クリティカル・シンキングの因果関係決定方略を用いた社会科授業設計
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(2) クリティカル・シンキングの因果関係決定方略を用いた社会科授業設計. 目 次. 頁. 序. 論…一・・…・………・一…一・・…・一・…一…・・一…一・一一…・1. 1問題の所在 1 2 研究目的 3. 3研究仮説 3 4 研究方法 3. 第I章 前期中等教育における社会科の意義と課題・一一一・・・・・・… ……一・・5. 第1節 社会科における探究学習 5. 1.探究とは何か 5 2.社会科探究学習の課題 8 第2節 社会科における言語力育成 10 1.学習指導要領改訂による言語力育成 11. 2.社会科における言語活動の充実 14. 第3節前期中等教育学習指導要領における社会科の性質 17 1I前期中等教育における社会科の目標 17. 2.学習指導要領における動態的地誌学習 20. 第巫章. クリティカル・シンキングの因果関係決定方略を用いた検証・・……・25. 第1節. クリティカノレ・シンキングの因果関係を証明する規準. 25. 1.. クリティカル・シンキングにおける共変関係. 25. 2.. クリティカル・シンキングにおける時間的順序関係. 26. 3.. クリティカル・シンキングにおけるもっともらしい他の原因の排除. 27. 第2節. クリティカル・シンキングの因果関係を決定する方略. 29. 1.. 原因一結果について結論をくだす落と一し穴. 29.
(3) 2.真の因果関係を決定する方略. 31. 第3節 クリティカル・シンキングの因果関係の検証過程. 33. 1.クリティカル・シンキングにおける因果関係を決定する順序. 33. 2.クリティカル・シンキングにおける因果関係を決定する検証過程. 34. 第皿章 クリティカル・シンキングの因果関係決定方略を用いた授業分析…一’. 37. 第1節 社会科授業分析. 37. 1.分析の視点. 37. 2.分析の方法. 43. 3.分析の対象. 44. 第2節 分析の結果と考察. 47. 1.分析結果. 47. 2.授業設計の視点. 58. 第w章 授業モデルの設計’…’…一一‘一一.一’一’’’一’一一’.一一’一一一’.一..’一一一. 61. 第1節 授業モデル設計の基本的考え方. 61. 1.学習指導案の構成. 61. 2.授業モデル設計に関する留意点. 65. 第2節授業モデル設計. 66. 1.学習内容の選定. 66. 2.授業モデルの内容. 69. 第3節 授業モデルの成果. 100. 1.フレームワークによる分析. 100. 2.フレームワーク分析結果の考察. 104. 結論一一一… ………・一…・…・一・…… …………一一・……一. 107. 1.本研究の意義. 107. 2.今後の課題. 108.
(4) 付記. 資料. 修士論文要旨.
(5) 序 論 1.問題の所在 平成20年3月に小・中学校学習指導要領が告示された。それに基づき小学校は平成23 年度から実施,さらに中学校では平成24年度から完全実施される。従来の学習指導要領か ら強調された確かな学力,豊かな心,健やかな体の調和を重視する生きるカを育むことや,. OECD(経済協力開発機構)のPISA調査などの調査から,各学校段階や各教科の学習指導要 領の改善の方向性が示された。. 中学校学習指導要領社会科改訂の趣旨は中学校学習指導要領解説〔社会〕において以下 のように述べられている。. 社会科において,答申の趣旨を生かす上で特に留意しなければならないのは,知識基盤社会化やグロー バル化が進む時代にある今こそ,世界や日本に関する基礎的教養を培い,国際社会に主体的に生き,公共 的な事柄に自ら参画していく資質や能力を育成することである。そのためには,基礎的・基本的な知識,. 概念や技能の習得に努めるとともに,思考力・判断力・表現力等を確実にはぐくむため言語活動の充実を 図り,社会参画に関する学習を重視することが必要である1。. また,中学校社会科地理的分野の改善の具体的事項は次のように説明されている。. (購改善の具体的事項 (ア)地理的分野については、世界の地理的認識を深めるため,世界各地の人々の生活と環境とのかかわ. りや世界の諸地域の多様性について学ぶ項目を設けるとともに,我が国の国土に対する認識を一層深 めるため,日本の諸地域における特色ある事象を他の事象と有機的に関連付けて地域的特色をとらえ ることができるよう内容の改善を図る。また,内容の全体を通して,地図の読図や作図などの地理的 技能を身に付けさせることを一層重視するとともに,身近な地域の調査の学習において,諸課題を解 決し地域の発展に貢献しようとする態度を養うことができるようにする。2. 以上の内容より,中学校社会科地理的分野では「わが国の国土及び世界の諸地域の地域的 特色を考察し理解させ,地理的な見方や考え方の基礎を培」うことが目標の一つとなってい. る。学習指導要領が主張する,わが国や世界の諸地域の地域的特色や地域の課題をとらえ. 一1・.
