博 士 ( 医 学 ) 齋 藤 洋
学 位 論 文 題 名
The Role of macrophage IvIigration Inhibitory Factor (IVIIF) in Follicle Growth and Ovulation
(卵胞発育,排卵機構におけるマクロファージ遊走阻止因子の役割)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
緒言
卵巣機能には内分泌系のみならず免疫系の関与が報告され,卵胞発育および排卵機構に おけるサイトカインの役割が明らかになりつっある.マクロファージ遊走阻止因子(MIF) は遅延型アレルギー反応に関与するサイトカインとして発見され,現在炎症,免疫応答の イニシエーターとして機能すると考えられている.一方,MIF .は細胞の分化増殖能を促 すサイトカインのーつとしても知られ,最近卵巣機能調節への関与が示唆されている.本 研 究 で は, 卵 胞 発 育 お よ び 排 卵 機 構に MIF が関 与す るか否 かに つい て検 討した . 材料と方法
A) 卵 巣 組織 での MIF の局在 を調 べる 目的 で, 25 日齢 の幼 若雌 性Sprague ― Dawley く S −D) ラットの両側卵巣を摘出し,lAbelled Streptavidin Biotin (LSAB )法によるMIF 免疫組織染色を施行した.
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B ) 23 日 齢 に 妊 馬 血 清 性 性 腺 刺 激 ホル モ ン Qregnantmareserumgonadotropm , PMSG ) 151U を皮下投与したS ― D ラット排卵動物モデルを用いて以下の実験を行った.
実験群では,22 日齢より両側子宮付属器摘出前日までウサギ抗ラットMIF 抗体(以下,抗 MIF 抗 体 ) 600 閏 g を 24 時 間 毎 に 3 日 間 腹 腔 内 投 与 した は 群 ) . 対 照 群 で は同 様に Non ー ImmunoIgG600 ル g を 腹腔 内投 与した ( C 群) .A 群と C 群に ついて ,以 下の 1 )
〜 4 冫の比較検討を行った, 1 )PMSG 投与48 時間後にhCG101U を腹腔内に投与し,その 22
時間後に両側卵管を摘出し,採取した卵数を算出した. 2 )PMSG 投与47 時間後に摘出し
た両側卵巣の湿重量を計量した.またHE 染色を施行し,卵胞最大径により胞状卵胞(250
ロ m 以 上 500 ロ m 未満, 」弧 ralFOmCle ;AF ),成熟卵胞(500 ロm 以上,ne ()vmatoW
FOmcle ;PF )の2 種類に卵胞を分類し,全切片中のAF 数およびPF 数を算出した.3 )PMSG
投与47 時間後にA 群とC 群より摘出した両側卵巣,および同日齢( 25 日齢)でPMSG 未負
荷・抗体非投与のS ― D ラットより摘出した両側卵巣を採取,凍結保存し,各個体の両側
卵 巣 を 合 わ せ て 各 個 体 毎 の 検 体 と し て , 卵 巣 組 織 内 の イ ン ヒ ピ ン 濃 度 を
Immunc 岨uorometncassay く IFMA ) 法に より 計測し た. 4 ) PMSG 投与47 時間後に摘出
した卵巣を凍結保存し,各個体の両側卵巣を合わせて各個体毎の検体とし,卵巣組織内の
インヒピン amRNA 発現をノーザンブ口ット法により解析した.それぞれのシグナルは
MHImage 画 像解 析ソフ トに より 定量 化し, イン ヒピ ンa /Q 虹,DH 比を算出し,比較
検討、した.統計学的検討はUnpaired Student st―testにより行った,なおIFMA法による イ ン ヒ ピン 濃 度 の 比 較 に つ い て は ,OneーFactor ANOVAお よ びTurkey―Kramer法を 用 い て 検定 した .い ずれ の検 定に つい てもpく0.05を もっ て統 計学 的有意 差と 判定 した .
