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博士(医学)横山統一郎 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(医学)横山統一郎 学位論文題名

ras 抑制 変異体 による腫 瘍形質 発現の抑 制 学位論文内容の要旨

I研 究 目 的

  p21 ras癌 原 遺 伝 子 産 物 は 、 細 胞 増 殖 、 分 化 の 信 号 を 下 流 に 伝 達 す る ス イ ッ チ の 役 目 を 果 た し て い る と 考 え ら れ て い る 。 ま た 、rasは 点 突 然 変 異 に よ っ て 腫 瘍 形 質 を 獲 得 す る こ と が 知 ら れ て お り 、 実 際 に 多 く の ヒ ト の 癌 に お い て 活 性 型 突 然 変 異 が 報 告 さ れ て い る 。 し か し 、 腫 瘍 形 質 の 獲 得 に お い てrasの 活 性 化 が 、rasの 下 流 に あ る と 今 ま で に 報 告 さ れ て い るERKを 介 す る 増 殖 信 号 伝 達 系 を 増 強 す る た め な の か 、 あ る い は 別 の 信 号 伝 達 系 が 必 要 な の か に つ い て は 明 ら か に な っ てい な か った 。

  ras抑 制 変 異 体N116Yは 腫 瘍 形 質 を 細 胞 増 殖 よ り 強 く 抑 制 す る た め 、 腫 瘍 形 質 発 現 に 関 わ る シ グ ナ ル を 解 析 す る 実 験 系 と し て 有 効 で あ る と考 え ら れる 。 そこ で こ の性 質 を 利用 し て、 正 常c. Ha‑ rasを 過 剰 発 現 さ せ た NIH3T3由 来 の ト ラ ン ス フ オ ー マ ン ト で あ る18Aで N116Yの 発 現 誘 導 を 行 い 、rasに よ る 腫 瘍 形 質 発 現 を 調 節 す る こ と に よ っ て 、 増 殖 や 分 化 の シ グ ナ ル と 腫 瘍 形 質 発 現 の 関 係 を 解 析 す る こ と を試 み た 。

H実 験 方 法

  細 胞 : マ ウ ス 線 維 芽 細 胞NIH3T3、 こ れ に 正 常c.H・rasを 過 剰発 現 さ せ 形 質 転 換 さ せ た 細 胞 株18A、 更 に こ れ に 抑 制 変 異 体N116Yを 持 続 的 に 発 現 さ せ た 正 常 復 帰 株F32、F330ヒ ト メ タ ロ チ オ ネ イ ン ・ プ ロ モ ー タ ー hMTH。 に よ っ てN116Y発 現 誘 導 可 能 な 細 胞 株Tl、T 6、 ベ ク タ ー の み を 導 入 し た 対 照 細 胞N3を 実 験 に 用 い た 。 こ れ ら の 細 胞 は10% 牛 胎 児 血 清(FCS)を 含 むDMEMを 用 い て 培 養 し た 。 ま たNIH3T3にN116Yを 発 現 さ せ た 1・20細 胞 の み 2096FCSを 含 む DMEMを 用 い て 培 養 し た 。

(2)

  発 現 ベ ク タ ーpHS116の 構 築 と 細 胞 へ の 導 入 :N116Yの 発 現 誘 導 を 可 能 に す る た め に 、 ヒ ト の メ タ ロ チ オ ネ イ ン ・ プ ロ モ ー タ ー を 持 つ 発 現 ベ ク タ ーpHS1の マ ル チ ク ロ ー ニ ン グ ・ サ イ ト にN116Yの 配 列 を 持 つpSVneo/ras2の2.2kbのBam HI‑ Eco RIフ ラ グ メ ン ト を 挿 入 し 、 得 ら れ た 発 現 ベ ク タ ーpHS116は り ポ フ ェ ク チ ン 法 に よ っ て G418耐 性 遺 伝 子 を も つpSV 2neoと と も に18A細 胞 に 導 入 し た 。 培 地 中 に 硫 酸 カ ド ミ ウ ム3FMを 添 加 し 、8時 間 後 にTotal RNA抽 出 し 、N116Yの 発 現 をv・H‑ rasの1.3kbのSstH‑XbaI断 片 を プ ロ ー ブ と し た ノ ー ザ ン プ ロ ッ ト 解 析 で 確 認 し た 。

