廃 ABS 樹脂と廃タイヤゴムを使用した高粘度改質アスファルトバインダの開発
Development of High Viscous Modified Asphalt Binder using Waste ABS Resin and Waste Tire Crumb Rubber
土木工学専攻 24 号 高橋宏行
TAKAHASHI Hiroyuki1 はじめに
樹脂系産業廃棄物は排出量が増え,リサイクル率は 上昇しているものの,未だ処分場不足等が問題になっ ている.樹脂は石油から作られるため,これを再利用 し節約することは重要である.舗装分野でも廃棄物樹 脂を骨材やバインダ中に利用することが検討されてき た. ABS 樹脂は TV やパソコン等の外部ケースに使 用されているが,現在のリサイクル手法では処理が難 しく廃棄されることが多い.東京エルテック ( 株 ) 社 製の ABS 樹脂分解物 ( 以下, ABS オリゴマー ) は,産 業廃棄物の ABS 樹脂を食品工場で使い古された廃食 用油を用いて,油脂溶媒化熱分解したものである.既 往の研究でこれをバインダ中に添加し,バインダレベ ルでは市販品の高粘度改質アスファルト ( 以下,高粘 度バインダ ) と同等の性状を示した
1).
同様に,使用済みタイヤは年間 1 億本排出されてお り,約 12% が行方不明で不法投棄の原因になってい る可能性がある.廃タイヤを粉砕してできたゴム粉を バインダ中に添加し熟成したアスファルトラバー ( 以 下, AR) と呼ばれるバインダがある.米国では 70 年 代から使用され,良好な供用性が確認されている
2). 日本では研究段階にあるが,室内試験および現場試験 施工から,ある程度の性能は確認されてきた
3).
舗装では近年,排水性舗装が増加してきた.これに は高粘度バインダの使用が必須である.しかし,高粘 度バインダに使用する SBS 等のポリマー製アスファ ルト改質材はベースアスファルトに比べて高価であ る.また,一般的にバインダ中に 10% 以上添加され るため,高粘度バインダの価格を高価にしている.
2 研究目的
本研究では ABS オリゴマーとゴム粉を改質材の一 部として同時に用いて高粘度バインダを作製する.各 材料の添加量を変化させ,最適な配合割合からバイ ンダを作製する.バインダ試験および混合物試験を行 い,舗装材料として有効利用することを目指す.
3 高粘度バインダの作製
3.1 ABS
オリゴマーの作用とゴム粉の顕微鏡観察 ABS オリゴマーとゴム粉を混ぜた際の反応を電子 顕微鏡を用いて予備実験的に観察した.ゴム粉単体ま たはストレートアスファルトおよび ABS オリゴマー 中にゴム粉を添加し 160 ℃で 60 分間養生した.その 後ゴム粉を抽出し,溶剤 n-pentane でゴム粉表面を洗 い流した.結果を図
1–4に示す.
図1 ゴム粉原試料 図2 ゴム粉単体加熱
図3 ストレートアスファル トとゴム粉の混合
図4 ABSオリゴマーとゴム 粉の混合
図
3は図
1,2と比較して,表面に細かな粒状の物 質が多く付着していることが確認できる.これはアス ファルトの 4 大成分のうちのアスファルテンである.
4 大成分のうち,アスファルテンだけが n-pentane に は溶解しない.アスファルテンは加熱すると増加し て凝集する性質を持つため,バインダの粘度が増加す る.高粘度型 AR バインダの場合, SBS の添加により バインダの粘度が増加するため,アスファルテンの凝 集が起こると過剰な粘度の増加につながり,施工性が 落ちる.
図
4は図
1,2と比較して,ゴム粉がクレーター状 に凹み,表面が滑らかになっている.表
1に示すよ うに, ABS オリゴマーは廃 ABS 樹脂が 65% ,廃食用 油が 35% から成る.含有成分の脂肪酸とニトリルは,
カルボン酸 (R-COOH) であり,親水性である.また,
スチレンは疎水性である.そのため, ABS オリゴマー は親水性,疎水性の両方を持つ.つまり,界面活性剤 の作用を持つと考えられる.
表1 使用ABSオリゴマー
配合 廃ABS樹脂65%,廃食用油35%
含有成分 スチレン,二トリル,ブタジエン,
炭化水素,アミド系統,脂肪酸 分子量(Mw) 2.4×103
また, ABS オリゴマー生成時に出る生成油,減圧 油をガスクロマトグラフィー質量分析法で測定を行っ た.その結果,有害物質の検出はなかった.
3.2
使用材料
高粘度バインダ作製に用いた材料を表
2に示す.ゴ ム粉は, AR の研究で最も結果が良いトラック・バス 用の粒径 0.4mm を使用する.乗用車用に比べて天然 ゴム含有量が多く,アスファルトとなじみ易い性質を 持つ.アスファルト改質材の詳細を表
3に示す.
