博 士 ( 獣 医 学 ) 江 口 淳 一 学 位 論 文 題 名
新規中枢神経作用薬 1VICI − 225 の注意および学習、記憶に 対 す る 作 用 な ら び に そ の 作 用 機 序 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
新規化合物MCI‑715、[4―(2‑fluorophenyl)‑6‑methyl‑2‑(1‑piperazinyl) thieno[2,3‑d]
pyrimidine monohydrate hydroch.loride]の注意およぴ学習、記憶に対する作用ならびに そ の 作 用 機 序 に つ い て ラ ッ ト 、 ス ナ ネ ズ ミ お よ び ネ コ を 用 い て 検 討 し 、 以 下 の 結 果 を得た 。
1. 背 側noradrenaline (NA)東 の 破 壊 に よ り 脳 内NA系 を 障 害 し た ラ ッ ト で は 学 習 の 消 去 が 遅 れ 、 こ れ は 選 択 的 注 意 の 障 害 に 基 づ く と 解 釈 さ れ て い る 。MCI−225経 口 投 与 (10お よ び30 mg瓜g) は 、 神 経 毒6‐hydmxydopamine微 量注 入(8pg) によ り両 側の 背側 NA束 を 破 壊 し た ラ ッ ト に お け る 走 路 課 題 の 消 去 の 遅 れ を 用 量 依 存 的 に 抑 制 し た 。 対 照 薬 と し て 検 討 し た デ シ プ ラ ミ ン (30mg瓜g) も 抑 制 作 用 を 示 し た が、 夕ク リ ン(1お よ び3mg爪g) は 作 用 を 示 さ な か っ た 。
2. NA作 動性 神 経選 択的な神経毒であるN‑(2‑chloroethyl)‑N‑ethy.l‑2‑bromo‑benzylamine の 腹 腔 内 投 与(50 mg爪g) に よ り 脳 内NA系 を 選 択 的 に 障 害 し た ス ナ ネ ズ ミ で は 、 オ ー プ ン フ イ ー ル ド 内 の 新 奇 物 へ の 探 索 行 動 の 回 数 が 減 少 し た 。MCI一つ25経 口投 与 (1〜 lom酊 くg冫 は こ の 行 動 回 数 の 減 少 作 用 を 抑 制 し た 。 デ シ プ ラ ミ ン (3mg瓜g)で も抑 制 効 果 が 見 ら れ た が 、 タ ク リ ン (O.1〜3mg瓜g) は 作 用 が 見 ら れ な か っ た 。
3.前脳 基底 部(basal forebrain: BF)破 壊により大脳皮質へ投射するacetylcholine (ACh) 作 動性 神経 を 障害 する と大 脳皮 質choline acetyltransferase (ChAT)活性及び局所脳グル コース 利用率(local cerebral glucose utilization: LCGU)の低下を伴う学習障害が生じる。
MCI‑ つ5連続経口 投与は、 両側BF破壊 ラットにおける受動性回避反応の保持およぴ LCGUの低 下を改善 したが( それぞれ0.3とlm堊瓜g、お よびImg瓜g) 、ChAT活性の低 下には影響しなかったっタクリン(O.3mg爪g)は保持の低下を改善したが、のAT活性 およびLCGUの低下には作用しなかった。
4.スコポラ ミン腹腔内投与(0.5 mg瓜g冫によるラット水迷路課題の獲得障害をMCI‐ 225経口投与 (1〜lomg/kg)は改善した。タクリン(0.1〜3mg瓜g)は改善傾向を示 した。
5.視覚 刺激の動き に対する 追跡眼球 運動は注意カの水準をよく反映する。ネコの三 叉神経 前橋部離断 標本にお ける視覚 刺激呈示 時の追跡 眼球運動 をMCI‐225静脈内投 与(1お よび3 mg瓜g)は用量依存的に亢進させたが、自発性の眼球運動、大脳皮質脳 波に対してほとんど作用を示さなかった。タクリン(0.3mg瓜g)は追跡眼球運動の亢 進 、自 発 性眼 球 運動の 増加傾向 、覚醒水準 の上昇傾 向を示し た。デシ プラミン (3 mg瓜g) は 覚 醒 水 準 を 低 下 さ せ る 傾 向 を 示 し 、 眼 球 運 動 には 影 響し な か った 。
6. MCI‑225経口投 与(1〜30 mg瓜g)はラットの一般行動およぴ自発運動量に対して 影響 を 及ぼ さ ず 、30mg瓜gは 自発脳波 の覚醒水 準を軽度 に上昇さ せた。MCI‐225は serotonln(5‐HD3受容体阻害作用を反映するラットのvon‐BezoldJansch反射を抑制し、
その50%抑制量は経口投与で42m酊(gであった。
7. MCI‑225は ラット脳 シナプトツームにおけるNA,5‑HTの再取り込みを阻害し、再 取 り 込み を500/0抑 制す る 濃 度は そ れぞ れ1.8x10‑8Mお よび1.7x10‑6Mであっ た。
またMCIー225(10‑7〜10‑5ゆはラット脳のChAT活性、acetylcholinesterase活性および 高親和性コリン取り込みに影響しなかった。
8. MCIー225は各種神 経伝達物 質の受容体のうち、ラットの脳においてAChおよびNA の 放 出を 促進性に 修飾する とされる5‑HT3受容体に 高い親和 性を示し 、その特異 的
結合を 50% 抑制する濃度は8.1x10‑8M であった。
9. 以上の結果からM くニI‑225 は動物の行動や脳波に影響しない用量において中枢NA
系またはACh 系障害動物における行動の変化を回復させることが明らかにされ、本
化合物が注意および学習、記憶の障害を改善する可能性が示唆された。またMCI‑225
はNA 系、ACh 系を障害していない三叉神経前橋部離断標本においても注意カを亢
進させる可能性が示された。これらの作用機序として、本化合物が有するNA の再取
り込み阻害作用と5‑HT3 受容体阻害作用に基づく中枢NA 系機能の亢進、ならびに5 .