  細 胞 生 物 学 的 解 析 : 塩 化 亜 鉛100pM存 在 下 で24時 間 培 養 し 、 形 態 変 化 を 観 察 し た 。 ま た 、lXl04個 の 細 胞 を0.33%の 軟 寒 天 培 地 で 培 養 し 、5、10、20%FCS及 びEGF刺 激 に よ る 各 細 胞 の 足 場 非 依 存 性 増 殖 を 観 察 し た 。 更 に 、 塩 化 亜 鉛100〃 M添 加 し 、N116Y発 現 誘 導 の 影 響 を 検 討 し た 。

  ERK2リ ン 酸 化 の 解 析 : 塩 化 亜 鉛 添 加 に よ りN116Y発 現 誘 導 し た 後 、10%FCSあ る ぃ は50ng/mlのEGFま た はPDGFで15分 間 刺 激 し 、 抗ERK2抗 体 を 用 い た ウ エ ス タ ン プ ロ ッ ト 解 析 に よ りERK2リ ン 酸 化 を 検 出 し た 。

  ras結 合 グ ア ニ ン ヌ ク レ オ チ ド の 検 出 : 各 細 胞 を 可 溶 化 し 、 抗ras モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体Y13‑2 59と プ ロ テ イ ンAセ フ ア ロ ー ス で 作 成 し た 複 合 体 と 反 応 さ せ てras p21を 免 疫 沈 降 し た 。rasと 結 合 し て い た グ ア ニ ン ヌ ク レ オ チ ド を 薄 層 ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー で 、 展 開 し 、GTP結 合 体 の 比 率 を 求 め た 。

m結 果

  抑 制 変 異 体N116Yの 発 現 誘 導 : ク ロ ー ンTl、T7で は 硫 酸 カ ド ミ ウ ム 添 加 に よ り 、 低 レ ベJレ で あ る が2.5kbのN116Yに 特 異 的 な バ ン ド の 発 現 誘 導 が 認 め ら れ た 。 同 時 にN116Yの 発 現 に 関 連 す る も の と 思 わ れ る4 .4kbの パ ン ド の 増 強 も 認 め ら れ た 。 一 方 、 対 照 細 胞N3こ れ ら の バ ン ド は 認 め ら れ な か っ た 。

    N116Y発 現 誘 導 に よ る18A由 来 ク ロ ー ン の 形 質 変 化 : ク ロ ー ン Tlお よ ぴT6は 塩 化 亜 鉛 非 存 在 下 で 親 細 胞 株18Aと 同 様 な 紡 錘 形 あ る い は 円 形 の 形 態 を 示 し 、 接 着 性 が 弱 か っ た が 、 塩 化 亜 鉛100UM存 在 下 で は10時 間 経 過 か ら 細 胞 形 態 が 変 化 し は じ め 、 約24時 間 でNIH 3T3に 近 い 扁 平 な 形 態 を 示 し た 。 ま た ク ロ ー ンTlお よ ぴT6の 軟 寒 天 培 地 中 で の コ ロ ニ ー 形 成 能 は 、Tl、T6、N3共 に 血 清 濃 度596で は コ ロ ニ ー 形 成 が ほ と ん ど 認 め ら れ な か っ た が 、10%及 び20% で は10

−. 438 ‑

(3)

% 程 度の コ ロニ 一 形成 が 認 めら れ た。N116Yを発 現誘導に より、Tl 及 びT6は ほ と ん ど コロ ニ ーを 形 成し な かっ た が 、N3では 塩 化亜 鉛 添 加 によ る 影響 は ほと ん ど 認め ら れな か った 。EGF刺 激によるコ ロ ニ ー 形 成 能 も 、N116Y発 現 誘 導 に よ っ て ほ ぼ 完 全 に 抑制 さ れた 。   N116Yに よ る信 号 伝達 抑 制 機構 の 解析 : ウエ ス タンプロッ ト解析 の 結 果 、N116Yの 発 現 に よ っ てEGFに よ るERK2リ ン 酸 化 は ほ ぽ 完 全 に 抑 制 さ れ た の に 対 し 、PDGF、FCSで は り ン 酸 化抑 制 はほ と ん ど 認 め ら れ な か っ た 。N116Y安 定発 現 株F32、F33及 び1・20も 同 様 の 結 果だ っ た。

  rasp21のGDP/GTP交 換 反 応 の 解 析 よ り18Aに お い て 認 め ら れ た 各 増 殖因 子 の増 殖 刺激 に よ るGTP結 合 型ras p21の 増加;ま 、F33に お い ては 全 く見 ら れな か っ た。