表2 使用材料 材料名
ストレートアスファルト(60/80) ABSオリゴマー
ゴム粉(トラック・バス用 粒径0.4mm) SBS
表3 使用SBS
構造 リニア
スチレン・ゴム比 30/70 分子量(Mw) 170×103
3.3
高粘度バインダ作製方法
図
4で見られた ABS オリゴマーのゴム粉表面への 影響やストレートアスファルトのアスファルテン凝集 を考慮して,本研究では最初にゴム粉, ABS オリゴ マー,またはストレートアスファルトを混合して養生 させる.その後,ストレートアスファルトと SBS を 加えて攪拌し,高粘度バインダを作製する.バインダ 作製手順を図
5に示す.
3.4
養生配合比率の検討
ゴム粉, ABS オリゴマー,ストレートアスファル トの添加量を変化させ,最適な養生比率を検討した.
検討した 5 つの配合を表
4に示す.養生の際,ゴム粉 を十分に浸すにはゴム粉の質量に対して ABS オリゴ マーやストレートアスファルトは 2 倍以上の量が必要 になる.従って,このような配合での検討を行った.
これらの配合で養生を行い,図
5の手順でバインダを 作製した.
図5 高粘度バインダ作製フロー
ゴム粉添加量は AR の研究で現在最も用いられてい る 12.5% とした. ABS オリゴマー添加量はゴム粉と 同量の 12.5% とした.また, SBS 添加量はポリマー 相とアスファルト相が転換し,ポリマー連続相になり 始める外割添加 6% とした
4).
表4 養生比率の検討 配合 養生材料(%)
ゴム粉 ABSオリゴマー ストアス
1 12.5 12.5 12.5
2 12.5 12.5 25.0
3 6.25 12.5 0.0
4 4.17 12.5 0.0
5 事前の養生なし
各配合の優劣の判断規準として,軟化点試験,針 入度試験, 180 ℃粘度試験, DSR 試験を実施した ( 図
6–9) .
図6 軟化点試験 図7 針入度試験
図8 180℃粘度試験 図9 DSR試験
本研究は既往の研究で課題であった,わだち掘れ抵
抗性を優先に考える.しかし,わだち掘れ抵抗性を示
す
|G∗|/sin
δの値は概ね同等であった.そこで,軟化 点,針入度から得られる針入度指数から配合を決定し た ( 表
5) .これは感温性を示す値で,高いほど温度変 化に鈍い.配合 2 , 3 は僅差であるが,添加するゴム 粉を全て養生処理できることから,配合 2 をゴム粉の 養生比率として採用することとした.
表5 針入度指数
配合 1 2 3 4 5
針入度指数 5.18 6.29 6.11 5.41 5.18
3.5 ABS
オリゴマー添加量の検討
既往の研究
1)から,バインダの骨材把握力を向上さ せる ABS オリゴマー添加量は 6% であることがわ かっている.本研究は既往の研究とは異なりゴム粉を 使用している.したがって,添加量が異なる可能性が あるため検討を行った.ゴム粉添加量は 12.5% , SBS 添加量は 6% に固定した.
図10 WT試験
3.4 節と同じくバイ ンダ性状試験 を行っ た.しかし,値に大き な差がつかな かった ために,軟化点から上 位 3 つの配合を絞り 込み,ホイールトラッ キング試験 ( 以下, WT
試験 ) を実施した.その結果, ABS オリゴマー添加量 は 6% が最適であることがわかった.これは既往の研 究と等しく,添加量として妥当な値と言える.
4 バインダ試験および混合物試験
大型車交通量が多い箇所での排水性舗装の検討を行 う. ABS オリゴマー添加量 6% ,ゴム粉添加量 12.5% , SBS 添加量 6% のバインダを用いて検討する.
4.1
バインダ試験
試験項目は軟化点試験,針入度試験, 180 ℃粘度試 験, DSR 試験,熱劣化・酸化劣化後の針入度試験,バイ ンダ曲げ試験,バインダ疲労試験である ( 図
11–18) . 比較のために,高粘度型 AR バインダ ( ゴム粉添加量 12.5% , SBS 添加量 6%) と,市販品高粘度バインダの 値を示す.
