博 士 ( 歯 学 ) 佐 藤 隆 文
学 位 論 文 題 名
耳 下 腺 ・ 顎 下 腺 の 超 音 波 断 層 像 に よ る シ ェ ー グ レ ン 症 候 群 の 診 断
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近 年,高 解像度 で無侵 襲, かつ簡 便であ るとい う長所 から ,超音 波断層診断が医療の各方面で 活用 され てきて いる。 とくに ,唾液 腺腫 瘍,頚 部リン パ節な どの 限局性 疾患の診断においては,
その 高解 像度に より, 高い診 断能カ をも ってい る。し かし, シェ ーグレ ン症候群,慢性上行性唾 液腺 炎な どの瀰 慢性疾 患に関 しては 報告 は少な く,そ の診断 能カ にっい ていまだに確定した評価 はな され ていな い。
シ ェ―グ レン症 候群の 起因 する唾 液腺病 変を診 断する 方法 として ,試験切除による唾液腺組織 の病 理組 織学的 診断法 および 唾液腺 造影 法が現 在行わ れてい る。 これら の方法は,皮膚あるいは 粘膜 の切 開,耳 下腺あ るいは 顎下腺 への 造影剤 の注入 ,X線の被 曝など ,軽 度とは 言え, 生体の 侵襲 を伴 う。
そ こで, ほとん ど非侵 襲性 に行え る超音 波断層 法をシ ェー グレン 症候群の診断に応用すること を考 え, その可 能性を 明らか にする ため に,本 研究を 試みた 。
ま た,主 観的な 要素の 多い 定性診 断から ,より 客観的 な定 量診断 への移行は,かねてより画像 診断 の主 要テー マとし て取上 げられ てき たが, 超音波 断層法 にお いても この定量診断が可能であ る か 否 か を 検 討 す る 手 始 め と し て , 顎 下 腺 の エ コ ー レ ベ ル の 計 測 を 行 っ た 。 対 象と し た 症 例 は1988年1月か ら1990年9月ま でに北 海道 大学歯 学部附 属病院 口腔 外科を 受診 した 患者 で,厚 生省シ ェーグ レン病 診断 基準の 確実例 と診断 され た80例,疑い例の54例,そのほ かに 慢性 上行性 唾液腺 炎と診 断され た36例 の,計170例 であ る。女 性156例,男性14例。年齢は16 歳か ら73歳 までで ,平均47歳で あった 。
全 対象症 例に対 して超 音波 断層撮 影と唾 液腺造 影検査 を行 った。 また,そのうちの61症例につ いて 病理 組織学 的に検 索した 。
ま た,顎 下腺の エコー レベ ルの計測において,正常顎下腺のエコーレベルを損IJ定するために,
唾 液腺に 異常を 認めな い30例 を検索 した。
以 下の様 な研究 方法 を採用 した。
1) 超 音 波 断 層 法 : 使 用 し た 超 音 波 診 断 装 置 は 目 立 製EUB一25, 使 用 し た プ 口 一ブ は5MHz の りニア 電子ス キャン タイプ であ る。
超 音 波 検 査 は 唾 液 腺 造 影 検 査 の 終 了 後30分 か ら1時 間 以 内 に 行 っ た 。 2) 唾 液腺 造影像 :耳下 腺管お よび 顎下腺 管に挿 入した カテ ーテル を介し て,76%ウロ グラフ ィ ン を自動 注入装 置によ りO. 015mE7秒の 速度で 注入し なが ら,注 入時間 の経過 によって,適当量 の 造影剤 が注入 された 時点で 連続 的にX腺撮 影を行 った。
シ ェー グ レ ン 症 候群 の 唾 液 腺 造 影像 の 分 類 は 福田 らの 分類に 従い ,Iか らIV型 に分類 した。
3) 病 理組 織 学 的 診 断 :耳 下 腺 の 試 験切 除 は , 耳 垂よ り約1m下方に 長さ約1 cmの皮 膚切開 を行 い 耳 下 腺組織 を採取 した 。□唇 腺は下 口唇正 中近 くに粘 膜切開 を加え ,最小4個 以上の 小唾 液腺 塊 を採取 した。 採取し た耳下 腺な らびに □唇腺 組織は ,通 法によ り10%中 性ホ ルマリンにて固定 後 , パ ラフィ ンに包 埋し ,約5脚の 切片を 作製し た後, ヘマ トキシ ルン・ 工オジ ン染色 を施 し,
病 理組織 学的に 検索し た。
耳 下腺お よび□ 唇腺 におけ る導管 周囲性 リンパ 球侵 潤の程 度に着 目し, その 程度を,ほとんど 認 め ら れ な い も の (0) , 軽 度(1), 中 等 度(2), 高 度(3) の4段 階 に 分 類 し た 。 さ ら に,
