曲面の幾何構造とサークルパッキング
On geometric structures of surfaces and circlepackings
数学専攻 相澤 由貴
AIZAWA Yuki
幾何構造が与えられた三角形を貼り合わせて
,
尖りや襞のない閉曲面を構成することを考える.
貼り合わせて できた閉曲面は,
その組み合わせ方により種数が決まる.
ガウス・ボンネの定理により,
種数が0
のとき球面幾 何,
種数が1
のときユークリッド幾何,
種数が2
以上のとき双曲幾何と許容する幾何が決定してしまう.
さら にサークルパッキングという情報を加えると,
より一層幾何構造が個別に限定されることを示すアンデレーフ・サーストンの定理がある
.
第
1
章では,
先に幾何構造が与えられた三角形を用意し,
それらを貼り合わせて曲面を構成し,
三角形の面積と 角度の関係から,
ガウス・ボンネの定理を導く.
このとき,
閉曲面の場合だけでなく,
アンデレーフ・サーストン の定理を証明することを見据えて,
曲面が境界や尖りを持つ場合にガウス・ボンネの定理がどのような形になる かを示しておく.
第
2
章では,
サークルパッキングの用語を定義する.
ただ曲面にサークルが描かれているだけでは,
サークル の補領域にトポロジーの複雑さが押し込められてしまうかもしれない.
それを防ぐため,
サークルパッキングに は,
サークルの補領域が三辺形になっているという充満条件を与える.
充満条件を満たすサークルパッキングを 許容する閉曲面を構成することは難しいことではなく,
例を与える.
図
1
球面のサークルパッキングの例充満条件を満たすサークルパッキングのナーブは閉曲面上に三角形分割を与え
,
1辺からなるループはなく,
さらに2頂点からなる辺は高々1本という単純条件を満たす.
逆に,
閉曲面上に単純条件を満たすグラフが与 えられたとき,
それをナーブに持つようなサークルパッキングがあるかという問いに答えるのがアンデレーフ・サーストンの定理である
.
第3
章では,
このアンデレーフ・サーストンの定理を証明する.
証明は,
まず種数が2
以上の場合に行い,
種数が1, 0
の場合はそれぞれ設定を調整して前の場合に帰着させる.
1
第
4
章では,
第3
章までとは変わり,
双曲平面全体を埋め尽くすFarey
サークルパッキングと穴あきトーラス との関係を見る. Farey
サークルパッキングは,
全ての有理数p q ∈ Q
に対してR 2
上に点( p q , 0)
でx
軸に接する 直径q 1
2 の円C
pq を描く
. ∞ = 1 0 = − 0 1
に対しては,
水平線y = 1
でその内部を{ (x, y) ∈ R 2 | y > 1 }
とする.
これらの円または直線の集まりをFarey
サークルパッキングという. C
pq を双曲平面の無限遠境界上に中心を持 つ円だと思うと
,
これは双曲平面全体の充満条件を満たすサークルパッキングになっている.
∞
0 1
- 1 2 - - 1 1 3 2 - - 2 1
1 2
- - 1
- 1 2 1 3
2 - _
_
_ _
図
2 Farey
サークルパッキング(上半平面モデル)Φ(z) = − z z+i − i
を用いると上半平面モデルをディスクモデルに写すことができる.
- 1
0 0
1 -
1 2
- - 1 3 - 1 4 - 1
- 1 2 1
- 3
- 1 4 1
- 2 3 3 2
-
1 2
- - 1 3
- 1 4
- 1 1
- 2 1
- 3 1
- 4 1
- 2 3 3
2 - _
_ _
_ _
_ _ _ _
図
3 McMullen’s program
により描いたFarey
サークルパッキング(ディスクモデル)次に
,
円C
pq と
C
p′q′ が接しているとき
( p q , 0)
と( p q
′′, 0)
をx
軸上に中心を持つ半円で結ぶ. C ∞
はC n , n ∈ Z
と接しているので,
半直線{ (n, y) ∈ R 2 | y ≥ 0 }
で結ぶ.
