図-3 スティフネスの変化例
で比較をおこなうと初期のスティフネスに大きな差は 見受けられないが PhaseⅠにおいてスティフネスの減 少に差が確認される.このことから PhaseⅠの特定をお こないスティフネスの変化に着目し検討をする.
4.2.1.PhaseⅠの特定
スティフネスの変化は図-1 にみられるように 3 段階 (PhaseⅠ〜Ⅲ)を得ることが明らかになっているが既往 の研究では PhaseⅠを明確に特定する定義はない.そこ
で, PhaseⅡの変化率が直線的にほぼ一定であることを
考慮してスティフネスの変化率から PhaseⅠの特定を 行った.図-4 は PhaseⅠにスティフネスの変化率 ( d
2S / dN
2) の算出結果の一例であり,式 (1) は Phase Ⅰ の終了を定義するものである.図-4 の例では PhaseⅠ の終了載荷回数を 1000 回とした.その他の混合物の試 験に対しても同様の手法を用いて PhaseⅠの終了載荷 回数を特定した.
図-4
d
2S / dN
2と載荷回数の関係例0001 .
2 0
2
dN S
d
S:
スティフネス N:載荷回数式(1)
4.2.2. PhaseⅠスティフネス比
式(1)の手法で PhaseⅠの終了載荷回数を算出した結 果を踏まえて PhaseⅠ終了載荷回時スティフネスと
PhaseⅠ開始時スティフネス(載荷 500 回)の比を Phase
Ⅰスティフネス比と定義し検討をおこなった.検討結 果を図-5 に示す.
図-5 PhaseⅠスティフネス比
図-5 より StAs 混合物,改質Ⅱ型混合物で比較を行う と,概ねひずみ振幅 100μ まで同等なスティフネス比を 示すがそれ以降は改質Ⅱ型混合物より StAs 混合物の 変化率が大きくなる傾向がある.またひずみ振幅 100μ 以下においてはスティフネスがほぼ減少していないこ とが確認できる.この検討の結果よりひずみ振幅 100μ 以降の試験において PhaseⅠスティフネス比から破壊 到達載回数の特定ができる可能性があること考え,
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000 0.0000
0.0001 0.0002 0.0003 0.0004 0.0005
スティフネス変化率
載荷回数 (回)
StAs 100μ
0 50000 100000150000200000250000300000350000400000 0.0000
0.0001 0.0002 0.0003 0.0004 0.0005
スティフネス変化率
載荷回数 (回)
StAs 100μ
0 50 100 150 200 250 300
0.7 0.8 0.9 1.0
PhaseⅠスティフネス比
ひずみ振幅 (μ)
StAs 改質Ⅱ型
104 105 106 107 108
10 100 1000
ひずみ振幅 (μ)
載荷到達載荷回数 (回) StAS StAs推定値 改質Ⅱ型 改質Ⅱ型推定値
10000 20000 30000 40000 50000 0
2000 4000 6000 8000 10000 12000
PhaseⅠ
PhaseⅡ 170μ
スティフネス (MPa)
載荷回数 (回)
StAs
10000 20000 30000 40000 50000 0
2000 4000 6000 8000 10000 12000
PhaseⅠ
PhaseⅡ
170μ
スティフネス (MPa)
載荷回数 (回)
改質Ⅱ型
0 50 100 150 200 250 300 0
1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000
載荷回数 (回)
ひずみ振幅 (μ)
StAs 改質Ⅱ型
PhaseⅠと破壊到達載荷回数の関係を検討した.
4.2.3 .PhaseⅠスティフネス比と破壊到達載荷回数
PhaseⅠのスティフネス比と破壊到達載荷回数の関
係を図-6 に示す.図-6 より両混合物を比較すると破壊 到達載荷回数 1.0×10
6回以上では同様の傾向を示すが,
StAs 混合物では概ね破壊到達載荷回数 1.0×10
5回以下 となると一定の傾向が確認される.同様に改質Ⅱ型混 合物に関しては 1.0×10
6回以下では一定の傾向が確認 される.このことから,PhaseⅠスティフネス比から StAs 混合物では 1.0×10
5回以下において,改質Ⅱ型で
は 1.0×10
6回以下において PhaseⅠスティフネス比を使
用して破壊到達載荷回数の予測ができる可能性がある.
