博士(医学)楢丸博幸 学位論文題名
ループス腎炎における糸球体基底膜のCharge barrier および Immune deposit の荷電についての電顕的観察
学 位論文内容の 要旨
I研究 目的
糸 球 体基 底 膜 (GBM) に は ,size barrierの 他 ,heparan sulphate prot,eog'lycan(HS ‑ PG) よりな るcharge barrierが備 わって いる と考え られて いる。
蛋 白尿は 腎糸 球体障 害を示 す最も重要な所見のーっであるが,ループス腎彡ミにおける蛋白尿の 成 医Tを検討 する目 的で,period ate ‑,lysin ‑ paraphormaldehyde( PLP)液により固定され た 組織を 用い,cuprolinic blue(CB)を 陽性の プ口ー ブとし ,critical electrolyte concentra tion methodに よ りGBMの 陰 性 荷 電 部 位 を 染 色 し , 半定 量 的 にGBMの 陰 性 荷 電部 位 を 角 翠 析 し た 。 さ らに , ル ー プ ス腎 炎 に お い て 認め ら れ るimmune deposit(ID)の 荷 電 に おい て も 検 討 した。
H対象お よび 方法
ア メ リ カ リ ウ マ チ 協 会 のSLE分 類 基 準 を4項 目 以 ヒ 満足 し ,WOHの ル ー プ ス 腎炎 分 類 基 準 に 従 ワ て 診断 さ れ た ル ープ ス 腎 炎 の17症 例 を 対 象と し た 。classuが5症例 (男1症伊J, 女4症 例 ,13歳 一15歳 ),class IVが6症 例 ( 女6症 例 ,9歳〜20歳),classVが6症例 (男子1症 例,
女5症 例 ,14歳‑25歳 ) で あ ヮた 。classHの 全 症例 で 尿 蛋 白 は陰 性 で あっ た。class IVおよ び Vの 症 例 では 全 例lg/ 日 以 上 の 尿 蛋白 が 認 め ら れた 。 正 常 対 照と し て ,5症例の 腎孟腫 瘍患 者
( 男 4症 例 , 女 1症 例 ,5260歳 ) よ り 摘 出 さ れ た 腎 皮 質 の 健 常 部 を 用 い た 。 1.陰性 荷電 部位の 染色法
生 検 腎 組 織 あ る い は 摘 出 腎 組 織の 一 部 を ,PLP液 に て4時 間 固 定 後10〜20 00シ ョ 糖加PBS で 洗浄し た後isopentane中で ,液体窒素にて急速凍結した。Imrnx linmx llmnに細切した組織を,
O. 025Msodium acetate一2,5%glutaraldehyde一O.2Mmagnesium chloride溶液 (basic solution)に て 洗 浄 固 定し た 後 , 同 液5紺 中 に10mgのCBを 加 え1時 間染 色 し た 。 その 後25mgの
sodium tungsatateを 溶 解 し たbasic solution5加 中 で2時 間 , さ ら に10mgのCBと25mgのs odium sulphateを 溶 解 し たbasic solutionの5加 中で2時 間 反 応さ せ た 。 以 降は エ タ ノ ー ル 系 列 で 脱 水しEpok 812樹脂 包埋 を行 なった 。この ブ口ッ クより 超薄 切片を 作製し ,鉛の 単染 色 を 行 な い 電顕 で 観 察 し た。
2.GBMの 陰 性 荷 電部 位 の 半 定 量的 解 析
GBMの末 梢部位 を無作 為に15,000倍で撮 影し ,57,000倍に 引き伸 ばし た写真 上でcurvimeter に て 糸 球 体一 個 あ た りGBMを10c:mず つ 計15視 野 測定 し,そ れぞれ の視野 にお けるlamina rara externa (LRE)お よ びlamina rara interna(LRI)の 陰 性 荷 電 部 位 教 を 測 定 し た 。 各 々 の 組 織 で 糸 球 体 を3個 測 定 し ,結 果 はGBM1,OOOnmあ た り の教 を 平 均 値 土標 準 偏 差 で 表 し た 。 各群 間 の 有 意 差検 定 に は ,wilcoxon亠U検 定を 用 い た 。 また , 相関 係数の 検定に はt
