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博士(歯学)佐藤華織 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(歯学)佐藤華織 学位論文題名

ヒト咬筋のエネルギー代謝と筋線維組成の関連性の検討 学位論文内容の要旨

【緒言】ヒト咬筋において´゜T再合成の際にェネルギーの供給源として最も速やかに働くクレ アチンリン酸(PCr)の濃度は,正常者では咀嚼運動や咬みしめなどの機能時に低下するのに 対し,筋症状を有する顎関節症患者やプラキシズム患者では安静時でも低下していることが明 らかとなってきている.このようなPCr濃度のちがいについては,四肢の筋肉において筋線維 組成の違いが関与しているという報告はあるものの,ヒ卜咬筋の筋線維組成の違いがPCr濃度 へ及ぽす影響に関する研究はない.そこで本研究では,ヒト咬筋におけるエネルギー代謝と筋 線維組成の関係を明らかにする第1段階として,筋症状を認めない顎変形症患者の咬筋浅層に つkゝて検討を行った.

【方法】

く対象>被験者は北海道大学歯学部附属病院を受診し,顎矯正手術を施行予定で咀嚼筋に疼痛 を認めない顎変形症患者の女性8名(年齢:20.1土114歳)である.被験筋は咬筋浅層で,8 名のうち6名は両側咬筋,残りの2名は片側のみとした.被験者の咬合接触歯数は上顎が3歯 か ら7歯 で 平 均 5.0土 1.5歯 , 下 顎 が3歯 か ら7歯 で 平 均4.9 +1.6歯 で あ っ た . くエネルギー代謝分析>3ipーMRSにより行った.すなわち,MR装置を用い,localize可能な 2D−CSI法によりvoxel sizeを10X 20X 30rwr13として咬筋浅層のPCr,a,ロ,ア− ATP, 無機リン(Pi冫の各々のピークのスベクトルを得た後,エネルギー代謝状態のパラメ一夕とし てPCrと8―A.TPのピークの面積比(PCr/ローA.TP比)を算出した.なお,MRSの測定時 期は咬筋採取日の2〜9日前で,測定時の金属によるアーチファク卜を防ぐ目的でワイヤーや プラケットなどの矯正装置をはずして測定した‐

く組織化学的分析>顎矯正手術中にMRSの測定領域である咬筋浅層の上下的,前後的および 内外的 中央より 約5X5X5mn3の筋組 織採取し ,包埋,. 液体窒素 で凍結し た後,10ロmの 連続切片を作製した.ミオシン」d灯Pase染色後,筋線維をnゆeI線維,恥ゆeIM線維,nゆe nA線維, 恥ゆeHB線維 ,BゆenC線維 に分類し ,各切片の 総線維数 に対する 各筋線維 数の 割合を筋線維組成率すなわち各筋線維数/総筋線維数として算出した.また恥ゆeI線維と Bゆen線維の組成比すなわちTyeI/nゆeu比も算出した.

く統計学的分析>

  PCrノロ−ATP比と恥ゆeI/町peH比お よび各筋 線維組成率 との関連 性をSpearmanの順 位相関係数により分析した,いずれもpくO.05を有意とした.

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【結果および考察】

1.エネルギ一代謝分析

1)す べての被 験筋よりPCr,Pi,a,ロ,ア―ATPの各ピークが同定でき,筋症状を有す る顎関節症患者のスベクトルでみられるような明らかなPCrピークの低下は認められなかっ た,

2)各 咬筋のPCr/B―ATPは2.88〜5.29の間 に分布し ,その平均値および標準偏差は3.87 +0.92であ り,本研 究と同装置,同条件で測定した正常男子のPCr7ロ―ATP比と比較して 有意差は認められなかった.

  以上の点から,本研究の被験者群は臨床所見だけでなく,エネルギー代謝状態の面からも

、 筋 疲 労 な ど 機 能 的 な 異 常 を も つ 可 能 性 は 少 な い こ と が 示 唆 さ れ た . 2.組織化学的分析

1)ミオシンA.TPase染色による各咬筋の筋線維組成率はBゆeI線維:12.ト91.6%,恥ゆe IM線維:1.5〜67.6%,町peHA線維:0〜60.9%,TyeuB線維:2.3〜80.4%,nゆeHC 線維:0〜50.6%と四肢の筋肉には通常見られない中間型筋線維を比較的多く含んだ広範囲な 分布を示した.