(6) させ地理的見方や考え方の基礎を培うことについて,以下のように整理されている。. ①どこに,どのようなものが,どのように広がっているのか,諸事象を位置や空間的な広がりとのかか わりでとらえ,地理的事象として見いだすこと。また,そうした地理的事象にはどのような空間的な規 則性や傾向性がみられるのか,地理的事象を距離や空間的な配置に留意してとらえること。 ②そうした地理的事象がなぜそこでそのようにみられるのか,また,なぜそのように分布したり移り変 わったりするのか,地理的事象やその空間的な配置,秩序などを成り立たせている背景や要因を,地 域という枠組みの申で,地域の環境条件や他地域との結び付きなどと人間の営みとのかかわりに着目 して追究し,とらえること。 ③そうした地理的事象は,そこでしかみられないのか,他の地域にもみられるのか,諸地域を比較し関 連行けて,地域的特色を一般的共通性と地方的特殊性の視点から追究し,.とらえること。 ④そうした地理的事象がみられるところは,どのようなより大きな地域に属し含まれているのか,逆に どのようなより小さな地域から構成されているのか,大小様々な地域が部分と全体とを構成する関係 で重層的になっていることを踏まえて地域的特色をとらえ,考えること。 ⑤そのような地理的事象はその地域でいつごろからみられたのか,これから先もみられるのか,地域の 変容をとらえ,地域の課題や将来像について考えること。3. このような地域的特色や地域の課題をとらえる学習は動態的地誌学習の形態である。こ のように,学習指導要領における動態的地誌学習は「ここにこのような特徴がみられるの はなぜか」といった問いを設定し,探究活動を行う形式をとる。静態的地誌学習が設定さ れた項目に沿って,「この地域はどのような特徴を持っているのか」という問いを立てるの とは異なったアプローチである。. 社会科においては社会認識を形成するために,社会事象における原因と結果の関係を把 握し,その繰り返しから規則性・法則性を概念として身につけさせる必要がある。そのよ うな知識を身につけさせるために,これまでにも動態的地誌学習のような探究型の学習過 程を用いた多くの実践報告がなされている。. しかし,学習者が,因果関係を追究する中で,仮説として設定した原因と結果の関係が 正しいのかどうかを検証する際に,どのような資料を用いればよいのか,原因と結果の時 間的順序関係があるのかなどの,検証の具体的手順の詳細は明確に示されてこなかった。. そこで,本研究ではクリティカル・シンキングの手法を用いた因果関係の検証に着目し た。クリティカル・シンキングの手法を用いて因果関係を検証していくことは,ある探究 のプロセスに従って学習していくことであり,そのプローセスによって知識を獲得していく. ことである。平成10年版学習指導要領は方法知に主眼が置かれ,社会認識としての内容知 を保障することはできなかった。今次改訂の平成20年版学習指導要領では,内容知・方法. ・2・.