耳 下 腺 に っい て は 脂 肪 化の 程 度 , □ 唇腺 に っ い て は線 維 化 の 程 度 にっ い て同 様に検 索し た。
4) 顎 下腺 工コー レペル の定量 的解 析:光 ディス ク画像 記録 装置に 記録さ れたア ナ口グ の超 音波 画 像 を , イメ ― ジ ン グ ・カ メ ラで ,フイ ルムに 撮影し ,そ の顎下H泉 像の濃 度を濃 度計(SAKURA 製PDA―85)で測 定 し た 。 同 時に , 顎 下 腺 に接 し て 描 出 され る 顎 二 腹 筋の エ コーレ ベルも 計測 し た。
こ のよう な検索 を行 い,以 下の結 果を得 た。シ ェー グレン 症候群 患者の 耳下 腺,顎下腺の超音 波 断 層 像にお いて次 のよ うな病 的所見 が見ら れた 。A) 耳下 腺・顎 下腺の 内部工 コーの 不均 一性
( 点 状 の 高工 コ ― 像 の 散在 , 線状 の高工 コー像 の散在 ,2次元で の不 均一性 ) B)顎下 腺のエ コ ー レ ベ ル の 上 昇C)顎 下 腺 の 境 界 の 不 明 瞭 化D) 顎 下 腺 の 辺 緑 の 不 規 則 性E) 顎 下 腺 の halo
耳 下線・ 顎下腺 の内 部工コ ーの不 均一性にっいては,内部工コ―の不均一性の程度が低いほど,
唾 液 腺 造影に おけるu型 が多く ,皿 型,IV型 が少な かっ た。逆 に内部 工コー の不 均一性 の程度 が 高 く な る とn型 が 少 な くな っ てm型 ,I型 が 多 か った 。 慢性上 行性唾 液腺炎 に関 しては ,はっ き り した特 徴は認 められ なかっ た。
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顎下腺のエコーレベルの上昇にっいては,IV型はエコーレペルの上昇に伴い著明に増加してい ることがわかった。慢性上行性唾液腺炎は,その逆にエコーレベルが上昇すると減少している。
H型,m型にはあまり変化が認められない。
顎下腺の境界の描出にっいては前述の顎下腺のエコーレベルの場合とほば同じであった。
顎下腺辺緑像にっいては「整」から「不整」になるとm型とIV型は症例が増加し,皿型はあま り変化しないが,慢性上行性唾液腺炎は減少している。
顎 下 腺 haloの 有 無 に っ い て は そ れ ほ ど 明 確 な 特 徴 は 認 め ら れ な か っ た 。 超音波断層像と病理組織像との比較では,内部工コーの不均一性の程度と導管周囲性リンパ球 浸潤の程度tま,比較的相関する傾向が認められた。
唾液腺内部工コーの不均一性の程度と,耳下線の脂肪化および口唇腺の線維化の程度との間に は,今回の検索では明らかな相関は認められなかった。
顎下腺のエコーレベルを比較すると,normal症例がもっともエコーレベルが低く,次にシェー グレン症候群確実例,シェーグレン症候群疑い例が続き,最もエコーレベルが高かったのは慢性 上行性唾液腺炎であった。平均値の差の検定を行ワたが,norm al症例に関しては,全てのグルー プとの間において平均値の差に有意差が認められた。
唾液腺造影に基づくシェーグレン症候群の各群の間では,顎下腺工コーレベルの平均値の差は 明瞭ではないという結果になった。
顎下腺と顎二腹筋のエコーレベルの差の平均値の差を検定したところ,どの群の組合せにも有 意差は認められなかった。
学位論文審査の要旨
シェーグレン症候群の診断には,その臨床所見と共に唾液腺造影像も重要な検査法の地位を占 めていたが,論文提出者は近年飛躍的に発展した超音波断撮影をシェーグレン症候群と思われる 患者に施行し,その断層像,唾液腺造影像(以下唾影像と略す),病理組織像とを対比した研究
男 博
璋
岐
崎 田
宮
山 福
雨
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
を行った。この超音波断層法は他の検査法と異なり無侵襲性で,操作が簡便,また機器の改良で 高解像度,高診断能を有する利点がある。
対象症例
1988年1月から1990年9月までに北海道大学歯学部附属病院口腔外科を受診し,シェーグレ ン症候群と診断された80例,その疑い54例,慢性上行性唾液腺炎36例,計170例で,女性156例,
男性14例,平均年齢は47歳であった。
研究方法
日立製EUB亠25超音波診断装置,プ 口ーブ5MHzリニア電子スキャン型を使用。左右耳下 腺,左右顎下月泉の計4箇所の全体をスキャンした。
唾液腺造影ほ北大法による0. 015mE/secの速度で注入し,コント口ール,管系適量像,腺 系 適量 像, 機 能像 を撮 影し ,観 察 。福 田の 分類 に従 い ,Iか らIV型に分類,比較した。