結果
A) PMSG未 負 荷 ・ 抗 体 非 投 与 の25日 齢S―Dラ ッ ト (n 2) に 対 し てLSAB法 に よ り MIF免疫 組織 染色 を行 い, 卵巣 の顆 粒膜 細胞 での局在が認められた.また卵巣莢膜細胞に も強い染色が認められた・
B)1)1個 体( 両側卵巣分)あたりの排卵数は,A群(n=9)で14.9土9.2個(mean土SD), C群 くn:11)で34.2土16.3個であ り,C群 と比 較しA群に おい ては 排卵 数が 有意Qく0.01) に 減少 した . 2)1卵巣あたりの湿重量は,A群くn=10)で20.2土9.5 mg,C群くn=10)で36.4 土5.3 mgで あ り ,C群 と比 較しA群に おい て卵 巣湿 重量 が有意Qく0.01)に減 少し た.1卵 巣 あ た り のAF数 ( 全切 片) は,A群くn=5)で45.0土9.6個,C群くn=5)で38.6土1311個で あり,両群に差はなかった,■方,PF数(全切片)は,A群くn=5)で12.2土5.8個,C群くn=5) で27.8土7.9個で あり ,C群 と比 較しA群 ではPF数が 有意Qく0.01)に減 少し た.3)両側卵 巣組織内のインヒピン濃度はA群くn=9)で1.2土0.7ng/ml,C群くn〓9)で2.8土1.9ng/ml, PMSG非 投 与 群 くn=4)で0.3土0.1 ng/′mlで あ り ,PMSG非 投 与 群 に 対 しC群 で は9.3倍 の ,A群 で は4倍 の イ ン ヒ ピ ン 濃 度 を 示 し た .A群 とC群 間 , お よ びC群 とPMSG非 投 与群間に有意Qく0.05)な差を認めた.4)インヒピンQmRNAの発現はA群くn=6)でO.515 土O.099,C群血 〓5) でO.918土0.064であ り,C群と比較してA群ではインヒピンamRNA の発現が有意¢くO.01)に減少した.
考察
本 研 究 で は , ま ずPMSG未 負 荷 , 抗MIF抗 体 非 投 与 で あ る 幼 若 ラ ッ ト に 対 し てMIF 免疫 組織 染色 を行 い, 卵巣顆粒膜細胞での局在を認めた.続いて幼若ラット排卵動物モデ ル に 抗MIF抗 体 を 腹 腔 内 投 与 し ,MIFが 卵 胞 発 育 お よ び排 卵機 構に 関与 する 可能 性を 検 討 し た , そ の 結 果 , 抗MIF抗 体 投 与 群 で は 排 卵 数 が 有意 に減 少し た. これ は内 因性MIF が十 分量 あれ ばそ れが 不足 する 場合 より 排卵 数が多 くなることを意味しており,MIFは排 卵 数 調 節 機 能 を 有 す る ことを 示し てい る. また 抗MIF抗体 投与 群で は対 照群 に比 し有 意 差はなかったものの,より未成熟である胞状卵胞数は増加した.一方,より成熟した段階の 成 熟 卵 胞 数 は 対 照 群 に 比し有 意に 減少 した .卵 巣湿 重量 は抗MIF抗 体投 与に より 有意 に 減少 した ,こ れら は, 抗MIF抗体 投与 によ り多 くの 卵胞が胞状卵胞の段階で発育が阻害さ れた こと を意 味し てお り,MIFが 卵胞 発育 過程 にお いて胞状卵胞から成熟卵胞への発育を 促進することを示している・
本 研 究 に お い て , 抗MIF抗 体投 与の 卵巣 組織 内で はイン ヒピ ン濃 度お よび イン ヒピ ン mRNA発 現 は 有 意 に 減 少 した. イン ヒピ ンは 重要 な卵 胞発 育調 節因 子で あり ,MIFの卵 巣 顆 粒 膜 細 胞 で の イ ン ヒ ピンの 生成 促進 効果 が示 唆さ れた .こ れはMIFと 卵胞 発育 の関 連 を さ ら に 補 強 す る 所 見 と 思 わ れ る . な お 抗MIF抗 体 投与 群 の 中 で , イ ン ヒ ピ ンamRNA シグ ナル が明 瞭に 減少 しな かっ た例 が6個 体中2個体 にみ られ た. これ が生 じた 原因のー つとしては,アクチピン,insulin like growthfaCtorくIGF)−I,フォリスタチンなどのインヒ ピ ン 以 外 の 卵 胞 発 育 調 節因子 の影 響が 考え られ ,今 後こ れら の因 子とMIFの 関連 につ い ても検討する必要がある.