IV考察

  GDP/GTP交 換 反 応 の 解 析 の 結 果 で は 、N116YはEGF、PDGFお よ びFCS刺 激 に よ るGTP結合 型 の生 成 を抑 制 して い た。 こ のこ と に よ っ てN116Yは 細 胞 内 のGD P/GTP交 換 反 応 を 不 活 性 化 し 、 その 結 果rasの 機 能を 抑 制す ると考 えられた。 またN116Yは ,各増殖因 子に よ る18Aの 軟寒 天 培地 中 での コ ロニ ー 形成 を 抑 制し た 。これらの 結 果 か ら18Aの腫 瘍 形質 発 現は 増 殖刺 激 によ るras活 性化 に依存し 、N 116Yが ras活 性 化 を 抑 制 す る こ と が 明 ら か に し た 。   し か しPDGFやFCSに よ るERKリ ン 酸 化 はN116Yに よ るrasの 抑 制 下 でも起きた ことから、 これらのり ン酸化には 必ずしもras活性化を 必 要 と し な い こ と が 明ら か にな っ たが 、18Aに おい てEGFが関 与 す るERKリ ン 酸 化 に はrasを介 し た信 号 伝達 系 が必 要 であ る こと が 示 さ れた。

  こ の こ と か らERK活 性 化はrasを 介す る 足場 非 依 存性 増 殖に よ っ て 示される腫 瘍形質の発 現に必ずし も必要では なく、rasからの信号 はERKと は 別な 分 子を 介 して 形 質転 換 を引 き 起 こし て いる可能性 が 高 い こ と が 示 唆 さ れ た 。PDGFやFCSに よ るERKリ ン 酸 化 がN116Y のras機 能 抑 制 に あ ま り 影響 を 受 けな ぃ 理由 と して は 、ERKリ ン 酸 化 が 以前 よ り 報告 さ れて い るras‑R afl‑MEKの経 路 以外 のPLC‑アや PKCを介 し た信 号 伝達 系 によ っ てあ る 程度 代 償 され る ことが考え ら れ 、 増殖 刺 激 の信 号 伝達系は 複雑なネッ トワークを 形成してい る可 能 性があると 考えられる 。

(4)

V結 語

  本 研 究 で は 、rasの 活 性 化 の 阻 害 に よ っ て 、 ト ラ ン ス フ オ ー ム 形 態 や 足 場 非 依 存 性 増 殖 を 抑 制 し た が 、PDGFやFCSに よ るERKリ ン 酸 化 に は あ ま り 影 響 が な か っ た 。 こ の こ と はPDGF.FCSの 信 号 はEGF と は 異 な っ た 経 路 で も 伝 達 さ れ る こ と 、 そ の経 路 の う ちrasを 介 す る 経 路 が 足 場 非 依 存 性 増 殖 と ぃ う 腫 瘍 形 質 発 現 に 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。

(5)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ras 抑制 変異 体に よる 腫瘍 形質発現の抑制

    I研究目的

  rasは 点突 然変 異に よっ て腫瘍形質を獲得する ことが知られているが、増殖信 号 伝達 系を 増 強す るた めか 、別 の信 号伝 達系 が必 要か は明らかではなかった。

  ras抑 制変 異体N116Yは腫 瘍形 質を 細胞 増殖 より 強く 抑制する。この性質を利 用して 正常c・H a‑rasを過剰発現させたNIH 3T3由来のトランスフォーマントであ る18AでN116Yの 発現 誘導 を行 い、rasによ る 腫瘍 形質 発現 を調 節し 、増 殖の シ グナニ レと腫瘍形質発現の関係を解析した。

    矼実 験 方法

  細 胞 : マ ウ ス 線 維 芽 細 胞NIH3T3、18A、 抑 制 変 異 体Nll 6Yを 持続 的に 発 現 さ せ た 正 常 復 帰 株F32、F33、1‑20。 ヒ ト メ 夕 口 チ オ ネ イ ン ・ プ ロ モ ー 夕 一 hMTHよ に よ っ てN116Y発 現 誘 導 可 能 な 細 胞 株Tl、T6、 対 照 細 胞N3を 実 験 に 用い た。

  発 現ベ ク ターpHSll,6の構 築と細 胞への導入:N116Yの発現誘 導をのために、

pHSlにN116Yの 配 列 を 挿 入 し 、 発 現 ベ ク タ ーpHS116を 搆 築 し 、18A細 胞 に 導 入し た。 培 地中 に硫 酸カ ドミ ウム を添 加し8時間 後にRNAを抽出 し、発現をノー ザン ブロ ッ ト解 析で 確認 した 。