(7) 和ともにバランスのとれた学習過程が目指されている。また,今日の知識基盤社会化やグ ローバル化する社会において,網羅的・暗記的な学習を行なったのでは現代社会の要請に こたえることはできず,仕会科では学習者が探究のプロセスに則って学習し,内容知・方 法知を獲得し社会認識を保障することが必要である。. 以上のような問題意識から,社会科探究学習の仮説一検証過程にクリティカル・シンキ ングの因果関係決定方略を用いることは,生徒が科学的な手続きを経て説明的知識を獲得 するのに有効であると考えた。. 2.研究目的 本研究は,平成20年版学習指導要領の趣旨を踏まえ,社会事象の因果関係を科学的に明 らかにし,説明的知識を獲得するためのものである。そこで,仮説の検証過程に着目し,. クリティカル・シンキングの手法を用いた因果関係の検証過程の詳細な手順と内容的枠組 みを明らかにし,探究過程の詳細な授業設計理論およびそれに基づいた授業モデルの提案 を目的とする。. 3.研究仮説 本研究における仮説は,以下のようになる。. 社会科授業の仮説の検証過程において,クリティカル・シンキングの因果関係決定方 略を組み込むならば,社会事象の因果関係を明らかにする際,科学的な社会認識を獲得 し,説明的知識を習得することができるだろう。. 4.研究方法 (1)前期中等教育における社会科の意義と課題を明らかにする。. (2)社会事象を科学的に探究する際,特に因果関係の有無を検証する際に用いられるクリテ イカル・シンキングの要素を明らかにする。 (3)(2)で明らかにしたクリティカル・シンキングの要素を用いて,社会事象における因果関. 係の検証を行っている授業を分析するフレームワークを設定する。それにより,先行授 業実践や授業モデルにおける因果関係の把握の仕方を分析,検討し,その問題点を明ら かにする。. 一3・.
(8) (4)(3)で明らかになった点を克服する授業モデルを開発し,提案する。. 《I.問題の所在,研究目的,研究の仮説,研究の方法 註及び引用文献》. }文部科学省『中学校学習指導要領解説 社会編』日本文教出版,2008,pp.2−3 2同上書,p.4 3同上書,pp,20・21. ・4一.
(9) 第I章 前期中等教育における社会科の意義と課題 第1節 社会科における探究学習 社会科は「社会認識を通して市民的資質を育成する」教科であり,社会認識は社会科の教. 科内容を構成する内容学である社会諸科学から抽出された概念・法則性を獲得することが 求められる。社会科授業においては科学的に社会を認識させることが求められる。「社会科 は暗記科目ではない」ため単に言葉を網羅的・羅列的に覚えるのではなく,科学的な探究の. もと科学的知識とともに科学的な方法を習得することが必要となる。社会科教育において 社会事象を探究することは,社会事象を明らかにすることと言い換えることができる。. そこで,本章では,社会科における社会認識形成のプロセスを考えていくにあたり,社 会科教育研究者たちがどのような探究学習の方法や理論を用いてきたのか考察するととも に,探究学習にはどのような課題があるのかについても明らかにする。. 1.探究学習とは何か ここでは社会科における探究学習とはどのようなものなのか。そもそも探究とは何なの かを明らかにする。 国語辞典では「探究(探求)」は「物事を明らかにするために,深く探りきわめること1」と記. されている。このことから探究学習は物事を明らかにするために,深く探りきわめる学習 であると捉えることができる。さらに言えば,社会科教育において探究することは,社会 事象を明らかにすることであるといえる。. .降旗勝信は,いかなる知識も探究活動の結果として獲得される2とし,以下のように探究 学習のねらいを・主張している。. 知識獲得の方法を理解させるならば,今日の教育界が直面している知識過剰という問題を解決すること ができるはずである。探究の道具さえ所有しているならば,たくさんの知識を貯えておく必要はないとい えるであろう。なぜなら,方法を知っているということは,その方法を適用することによって発見できる すべての知識を代表していることになるからだ。 (中略:西沖)すなわち,知識のエッセンスとしてカギ概念にいたる探究過程を重視し,それを単純化した. 形で教科の中へ取り込み,知識獲得に必要な探究能力を育てることを意図するのが,探究学習なのである3。. ・5・.