2) 中 間 型 のBpeIM線 維 とTyeuC線 維の 組 成率 の 平 均値 と 標準 偏 差 はそ れ ぞ れ13.1 土16.6%,6.6土13.4%であり,比較的多かった,

  被験者群の筋線維組成が広範囲な分布を示した理由につ。ゝて,@同一筋内での部位の違い による影響◎先天的要因◎後天的要因が推測される.@の部位による影響については本研究 で弦いずれの被験者でも咬筋浅層の上下的,前後的および内外的中央より筋採取したため,

部位による違いの影響は少ないと考えられた.◎の先天的要因として,被験者群は遺伝的要 因が原因のーつとして挙げられている顎骨の形態異常を伴う咬合不全であるため,顎骨と同 様に第一鰓弓由来である咬筋筋線維組成も発生段階で何らかの遺伝的影響を受けた可能性が 示唆された.◎の後天的要因としては咬合状態が要因の1つとして考えられた.被験者群の 咬合状態は咬合接触点が少なく,左右的な咬合接触パランスも悪い傾向にあるため,その咬 合状態に適応した下顎運動をすることにより咬筋筋線維に多方向からカが加わり筋線維組成 に影響を与えた可能性も示唆された.またこのことは,中間型筋線維の比率が高くなった原 因のーっとして考えられた.

3.PCr/8−A.TP比と筋線維組成との関連性について

1)nゆeI線 維 とBゆeu線 維 の 比 で あ るBゆeI/ 恥ゆen比とPCr/ロ −ATP比と の 関連 性についてSpearmanの相関分析相関係数はO.046であり,有意な相関は認められなかった.

2)各Tyeの筋線維組成率とPCr/ロ―A.TP比との相関係数はBゆeI線維が―O.116,nゆe IM線維 が −O.095,TyeuA線維が−O.211,nゆeuB線 維が−O.020,nやeHC線維 が−

0.148であり,いずれも有意な相関は認めらなかった・

  これらの結果から今回の被験者群ではPCr濃度と筋線維組成との問に明らかな相関は認め られず,ヒト四肢筋とは異なった結果を示した.そのため,ヒト咬筋浅層におけるPCr濃度 の大小は,酵素組織化学的分類による筋線維組成の違いだけでは説明できないことが示唆さ れた.これは咬筋の組織学的,機能的複雑性によるものと考えられた.しかし今回の被験者 の中間型筋線維の組成率がこれまでの正常者のデータに比較して若干高かったことから,今 回の結果を顎変形症のない正常者に当てはめるのには慎重を要するが,中間型筋線維を有す るという点から考えて,正常者咬筋でのPCr濃度と筋線維組成の関係は,中間型を有しない 四肢筋での関係よりも今回の被験者の結果に近いものと推察された.したがって,筋症状を

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有する顎関節症患者の咬筋のPCr濃度の低下に酵素組織化学的分類による筋線維組成の違い が主因となって関与する可能性は小さいものと考えられた.

【結論】

以上の結果から,以下の結論を得た.

1.筋線維組成は,四肢の筋肉には通常見られない中間型筋線維(TypeIM線維やType II     C線維)を比較的多く含んだ広範囲な組成を示した.

2.TypeI,IVpe IIA,Type IIB,Tゝ ゆeIM,Type IICの各夕 イプ の筋 線維 組成 率と     PCr/B―ATP比 の 間 , お よびTyeI/nゆeH比とPCr/ ロ一ATP比 との 間に はい ずれ     も有意な相関は認められなかった.

3.ヒト咬筋浅層におけるPCr濃度の大小は,酵素組織化学的分類による筋線維組成の違     いだけでは説明できないことが示唆された.また,その原因のーつとして,咬筋が中間     型 筋 線 維 を 含 ん だ 複 雑 な 筋 線 維 組 成 を 有 す る 点 が 考 え ら れ た .

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ヒト咬筋のエネルギー代謝と筋線維組成の関連性の検討

  審査 は審 査担 当者 が各 々, 申請 者に対して提出 論文とそれに関連した学科目について口頭に よ り 試 問 を 行 な い , 各 審 査 員 か ら の 報 告 を 元 に 主 査 が そ の 結 果 を ま と め た ,

  初 め に申 請者 に本 論文 の要 旨の 説明 を求 め,申請者から以下のよ うな内容についての論述が なされた.

  正 常 ヒ ト 咬 筋 で はATP再 合 成 の 際 に エ ネ ル ギ ー の 供 給 源 で ある クレ アチ ンリ ン酸(PCr)の 濃度 が 咀嚼 運動 や咬 みし めな どの 機能 時に 低下するのに対し,筋症 状を有する顎関節症患者や プラ キ シズ ム患 者では安静時でも低下し ていることが明らかとなってきている,このようなPCr 濃度 の 違い につ いて は, 四肢 の筋 肉に おい て筋線維組成の違いが関 与しているという報告はあ るも の の, ヒト 咬筋 の筋 線維 組成 の違 いがPCr濃 度へ 及ぼ す影 響に 関す る研究はない.本研究 は , ヒ ト 咬 筋 に お け るPCr濃 度 と 筋 線 維 組 成 の 関 係 に つ い て 検 討 し た も の で あ る .   被 験 者は 北海 道大 学歯 学部 附属 病院 を受 診し,顎矯正手術を施行 予定で咀嚼筋に疼痛を認め ない顎変形症患者8名の14咬筋浅層である.