図-6 PhaseⅠスティフネス比と破壊到達載荷回数の関係
4.2.4.PhaseⅠ載荷回数
次に示す図-7は StAs 混合物, 改質Ⅱ型混合物の Phase
Ⅰ載荷回数の検討結果である.
図- 7 PhaseⅠ載荷回数
図-7 より StAs 混合物,改質Ⅱ型混合物ではひずみ
振幅 30μ〜250μ において概ね PhaseⅠは載荷回数 3000
回以下で PhaseⅠが終了していることが確認できる.
ひずみ振幅 20μ に関しては試行によりばらつきが生じ たため更なる検討が必要である
4.2.4.PhaseⅠ1 回載荷あたりのスティフネスの変化
PhaseⅠにおいてひずみ振幅ごとの 1回載荷あたりの
スティフネスの変化を図-8 に示す.図-8 より, StAs,
改質Ⅱ型ともに概ね 100μ までほぼ同等の変化を示す が,100μ 以降は StAs 混合物,改質Ⅱ型混合物の 1 回 載荷あたりの変化に差異が生ずる. PhaseⅠの載荷回数 が概ね 3000 回以下で終了し,バインダごとに差異がな いことを考慮すると当然ではあるが図-5 の傾向と同様 の傾向を示す.
図-8 PhaseⅠ 1回載荷あたりのスティフネスの変化
4.3.1. PhaseⅡスティフネス比
次に PhaseⅡスティフネス比に関して破壊に至った
混合物に対して検討を行った. PhaseⅡ開始載荷回時の スティフネスと PhaseⅡ終了時(破壊時)の比を PhaseⅡ のスティフネス比と定義し検討をおこなった.検討結 果を図-9 に示す.
図-9 PhaseⅡスティフネス比
図-9 より両バインダ種においてひずみ振幅が大きく なるに従い,本検討で破壊と定義している 0.5 より大 きくなる傾向がある.これは,ひずみ振幅が増大する
と PhaseⅠでのスティフネスの変化が増大することを
意味し図-5 の結果と一致する.また PhaseⅡスティフ ネス比においても,概ねひずみ振幅 100μ近傍で両混 合物のスティフネス比に差が生ずる.
103 104 105 106 107
0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
PhaseⅠスティフネス比
破壊到達載荷回数 (回)
StAs 改質Ⅱ型
50 100 150 200 250
0.5 0.6 0.7 0.8
PhaseⅡスティフネス比
ひずみ振幅(μ)
StAs 改質Ⅱ型
0 50 100 150 200 250 300
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
1回載荷あたりスティフネス変化 (MPa/回)
ひずみ振幅 (μ) StAs
改質Ⅱ型
4.3.2.PhaseⅡ1 回載荷あたりのスティフネスの変化
PhaseⅠ同様に PhaseⅡにおける 1 回載荷あたりのス
ティフネスの変化を図-10 に示す.図-10 より PhaseⅡ において概ね 100μ 付近から 1 回載荷あたりの変化に StAs 混合物と改質Ⅱ型混合物に差が生ずる.これは図 -2 で示したとおり概ね 100μ を境界に StAs 混合物と改 質Ⅱ型混合物の疲労性状に差異が生じ破壊到達載荷回 数に大きな差が生ずることを裏付けるものである.
図-10 PhaseⅡ1回載荷あたりのスティフネス変化
5. バインダ性状の異なる混合物の試験結果 未劣化混合物,熱劣化混合物に対してひずみ振幅 120μ において試験をおこない検討をおこなった.なお,
熱劣化混合物の試験中の急な破断により混合物が破壊 する現象が散見された.このため PhaseⅡ終了回の定義 ができないため,PhaseⅠのスティフネス比, PhaseⅠ の載荷回数のみの検討をおこなった.