― 検 定 を 用い た 。
皿結 果
正 常 のGBMに お い て は そ の1,OOOnmあ たりLREに22.9土1.9か ら23.7土1,4個 の ,LRIに 14.O士1,6から15.1土1.5個 の陰 性荷電部位が認められ,これらの陰性荷電部位は線維状に染色さ れ,高 倍率で は横縞 様の 側鎖を 有して いるこ とが 観察さ れた。
尿 蛋 白 が 認 め ら れ な か っ た ル ー プ ス 腎 炎classHの 症 例 で は,GBMの陰 性 荷 電 部 位 数は , LREで21.3土2.Oか ら22.3土1.8個,LRIで13.5土2.Oから14.2土2.0個 であ り正常 のGBMにお ける 測 定 結 果 と比 較 し て 有意 差は認 められ なかっ た。 一方,1g/日以 上の 高度の 蛋白尿 を有す るclass IVお よびVのル ープス 腎炎に おいて は,コ ント 口ール に比較 して有 意に 陰性荷 電部位 の 減少が 認めら れた(class IV: LRE14.8土2.7〜19.3個,LR15.8土1.9〜11.3土2.4個,classV: LRE13.O土2.4〜17.9土2.8個,LRI12.O土1.9〜13.O土2.5個,いずれも正常と比較してpくO.05 で有 意。 )。陰 性荷 電部位 は,内 皮下のIDが認 められ る部位 にお いてはLRIで ,また 上皮下 のID が 認 め ら れ る 部 位 に お い てLREが 消 失 して い た 。LREの 陰 性 荷 電部 位 数 の 滅 少と 尿 蛋 白 量 は 負の相 関を示 した( 相関 係数二 二‑0. 86,pく0.001)。
ル ー プ ス 腎 炎 に 認 め ら れ たGBMや メ サ ン ギ ウ ム 基 質 のIDはCBで 染 色 さ れ な か っ た 。
IV考 案
GBMの 陰 性 荷 電部 位 は 側 鎖 を 有す る 線 維 状 に染 色 さ れ た こと か ら , 今 回の 染 色法 はHS―PG を よ り in vivoに 近 い 状 態 で 観 察 す る の に 有 用 で あ る と 考 え ら れ た 。
正常の腎糸球体基底膜においては,HS―PGは不規則かっ密にネットワークを形成しており,
文字どうりb arrierとして機能していることが示唆された。
ループス腎炎においては,尿蛋白を呈していたclass IVおよびVの症例においてIDの認めら れる部位 で陰性荷電部位の消失が観察 された。これらの症例においてはGBMの陰性荷電部位 数の有意の減少が認められたことから,charge barrierの破綻が尿蛋白の成因と密接に関連し ているこ とが示唆された。このcharge barrierの障害は高度と考えられ,GBMの正常構造自 体も障害されていることが示唆され,size barrierも同時に破綻を来たしていることもループス 腎炎の蛋白尿の成因と考える際念頭に置く必要がある。
ID自体 はCBで染色されず,IDのnet chargeは陽性である可能性 が考えられ,陽性荷電の 免 疫 複 合 体 あ る い は 抗 体 が ル ー プ ス 腎 炎の 成因 に関 与 して いる こと が推 測 され た。
V要 約
1. PLP液固定組織においてもcuprolinic blueを用いる,critical electrolyte concention me thodにより,腎の陰性荷電部位は良好に染色された。
2. ループス腎炎においては, 尿蛋白の認められたclass IyおよびVの症例では,LREおよび LRIの 陰性 荷 電部 位数 の減 少が認めら れGBMのcharge barrierの破 綻が尿蛋白の成因とし て 関与していることが考えられ た。これらの症例のGBMではIDの局在と陰性荷電部位の消失 が関連していた。
3.ID自体のnet chargeは陽性である可能性が示唆された。
学位論文審査の要旨
正常の糸球体基底膜(GBM)には,size barrierの他,heparan sulfate proteoglycan (HS PG)よりなるcharge barrierが備わっていると考えられている。