これらの半円または半直線の集まりによる分割をFarey
タイル貼りと呼ぶ.
双曲平面の上半平面モデルだと思うと,
これらの半円または半直線は,
双曲平面の測地線に2
なっている
.
さらに,
これらは接点を通るので,
サークルパッキングのナーブになっている.
0 1
- 1 2 - - 1 1 3 2 - - 2 1
1 2
- - 1
- 1
2 1 3
2 - _
_
_ _
図
4 Farey
タイル貼り(上半平面モデル)- 1
0 0
1 -
1 2
- - 1 3 - 1 4 - 1
- 1 2 1
- 3
- 1 4 1
- 2 3 3 2
-
1 2
- - 1 3
- 1 4
- 1 1
- 2 1
- 3 1
- 4 1
- 2 3 3
2 - _
_ _
_ _
_ _ _ _
図
5 McMullen’s program
により描いたFarey
タイル貼り(ディスクモデル)1
点穴あきトーラスはトーラスから1点を取り除くことにより得られる.
トーラスを正方形の対辺を貼り合わ せたものと考えると,
取り除く点は正方形の4
頂点と仮定できる.
もちろん,
このトーラスにはユークリッド距3
離を定義することができるが
,
これは完備な距離にはならないのである.
そこで
,
これには双曲距離を定義する. X
を上半平面上の− 1, 0, 1, ∞
を頂点に持つ理想四角形とする.
これを 等長写像φ 1 (z) = z+1 z+2
とφ 3 (z) = − z z+2 − 1
により対辺を貼り合わせると1点穴あきトーラスが得られ、完備距離 空間となる. X
をΓ = ⟨ φ 1 , φ 3 ⟩
の元で動かしたものφ(X)
をタイルとすると,
これらは双曲平面のタイル貼り を構成する.
構成法により,
全てのタイルは合同な理想四角形になる.
そのためタイルφ(X )
が双曲平面全体を 覆うことと各タイルの内部が交わらないことを示すのが問題である.
ここでは,
商空間H 2 /Γ
が完備距離空間で あることを用いてこれらを証明する.
4 (X )
X
1 (X )
3 (X )
2 (X )
0 1
- 1 2 - - 1 1 3 2 - - 2 1
1 2
- - 1
- 1
2 1 _ 3 2 - _
_ _ 2
3 -
1 3 1 -
4 -
1 3
- _ 1 4 -
2 _ 3 -
_ 4
3 - 7 5 - 8 5 - 5 3 -
4 3 7 -
5 -
5 3
- _ 8 5 - _ _
_
図
6 1
点穴あきトーラスから得られるタイル貼りここで
, X
を対角線0 ∞
により,
頂点− 1, 0, ∞
をもつ理想三角形T −
と頂点0, 1, ∞
をもつ理想三角形T +
に分ける. T +
とT −
は鏡映変換z 7→ − z ¯
で互いに写り合うので合同である.
これをφ ∈ Γ
で動かすとまたタイ ル貼りが得られる.
4章3節では, 1
点穴あきトーラスから得られたタイル貼りに対角線を加えて作ったタイル 貼り{ φ(T + ), φ(T − ) | φ ∈ Γ }
がまさにFarey
タイル貼りになっていることを証明する.
論文中では
,
1点穴あきトーラスからタイル貼りが得られることを示したが,
この証明には商空間H 2 /Γ
が完 備距離空間になることを用いた. Γ ⊂ PSL(2, Z )
であったため, Γ
が離散群であることが明らかであったが,
最 初に選んだ等長変換φ 1 , φ 3
を双曲平面の向きを保つ等長変換群であるPSL(2, R )
から選ぶと,
2つの等長変換 から生成される群Γ
が離散群であることを証明するのは簡単ではないようである.
参考文献