博士(薬学)秋保 啓 学位論文題名
脳虚血に伴う脳神経脳細胞死に対する オロト酸の作用に関する研究
学位論文内容の要旨
脳卒中はがん、心 臓病に次いで死亡原因の上位 を占める疾患であり、一般 的に脳出血と脳梗 塞に分類される。脳 梗塞では脳血管の閉塞によって循環障害をきたし、脳組織の壊死を呈する。
虚血により脳への エネルギー供給が断たれると 、その結果個々の細胞はそ の恒常性を保つこ とができなくなり、 この状態が続くことにで死に 至る。またたとえ短時間の 血流の遮断であっ ても一旦虚血にさら された神経細胞は、血流が再 開されることによって一時 的にはエネルギー 代謝が回復するもの の、数日後に神経細胞が死に 至る現象、すをわち遅発性 神経細胞死という 現象が知られるよう になり、虚血による神経細胞 死の機序は単にエネルギー 代謝の障害のみで はなくより複雑なも のであると考えられるように なった。
脳虚血に伴う細胞 内の変化として、細胞内のヌ クレオチドの変動、特にピ リミジンヌクレオ チド濃度が低下する ことが知られている。オロト酸はピリミジンヌクレオチドの前駆体である。
オロト酸の合成は、 ピリミジンヌクレオチド生合 成の律速であるため、外部 からのオロト酸の 供給は脳内ピリミジ ンヌクレオチドの濃度を上昇 させ、それに続くピリミジ ンヌクレオチドが 関与するさまざまな 生体反応に影響を及ぼすと考 えられる。
本研究では、脳虚 血の病態に対しオロト酸を供 給することは低下したピリ ミジンヌクレオチ ド濃度を上昇させ、 結果として虚血後の神経細胞 の障害を軽減する可能性が あるものと考え、
オロト酸の神経細胞 保護作用にっいての研究を行 った。
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一過性前脳虚血による遅 発性神経細胞死に対するオロ ト酸の神経細胞保護作用を検討した。
虚血 処置 の1時間 後に オロ ト 酸300 mg/kgを腹腔内投与した場合、 ほば完全に遅発性神経細胞 死が抑制された。
オ ロト 酸に よる遅発性神経細胞死抑 制作用のTherapeutic Time Windowを検討した結果、血 流再 灌流24時 間後 に 投与 した 場合 で も、遅発性神経細胞死がほぼ 完全に抑制された。本研究 の結果は、オロト酸による 遅発性神経細胞死抑制作用が 用量依存的であり、また他の化合物に は 認 め ら れ な い 、 広 いTherapeutic Time Windowを も つ こ と を 示 し て い る 。 2.オロ宀屡1の#鰹:紐瘤 架農繃ヲの麓亭
本研究ではマウス前脳皮 質アストロサイト初代培養系 において、低酸素、再酸素 化負荷によ る細胞内代謝に及ぼすオロ ト酸の作用を検討した。その 結果、オロト酸はアストロ サイトの低 酸素、再酸素化という負荷 に伴うエネルギー代謝障害、 脂質代謝障害、核酸代謝障 害に対し改 善作用を有することが明ら かとなった。また虚血侵襲に 伴う神経細胞における細胞 内代謝障害 に対しても同様に抑制作用 もつことが推測された。これ らの結果は、オロト酸が虚 血に伴う細 胞 内 代 謝 障 害 を 改 善 し 、 そ の 結 果 神 経 細 胞 を 保 護 する 効果 を 持つ こと を示 唆し て いる 。 3. オロF讃 のプ ロド ヲッ ク つ酸 およ びその一週艦鴕鍼虚虚′こ伴 彡緲醒紬鱠死にガナる競栞 オロト酸は水溶性 が低く、また脳への移行性も 低い。そのため、末梢から 投与する場合脳内 ヘ十分量のオロト酸 を供給するためには、末梢か ら高用量を懸濁液として投 与しなければなら
