図-1 気象観測を行った全
4
地域の位置関係 表-1 観測サイトの概要と観測項目都市河川周辺における大気冷却効果に関する研究 A Study on Atmospheric Cooling in the Vicinity of Urban River
土木工学専攻 10 号 岩本進太郎 Shintaro IWAMOTO
1.序論
近年,都市部における夏季ヒートアイランド現象 が顕在化しており,ゲリラ豪雨の発生や熱中症患者 の増大等様々な都市災害の引き金の一つであると考 えられている.ヒートアイランド現象緩和策に風の 道効果があり,この効果を解明することはよりよい 都市環境の創造に対して大きな知見となる.著者ら は河川の持つ大気冷却効果に着目し,河川周辺で気 象観測を行い,その効果の理論的検証を通じて都市 内の大気構造を解明することを目的とする.
2.観測概要
2.1大河川における観測概要
図-1 に観測を行ったサイトの位置関係を, 表-1 に各 観測の概要と観測項目を示す.大河川である荒川は
水面幅 200m~440m であり下流ほど水面幅が広くな
る.サイト 1 は東西に川が流れており,河川を横断 するように風が吹く.サイト 2,3 は南北方向に流れ ており河川を遡上する方向に風が吹く.またサイト 1 の左岸側とサイト 2 の右岸側の一部には高規格堤 防が整備されている.観測は河川横断方向に観測ラ インを設け,気温,風向風速,湿度の定点観測を行 った.また定点観測では観測できない空間・時間的 に高密度に観測を行った.
2.2小河川における観測概要
サイト 4 は都市内部を流れる単断面の小河川であり,
上流の川幅は 12m~15m,下流は 25m~30m である.
河川右岸側 50m~130m に片側 2 車線の道路があり,
この自動車道路と河川の間には 5 階建て以上のビ ル・マンション等が立ち並んでいる.
小河川の持つ熱環境緩和効果を詳細に捉えるために,
観測機器を河川周辺に高密度に設置し定点観測を行
った.また,定点観測でも捉えることのできないさ らに空間的に高密度な計測を行うため,自転車や徒 歩で移動しながら 1 秒間隔で気温計測を行う移動観 測を同時に実施した.
3.観測結果
3.1大河川が河川周辺に与える大気冷却効果 1)大河川が河川周辺に与える大気冷却効果の範囲 図-2 にサイト 1 における河川からの距離と気温の関 係を示す.河川付近の気温は堤内地より最大で約
3℃の低く, 河川から離れるに従い徐々に気温が増加
する.また河川の冷却効果は 500m 程度まで及んで
いると考えられる.河川を遡上する風が吹くサイト
3 における河川からの距離と気温の関係を図-3 にし
図-2 大河川(水面幅
200m)からの距離と気温の関係 (サイト 1)
図-3 大河川(水面幅
440m)からの距離と気温の関係 (サイト 3)
図-4 河川遡上風時における小河川(水面幅
12m)
からの距離と気温の関係(サイト4)
図-5 各河川における水面幅と気温差(河川上- 市街地),市街地気温までの距離の関係
めす.河川を横断するような風が吹くサイト 1 とは
異なり,河川上の気温は市街地に比べ約 4.2℃低く,
河川が周辺に対し冷源となっていることが顕著に見 て取れる.右岸側の気温分布が市街地の平均気温に 達するまでの距離が約 600m であり川幅の約 1.5 倍 まで冷却効果が及んでいると考えられる.
3.2小河川が河川周辺に与える効果
1) 河川沿いと自動車通り沿いの気温差と風の関係 小河川の冷却効果の範囲を示すために,河川遡上風 時に着目した.図-4 に河川遡上方向に約 1.2m/s の 風が吹いていた日の 13 時における河川からの距離 と気温の関係を示す.河川上の気温は周辺に比べて 約 1 ℃低く,冷気が周囲に拡散している様子が明瞭 にわかる.地上から 3m の気温から,左右岸ともに 20m 程度まで河川の効果が及んでいると考えられ る.
