CHUO モデルの 改 良とそ れ を用い た 自動車 税制変更施 策の評 価 Evaluation of Vehicle Related Taxation Change Measure using CHUO Model
土木工学専攻
4号 石塚 晃輔
Kosuke Ishizuka1.はじめに
道路特定財源制度が廃止されて以降,わが国の自動車 関連税制のあり方をめぐって,取得・保有・使用の各段 階で複数の税が存在し,かつ暫定税率が課されているこ となどへの批判,ガソリンや軽油など燃料消費がない電 気自動車の登場,そして道路の維持管理,混雑,騒音,
大気汚染,気候変動問題への対応など活発な議論が行わ れている.
わが国の自動車関連税制が世帯や企業の自動車の保 有・使用行動の変化を通じて燃料消費量や
CO2排出量 などに及ぼす影響については,一般均衡フレームで分析 する国立環境研究所
AIMモデル
(2010)1)や自動車単体技 術向上に着目した
CEAMATモデル
(2009)2)など,これ まで多くの研究がなされてきた.しかしながら,車種・
車齢や地域別の道路整備水準による実走行燃費の違いな どが考慮されておらず,利害関係者である世帯,自動車 メーカーそして政府間で,必要かつ正確な情報が提供で きるモデルにはなっていない.
中大・計画系研究室では,複数の地域,車種車齢,道 路のサービス水準
(移動速度や実走行燃費)を考慮し,保有・走行・燃料消費率に与える影響を分析することが可 能な
CHUOモデルを開発してきた
(図1)3)4).しかし総 計では再現性が高いものの,乗用車の車種別車齢別保有 台数,車種別の走行距離,燃料消費量の再現性が低い,
走行距離税の分析ができないといった課題があった.
そこで本研究では,CHUO モデルのデータ更新およ び上記の課題解決を図り,改良されたモデルを用いて,
税収・CO2 排出量・等価変分(効用の変化分を貨幣換算 した値)という3つの評価指標により,自動車関連税制 の影響分析を行うことを目的とする.具体的には,
(1)自動車取得税と自動車重量税の廃止施策,
(2)2020年にお ける運輸部門
CO2排出量を
90年比で
22%削減(国全体での削減目標を
25パーセント削減とする場合の運輸部 門削減目標想定値
) 5)する施策について評価を行う.
2.モデルの改良 2.1 乗用車モデル (1) 分析単位
乗用車の車種別車齢別保有台数の推計精度向上を図る ため,分析単位および期間更新時の行動について次のよ うな改良を加える.
まず分析単位については世帯単位から個人単位(対 象:18 歳以上)へと変更する.これにより,これまでパ ラメータを追加するなどしても正確な推定を行うことが できなかった
2台保有世帯のモデル化を回避でき,より 尐ないパラメータで世帯の乗用車保有・使用行動を表現 することができるようになる.
次に,個人がとりうる期間更新時の乗用車保有行動に ついては以下のように定義した.
・
18歳以上人口の増減(外生変数)は
0台保有者数に 表 1 モデルの推計フレーム
首都圏(東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県)
中京圏(愛知県,三重県)
京阪神圏(京都府,大阪府,兵庫県)
地方部 上記以外の道県 1期1年 1985年-2010年
車種1 軽自動車 車種4 普通車 車種2 小型車 車種5 EV車 車種3 HV車
車種1 トレーラー 車種4 小型貨物車 車種2 大型貨物車 車種5 軽貨物車 車種3 普通貨物車
推計車種
乗用車
貨物車 対象地域 都市部
単位期間 モデル構築期間
図 1 CHUO モデルの構造
※外生的に決定
乗用車メーカー
・車種別販売価格
・車種別単体燃費
・自動車関連税制を設定
・税収使途を決定(道路建設や補助金)
乗用車モデル(都市・地方)
輸送業者
※外生的に決定
貨物車メーカー
鉄道輸送のサービス水準を決定
自動車交通市場
走行速度 都市
走行速度 地方
:主体
:均衡市場
海運 鉄道 トラック
輸送機関分担率 全輸送トンキロ
総走行 台キロ
一般化 価格 所得制約下で効用最大化
全輸送トンキロ:GDP等で決定 保有台数・走行台キロ: 費用最小化
政府 乗用車保有台数
鉄道 利用距離
乗用車 利用距離 合成財消費
総走行 台キロ
一般化 価格
保有台数
走行台キロ
保有台数
走行台キロ 営業用 自家用
鉄道事業者
:政府から他主体への作用
:上記以外の作用
・車種別販売価格
・走行燃費の改善率
組み込む.