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な い 。本 研究 にお い てはYM‑39558(オ ロト酸エチルエステル)が脳 内ヘ効率よくオロト酸を 供 給することが可能な、オロ ト酸のプロドラッグであるこ とを示した。`{M‑39558は末梢から 投 与した場合、効率よく脳内 へ移行し、そこで加水分解を受け活性本体であるオロト酸となる。
こ のYM‑39558に よ り、 オロ ト酸 と同 様、一過性前脳虚血による遅 発性神経細胞死を抑制す る 効果が確認された。またこ の時のオロト酸の脳脊髄液中 濃度を検討した結果、効果発現には 脳 脊 髄液 中オ ロト 酸 の濃 度が 数十LLM以上 、か つ この 濃度 が低下す ることなく長時間維持さ れ ることが必要であることが 明らかとなった。
ラ ット 、イ ヌ、ヒトにおいてのYM‑39558の代謝、分解を検討した 結果より、`)CM‑39558を 末 梢投与した場合、イヌ、ヒ トではラットと比較し、より 効率よく脳内ヘオロト酸を供給する こ と が可 能で ある こ とが 判っ た。 またYM‑39558の 水溶 性は オロト 酸の約5倍であった。以上 よ りYM‑39558をヒ ト に応 用す る場 合に は水溶液として静脈内投与が 可能であり、またオロト 酸 自体を投与する場合に比ペ 、より低用量の末梢投与で脳 内に必要量のオロト酸を効率よく供 給 できると考えられた。
4ネ コ ≠ . 尢 錨 動 鍜 閲 讐 : 屈 厨 溌 艫zだ 伴 彡 鰡2戳 眉 盈 攬 澎 増 冬 佑 と 梗 饗 喋 鮒 の 閲 鑷 ネコの中大脳動脈閉 塞局所脳虚血モデルにおい て、脳波、脳血流、および梗塞巣の関係を検 討した結果、電気生理 学的機能を維持するのに必 要となる脳血流の閾値が10 ml/min/100gと20 ml/min/100gの聞 に 存在 する こと 、この血流閾値を下回る 程度の虚血状態の個体におい ては6 時間という時間の要因 が加わることにより、均一 に広範囲が梗塞となることが判った。また、
中大 脳動 脈 閉塞 後15分間 の脳 波 を観察することにより虚血 の程度を推測することが可 能であ り、この間に脳波の回 復が認められない個体、す なわち上記の血流闕値を下回る程度の虚血状 態の個体を選択するこ とにより、虚血負荷の程度 が均一な個体群を作成することが可能である ことが明らかとなった 。
iネ コ チ 元 甜 勤 餠 閉 饗 矚 励 瀰 嘘 位 だ 伴 彡 梗 墓 巣 進 露 に ガ ナ る YM‑39558の 繃 ヲ ネコ の 中大 脳動 脈閉 塞局 所 脳虚血モデル において、YM‑39558の神経細 胞保護作用を検討し た 。そ の結果、11.8 mg瓜gm静脈内持続投与 により、大脳皮質の梗塞巣進 展が抑制された。こ の時の 脳脊髄液中のオロト酸の濃度 を検討した結果から、オロ ト酸が梗塞巣の進展を抑制する に は、 数 十山Mの濃 度 が必 要で ある こ とが 明ら かと なっ た。この濃度は 、一過性前脳虚血に よ る遅 発 性神 経細 胞死 を抑 制 する のに 必要 とな る 脳脊 髄液中オロト酸 濃度、さらにm晒伽実 験系に おいて低酸素、再酸素化負荷 に伴う細胞内代謝障害を抑 制する作用を示したオロト酸濃 度 と一 致 して いた 。以 上よ り 、オ ロト 酸は 数十pMの濃 度で 、虚 血 侵襲 に対 し神 経細胞保護 作用を もっものと考えられる。
オロ ト酸は水溶性が低く、そのた め高用量を投与した場合、 腎臓に結晶が析出し腎毒性を示 し た。 こ れに 対し 、YM.39558の有効用量は 低減され、またその水溶性 はオロト酸の約5倍で あらた ことより、腎臓には結晶が析出せず腎毒性を回避できるものと予想した。しかしながら、