(10) また,降旗は,知識体系は先行する多くの知的活動の所産4と述べ,以下のように主張す る。. 教科のなかでこどもを教育するということは,知識の結果を子どもに植えつけることではなく,知識が 確立してくるプロセスに参加することを教えることだ。いいかえれば,教科を教えるのは,その教科につ いて小さな生き字引きを作るためではなく,子どもが自分自身のカをもって数字的に考えたり,歴史家が するように事件を考えたりすることができるようになるためだ。要するに,如癌痘毎あ夕白毛力と手ともを 参茄き去ることがねらいなのだ。尭る^、ら三左ぽ,ナ白毛支七あらそ結稟そ1壬春ゴ、5。. これは,森分孝治が社会認識を,社会科教育の成果として子どもの内面に形成される社 会事象.に関する知識体系6と述べていることと関わる主張である。つまり,社会科教育にお. いて,社会認識:社会事象に関する知識体系とするなら,社会認識は社会諸科学の研究成 果により獲得され,さらにそれは獲得のプロセスに学習者を参加させることが重要である と示唆している。. この主張は探究の能力や過程を重視して,探究結果は無視するものではない。また,社 会科は内容知習得に重きが置かれる教科であり,方法知に偏った教科であるべきではない。. ここで主張されているのは,知識は探究の過程で習得されるものであり,そのプ白セスに 学習者が関わるような学習活動が求められていることである。そして,降旗は探究学習を,. 知識獲得の過程に児童・生徒が主体的に参加することによって,探究能力・科学概念・望 ましい態度の形成をめざす活動である7と定義し,以下のように整理している。. ①探究学習は,結果としての知識を教えるのではなく,知識が確立してくる過程に児童・生徒が主体的 にかかわるよう計画される。しかしながら,教師の適切な指導性を排除するものではない。 ②探究学習の第一のねらいは,探究能力の育成にある。探究能力とは,実践的行動的な能力を意味し, 認知的能力と技術的能力とから構成させるものである。. ③探究能力は,探究活動の結果として獲得される科学の基本概念や望ましい態度形成をも重視する。科 学の基本概念は人間教育の論理的側面と関係し,態度形成はその感情的側面と関係しているが,探究 能力の育成と合わせてこれら三者が有機的な関連をもつように構想されることが人間教育にとって不 可欠と考える。. ④探究学習は,科学の方法の基礎となる探究の過程を重視する。探究の過程はいくつかの要素的な過程. ・6・.
(11) から成り立ち,それらの要素的な過程は比較的単純な過程から複雑な過程へと階層構造をもっと考え る。このような探究の諸過程の階層構造に密着した形で探究能力が育てられるよう,探究学習の全体 構造が構想される8。. さらに,池野範男は,探究そのものは知ること,知る行為を意味している9とし,探究学 習を次のように説明している。. 探究学習は,学習者が科学の研究成果を生み出した過程に主体的に参加することを通して,科学の基本 的な概念,探究の方法を獲得するとともに,科学的な態度を形成する学習である。 (中略:西沖)学問の科学性に従い,学習者が教師の提供する教材の申に,なぜそうなっているのかという. 疑問を問題として見つけ,教師に指導されそれを科事的に解決し,法具1」や概念などの一般化 (generahZat1OI1)を獲得する。その過程が科学的探究の過程であり,この学習方法面を強調したものが探究 学習である1O。. ところで,探究学習は社会科だけではなく,他の教科でも行なわれている。ならば,探 究学習は学校教育全般に寄与するものでなくてはならない。降旗は探究学習を行なうこと による教育への寄与を以下のように述べている。. 知識獲得の過程に主体的に参加するということは,結果としての知識をたんに習得するというのではな く,その知識がどのようにして得られたのかを知ることであり,自分の力で知識を獲得できるような能力 を育てることをめざしたものである。さらには,探究の結果として,現代科学の本質と構造の理解に到達 することはもちろんであるが,そういう現代科学のわく組みを自己の認知構造のなかに確立して,未知の 世界を探究していくとき,そのわく組みにもとづいて主体的に取り組めることができるような子どもを育 てようとする。そのうえさらに,そういう現代科学のわく組みのなかに閉じ玉もってしまうのではなく,. 現代科学のわく組みそれ自体も変革し再構成するような人間の育成こそ,今日の教育の最大の課題でなけ ればならない。探究学習は,このように,与えられた情報を越えていくことができる創造的人間の育成を 究極のねらいとしてかかげなければならない11。. また,森分は,社会科は人間形成ということでもっと引き下がるべきである12と主張して. いる。探究学習の究極のねらいは知識がどのようにして得られたのかを知り,自分の力で. ・7・.