5.1. PhaseⅠスティフネス比
4 章と同様に PhaseⅠ載荷期間を特定し,PhaseⅠの スティフネス比の検討を StAs 混合物,熱劣化 StAs 混 合物に対しておこなった.検討結果を図-11 に示す.図 -11 にみられるように,StAs 混合物は未劣化 StAs 混合 物と比較して PhaseⅠスティフネス比が小さい.また,
熱 StAs 劣化混合物では劣化時間による影響はない.熱 劣化混合物の PhaseⅠスティフネス比が大きくなる傾 向は既往の研究で示されている,アスファルトバイン ダの硬化による影響である可能性がある.
5.2.PhaseⅠ載荷回数
StAs 混合物,熱劣化 StAs 混合物の PhaseⅠ載荷回数 の検討をおこなった.検討結果を図-12 に示す.図-12 にみられるように PhaseⅠの載荷回数は 2000 回以下で 終了しており,StAs 混合物,改質Ⅱ型混合物の Phase
Ⅰ載荷回数 3000 以下の結果と一致する.これは,本検 討に関してはバインダ種,バインダ性状によらず Phase
Ⅰの載荷回数が 3000 回以下で終了する可能性がある と言える.
図-11 PhaseⅠスティフネス比 図-12 PhaseⅠ載荷回数
6.まとめ
本検討で得られた知見を以下に示す.
StAs 混合物と改質Ⅱ型混合物の破壊到達載荷回数 は概ねひずみ振幅 100μ以上では改質Ⅱ型混合物 が StAs 混合物より疲労抵抗性に優れている.それ 以下ではほぼ同等である.
PhaseⅠスティフネス比と破壊到達載荷回数には StAs 混合物で概ね破壊到達載荷回数 1.0×10
5以下 で,改質Ⅱ型混合物では 1.0×10
6以下において一 定の関係が確認される.
StAs 混合物,改質Ⅱ型混合物の PhaseⅠ,Phase
Ⅱにおけるスティフネス変化は概ね 100μ近傍で 生ずる.
熱劣化によるアスファルト混合物への影響はひず み振幅 120μのみの検討であるが PhaseⅠスティ フネス比が減少する.
7.結論
本検討では StAs 混合物と改質Ⅱ型アスファルト混 合物の疲労試験の結果によりバインダ種が異なる場合 の疲労特性の違いが概ねひずみ振幅 100μで生ずるこ とを示すことができた.また,PhaseⅠスティフネス比 からある一定の破壊到達載荷回数以下においての混合 物の疲労寿命の予測ができる可能性があることを示す ことができた. StAs 混合物と熱劣化 StAs 混合物の比 較では,ひずみ振幅 120μ試験のみのため疲労特性に 関する知見を多く得ることができなかった.熱劣化 StAs 混合物のひずみ振幅を変化させた場合の疲労特性 に関する検討は今後の課題としたい.
[参考文献]
向後憲一:載荷条件の違いに着目したアスファルト混合物の疲労挙動に関する研究,中央大学博士論文,2009
0 50 100 150 200 250 300
0.00000 0.00002 0.00004 0.00006 0.00008 0.00010 0.00012 0.00014 0.00016 0.00018 0.00020 0.00022
1回載荷あたりスティフネス変化 (MPa/回)
ひずみ振幅 (μ)
StAs 改質Ⅱ型
未劣化 24時間劣化 48時間劣化
0 500 1000 1500 2000
ひずみ振幅 120μ
PhaseⅠ載荷回数 (回)
未劣化 24時間劣化 48時間劣化
0.6 0.7 0.8 0.9
1.0 ひずみ振幅:120μ
PhaseⅠスティフネス比