3.3大気境界層の提案
大小河川ともに河川が周辺地域において冷源として 作用していた河川遡上風時に着目し,各河川におけ
る水面幅と河川の冷却効果が及ぶ範囲及び河川上と 市街地の気温差の関係を図-5 に示す.著者らが行っ た観測結果のみではプロット数が少ないため,村川 ら (1988 , 1990) の結果を同時にプロットしている.
水面幅と市街地気温に達するまでの距離の関係はほ ぼ線形の関係である.近似直線の勾配からその距離 は水面幅の約 1.4 倍となる.水面幅と河川上と市街 地の気温差の関係は,水面幅が約 150m までは気温 差が徐々に増加しており, 150m 以降は気温差の増 加率が徐々に小さくなるようにみえる.河川周辺の 気温分布は水面幅のみでなく風や土地利用の違いで 異なるが,単純な条件を考えれば水面幅に応じた冷 却効果の範囲や気温低下量を示すことができる.
4.解析による河川周辺の温度境界層の表現 4.1河川周辺の気温分布の表現
河川周辺における冷気の広がりは移流拡散方程式に
基づくと考えられる.そこで河川からの冷気の放出
を,点源からの冷気の放出の重ね合わせと考え,河
川周辺の気温分布を理論的に表現する.数値計算を
図-6 大河川周辺における河川横断方向の
気温分布の観測値と解析の比較
図-7 小河川周辺における河川横断方向の 気温分布の観測値と解析の比較
用いて気温分布を再現することも可能であるが,現
象の物理的意味を理解するためにあえて単純化して 解析解を用いる.ここでは河川流下方向に一様風が 吹いている時を想定する.まず点源から冷気が定常 的に放出されている時の温度分布の解析解を導出す る.定常状態かつ流下方向(x)に一様風時の乱流拡散 方程式は(4.1)式で表される.
u 𝜕𝜃
𝜕𝜕 = 𝜕
𝜕𝜕 �𝐾
𝑦𝑦𝜕𝜃
𝜕𝜕� + 𝜕
𝜕𝜕 �𝐾
𝑧𝑧𝜕𝜃
𝜕𝜕� …(4.1)
ここに, 𝜃 :温度[℃], 𝑢 :流下方向(x)の平均風速[m/s],
𝐾
𝑦𝑦, 𝐾
𝑧𝑧:横断(y),鉛直(z)方向の乱流拡散係数[m2/s]
である.ここで 𝐾
𝑦𝑦は 𝜕 の関数, 𝑢, 𝐾
zzは 𝜕 の関数であ るが,(4.1)式の解析解を得るため,
�
𝑢 = 𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐.
𝐾
𝑦𝑦= 𝑐 × 𝑢
𝐾
𝑦𝑦= 𝑘 × 𝜕 …(4.2)
と仮定する. 𝑐 [𝑚], 𝑘[𝑚 𝑐 ⁄ ] は定数である.ここで
点 (0,0,0) からの冷気の湧出しを考えた境界条件
⎩ ⎪
⎨
⎪ ⎧ 𝜃(0, 𝜕, 𝜕) = 𝑞
𝑢 𝛿 (𝜕)𝛿(𝜕) 𝜃�
𝑦→∞= 𝜃�
𝑦→−∞= 𝜃�
𝑧→∞= 0
𝐾
𝑧𝑧𝜕𝜃
𝜕𝜕�
𝑧=0= 0
…(4.3)
のもとで(4.1)式を解くと,(4.4)式に示す点源からの 湧き出しによる気温分布を解析的に得られる.