尿蛋白は腎糸球体障害を示す最も重要な所見のーっであるが,ループス腎炎における尿蛋白の
三
敬
彦
脩
邦
本 木
林
松 吉
小
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
成 因がcharge barrierの障 害の有無にどの程度dependするかを知るためにGBMの陰 性荷電 部位を半定量的に解析して検討したのが構丸氏の研究の主幹である。アメルカルウマチ協会のS LE分類基準 を4項目以上を満たし,WHOのル―プス腎炎分類基準に従 って診断されたループ ス腎炎の17症例を対象とした。class IIが5症例(男1症例,女4症例,13歳‑15歳),class IV が6症 例( 女6症例 ,9歳‑20歳) ,classVが6症 例( 男1症例 ,女5症 例,14歳‑25歳)で ある。classHの全症例では尿蛋白は陰 性であった。class IVおよびVの症例では全例lg/日 以上の尿蛋白が認められた。正常対照には,5症例の腎孟腫瘍患者より摘出された腎皮質の健常 部が用いられた。陰性荷電部位の染色はcu prolinic blueをcation probeとするcritical conc entration methodにより行 われ,periodate ‑lysin亠paraformaldehyde(PLP)液 固定組 織を用いて染色している。
問題はGBMの陰性荷電部位の半定量的 解折であるが,GBMの末梢部位を無作為に57,000倍 に引き伸ばした写真でcu rvim eterにて糸球体一個あたりGBMを10c:mずつ計15視野測定し,そ れぞれの視 野におけるlamina rara externa(LRE)およびlamina rara interna(LRI)の 陰性荷電部位数を測定して判断した。
正常のGBMでは,1,OOOnmあたりLREに22.9土1,9から23.7土1.4個のLRIに14.O+―1.6 から15.1土1.5個の陰性荷電部位が認められた。これらの陰性荷電部位は繊維状に染色され,高 倍率では横 縞様の側鎖を有しているこ とが観察され,今回の染色法 はHS亠PGをよりinvivo に近い状態 で観察するのに有用である と考えられた。また,正常のGBMにおいては,HS―PG は不規則かっ密にネットワ―クを形成しており,文字通りb arrierとして機能していることが 明らかに窺われた。
蛋白尿が 認められなかったループス 腎炎classHの症例では,GBMの陰性荷電部位数は,L REで21.3土2.Oから99.3土1.8個,LRI13.5土2.0から14.2土2.O個であり,正常のGBMにおけ る測定結果と比較して有意差は認められなかヮた。一方,l g/日以上の高度の蛋白尿を有する class IVおよびVループス腎炎においては,コントロールに比較して有意に陰性荷電部位の滅少 が認められた(classV:LRE14.8土2.7〜19.3土1.8個,LR15,8土1.9〜11.3土2.4個,class V: LRE13.O土2.4〜17.9土2.8個,LR1 12.O土1.9〜13.O土2.5個,いずれも正常と比較してp くO. 05で有意)。陰性荷電部位は,内皮下の免疫沈着物(ID)が認められる部位においてはLRI で,また上 皮下のIDが認められる部位 においてLREで消失していた。以上のことよルループ ス腎炎においては,charge barrierの破綻が蛋白尿の成因と密接に関連していることが明らか にされた。
ル ー プス 腎炎 に認 めら れ たGBMや メサ ンギ ウ厶 基質 のIDはCBで 染色 され ず,このnet chargeは陽性である可能性が考えられた。っまり陽性荷電の染色複合体あるいは抗体が,char ge barrierの破綻を介してループス腎炎の成因に関与していることが推測された。以上ループ ス腎炎に於ける蛋白尿の成因の少なくも一部を独特の半定量的手法を用いてcharge siteの量的 変動から実証した点はユニークであり,学位論文として妥当な価値を持っものと判断した。副査 の吉木,小林(郊)両教授並びに阿部(和)教授からそれぞれの専門領域に関連して幾っかの質 問があり,討議が行 われたが,いずれに関しても適正な答えが得られたものと判断された。