・購入行動は
0台保有者のみが行いかつ新車購入のみと する.(買換えの場合でも一旦は
0台保有者となる.)
・車両について,これまで車齢は最大
12歳であり,
12歳を超えるとすべて廃車されると仮定していたが,そ れ以上の車齢においても廃車率を定義した(ただし,
保有台数については
12歳までしか統計にはないため,
12
歳以上は一律の廃車率としている).
(2) 保有・使用行動
個人による自動車保有行動と交通サービスへの支出は,
交通サービスの使用効用と自動車の保有効用の和により 決定されるものとする.このとき従来モデルでは車種に よらず単位走行距離あたりの効用は等しいと仮定してい たが,使用効用に
1式
5)6)を導入して車種別にパラメー タを設定し,車種によるその違いを表現する.
以下,車齢
i,車種j,保有形態k(1:購入時,2:保有継続時)の自動車を保有する場合の効用および交通サ ービスの消費量を示す.
j own ijk use
ijk V V
V , ,
) 1 ( )
1 exp(
) 1 (
1
, 1
, i i Tij ・・・
i ijk
i ijk
use FI C C
V i
) exp(
)
( ijk i i T,ij
ijk FI C C
X i Vijk
:間接効用,
ijk
Vuse,
:使用効用,
Vown,j:保有効用,
i i
i
, ,
:パラメータ,
FI:総所得,
Cijk
:取得・保有費用,
ij
CT,
:交通サービスの合成価格,
Xijk
:交通サービス消費量(走行距離)
交通サービス価格および各交通機関の利用距離は,
CES
型効用関数のパラメータを用いて以下のように表 わされる.
A A1 B B1 11
T C C
C
Xijk ACT CA
A
,
BXijkB CT CB B
A
, ,
:パラメータ,
CA:乗用車移動の一般化費用
CB:鉄道移動の一般化費用,
2.2 貨物車モデル
貨物車モデルでは燃料消費量の再現性向上のため,車 種別の使用燃料および走行燃費について検討を行った.
まず使用燃料については,小型貨物車は軽油のみとしてい たものを実情に合わせてガソリンの使用も考慮することとす る.また走行燃費については,従来モデルで軽貨物車の値 が過大推計であった問題を解決するために軽乗用車の値 を用いることに変更した.また
2015年の燃費基準を満た すように
2006年以降走行燃費が改善していくよう改良 を行った.
3.現況再現性
改良したモデルについて,1995 年を初期値として
2010年までの現況再現性の確認を行った.乗用車の車 種別保有台数については,台数の多い各車種の推計誤差
は
10%に収まり,HV・EV車についても増加傾向を表
現できるようになった.またさらに車齢別に分解した場 合については小型車の新車台数などについてはまだ誤差 がみられるが,従来モデルと比較すると大幅な改善がみ られる.燃料消費量についても,推計誤差はガソリン・
軽油ともに
6%以内となり,こちらも推計精度が向上したといえる.