𝜃(𝜕, 𝜕, 𝜕) = 𝑞
2𝑘√𝜋 𝑐 𝜕
3𝑒𝜕𝑒 �− 𝜕
24 𝑐 𝜕 −
𝑢 𝜕
𝑘 𝜕� …(4.4) ここに, 𝑞 :点(0,0,0)からの冷気の放出量[℃・m
3/s]
(q<0)である.(4.5)式のように畳み込み積分を行う ことで,点源からの冷気の湧き出し応答関数である (4)式を重ね合わせ,解析的に河川を表現する.以上 より河川上の冷源を,点源からの冷気の湧き出しの 重ね合わせと見立てることで,河川周辺の温度分布 を解析的に表現することができた.
4.2 河川横断方向気温の観測値と解析解の比較 上記から得られた解析解と,観測から得られた河川 周辺の気温分布を比較した.観測値は図-4, 図-7 に 示した大小両河川の地上から 3m で計測した気温を 用いた. 図-6, 図-7 に河川横断方向の気温分布の観 測値と解析の比較を示す.ここで 𝑘 = 1[𝑚/𝑐] で一定 とし, は河川橋上 2m で計測した値を用いた.また,
𝑞 は河川上と市街地平均気温の差に合うように与え
た.大河川における河川横断方向の拡散係数 𝑐 は小河 川と比較して 1~2 オーダー大きい.河川上と市街地 の気温差の 9 割に達した地点を温度境界層とすると,
大河川では 𝑐 = 100 のとき 1230m, 𝑐 = 10 で 570m,
𝑐 = 1 で 240m である.また,小河川では 𝑐 = 4 のとき 67m, 𝑐 = 0.4 で 38m, 𝑐 = 0.04 で 15m となる.
5.密度成層における新しい乱流モデルの提案 5.1 密度成層における混合距離理論の導出 気温,湿度の鉛直分布や風向風速に代表される大気 構造を知ることは近年多発するゲリラ豪雨の解明に お いて重要 な知見 となる .乱流の モデル 化には
Prandtl による混合距離理論等様々なモデルが提案
されている.大気のように気温が分布しており密度 が 成 層 し て い る 条 件 に お け る 混 合 距 離 理 論 は
Ziltinkevich らによって示されており,また運動量・
熱輸送フラックスから半実験的に求められる,モー ニン・オブコフの安定度長を用いた O’KEYPS 式が 従来より用いられてきた.著者らはそれら拡張し,
大気の安定度を考慮した密度成層における混合距離 理論を示す. Kalman の相似仮説を元に大気の安定度 を示す温位を導入し(5.1)式を得る.
𝑙(𝜕) = −𝜅 �𝑑𝑢 𝑑𝜕�
2
− 𝛼 𝑔 𝑇
0�𝑑𝜃 𝑑𝜕�
�𝑑𝑢 𝑑𝜕� 𝑑
2𝑢 𝑑
2𝜕 − 𝛼 𝑔
𝑇
0�𝑑
2𝜃 𝑑𝜕
2�
…(5.1)
𝑑𝜃 𝑑𝜕 = 𝑑𝑇
𝑑𝜕 + 𝛤
𝑑…(5.2)
𝐹𝜃(𝜕,𝜕,𝜕) =� � 𝜃(𝜉,𝜉=𝑥 𝜕 − 𝜂,𝜕)
𝜉=0 𝜂=𝑙𝑦 𝜂=−𝑙𝑦
× {𝑈(𝜕 − 𝜉)− 𝑈(𝜕 − 𝜉 − 𝑙𝑥)}
×�𝑈(𝜂+𝐵) +𝑈(−𝜂+𝐵) 2 � 𝑑𝜉𝑑𝜂
…(4.5)
図-8a,8b 解析で与えた温位分布と求められた混合距離 の鉛直分布
図-9a,9b 解析より求めた水平風速の鉛直分布と
O ‘KEYPS
式に求められた水平風速の鉛直分布温位 𝜃 と気温 𝑇 の関係は温位の定義式より(5.2)式の 関係が導かれ, 𝛤
𝑑は乾燥断熱減率 [K/𝑚] である.温 位勾配は大気の安定性を表す指標として用いられて いる.(5.1)式において混合距離に関する式について 整理する.空気粒子間に働く剪断力を整理して(5.3) 式を得る.
