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博 士 ( 薬 学 ) 櫻 間 照 雄 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 薬 学 ) 櫻 間 照 雄

学 位 論 文 題 名

組 織 プ ラ ス ミ ノ ー ゲ ン ア ク チ ベ ー タ お よ び 抗 血 小 板 薬 SM ・ 20302 に 関 す る 薬 理 学 的 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  生体は、血管損傷時の出血に対する防御機構として止血血栓を形成するが、一方、動脈硬化プ ラー クの破綻時などで血管を完全に閉塞し重大な臓器障害を招来する病的血栓を形成すること がある。動脈硬化プラークの破綻により露出した内皮下組織に血小板が粘着し、続いて血小板よ り種々のagonistsが放出されると血小板が次々に活性化され、血小板膜上にフアブリノーゲン受 容体であるGPn b/lIlaが露出し、血漿中のフアブリノーゲンを介した血小板の凝集が生ずる。さ らに この血小板血栓上で血液凝固反応が進行しフアプリンの形成が起こり血栓として安定化す る。このようにして形成された血栓が血流を抑制し、心筋梗塞、脳血栓症、一過性脳虚血発作あ る い は 心 原 性 脳 梗 塞 症 等 の 虚 血 性 疾 患 、 い わ ゆ る 血 栓 症 を も た ら し て い る 。   これら血栓症治療の目的で多くの抗血栓薬が使用されているが、血栓溶解薬である組織プラス ミノーゲンアクチベー夕(t‑I)〜および血小板凝集阻害薬(GPn b/llla antagonist)もこれら血栓 症治療に重要な位置を占めるものである。

  今回 、t‑PAおよ び新規GP II bl皿aantagonistであるSM‑20302にっいてそれぞれ病態モデル を用いてその特徴を明らかにしたので報告する。

1.組 織 プ ラ ス ミ ノ ー ゲ ン ア ク チ ベ ー 夕 ( t PA)の 血 栓 溶 解 作 用 の 研 究   血栓溶解療法は血管内に生じた病的血栓を溶解し、虚血に陥った組織への血流を再び取り戻す ことを目的とした治療法である。従来、ヒト尿由来のウロキナーゼが使用されてきたが、プラス ミノーゲンをプラスミンに変換しフアブリン・血栓を溶解するものである。ウロキナ―ゼは血栓 特異性をもたず、血栓溶解と同時に出血傾向をもたらすことが問題となっていたが、t ‑PAは血 栓を構成するフアプリンに対する親和性が高く、出血傾向を抑えることのできる血栓溶解剤であ る。

1) イ ヌ 冠 動 脈 血 栓 モ デ ル に お け る 一 本 鎖 t‑PAお よ び 二 本 鎖t‑PAの 比 較   t‑PAは527個 の ア ミ ノ酸 か ら なる セ リンプロ テアー ゼであり 、一本 鎖型とし て分泌さ れ る が 、275位Argと276位Ileの 間 で プ ラ ス ミ ン に よ る 切 断 を 受 け 二 本 鎖 型 と な る 。 これらニつのタイプのt‑PAにっいて、イヌ冠動脈血栓モデルを用いて血栓溶解作用をウロキナ ーゼとともに比較検討した。

  イヌの冠動脈左前下行枝に銅コイルを挿入し、血流が途絶えたことを血管造影にて確認し、一 本 鎖t‑PA、 二 本 鎖t‑PAを そ れ ぞ れ5000IU7kg/min、 ウ ロ キ ナ ー ゼ を663IU7kg7minの 速 度 で60分 間 持 続 注 入 し 、 血 管 造 影 に よ り 再 開 通 ま で の 時 間 を 確 認 し た 。   二本鎖t‑PA、ウロ キナー ゼでは6例全例 に再開 通が認め られた 。一本鎖t‑PAでは6例中5例

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に再開通が認められた。再開通までの時間は各薬物群とも同程度であった。一方、血中フィブリ ノーゲンはウ口キナーゼ群に低下が認められたが、一本鎖t‑PA、二本鎖t‑PAとも低下は認めら れなかった。

