博 士 ( 薬 学 ) 赤 澤 学 位 論 文 題 名
隆
MHC classl と異なるNK 細胞制御分子Cho‑l に関する研究 学位論文内容の要旨
【序論】
初 期生 体防御 系とし て重要 な役 割を持 つNatural Killer( NK)細 胞の標 的細 胞障害 機構には,正と負 の2重 の 制 御機 構 が あ る こ とが 知 ら れ , 特に 負 の 制 御機 構に関 する 研究が 進んで いる. 標的細 胞上 のMHC classIが 負のNK.細胞 制御分 子と して働 くこと が明ら かとな り, そのNK細 胞側のレセプタ―は Killer cells inhibitory receptor( KIR)と総称され多数発見されている,また,KIRの研究の発展からりガ ン ド 不 明 の 抑 制性 レ セ ブ タ ーが 発 見 さ れ ,MHC classI以 外 のNK細胞 制 御 分 子の存 在が示 唆され る ようになった.
札 幌 医 科 大 学 第 ー 病 理 学 講 座で は ,NK細胞 抵 抗 性 のWKAラ ッ ト 胎児 由 来 線 維 芽細 胞 株WFBと そ の H―ras癌 遺伝 子 形 質 転 換株 でNK細 胞感 受 性 のW31を 用 い て 新規NK細 胞 制御 分 子 の 同 定が 試 み ら れ て き た そ の 研 究過 程 で ,WFBに 対 す る単 ク ロ ― ン 抗 体の 中 か らW31と は 反 応し ない抗 体が分 離され Cho―1抗体と 名付 けられ た.ま た,こ のChoー1抗体で 処理 したWFBはNK細 胞感 受性に なるこ とから , Choー1抗体 の 認 識 す る分 子 (Cho―1分子) はラッ ト標的 細胞表 面に 発現す る負のNK細胞 制御分 子で あることが示唆されていた.
本 研究 では, このChoー1抗体 を用い て,ま ず,Cho−1分 子の発 現に関 する性 質を検 討した.また,細 胞 障 害 活 性 を 保持 し た ヒ トNK lymphoma細 胞 を 樹 立 し, ラット のNK細胞 制御 分子Choー1のヒ トNK細 胞 , ま た は ヒ ト細 胞 障 害 性T細 胞 (CTL)に よ る 標的 細 胞障 害機構 への関 与につ いて 検討し た.さ ら に ,Cho―1分 子 と 既 知 のNK細 胞 制御 分 子 で あ るMHC classIと を 比 較 ・ 検討 し た の で 報 告す る ,
【結 果およ び考察 】
1, ラッ 卜標的 細胞上 のCho−1分子の 性質に 関する検討
ま ず,Cho―1分 子 に つ いて ,WFBにおけ る高発 現条件 を検討 した ,FACS解 析の結 果,Cho−1分子 は IFNy存 在 下, 低FCS濃 度 及 び 高 細 胞密度 の条件 で,そ の陽性 細胞 率が高 いこと が明ら かと なった . ま た, 共 焦 点 レ ーザ 一 顕 微 鏡 によ る 観 察 で は, 細 胞 間 の接 着部位 に強い 発現が 認め られ,EDTA処 理によ り,細 胞間 の接着 をなく すとそ の発 現が減 少する ことが 認められた,以上の結果から,Cho−1 分子は 細胞間 の接 着に関 連して 発現す る分 子であ ること が予想 された ,
2. ヒ トNK lymphoma細胞の 樹立
NK細 胞制 御 機 構 を 検討 す る た め に はNK細 胞 が常に 供給さ れる ことが 望まし い.し かし, ヒトNK細胞 障 害 活 性 の測 定 に は ヒト 血液よ り調製 され たNK細胞 を含むPeripheral Blood Lymphocyte(PBL)が使 用 さ れ お り,T細 胞 の 混在, および 調製さ れたNK細胞の 質的・ 量的な 変化 など様 々な問 題が生 じる . そ こ で ,NK lymphoma患 者 の 血 液 よ り ,CD3陰 性 ,CD16陽 性 ,CD56陽 性, ま た ,KIRの1つ で ある CD94陽 性 の 培 養 可 能なNK lymphoma細 胞 を 樹立 し た ,PBLとNK lymphoma細 胞に つ い てNK細 胞 障 害 活 性 を 測 定し た と こ ろ , MHC classI陽 性 の ヒト 口 蓋 線 維 芽細 胞 株HEPMは 障 害 せず ,MHC classI 陰 性 の 前 赤 芽 球 系 自 血 病 細胞K562を 障 害 し ,KIRに 制 御 され たNK細胞 障 害 活 性 を 示し た , ま た ,