4.BAUおよび感度分析 4.1 BAU
表
2の前提条件に基づき,2011 年から2020 年まで の自動車からの
CO2排出量を計算した.結果,90 年比
-8.4%と推計された.さらにGDP成長率(0~2%),燃料
個人
0台 鉄道利用距離
CES
LOGIT
1台 車齢1 軽自動車
小型車 HV車 普通車 EV車
(車種選択)
LOGIT ・・・
乗用車利用距離 鉄道利用距離
(交通機関選択)
(保有選択)
図 3 乗用車保有および交通機関選択行動(0 台保有)
0台保有
1台保有
0台保有
1台保有
人口増減 t 期
乗用車 購入判断
(新車のみ)
非購入 購入
継続保有 Or 中古車取引成立 故障
Or 新車の魅力UP
による廃車
t-1期
図 2 期間更新時の乗用車保有行動
価格変化率(-4~8%)の範囲において様々な組合せで同様 に推計を行ったところ,CO2 排出量は高位ケースで
90年比+3.1%,低位ケースで
90年比-18.2%と推計された.
4.2 感度分析
感度分析として,自動車税,取得税,重量税,燃料税,
燃料価格(ガソリン,軽油
),平均所得をそれぞれ 10%増加させたときの自動車保有台数,走行台キロ,燃料消費 率,燃料消費量の変化率を算出した.税項目の中では燃 料税の影響が大きい.燃料価格の項に着目すると,燃料 消費量は-2.04%であり,弾性値に換算すると-0.20 とな る.これは先行研究
7)8)で得られている-0.1~
-0.2に近い 値となっている.
次に現行の税項目や走行距離税を用いて
2020年の
CO2排出量を
BAU比
1%削減する際の増税額,税収増分,等価変分
(効用の変化分を貨幣換算した値)を表4に まとめた. 燃料税の増税が最も等価変分の減尐を抑制しつ つ
CO2排出量削減を達成可能な税項目であるといえる.ま た,同じ使用税である走行距離税は,燃料税のように低燃 費車への乗り換えによって課税額を軽減できないために走 行距離を減尐させる効果が大きいといえ,等価変分が重量 税と同水準の減尐となっている.
0 5,000,000 10,000,000 15,000,000 20,000,000 25,000,000 30,000,000 35,000,000
1996 2000 2005 2010
(台)
実測-小型車 実測-普通車 推計(旧)-小型車 推計(旧)-普通車 推計(現)-小型車 推計(現)-普通車
0 1,000,000 2,000,000 3,000,000 4,000,000 5,000,000 6,000,000
1996 2000 2005 2010
(台)
実測-軽自動車 推計(旧)-軽自動車 推計(新)-軽自動車
0 1E+10 2E+10 3E+10 4E+10 5E+10 6E+10 7E+10
1996 2000 2005 2010
(L)
実測-ガソリン消費量 実測-軽油消費量 推計(旧)-ガソリン消費量 推計(旧)-軽油消費量 推計(新)-ガソリン消費量 推計(新)-軽油消費量
外生変数 将来予測
2011年以降,都市部で上昇 地方部で2008年をピークに減少 平均所得 年率1%ずつ上昇
労働時間 2010年と同水準
時間価値 平均所得と同水準で上昇
道路面積 2009年度より旧道路特定財源の半額を投資 ガソリン価格 EIA(OUTLOOK2011)の原油価格と 軽油価格 連動して上昇(年率3%)
自動車単体燃費 2020年燃費基準を満たすよう上昇 対象人口
変化率(%) 燃料消費量 保有台数 走行台キロ 税収
①自動車税
(0.66) (0.16) (0.43)2.54
②自動車取得税
(0.47) (0.15) (0.28)0.44
③自動車重量税
(0.49) (0.14) (0.29)1.19
④燃料税
(0.90)0.00
(0.67)4.55
⑤燃料価格
(2.04)0.04
(1.55) (1.58)⑥平均所得 2.28 0.18 2.10 2.50
自動車税 取得税 重量税 燃料税 走行距離税 増税内容(BAU比) 35.4% 98.6% 88.1% 12.3% 0.91円/km 税収増加額(億円) 4587 1341 5065 3143 4044 等価変分(億円)
(585) (259) (514) (193) (518)表 4 各税で CO2 を 1%削減する場合(2020 年 BAU 比) 表 3 感度分析の結果(2020 年 BAU 比)
表 2 BAU の仮定
図 7 2010 年以降の CO2 排出量(BAU) 図 6 現況再現性-車種別年間平均走行距離
図 5 現況再現性-新車台数(軽自動車)
図 4 現況再現性-車種別保有台数
5.シミュレーション分析
(1) 施策①:自動車取得税および自動車重量税の廃止 まず
2012年に取得税および重量税を廃止した際には,
普通乗用車の販売台数が増加するために
BAUと比較し て,等価変分(世帯の満足)は増加するが,自動車関連
税収は約
8,500億円減尐すると推計された.次に,燃料
税を現状の
1.25倍にすると
2012年時点での自動車関連 税収は等しくなる.このとき
2020年時点においても,
税収は
BAUとほぼ同額を確保し,また等価変分は+
197
億円となる.さらに
CO2排出量も
BAUより若干 ではあるが減尐しており,
BAUよりも良い施策である といえる.