2) ラッ ト脳 塞 栓モ デル にお ける二本 鎖t‑PAの神経症状改善作用(ウロキナーゼとの比較)

  住友製薬においてニ本鎖t‑PAが新規血栓溶解剤として開発され、この二本鎖t‑PAのラット脳 塞栓モデルにおける神経症状悪化抑制効果、梗塞面積増加抑制効果、さらに血中フアブリノーゲ ン、出血の頻度に及ぼす影響にっいてウロキナーゼと比較検討した。

  塞栓子(微小血栓)をラットの左総頸動脈内に注入し脳塞栓症を惹起した。t‑PA (5xlOsIU/kg) を塞栓子注入5分後お よび3時間後に静脈内注入することにより、神経症状の悪化抑制が認めら れた。塞栓子注入の6時間後にt‑PAを投与した場合には有意な神経症状の悪化抑制は認められ なかったが、脳梗塞面積増加抑制作用が認められた。ウロキナーゼにも神経症状の改善、脳梗塞 面積増加抑制が認められたが、t‑PAには認められなかった血中フアプリノーゲンの減少と頭蓋内 出血増加傾向がうかがわれた。

2.新規GP JIb7皿aアンタゴニストSM‑20302の抗血栓作用の研究

  住友製薬研究所において合成化合物のスクリーニングにより、強カなin vitro血小板凝集阻害 作 用を 有す るGPn b/llIaアン タゴ ニス ト、SM‑20302が見 出 され た。このSM‑20302のinvivo 抗血栓作用および出血副作用にっいて検討した。

1)モルモット大腿動脈血栓モデルにおける血栓形成抑制作用

  モル モッ トにrose bengalを静脈内投与し、大腿動脈に540nmの光照射すると活性酸素が発 生 し 、 血 管 内 皮 障 害 が 生 じ 血 栓 が 形 成 さ れ 閉 塞 に 至 る 。rose bengal投 与 の2時 間 前 に SM‑20302(0.1‑3mg/kgを経口投与しておくことにより、閉 塞までの時間が用量依存的に延長し た。

2)モルモット一過性脳虚血発作モデルにおけるSM.20302の予防効果

  モル モッ トの左総頸動脈にADP/epinephrine溶液を持続注入することにより一過性脳虚血 発作を誘発した。虚血発作誘 発1時間前にSM‐20302(0.3、1mg瓜g)を経口投与したところ、

神経症状の悪化抑制作用がみられたが、aspirin(100mg瓜g、誘発1時間前経口投与)、tic10pidine

( 300mg瓜 g、 誘 発 3時 間 前 経 口 投 与 ) に は 有 意 な 作 用 は 認 め ら れ な か っ た 。 3)イヌ冠動脈血栓症モデルにおける血栓形成抑制作用

  イヌの冠動脈左回旋枝に電極を挿入し、電気的刺激を加え血管内皮細胞を損傷する冠動脈血栓 症モデルを用い、血栓形成抑 制作用を検討した。SM.20302を静脈投与した群では、対照群に比 べ、冠動脈閉塞頻度の減少、閉塞までの時間の延長および死亡率の低下、血栓重量の減少、心筋 梗塞面積の抑制が認められた。

4)マウス消化管易出血モデルによる治療安全域の検討

  マウスに0.1N塩酸.90%ethan01溶液を投与することにより、消化管易出血モデルを作製し、

exvivo血小板凝集抑制作用と の比較から、出血副作用に対する治療安全域にっいて検討した。

塩酸.ethanol溶液投与24時間後に出血の有無を観察し、最小出血用量(MHD)を求めた。また塩 酸.ethan01溶液投与直前の時点に採血し、exlv0血小板凝集活性を測定し、50%血小板抑制を 示す用量(ED50)を求め、MHD/ED50比を算出した。