今回の結果から,MIFは卵巣でのインヒピン産生増加を促進することが強く示唆された.
これは卵巣でのエスト口ゲンの産生増加につながり,LHサージを介した一連の排卵機構 の過程でMIFが関与する可能性が考えられる.一方,抗MIF抗体投与による排卵数およ び成熟卵胞数の減少の割り合いがほぽ同一であることから,MIFは卵胞発育に関与してい る可能性が示唆され今後さらに検討が必要である.
学位論文審査の 要旨
学位論文題名
The Role of macrophage IVIigration Inhibitory Factor (R/IIF) in Follicle Growth and Ovulation
(卵胞発育,排卵機構におけるマクロファージ遊走阻止因子の役割)
卵巣機能には内分泌系のみならず免疫系の関与が報告され,卵胞発育および排卵機構に おけるサイトカインの役割が明らかになりつっある.マクロファージ遊走阻止因子(MIF) は遅延型アレルギー反応に関与し,炎症,免疫応答のイニシエーターとして機能するとと もに,細胞の分化増殖能を促すサイトカインのーっとしても知られている.本研究では卵 胞 発 育 お よ ぴ 排 卵 機 構 に MIF が 関 与 す る か 否 か に つ い て 検 討 し た ・ 卵巣組織でのMIF の局在を調べる目的で,25 日齢の幼若雌性Sprague‑ Dawley (S‑ D) ラヅトの両側卵巣を摘出し,Labelled Streptavidin Biotin (LSAB) 法によるMIF 免疫組 織 染 色を施 行し た. 23 日 齢に妊 馬血 清性 性腺刺 激ホ ルモ ン (pregnant mare serum gon adotropin ,PMSG) .15 IU を皮下投与したS .D ラヅト排卵動物モデルを用いて以下 の実験を行った.実験群では,22 日齢より両側子宮付属器摘出前日までウサギ抗ラット MIF 抗 体(以 下, 抗MIF 抗 体) 600 ル g を 24 時間 毎に 3 日 間腹腔内投与した(A 群).対 照 群 で は 同 様に Non‑Immuno IgG 600 ル g を腹腔 内投 与し た (C 群). A 群とC 群 につ いて,以下の1 )〜4 )の比較検討を行った.1)PMSG 投与 48 時間後にhCG10 IU を腹腔内 に投与し,その22 時間後に両側卵管を摘出し,採取した卵数を算出した.2 いMSG 投与 47 時間後に摘出した両側卵巣の湿重量を計量した.また HE 染色を施行し,卵胞最大径 によ り胞 状卵 胞(250 ル m 以上500 皿m 未満,Antral Follicle ;AF) ,成熟卵胞(500 ル m 以上,Preovulatory Follicle ;PF) の 2 種類に卵胞を分類し,全切片中のAF 数およびPF 数 を 算出し た. 3)PMSG 投 与 47 時 間後 にA 群と C 群 より 摘出 した 両側卵 巣, およ ぴ同 日齢(25 日齢)でPMSG 未負荷・抗体非投与のS ―D ラヅトより摘出した両側卵巣を採取,凍 結保存し,各個体の両側卵巣を合わせて各個体毎の検体として,卵巣組織内のインヒピン 濃 度 をImmunofluorometric assay (IFMA) 法 によ り計 測した . 4 ) PMSG 投 与 47 時間 後に摘出した卵巣を凍結保存し,各個体の両側卵巣を合わせて各個体毎の検体とし,卵巣 組織 内の イン ヒピン 口mRNA 発現をノーザンブロット法により解析した.それそれの シ グ ナ ル は NIH Image 画 像 解 析 ソ フ ト に より 定 量 化 し , イ ン ヒ ビ ン a/GAPDH 比を 算出し,比較検討した.統計学的検討はUnpaired Student st‑test により行った.なお IFMA 法 に よ る イ ン ヒ ビ ン 濃 度 の 比 較 に つ い て は , One‑Factor ANOVA お よ び Turkey‑ Kramer 法を用いて検定した.いずれの検定についてもp く 0.05 をもって統計学
明 雄
典
範 輝
尚
木 橋
上
櫻 石
水
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