ABS オリゴマー添加バインダは AR や市販品と 比べ,軟化点,針入度は同等以上の結果を示した.
|G∗|/
sin
δは ABS オリゴマー添加バインダおよび AR ともに市販品を大きく越える性状を示した.これは
図11 軟化点試験 図12 針入度試験
図13 180℃粘度試験 図14 DSR試験
図15 劣化後針入度 図16 曲げ仕事量
図17 曲げスティフネス 図18 バインダ疲労試験
ゴム粉の添加によってバインダの弾性が増加し,わだ ち掘れ抵抗性が向上したと考えられる.同様に,熱劣 化,酸化劣化後の針入度は, ABS オリゴマー添加バイ ンダおよび AR は値の変化が小さい.これはゴム粉に 含まれるカーボンブラック等の劣化防止剤の効果によ ると考えられる.
図
13から, ABS オリゴマー添加バインダは AR と 比較して粘度が低い.これは施工性が良いことを示 す.また,低温性状を示す曲げ仕事量 ( 図
16) ,曲げス ティフネス ( 図
17) は AR および市販品と比べて,高 い値を示す.これは ABS オリゴマーの効果により,
ポリマーである SBS とゴム粉の界面張力が下がり,相
溶性や分散性が向上した結果と考えられる.また,ア
スファルテン分子の凝集を抑制し,粘度が低減したと
考えられる.
バインダ疲労試験は,混合物の疲労試験と相関があ るとされる. ABS オリゴマー添加バインダの疲労抵 抗性は AR に比べて若干劣るものの,市販品を大幅に 超えるものであった.
4.2
混合物試験
標準的な排水性混合物 ( 空隙率 20%) を作製し,マー シャル安定度試験,ホイールトラッキング試験,カン タブロ試験を行った ( 図
19–22) .
図19 マーシャル安定度試験 図20 WT試験
図21 カ ン タ ブ ロ 試 験 (20
℃)
図22 カ ン タ ブ ロ 試 験 (-20
℃)
ABS オリゴマー添加バインダは AR と同等,市販 品以上の値を示した.図
20より,排水性舗装として 十分なわだち掘れ抵抗性を示した.また,図
21より,
排水性舗装の規準を満たす骨材飛散抵抗性を保持して いる.したがって,重交通箇所に適用が可能であると 言える.ただし,図
22より,低温での骨材飛散抵抗 性がやや高い値を示した. AR 等のゴム粉を用いた混 合物は高い傾向を示しやすいこと,混合物設計時の最 適アスファルト量がやや少なかった可能性がある.
4.3
生活道路用バインダの検討
歩道や車両交通量の少ない道路への検討を行う.ゴ ム粉添加量および SBS 添加量を下げ,生活道路向き の配合を検討した. ABS オリゴマー添加量を 6% と して検討を進めた.
図23 180℃粘度試験
図
24か ら SBS 添
加量が下がるごとに,
軟化点の値が大きく減 少していることがわか る.一方,ゴム粉添加
量が変化しても大きくは減少しない.針入度は大きく
図24 軟化点試験 図25 針入度試験
は変化しないが,同様に SBS 添加量に左右される傾 向が見られた.図
23より,粘度はゴム粉および SBS の添加量により大きく変化し,ゴム粉および SBS 両 方の影響を受けている事がわかる.生活道路では施工 性を重視することから,粘度が 1500 以下の SBS3% , ゴム粉 10% の配合で排水性混合物 ( 空隙率 20%) を作 製した.
表6 生活道路WT試験
安定度(kN) RD(mm/min)
SBS3%-ゴム粉10% 5.2 0.0560
目標値 3.5以上 0.0840以下
表
6より, SBS 添加量が 3% でも歩道等の生活道路 に対しては適用が可能である.
5 まとめ
ABS オリゴマー,ゴム粉を使用して高粘度バイン ダを作製した結果は以下のとおりである.
•
ABS オリゴマーは界面活性作用を持ち,アス ファルトとゴム粉および SBS の相溶性を向上 させる.バインダの低温性状の向上と粘度の低 減効果がある.
•
ゴム粉はわだち掘れ抵抗性および熱劣化・酸化 劣化抵抗性を向上させる.
今後の課題としては,より詳細な化学的分析,混合 物の骨材飛散抵抗性の向上が挙げられる.
参考文献
1) 高橋宏行,姫野賢治. ABS樹脂を用いた改質アスファルトバイ
ンダーの研究. 土木学会第60回年次学術講演会講演概要集, pp.
253–254, 2005.
2) Silvrano A. Dantas Neto, et al. PROPERTIES OF ASPHALT- RUBBER BINDERS RELATED TO CHARACTERISTICS OF THE INCORPORATED CRUMB RUBBER. In Asphalt Rubber 2003, pp. 297–310, 2003.
3) 日本アスファルトラバー研究会. 平成16-17年度活動報告書 (案), 2006.
4) Bernard Brule. Polymer-Modified Asphalt Cement Used in the Road Construction Industry: Basic Principles. In ASPHALT SCI- ENCE AND TECHNOLOGY, pp. 463–477, 1997.