𝑑𝑢 𝑑𝜕 = 1
𝑙 � 𝜏(𝜕)
𝜌 …(5.3)
𝜏 = 𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐. として整理すると,混合距離に関する一階 の非線形常微分方程式(5.4)式を得る.
𝑑𝑙 𝑑𝜕 + 𝑙
3𝐻
02𝛩
2(𝜕) + 𝜅 𝑙
2𝐻
02𝛩
1(𝜕) − 𝜅 = 0 …(5.4) ここに 𝐻
0, 𝛩1, 𝛩
2は (5.5) のように与えた.
⎩ ⎪
⎪ ⎨
⎪ ⎪
⎧ 𝐻
0= �𝜏 𝜌 ⁄ 𝛩1( 𝜕 ) = 𝛼 𝑔
𝑇
0� 𝑑𝜃 𝑑𝜕 � 𝛩2( 𝜕 ) = 𝛼 𝑔
𝑇
0� 𝑑2𝜃 𝑑𝜕
2�
…(5.5)
いま α = 10 とし,鉛直温位分布を(5.6)式の様に与え,
𝑇(𝜕) = 𝑇
0𝑒
−𝛽𝑧…(5.6) β を 10−4≤ β ≤ 10
−5で変化させた図を図-8a に示す.
地表面上における混合距離は 0 であるという 境界 条件(5.7)式のもと混合距離に関する微分方程式(5.4) 式を各温位分布について解くと図-8b を得る.
𝑙(𝜕)|
𝑧=0= 0 …(5.7) 高度が上昇するに従い,安定状態においては徐々に 混合距離が短くなり,不安定状態においては 300m 付近で急激に長くなる事がわかる.
流体粒子間に働く剪断力の定義(5.8)式を(5.9)式の 境界条件で解くと図-9a の風速分布を得る. 500m の 地点において最大で約 2m/s の差が生じる.この差は 温度差におる混合が激しい不安定状態において,鉛 直方向の運動量交換が活発に行われるため,主流方 向の風の発達を抑制するためであると考えられる.
不安定な条件における理論解と O’KEYPS 式によっ て求められた風速分布を図-9b に示す. O’KEYPS 式 によって求められた風速分布との差が生じた原因と して,底面における剪断力を一定として計算してい るため,圧力分布による変動を無視した事によると 考えられる.
6.結論
都市河川が周辺に与える熱環境緩和効果を評価する ために川幅や風,周辺土地利用の異なる荒川と目黒 川周辺で気象観測を行い,その結果を下に河川の冷 却効果の範囲を理論的に表現した.得られた知見を 以下に示す.
(1)河川は周辺に対して冷源となっており,大河川で
約 4℃,小河川で約 1℃,河川上の気温が低いことを
示した.
(2)河川遡上風時において河川の冷却効果は水面幅 の約 1.4 倍であることを示した.
(3)現地観測をもとに河川周辺の気温分布を理論的 に表現し,解析と現地観測の両方で河川周辺の温度 境界層を示すことができた.
(4)混合距離理論に温位を導入し平易な計算が可能 である式を導いた.今後実測との検証をおこなって ゆく.
参考文献
1)
村川三郎,関根毅,成田健一,西名大作:都市内河川が 周辺に温熱環境に及ぼす効果に関する研究,日本建築学 会計画系論文報告集,第393
号,1988.112)
大野修平,加藤拓磨,山田正:都市部における中小河川 周辺の熱環境-目黒川を事例として-,中央大学理工学 研究所論文集,第15
号,pp.11-18,20093) Ziltinkivich, S.S.,D, L, Laykhtman:Turbulent regime in the atmospheric surface layer, Izvestiya An SSSR. atmosf.i okeana,1,No.2,150-156,1965
𝜏(𝜕) = 𝜌𝑙
2� 𝑑𝑢 𝑑𝜕�
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