  細 胞生 物学的解析:塩化亜鉛存在下で培養し、形態変化を観察 した。また、軟 寒 天 培 地 で 培 養 しFCS及 びEGF、PDGF刺激 によ る各 細胞 の足 場非 依存 性増 殖 を 観 察 し た っ 更 に 、 塩 化 亜 鉛 を 添 加 し 、N116Y発 現 誘 導 の 影 響 を 検 討 し た 。   ERK2リ ン酸 化の 解析 :N116Y発 現誘 導し 、増 殖因 子で 刺激 した 後、 ウエ ス タ ンブ ロッ ト 解析 によ りERK2リ ン酸 化を 検出 した 。

  ras結合 グア ニン ヌク レオ チド の検 出 :各 細胞 を可 溶化 しras p21を免疫沈降 後、GTP結 合体 の比 率を 求め た。

    皿結 果

  抑 制 変 異 体N116Yの 発 現 誘 導 : ク ロ ー ンTl、T7で は 硫 酸 カ ド ミウ ム添 加に より 、2.5kbのN116Yに 特異 的な バン ドと 、N116Yに 関連 すると思われる4.4kb のバ ンド の増 強が 認め られ た。 一方 、 対照 細胞N3で はこ れらのバンドは認め ら れな かっ た。

−・441 ‑

彦 暹

   

   

武  

  征

浦 巻

大 葛

授 授

教 教

査 査

主 副

(6)

  N116Y発 現誘 導に よる18A由 来ク ロー ンの 形質変化:クローンTlおよびT 6は塩化亜鉛非存在下で親細胞株18Aと同様な形態を示したが、塩化亜鉛存在 下では約24時間でNIH 3T3に近い扁平な形態を示した。軟寒天培地中でのコ ロニ ー形 成はN116Yを発 現誘 導に より 、Tl及びT6はほとんどコロニ―を形 成せず、EGF刺激によるコロニー形成もほぼ完全に抑制されたが、N3では塩 化亜鉛添加による影響はほとんど認められなかった。

  N116Yによる信号伝達抑制機構の解析:ウエスタンプロット解析の結果、Nl 1、6Yの発現によってEGFによるERK2リン酸化はほぼ完全に抑制されたが、PDG F、FCSではりン酸化抑制は認められなかった。N116Y安定発現株F32、F33及 び1‑20も同様の結果だった。

  rasp21のGDP/GTP交換反応の解析より、18Aにおいて認められた各増殖因子 の増殖刺激によるGTP結合型ras p21の増加は、F33においては全く見られなかっ た。

    1V考察

  N116YはGTP結合 型の 生成 を抑 制し てい た。よ ってN116YはGDP/GTP交 換 反応を不活性化し、rasの機能を抑制すると考えられた。また各増殖因子による 18Aの軟寒天培地中でのコロニー形成を抑制した。これらの結果から18Aの腫瘍 形質発現は増殖刺激によるras活性化に依存し、N116Yがras活性化を抑制する ことを明らかにした。

  PDGFやFCSに よるERKリン酸化ほN116Yによるrasの抑制下でも起きたこと から、これらのりン酸化には必ずしもras活性化を必要としないことが明らかに なったが、EGFでは必要であることが示された。

  以上からERK活性化はrasを介する足場非依存性増殖によって示される腫瘍形 質の発現に必ずしも必要ではなく、rasからの信号はERKとほ別な分子を介して 形 質 転 換 を 弓1き 起 こ し て い る 可 能 性 が 高 い こ と が 示 唆 さ れ た 。 、

    V結語

  本研究ではrasの活性化の阻害によって、トランスフオーム形態や足場非依存 性増殖を抑制したが、PDGFやFCSによるERKリン酸化にはあまり影響がないこ とを示した。このこと増殖信号が複数の経路で伝達され、そのうちrasを介する 経路が腫瘍形質発現に重要であることが初めて明らかにされた。この結果は創傷 治 癒 、 腫 瘍遺 伝子 の治 療の 両面 から 今後 の臨床 への 発展 が期 待さ れる 。

  口頭発表に際し、N116Yの性質、現在の情報伝達系の研究の結果から考えら れるras以外の増殖信号伝達経路についての質問があったが、著者は慨ね適切な 回答を行った。また引き続き行われた副査の葛巻教授、藤本教授の個別審査の結 果、合格と判定された。  、

  以 上 の こ と か ら 博 士 ( 医 学 ) 学 位 に 妥 当 な も の と 判 断 さ れ る っ

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