(12) 知識を獲得できるような能力を育てることをめざしたものであると同時に,習得した知識 や能力を社会に生かすことができるようにするものである。 これまでの研究者の主張から,本研究における探究学習は次のように捉える。. 探究学習は知識が確立してくる過程に学習者が主体的に参加することを通して,科学 の基本的な概念,探究の方法を獲得することにあり,探究能力を育成することがねらい である。学習者が教師の提供する教材の中に,なぜそうなっているのかという疑問を問 題として見つけ,教師の適切な指導のもとそれを科学的に解決し,法則や概念などの一 般化を獲得する過程である。. 2.社会科探究学習の課題 次に,日本における社会科探究(探求)学習の展開を明らかにする。日本の社会科教育にお. ける探求学習の先駆的役割を果たしたのは森分孝治と1971年に結成された『社会科教育研 究センター」(以下,杜研センタ』)である13。. 森分は科学一元論に立つ科学哲学(批判的合理主義)に基づいてアメリカ新社会科を分析 し,科学的知識を科学的探求の論理に基づいて習得させる「探求としての社会科」を提唱い ている14。梅津は森分の探求学習の方法の手煩を以下のように説明.している。. 森分によれば,探求学習としての社会科授業構成の要となる手順は次の通りである。1.子どもに習得さ せたい解釈内容(=知識体系)を「到達目標」として設定する。この場合,解釈内容は学間の先端をいく科学的. 理論の体系であるべきであり,それを教師が主体的に選択して,目標として設定する。2.授業を,解釈内 容の,子どもによる批判的習得(=解釈)過程として組織する。具体的には,授業を,子どもたちが「なぜ」「ど. うなるのか」といった主要な問いに導かれながら,事例に基づいて仮説を検証し,知識を修正しながら到達 目標のr科学的理論」を発見・習得していく過程として組織する15。. そして,森分は「幕藩体制」教授書の開発にあたって,生徒自身が歴史的事象・出来事を. 科学的に認識する授業が,生徒にとっても良くわかる楽しい授業であるというように統一 して考えられるべき16と述べ,r理論の批判的学習」の必要性を次のように説明している。. (中略:酉沖)歴史的事象・出来事を科学的に認識するということは,より具体的には,生徒自身が歴史. ・8・.
(13) 的事象・出来事の起因あるいは結果を,その時代に関する法具1」,理論に関係づけて,科学的に説明・予測 できるということである。生徒が「歴史的事象・出来事の起因あるいは結果を,その時代に関する法則,理 論に関係づけて,科学的に説明・予測できるようにさせる」ためには,歴史の授業に含まれる法具1j,理論を. 明示し,その批判的学習,すなわち,具体的事象・出来事にもとづいて法則,理論を発見し創造し,発見・. 創造した法則,理論を用いて他の事象を説明していく。その過程で法則,理論を修正し発展させていく学 習をとおしてすすめていくことが必要であろう17。. また,杜研センターは「中心概念」(社会の基本的な傾向や理念)の形成と「情報処理能力」. (自己の意思決定・行動決定に最適な情報を選択したり,創造していく能力)の育成を目標に. したりしている18。そして,杜研センターの探究学習では社会科の課題を子ども自身の自由. な探究とし,社会科の課題は科学的社会認識の形成より,人間教育の立場から市民として の資質や能力の育成を目指し,次のような学習過程をとっている。. 学習過程は1小単元1サイクルという方式で組織される。その過程は,①問題把握(学習問題の設定,予 想・仮説の設定,検証計画の立案),②問題追究(検証),③結論の吟映(まとめ)の3段階を踏む19。. さらに,杜研センターはこのような学習過程により,学習者に科学研究の原型を学ばせ,. 科学的な探究行動を育てようとしている。池野は,森分の探究学習を科学性においてとら えたのに対し,杜研センターは子どもの活動性においてとらえようとしているため,社会 科を科学的な社会認識を形成する社会科学教育として推進するものと,さらに意思決定を も育成しようとする市民教育として発展させようとするものに分岐している20と述べてい る。. また,金子邦秀は森分の学習過程を,どちらかといえば内容の科学的構成に重点がおか れ,探究過程そのものには必ずしも十分な日が向けられていなかった21とし,杜研センター の学習過程については,「探究」は「問題解決」の新たな革袋として受け止められ,さらに「中. 心概念」は社会諸科学からではなく,教科書(もしくは学習指導要領)をもとに設定され,結. 果として低次の概念的知識の習得をさせるにとどまった22と指摘する。また金子は双方の探. 究学習,さらに外国の探究学習の研究成果から,社会科探究学習の意義と特質を以下のよ うに示している(表I−1)。. 一9・.