HT3 受 容 体 阻 害 に 基 づ く 中 枢 ACh 系 機 能 の 回 復 の 関 与 に つい て 考 察 し た 。
学位論文 審査の要旨 主 査 教 授 菅 野 富 夫 副 査 教 授 中 里 幸 和 副 査 教 授 斉 藤 昌 之 副 査 助 教授 葉原 芳昭 学 位 論 文 題 名
新規中枢神経作用薬 h/ICI ー225 の注意および学習、記憶に 対 す る 作 用 な ら び に そ の 作 用 機 序 に 関 す る 研 究
申請者は、新規化合物MCI‑225、【4‑(2‑fluorophenyl)‑6‑methyl‑2(1‑piperazinyl) thieno
[2,3‑d]pyrimidine monohydrate hydrochloride]の注意及び学習、記憶に対する作用ならびに その 作用 機序 につ いて 、ラ ット、 スナ ネズ ミお よびネコを用いて検討し、以下の結果を 得た。
背 側ノ ルア ドレ ナリ ン束(DNB)の破 壊に より 脳内 ノル アドレ ナリ ン(NA)系 を障害した ラッ トで は学 習の 消去 が遅 れた。MCI‑225 (10およ び30mg瓜g,経 口投 与) は、両側DNB を破 壊し たラ ット にお ける 走路課 題の 消去 の遅 れを用量依存的に抑制した。前脳基底部
(BF)破壊により大脳皮質へ投射するアセチルコリン(ACh)系を障害すると大脳皮質コリン アセ チル トラ ンス フェ ラー ゼ(CbAD活 性及 び局 所脳グルコース利用率(LCGU)の低下を 伴う 学習 障害 が生 じる 。MCI‐225連続 投与 は、 両側BF破壊ラットにおける受動性回避反 応 の 保 持 お よ びLCGUの 低 下 を 改 善 し た が 、ChA活 性 の 低下 には 影響し なか った 。視 覚 刺激 の動 きに 対す る追 跡眼 球運動 は注 意カ の水 準をよく反映する。ネコの三叉神経前橋 部離 断標 本に おけ る視覚刺激呈示時の眼球追跡運動をMCI.225(1および3mg瓜g,静脈内 投与 )は 用量 依存 的に 亢進 させた が、 自発 性の 眼球運動、大脳皮質脳波に対してほとん ど作 用を 示さ なか った 。MCI‐225(1〜30mg瓜g,経口投与)はラットの一般行動および 自発 運動 量に 対し て影響を及ぼさず、30mg瓜g,経口投与は自発脳波の覚醒水準を軽度に 上昇 させ た。MCI.225はセ ロトニ ン3型受 容体 阻害作用を反映するラットのvon‐Bezold Jarisch反 射を 抑制 した。MCI・225はラット脳シナプトソームにおけるNAとセロトニンの 再取 り込 みを 阻害 した 。MCト225は各 種神 経伝 達物 質の 受容体 のう ち、 ラッ トの脳にお い てAChお よ び ノ ル ア ドレ ナリ ンの 放出を 促進 性に 修飾 する とさ れる セ口 トニ ン3型 受 容体に高い親和性を示した。
以 上の 結果 からMCI‐225は動物 の行 動や 脳波 に影響しない用量において中枢NA系また はACh系障 害動 物に おけ る行 動の 変化 を回 復さ せる こと が明ら かに され 、本 化合物が注 意お よび 学習 、記 憶の 障害 を改善 する 可能 性が 示唆された。これらの作用機序として、
本 化 合 物 が 有 するNAの 再 取 り 込 み 阻 害 作 用 と セ 口 トニ ン3型受 容体阻 害作 用に 基づ く 中 枢NA系 機 能 の亢 進 、 なら びに セロ トニ ン3型 受容 体阻 害に 基づ く中 枢ACh系機 能の 回 復の関与を示唆した。
以 上の 研究 は、 新し い中 枢神経 作用 薬の 作用 とその機序について新知見を提供するも ので あり 、委 員一 同は 江口 淳一氏 が博 士( 獣医 学)の学位を受けるのに十分の資格を有 するものと認めた。