病理組織診断は,IV型以外は耳下腺および口唇腺の両方から組織を採取し,ヘマトキシルン
・工オジン染色を行なって検索し,導管周囲性リンパ球の浸潤の度合いより4段階に分類した。
顎下腺工コ―レベルの計測を1個の顎下腺で任意の6箇所で実施,その計測値の平均値をそ の顎下腺の濃度とした。工コーレベルと濃度は 絶対値が同じで逆符号の数値 と考えられた。
な お , 工 コ ― レ ベ ル の 計 測 に あ た っ て は 種 々 の 検 討 を 行 な ヮ て い る 。 結 果
1シェーグレン症候群患者の耳下腺・顎下腺の超音波断層所見 1)耳下腺・顎下腺の内部工コーの不均一性
点状高工コー像の散在,線状高工コー像の散在,2次元での不均一性(高工コー領域と低 工コー領域の混在)
2)顎下腺工コーレベルの上昇 3)顎下腺の境界の不明瞭化 4)顎下腺の辺緑の不規則化 5)顎下腺のhalo
2超音波断層像と唾影像との対比
1)耳下腺・顎下腺の内部工コーの不均一性
各疾患グループの割合に対してX゜―検定で,危険率O. 001で有意性が認められた。不均一 性の程度が低いほど唾影像でH型が多く,m型,IV型が少なかった。内部工コーの不均一性 の程度が高くなるにっれ,II型が減少し,m型,I型が増加する。IV型は内部工コーの不均
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一性 の程度 が高く なるに 従い単 調に 増加し ている。しかし内部工コ―の不均一性ぼr曼性上行 性 唾 液 腺 炎 で も 認 め ら れ る の で , シ ェ ー グ レ ン 症 候 群 に 特 異 な 所 見 で は な い 。 2) 顎下腺 工コー レベル の上 昇
O. 05の 危険率 で有 意性が 認めら れなか った 。 3)顎下 腺の境 界の描 出
O. Olの 危険率 で有 意性が 認めら れ,IV型は境 界の不 明瞭化 にと もない増加しており,慢性 上行 性唾液 腺炎は 逆に減 少して いる 。
4)顎下 腺辺緑 像
危険 率O.01で有 意性が 認めら れ,m型〜W型 で不整 が増 加する 。 5)顎下 腺haloの有 無
危険 率O.3で 有意性 が否 定され た。
3超音 波断 層像と 病理組 織学的 所見 との対 比
唾液 腺内部 工コー の不均 一性の 度合 と導管 周囲性 リンパ 球浸 潤の程 度との間に相関関係が認 められ たが, 耳下腺 では 不均一 性の高 いもの で逆に 低い 傾向が あり, その理由にっいては解明さ れなか った。
4顎下 腺工 コ―レ ペルの 計測
濃度 値が低 いほど エコー レベル が高 いこと になる が,正 常例 では濃 度が高く,次にシェーグ レン症 候群確 実例, シェ ーグレ ン症候 群疑い 例,濃 度値 が最も 低かっ たのは慢性上行性唾液腺炎 であっ た。危 険率0. 05検定 でシェーグレン症候群確実例とシェーグレン症候群疑い例の有意差は 認めら れなか った。 危険 率O.Ol検定 でシェ ーグレ ン症候群疑い例と慢性上行性唾液腺炎との有意 差は否 定され た。正 常例 と有疾 患群と の間に は平均 値の差に有意差を認めた。なお,0.05の危険 率で ,H型 とm型 ,m型 とI型 の 間 に 有 意差 を 認 め た が,0.01の 危 険 率 で は ,H型 とm型の 間 に のみ有 意差を 認めた 。唾 影像に 基づく シェー グレン 症候 群の各 群の間 では,顎下腺の濃度値の平 均値の 差はあ きらか では ないと いう結 果であ った。 また ,顎下 腺と顎 二腹筋とのエコーレベルの 差を比 較した が,平 均値 の有意 差は全 くなか った。
以上の ことを 学位 申請者 は理路 整然と 一堂 に会し た3人の審 査担当 者の前 で説明 した 。その あ と,内 容の詳 しい説 明を 各審査 貝から 求めら れ,こ れに 明確に 答えた 。字句の訂正,文章の表現 などの 指摘に 対して 快く 受入れ 修正し た。引 用文献 の内 容にっ いても 十分理解しており,語学カ にお い て も , また 臨 床 専門領 域に おける 知識に っいて も極め て優 秀であ るもの と判定 され た。
本論文 は,シ ェー グレン 症候群 におけ る耳 下腺・ 顎下腺 の超音 波断層 像を詳しく検討し,今後
歯科臨床に大きく貢献する研究てあり,歯科医学の発展に寄与することが大である。よヮて,博 士(歯学)の学位を授与される資格があるものと認定した。