(14) 表I−1 r探究(探求)」型授業論の意義と特質 ①探究は実に多様であり,学習内琴に即して,選択的に用いられるべきである。. ②探究学習の過程はこれを固定的にとらえてリニア的に教授学習を組織するのではなく,大綱として捉 え,教師も生徒も各段階を行きつ戻りっしていく柔軟なものとして設定されるべきである。. ③探究学習は,それぞれの授業,さらには授業の分析といったレベルでの小ステップにおいて探究技能 を1つ1つ修得していく積み上げと,各種技能の組み合わせで各探究段階をきめ細かく構成すべきで ある。. ④探究学習のモデルは小単元に適用するのではなく,できれば大単元にこそ適用すべきである。 (金子(1999)23より筆者抜粋). 以一ヒより,社会科においては社会認識を形成するために,社会事象の一般性や法具一」」性を. 探究する過程が必要であることが分かる。そして,社会事象を探究していくことは社会事 象の因果関係を明らかにすることであるといえる。岩間ヨー彦は,社会事象間の関係を原因 と結果の関係で示しているものを説明的知識と呼び,「なぜ(WHY)」という間いにより因果 関係を究明するとしている24。つまり,社会科では探究一学習の過程で「なぜ」という問いを設. 定することによって,社会事象の原因と結果が明らかになる。. 社会事象間の因果関係を明らかにし学習者の社会認識形成を図るならば,金子が指摘し たように,これまで展開されてきた探究(探求)学習の各段階をきめ細かく構成し,より詳細. な探究学習の理論が社会科に求められているといえよう。. 第2節 社会科における言語力育成 平成20年3月に中学校学習指導要領が告示され,それに基づき平成24年度から完全実 施される。従前の学習指導要領から強調された確かな学力,豊かな心,健やかな体の調和 を重視する「生きる力」を育むことが重要とされている。また,01ECD(経済協力開発機構). のPISA調査などの結果から,我が国の児童生徒には①思考カ・判断力・表現力等を間う読 解力や記述式問題,知識・技能を活用する問題,②読解カで成績分布の分散が拡大してお り,その背景には家庭での学習時間などの学習意欲,学習習慣・生活習慣,③自分への自 信の欠如や自らの将来への不安,体力の低下25といった課題が挙げられている。. 本節では,これらの課題のもと今次改訂の中学校学習指導要領においてどのような方向 性や特色が明示されているのか,また,社会科に何が求められているのかについて明らか. ・10・.