(2) 施策②:CO2 排出量 22%削減(90 年比)の達成 まず燃料税の増税のみで目標を達成する場合には燃料 税を現状の
3.05倍にすることで達成可能であり,等価
変分は
-3114億円となる.続いて取得・保有段階の課税
撤廃を組み合わせた場合には燃料税を
3.61倍に増税し なければならないが,その一方で等価変分は-596 億円 となり前者と比較して良い施策であるといえる.さらに 後者の施策について,
2012年から
2020年にかけて
HV車・EV 車の価格が小型車と同水準まで段階的に下落し ていく仮定した分析を実施したところ,燃料税の増税額 を
3.47倍でよいと推定された.
6.おわりに
以上,本研究では
CHUOモデルの乗用車モデル,お
よび貨物車モデルの一部に改良を行った.そのモデルを 用いて
2020年時点において
1990年比の
CO2排出量は,
現在検討されている税制を実施した場合(
BAU)には 8.4%削減となると推計された.またシナリオを作成して税制変更施策について検討したところ,現在課されて いる取得・保有段階の税を撤廃して燃料税の増税を実施 した場合の方が等価変分の高い政策である可能性がある ことが分かった.以下,今後の課題をまとめる.
・車種別保有台数の推計精度は向上したが,まだ車齢別 や地域別に細分化した場合の誤差は大きい.廃車パラ メータの妥当性について検討する必要がある.
・一般道路と高速道路の区別.地域内のみならず地域間 交通を考慮する必要がある.
・世帯や企業の多様性,税収の還元施策を考慮する.
参考文献
1)
国立環境研究所
AIMプロジェクトチーム
(2010):中長期ロードマップを受けた温室効果ガス排出量の試算
URL:http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap /comm/201003/ref.pdf (ACCESS:13 FEB 2012)) 2)末広茂,小宮山涼一ほか:自動車部門における
CO2削
減効果, エネルギー経済, Vol.35,No.6, pp.84-90, 2009
(ACCESS:13 FEB 2012)3)
鹿島茂,谷下 雅義ほか:地球環境世紀の自動車税制,
勁草出版,
2003年
4)
川野正史:
CHUOモデルを用いた運輸部門
CO2排出量 削減対策の評価, 中央大学修士論文, 2010 年
5) Bruno de Borger, Inge Mayeres(2007):Taxation of car ownership, car use and public transport: insights derived from a discrete choice numerical optimization model, (URL:http://www.econ.kuleuven.ac.be/ew/
academic/energmil/downloads/ete-wp-2004-13.pdf) (ACCESS:13 FEB 2012)
6) De Jong:An indirect utility model of the demand for cars, European Economic Review 34, 971-985, 1990 7)
蓮池勝人: 環境保全のインセンティブ機能を念頭におい
た自動車関連税制の検討,東京大学大学院経済学研究科修 士課程学位論文
, 20018)