  SM.20302のMHD/ED50比は150で あっ たの に対 し比 較対 照のcyclo(RGDT)2、aspirinお よびticlopidineではそれぞれ6.3、1.4および7.5であった。このことから、SM‐20302は他薬 に 比 較 し て 出 血 副 作 用 の 少 な い 治療 安全 域の 広い 抗血 栓薬 で ある 可能 性が 示唆 され た。

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SM‑20302は血小板凝集を抑制するが、粘着は抑制しない可能性が示唆され、このことが出血に 対する安全域の広い原因になっているものと思われた。

  以上、t‑PAおよびSM‑20302は出血 副作用 に対し、既存の血栓治療薬に比べより治療安全域 の広いものであることを明らかにするとともに、出血副作用に対する治療安全域の広い血栓治療 薬の開発のための実験的方法論を提示できた。

‑ 271

(4)

学位論文 審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

野村 五十嵐 大熊 井/口

学 位 論 文 題 名

靖幸 靖之 康修 仁一

組織プ ラスミノ ーゲン アクチベ ータおよび 抗血小板薬 SIN/I‑20302 に関する薬理学的研究

  申 請 者 は 、 血 栓 溶 解 薬 で あ る 組 織 プ ラ ス ミ ノ ー ゲ ン ア ク チ ベ ー タ(t‑PA) お よ び 抗 血 小 板 薬 で あ る 血 小 板 膜 糖 蛋 白 質(GP II b/llla)ア ン タ ゴニ ス トSM‑

20302に つ い て 、 薬 理 作 用 を 種 々 検 討 し 、 そ の 特 徴 を 明 ら か に し た 。   t‑PAは 、527個 の ア ミ ノ 酸 か ら な る セ リ ン プ ロ テ ア ー ゼ で あ り 、 一 本 鎖 型 と し て 分 泌 さ れ る が 、275位 ア ル ギ ニ ン と276位 イ ソ ロ イ シ ン の 問 で プ ラ ス ミ ン に よ り 切 断 を 受 け 二 本 鎖 型 と なる 。 血 栓溶 解 薬 とし て 臨 床使 用 に あた り 、 こ の 一 本 鎖t‑PAと 二 本 鎖t‑PAと の 薬 理 学 的 性 質 の 違 い に 興 味 が 持 た れ て い た と こ ろ で あ り 、 イ ヌ 冠 動 脈 血 栓 モ デ ル を 用 い て 、 一 本 鎖t‑PAと 二 本 鎖t‑PA を 静 脈 内 投 与 し て 血 栓 溶 解 作 用 を 比 較 検 討 し た 。 冠 動 脈 左 前 方 下 行 枝 に 形 成 さ れ た 閉 塞 性 血 栓 は 、t‑PAの 投 与 に よ り 溶 解 し 、 血 流 の 再 開 通 が な さ れ た こ と を 血 管 造 影 的 に 確 認 し た 。 そ の 再 開 通 率 お よ び 再 開 通 ま で の 時 間 に は 一 本 鎖t‑PA、 二 本 鎖t‑PA間 に 差 が 認 め ら れ な い こ と 、 お よ び 血 中 フ ア ブ リ ノ ー ゲ ン の 低 下 は 認 め ら れ ず 、 全 身 の 線 溶 亢 進 が 伴 わ ず に 血 栓 溶 解 作 用 が 発 揮 さ れ た こ と が 明 ら か と な っ た 。 既 存 の 血 栓 溶 解 剤 で あ る ウ ロ キ ナ ー ゼ は 、t‑PAと 同 等 の 血 栓 溶 解 作 用 を 示 す 用 量 で 、 全 身 線 溶 の 亢 進 が 生 じ て い る 。 こ れ ら の こ と か らt‑PAは 一 本 鎖 型 、 二 本 鎖 型 と も 同 等 の 血 栓 溶 解 作 用 を 有 し 、 ウ ロ キ ナ ー ゼ よ り も 出 血 の 危 険 の 少 な い 急 性 心 筋 梗 塞 治 療 薬 に な り う る こ と が 示 唆 さ れ た 。