―574一
PBL中 のNK細 胞 の 割 合 を考 慮 し た 結 果 ,こ のNK lymphoma細 胞 は正 常 のNK細 胞 と ほ ぼ 同 等のNK細 胞 障 害 活 性 を も つ こ と が 確 認 さ れ た ,
3. ヒト標 的細胞 上のCho―1分 子の性 質に関 する検討
ラ ットで 発見さ れたCho−1分子 によ るNK細胞 制御機 構が ヒトの 系にも 存在す るか を検討した,Cho―1 抗 体 の 認 識 す る 分 子 はNK感 受 性 のK562に は 発 現 せ ず ,NK抵 抗 性 のHEPMに 発 現 する こ と が 明 ら か に な っ た. ま た ,HEPMをChoー1抗 体で処 理する と負の 制御 が解除 され,NK細胞 感受性 となる こと が 示され た.こ の結 果,Choー1分子 はラット,ヒトと種を越えて存在するNK細胞制御分子であることが 示 された ,
ま た ,KIR研 究 の 発 展に 伴 っ て 負 の制 御 機 構 は 多種 の免 疫細胞 に存在 するこ とが 明らか となっ てき て い る. そこで ,このCho―1分 子がCTLに よる標 的細胞 障害機 構に 対して も抑制 性分子 として 働く 可 能 性 に つ い て .Cho―1分 子 陽 性 の ヒ ト 胃 印 環 癌 細 胞株HST―2と そ の 特 異 的反 応 性 を 持 つCTL. TcHST―2を 用 いて 解 析 し た ,そ の 結 果 ,CTLの 系 ではCho―1抗体 によ る負の 制御の 解除は 認めら れ ず ,Cho−1分子はNK細胞 のみに 働く抑 制分子 である こと が示唆 された .
次 に2つ のNK細 胞 制 御 分 子 ,Cho−1分 子 とMHC classIを 比 較検 討 し た . 抗MHC classI抗 体 を 用 い て 免 疫 沈降 し たMHC classIをCho−1抗 体 でWestern blot解析 した結 果,Cho−1抗体 はMHC class Iと は 反 応し な い こ と が確 認 さ れ ,Cho−1分 子とMHC classIが免 疫化学 的に異 なる分 子で あるこ と が 示 さ れ た, ま た ,NK細 胞 障害 活性に 対するCho―1抗 体と抗MHC classI抗 体の影 響を 検討し たとこ ろ ,NK細胞 抵 抗 性 のHEPMはCho−1抗体 ,抗MHC classI抗体 処理に よりNK感受性 となっ た. さらに , 2つ 抗 体 で同 時 に 処 理 する と 相 加 的 な 細胞 障 害 活 性 の増 強 が 見 ら れた . この 結果は ,2つの異 なる NK細 胞 制 御 分 子 が 独 立 し て NK細 胞 制 御 に 働 い て い る こ と を 示 唆 し て い る . 生 体 に お いてMHC classIが 発 現 し て いな い 組 織 と して , 胎 盤 ・ 絨毛 組 織が 知ら れてい るが,NK細 胞 の障害 を回避 する 理由は 明らか となっ ていな い, そこで ,人工 中絶に よっ て得られた,正常絨毛組 織 と 流 産 によ っ て 得 ら れ た流産 織毛 組織に ついて ,Choー1分子の 発現を 免疫 組織染 色,及 びFACS解 析 に よ っ て解 析 し た . そ の結果 ,正 常絨毛 組織に はChoー1分子の 発現が 認め られ, 流産絨 毛組織 に はCho−1分 子 の 発 現は 認 め られな かった .流 産時のCho−1分 子が消 失する メカニ ズム は現在 のとこ ろ 不 明で あるた め,流 産の 原因がChoー1分 子の消 失に起 因する とは 断定で きない .しか しl正常絨 毛 組 織 に はCho−1分 子の 発 現 が確認 された こと から, 生体内 におい てもCho―1分子 がNK細 胞制御 分子 と して働 いてい る可 能性が 示唆さ れた,
【ま とめ】
1)Cho−1分 子 は 細 胞 間 の 接 着 に 関 連 し て 発 現 量 が 増 大 す る 分 子 で ある こ と が 示 唆さ れ た . 2) NK lymphoma患 者 の 血液 よ りCD3陰 性 ,CD16陽 性 ,CD56陽 性か つ ,細 胞障害 活性を 保持し た 培 養可能 なNK lymphoma細 胞を樹 立した .