  PCr濃 度 は エ ネ ル ギ ー 代 謝 分 析 で あ る31P―MRS (magnetic resonance spectroscopy)の localize可 能な2D−CSI法に より 顎 矯正 手術 直前 に測 定し た.voxel sizeを10X20X 30rllIf13 と し て 咬 筋 浅 層 のPCr,a, ロ , ア−ATP, 無機 リン(Pi)の各 々の ピ ーク のス ベク トル を得 た 後 , 工 ネ ル ギ ー 代 謝 状 態 の パ ラ メ ー タ と し てPCrと ロ ―ATPの 面 積 比 (PCr7ロ ーATP比 ) を 算出した.

  筋 線 維 組 成 分 析 は 顎 矯 正 手 術 中にMRSの 測定 領域 であ る咬 筋浅 層 の上 下的 ,前 後的 およ び 内 外 的 中 央 よ り 採 取 し た 約5x5x5 ITIIT13の筋 組織 に対 して 組織 化 学的 方法 であ るミ オシ ン

」kTPase染 色 を 施 行 し た , 筋 線 維 をTypeI,IM,IIA,IIB,ncに 分 類 し , 各 切 片 の 各 筋 線 維 数 / 総 筋 線 維 数 と ,TypeIとType IIの 組 成 比 す な わ ちTypeI7TypeH比 も 算 出 し た .   PCrノ ロ ーATP比 とTypeI/ ′Fypen比 お よ び 各 筋 線 維 組 成 率 と の 関 連 性 をSpearmanの 順 位相関係数により分析した.

  エ ネ ルギ ー代 謝分 析で は筋 症状 を有 する 顎関 節症 患者 のス ペ クト ルでみられるようなPCrピ ークの低下は認められず,各咬 筋のPCr7B‑」゜ I、Pは2.88〜5.29の問に分布し,本研究と同装 置 , 同 条 件 で 測 定 し た 正 常 男 子 のPCr/B―ATP比と 比較 して 有意 差 は認 めら れな かっ た. し

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昇 光

   

   

畑 田

大 吉

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

たがって本研究の被験者群は臨床所見だけでなく,工ネルギー代謝状態の面からも筋疲労をも つ可能性が少ないことが示唆された.

  組織化学的分析により筋線維組成率はTypeI:12.ト91.6%,TypeIM:1.5〜67.6%,Type IIA:0〜60.9%,Type IIB:2.3〜80.4%,′I、ypeHC:0〜50.6%と広範囲な分布を示した,ま た四肢 の筋肉で は認められ ない中間 型のTypeIMとTypeHCの 組成率の平均値と標準偏差は それぞれ13.1土16.6%,6.6土13.4%であり比較的多かった.

  PCr/ ロ−ATP比 とTypeI/Typen比 お よび各Typeの 筋線維組 成率との 間に有意 な相関 は認められなかった.

  被験者群の筋線維組成が広範囲な分布を示した理由について,骨格性咬合不全に関連した遺 伝的影響,咬合状態が関与した後天的影響が考えられた.また咬合状態が中間型筋線維の比率 が高くなった原因のーっとして考えられた.

  今回の被験者群ではPCr濃度と筋線維組成との間に明らかな相関は認められず,ヒト四肢筋 とは異なった結果を示した,そのため,ヒト咬筋浅層におけるPCr濃度の大小は,組織化学的 分類による筋線維組成の違いだけでは説明できないことが示唆された.これは咬筋の組織学的,

機能的複雑性によるものと考えられた,今回の結果を顎変形症のない正常者に当てはめるのに は慎重を要するが,中間型筋線維を有するという点から考えて,正常者咬筋でのPCr濃度と筋 線維組成の関係は,中間型を有しない四肢筋での関係よりも今回の被験者の結果に近いものと 推察された.したがって,筋症状を有する顎関節症患者の咬筋のPCr濃度の低下に酵素組織化 学的分類による筋線維組成の違いが主因となって関与する可能性は小さいものと考えられた,

  以上の論述に引き続き,本研究ならびに関連する研究,また関連領域について質問を行った.

主な質問項目は以下の通りである・

  1.筋の収縮機構と筋疲労及び筋疼痛の発生について   2.筋線維の染色法について

  3. MRSについて

  4.組織化学分析結果とエネルギー代謝分析結果の相違について   5.今後の研究の展開と将来展望,臨床応用について

  上記の質問項目に対して,申請者からいずれも適切で十分な回答が得られた,申請者の説明 か ら,咬筋について非侵襲的方法であるMRS分析により測定されたPCr濃度と筋線維組成と の比較を行った点は独創的であるとともに,咬筋が四肢の筋とは異なり組織学的にも機能的に も複雑であることが示されたことは臨床的にも非常に興味深いことであり高く評価できるもの である.また試問の内容から,関連学科目についても幅広い学識を有していることが認められ た.さらに将来の研究の展望に関してもMRS分析の臨床応用の可能性を含めて本研究を元に して今後ますます発展してゆく可能性が高いと思われることから,学位申請者は博士(歯学)

に値するものと判断した.

参照

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