的有意差と判定した・
そ の 結 果 ,PMSG未 負荷 ・ 抗体 非 投 与の25日齢S‐Dラ ッ ト(n=2) に 対し てLSAB法 に よりMIF免 疫組 織 染 色を 行 い, 卵 巣 の顆 粒 膜細 胞 で の局 在 が認 め ら れた . ま た卵巣莢膜 細胞にも強い染色が認められた.1個体(両側卵巣分)あたりの排卵数は,A群(n=9)で14.9 士9.2個(m ean土SD),C群 (n=11)で34.2土16.3個 であ り ,C群と 比 較 しA群 に お いて は排卵数が有意(pく0.01)に減少した.2)1卵巣あたりの湿重量は,A群(n〓10)で20.2土9.5 mg,C群 (n=10) で36.4土5.3 mgであ り ,C群 と比 較 しA群に お い て卵 巣 湿重 量 が 有意
(pく0.01)に 減少した .1卵巣あ たりのAF数 (全切片)は,A群(n=5)で45.0土9.6個,C 群(n=5)で38.6土13.1個であり,両群に差はなかった.一方,PF数(全切片)は,A群(n〓5) で12.2土5.8個 ,C群 (n=5) で27.8土7.9個 で あ り,C群 と 比 較しA群 で はPF数 が有 意
(pく0.01)に減少した.3)両側卵巣組織内のインヒビン濃度はA群(n=9)で1.2土0.7n g/ ml, C群 (n=9)で2.8土1.9ng/ml,PMSG非投与群 (n〓4)で0.3土0.1 ng/mlであ り,PMSG 非 投 与 群 に 対 しC群 で は9.3倍 の ,A群 で は4倍 の イ ン ヒ ピ ン 濃 度 を 示 し た .A群 とC 群 間 , お よ ぴC群 とPMSG非 投与 群 間に 有 意 (pく0.05)な 差 を 認め た .4)イ ン ヒ ピン ぱ mRNAの発 現 はA群 (n〓6) で0.515土0.099,C群 (n=5)で0.918土0.064で あり ,C群と 比 較 し て A群 で は イ ン ヒ ビ ン ロ mRNAの 発 現 が 有 意 ( pく 0.01) に 減 少 し た . 本 研 究か ら ,MIFは卵 巣でのイン ヒビン産 生増加を 促進する ことが強 く示唆さ れた.こ れは 卵 巣 での エ ス トロ ゲ ンの 産 生 増加 に っな が り,LHサー ジを介し た一連の 排卵機構の 過 程 でMIFが 関 与 す る可 能 性が 考 え られ る . 一方 , 抗MIF抗 体 投与 に よる 排 卵 数お よ び 成熟 卵 胞 数の 減 少 の割り合い がほぼ同 一である ことから ,MIFは卵胞 発育に関 与している 可能性が示唆され今後さらに検討が必要である・
公 開 発 表 に 際 し , 副 査 の石 橋 教授 か ら ,抗MIF抗体 に よ り内 因 性MIFが 中 和さ れ る 程 度 , 抗MIF抗 体 投 与 例 の 免 疫 染 色 結 果 , 抗MIF抗 体 投 与 例 の 血 清MIF値 ,MIF投 与 実 験,卵巣 湿重量と 成熟卵胞 数との関 連,卵巣 組織内の インヒピン 濃度を検 体上清中濃度と 単位蛋白 あたりの 量につい て示した 意味,な どについ て質問があ った.副 査の水上教授か ら は , 本 研 究 で 示 し た 日 齢以 外 の 日齢 で の 卵巣 のMIF免 疫 染 色の 結 果, 卵 胞 発育 とMIF の関 係 , 抗MIF抗 体 投与 に よル イ ン ヒピ ン ,成 熟 卵 胞数 , 排卵 数 が 減少 し た 機序,など について質問があった.主査の櫻木教授からは,MIF発現につし、ヽてのin situ hybridization 実験 に つ いて , イ ンヒ ピ ンが 産 生 され る 顆粒 膜 細 胞に お けるMIFレ セプ タ ー の存在,な どについ て質問が あった. これらの 質問に対 して,申 請者は自身 のこれま での研究成績や 文献的情報をもとに概ね妥当な回答をなしえた.
審査員一 同は,こ れらの成 果を高く 評価し, 大学院課 程における 研鑽や取 得単位なども 併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 )の 学 位 を受 け る のに 十 分な 資 格 を有 す るも の と 判定 し た.