3)ラッ ト線維 芽細胞 に対し て作 製され たCho−1抗体の 認識す るChoー1分子は ヒ卜の標的細胞にも存 在 し,NK細 胞制御 分子 として 働く, しかし ,こ の分子 は細胞 障害性T細 胞に対しては抑制分子と し て働か ないこ とが示 唆さ れた.
4) Cho―1分 子 はMHC classIと は 異な る 新 し い負 のNK細胞 制御分 子で あり, 独立し てNK細 胞に対 し て抑制 的に働 くこと が示 唆され た.
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
長澤 横沢 高橋 澤田
学 位 論 文 題 名
滋治 英良 和彦
均
MHC classl と異なるNK 細胞制御分子Cho‑l に関する研究
NK
細 胞 は 、 ウ イ ル ス 感 染 細 胞 や 腫 瘍 細 胞 を 攻 撃 破 壊 す る 先 天 性 免 疫 系 の 細 胞 で あ る 。 獲 得 性 免 疫 系 で 同 様 な 働 き を す る キ ラ ー
T細 胞 は そ の 抗 原 レ セ プ タ ー で 、
MHC一
I分 子 上 に 提 示 さ れ た 抗 原 ペ プ チ ド を 識 別 す る 事 は 良 く 知 ら れ て い る が 、
NK細 胞 が 標 的 細 胞 を 識 別 す る 分 子 機 構 に 関 し て は 諸 説 が あ る が 、 未 だ 確 定 的 で な い 。
現 在 の 主 流 の 説 は 、 細 胞 表 面 に は
NK細 胞 に 抑 制 的 に 働 く 膜 分 子 が あ り 、 そ れ が 癌 化 や ウ イ ル ス 感 染 に よ り 消 失 す る こ と に よ り 、
NK細 胞 の 攻 撃 を 誘 導 す る と い う も の で あ る 。 こ の 抑 制 的 な 膜 分 子 候 補 と し て 、
MHC―
I分 子 が 挙 げ ら れ る が 、 そ れ だ け で は 説 明 が 付 か な い こ と も あ り 、
MHC―
I分 子 以 外 の 抑 制 分 子 探 索 は 現 在 の 免 疫 学 の ホ ッ ト な 研 究 テ ー マ で あ る 。
札 幌 医 科 大 学 第 一 病 理 学 教 室 の 佐 藤 ら は 、 ラ ッ ト 線 維 芽 細 胞 に 対 す る 単 ク 口 ー ン 抗 体 の 中 か ら 、
NK細 胞 感 受 性 の 線 維 芽 細 胞 に は 結 合 し な い 抗 体 を 見 い だ し 、 こ れ を
Choー
1抗 体 と 命 名 し た 。 こ れ は 、 ラ ッ ト 線 維 芽 細 胞 に は
Choー
1抗 体 の 抗 原 分 子 あ り 、 そ れ が 膜 表 面 か ら 消 失 す る こ と に よ り 、
NK細 胞 感 受 性 に な る こ と を 意 味 し て い る 。
本 博 士 論 文 は 、
Cho−
1分 子 の 分 子 生 物 学 的 な 諸 性 質 に 関 す る 研 究 結 果 を 集 大 成 し た も の で あ り 、 以 下 の よ う な 興 味 あ る 研 究 成 果 を 挙 げ て い る 。
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