ネ コにYM‐39558を静脈内投与した場合、検 討したいずれの用量群におい ても腎臓の集合管内 に析出 結晶が存在する個体が認めら れた。いずれの個体におい ても集合管に組織傷害は認めら れなか ったものの、腎障害を引き起 こす可能性を完全に否定し 得ない。そのため、ヒ卜に応用 す るに は安全性 の観点より危険であると結論 した。また、YM_39558の有 効用量に関しても、
ヒトヘ の投与量に換算した場合、さ らなる低用量化が望まれる 。さらに性質を改善したオロト 酸プロ ドラッグの開発が必要である 。
今後 、脳虚血による神経細胞障害 の過程を解明する上で、オ ロト酸がその研究ツールとして の―役 を担うことと共に、オロト酸 の神経細胞保護作用が明ら かにされ、さらにはそれに基づ いて医 薬の開発が成されることを切 望する。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
野 村 靖 幸 長 澤 滋 治 高 橋 和 彦 大 熊 康 修
学 位 論 文 題 名
脳虚血 に伴う脳神経脳細胞死に対する オ ロ ト 酸 の 作 用 に 関 す る 研 究
申 請 者 は 、 脳 虚 血 に 伴 う 脳 神 経 細 胞 死 に つ い て の 研 究 を 進 め 、ピ リ ミ ジ ン ヌ ク レ オ チ ド 生 合 成 過 程 に お け る 前 駆 体 で あ る オ ロ ト酸 が 脳 虚血 に 伴 う 神 経 細 胞 死 を 抑 制 す る こ と を 見 い 出 し 、 そ の 作 用 機 序を 検 討 、さ ら にYM―39558( オ ロ ト 酸 工 チ ル エ ス テ ル ) が 脳 内 ヘ 効 率 よ く オ ロ ト 酸 を 供 給 す る こ と が で き る オ ロ ト 酸 の プ ロ ド ラ ッ グ で あ る こ と、 ま た 脳虚 血 モ デ ル 動 物 に お ぃ てYM−39558を 投 与 す る こ と に よ り 脳 虚 血 に 伴 う 神 経 細 胞 死 が 著 明 に 抑 制 さ れ る と ぃ う 新 知 見 を 得 、 本 学 位 論 文と し て 申請 し た 。
オ ロ ト 酸 が 、 ― 過 性 前 脳 虚 血 に 伴 う 海 馬CA1領 域 に お け る 遅 発 性 神 経 細 胞 死 を 抑 制 す る こ と 、 ま た こ の 効 果 は 虚 血 再 灌 流 の24時 間 後 に投 与 し た 場 合 に も 認 め ら れ る こ と を 見 い 出 し た 。 こ れ は 、 臨 床 の現 状 に おぃ て 脳 虚 血 病 態 の 発 症 か ら 治 療 開 始 ま で に あ る 程 度 の 時 間 を 要す る こ とを 鑑 み 、 非 常 に 大 き な メ リ ッ ト と な り 得 る 性 質 で あ る こ と を 示 唆 し た 。 次 に 、 オ 口 ト 酸 が ァ ス ト ロ グ リ ア 細 胞 の 低 酸 素 、 再 酸 素 化 負 荷に 伴 う エ ネ ル ギ 一 代 謝 障 害 、 脂 質 代 謝 障 害 、 核 酸 代 謝 障 害 に 対 し明 確 な 改善 効 果 を も つ こ と を 示 し 、 こ れ ら の 事 実 か ら オ ロ ト 酸 は 虚 血 侵襲 に 伴 う細 胞 内 代 謝 障 害 を 改 善 し 、 そ の 結 果 神 経 細 胞 を 保 護 す る も の と 示 唆 し た 。 オ ロ ト 酸 は 水 溶 性 が 低 く 、 ま た 脳 へ の 移 行 性 も 低 い 。 そ の た め、 末 梢 か ら 投 与 し た 場 合 脳 内 ヘ 十 分 量 の オ ロ 卜 酸 を 供 給 す る た めに は 、 末梢 か ら 高 用 量 を 懸 濁 液 と し て 投 与 し な け れ ば な ら な ぃ 。 今 回 、 申 請 者 はYM‑