  ま た 、 ラ ッ ト の 脳 塞 栓 症 モ デ ル を 用 い て 、 脳 塞 栓 症 に 対 す るt‑PAの 臨 床 応 用 の 可 能 性 に っ い て 検 討 し た 。 脳 塞 栓 を 発 症 さ せ た ラ ッ ト にt‑PAを 静 脈 内 投 与 す る こ と で 、 死 亡 の 抑 制 、 神 経 症 状 の 改 善 お よ び 梗 塞 面 積 の 減 少 が 認 め ら れ 、t‑PA投 与 に よ る 血 流 再 開 に よ る も の で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 さ ら に 投

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与量との相関および脳塞栓発症後からt‑PA 投与までの時間による影響につい て検討を行い、塞栓症発症後できるだけ早い時期にt‑PA を投与することが効 果的であることを示している。また、同様の検討がウロキナーゼを用いて実 施された。t‑PA 同様に、死亡の抑制、神経症状の改善が認められたが、t‑PA とは異なり、血中フィブリノーゲンの減少および頭蓋内出血の増加傾向が明 らかであった。これらの結果から、脳塞栓症もt‑PA による血栓溶解療法の適 用となる可能性が強く示唆された。実際に、本邦において脳塞栓症を対象と してt‑PA の臨床試験が実施され、続いて米国において臨床試験が開始されて いる。

  SM‑20302 は、血小板凝集阻害薬であり、光化学的に活性酸素を発生させる ことにより血管壁を損傷して血栓を形成させるモルモット大腿動脈血栓モデ ル、血管壁に電気刺激を与えて血栓を形成させるイヌ冠動脈血栓形成モデル、

およびアデノシンニリン酸/エピネフリンを投与して生じるモルモット一過性 脳虚血発作モデルおいて血栓形成抑制を示すことを明らかにした。その検討 の中で、経時的に血小板凝集抑制率をモニターすることにより、血小板凝集 が必ずしも100 %抑制されていなくとも血栓形成が抑制されることを明らか にした。また、血管壁の損傷が生じても6 時間程度、血小板の凝集を抑制し ておくことで血栓形成を防ぐことができることを示した。この現象について、

血小板形成亢進状態にある損傷血管壁が不動化、すなわち血小板を刺激しな

い 状 態 を 獲 得 す る こ と に よ る 血 栓 形 成 抑 制 と し て 推 察 し て い る 。

  SM‑20302 の作用機序は、血小板凝集の最終経路である血小板膜上のGPIIb /

Illa とフアブリノーゲンの結合を阻害するものである。一方、血小板は各々の

受容体を介して、血管壁のコラーゲン、von Willebrand 因子等の接着蛋白質に

結合する粘着反応を生じる。SM‑20302 は他の接着蛋白質に比べ、血小板とフ

ィブリノーゲンとの結合に対し特異性の高い阻害作用を持つ化合物としてス

クリーニングされており、血小板粘着に対する影響が少なく、出血副作用の

りスクの小さな抗血小板薬となる可能性を提起した。このことを実験的に証

明するためにマウスを用いて消化管易出血モデルを新たに作製して検討して

いる。このモデルにおいて、SM‑20302 はフィブリノーゲンに特異性を示さな

い血小板受容体阻害物質、および血小板活性化抑制作用を有する既存の抗血

小板薬に比べ、血小板凝集抑制を示す用量と出血を生じる用量に大きな乖離

があることを明らかにした。これらの結果は、SM‑20302 は血小板の凝集作用

を抑制するが粘着作用には影響を与えず、そのことにより出血副作用に対す

る安全域の広い薬物となる可能性を強く示唆するとともに、治療安全域の広

い 抗 血 栓 薬 開 発 の た め の 新 た な 実 験 的 方 法 論 の 提 示 と な っ て いる 。

   以上、本論文審査委員会は、 t‑PA 及びSM‑20302 にっいて抗血栓薬として

の薬理学的特徴を明らかにし、臨床応用においてその有用性および実用性を

(6)

具体的に明らかにした論文と判定し、本論文は申請者の博士(薬学)の学位

を受けるに十分に値するものと認めた。

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