(15) にする。. 1.学習指導要領改訂による言語力育成 今次改訂の学習指導要領〔社会〕では,上述した課題を克服するためどのような内容が 明示されているのか。. 中央教育審議会はそのような課題を踏まえた上で,平成20年1月に「幼稚園,小学校, 中学校,高金学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善について」答申を行い,基本的な 各学校段階や各教科の学習指導要領の改善の方向性を以下のように示している。. ①改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂. ②「生きるカ」という理念の共有 ③基礎的・基本的な知識・技能の習得 ④思考カ・判断力・表現力等の育成 ⑤確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保. ⑥学習意欲の向上や学習習慣の確立 ⑦豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実26. 社会科において,このような答申の方向性を反映させるには,基礎的・基本的な知識, 概念や技能の習得に努めるとともに,思考力・判断力・表現力等を確実にはぐくむため言 語活動の充実を図り,社会参画に関する学習を重視すること27が求められている。 また,中学校学習指導要領社会科の改善の基本方針および改善の具体的事項については, 以下のように示されている。. (i)改善の基本方針 ○社会科,地理歴史科,公民科においては,その課題を踏まえ,小学校,中学校及び高等学校を通じて,. 社会的事象に関心をもって多面的・多角的に考察し,公正に判断する能力と態度を養い,社会的な見 方や考え方を成長させることを一層重視する方向で改善を図る。. ○社会的事象に関する基礎的・基本的な知識,概念や技能を確実に習得させ,それらを活用するカや課 題を探究するカを育成する観点から,各学校段階の特質に応じて,習得すべき知識,概念の明確化を 図るとともに,コンピュータなども活用しながら,地図や統計など各種の資料から必要な情報を集め. ・11一.
(16) て読み取ること,社会的事象の意味,意義を解釈すること,事象の特色や事象間の関連を説明するこ と,自分の考えを論述することを一層重視する方向で改善を図る。. ○我が国及び世界の成り立ちや地域構成,今日の社会経済システム,様々な伝統や文化,宗教について の理解を通して,我が国の国土や歴史に対する愛情をはぐくみ,日本人としての自覚をもって国際杜 会で主体的に生きるとともに,持続可能な社会の実現を目指すなど,公共的な事柄に自ら参画してい く資質や能力を育成することを重視する方向で改善を図る。 (i)改善の具体的事項 (中学校). (ア)地理的分野については,世界の地理的認識を深めるため,世界各地の人々の生活と環境とのかかわ. りや世界の諸地域の多様性について学ぶ項目を設けるとともに,我が国の国土に対する認識を一層深 めるため,日本の諸地域における特色ある事象を他の事象と有機的に関連付けて地域的特色をとらえ ることができるよう内容の改善を図る。また,内容の全体を通して,地図の読図や作図などの地理的 技能を身に付けさせることを一層重視するとともに,身近な地域の調査の学習において,諸課題を解 決し地域の発展に貢献しようとする態度を養うことができるようにする。 (イ)歴史的分野については,我が国の歴史の大きな流れを理解させ,歴史について考察するカや説明す るカを育てるため,各時代の特色や時代の転換圭こかかわる基本的な内容の定着を図り,課題追究的な. 学習を重視して改善を図る。その際,現代社会についての理解が深まるよう,近現代の学習を一層重 視する。また,例えば身近な地域の歴史学習などの中で,様々な伝統や文化について学習させるとと もに,我が国の歴史の背景にある世界の歴史の扱いを充実させる。さらに,諸事象の意味や意義,事 象間や地域間の関連などを追究して深く理解し自分の言葉で表現する学習を重視する。 (ウ)公民的分野については,現代社会の理解を一層深めさせるとともに,よりよい社会の形成に参画す. る資質や能力を育成するため,文化の役割を理解させる学習,ルールや通貨の役割などを通して,政 治,経済についての見方や考え方の基礎を一層養う学習,納税者としての自覚を養うとともに,持続 可能な社会という視点から環境問題や少子高齢社会における社会保障と財政の問題などについて考え させる学習を重視して内容を構成する。その際,習得した概念を活用して諸事象の意義を解釈させた り事象間の関連を説明させること,自分の考えを論述させたり,議論などを通してお互いの考えを深 めさせたりすることを重視する。28. これらをもとに,中学校社会科の改訂に当たっての基本的な方針は以下の3点に集約さ れている。. 一12一.
(17) (1)基礎的・基本的な知識,概念や技能の習得 (2)言語活動の充実. (3)社会参画,伝統や文化,宗教に関する学習の充実29. この3点の中でも,とりわけ言語力の育成に関しては上述したPISA調査における読解力 の低下が明らかになり,従来,国語カの中核をなしてきた言語カの育成が国語科だけでな く,社会科あるいは他教科においても要請されている。. それでは,言語力それ自体はどのように考えられているのか,また社会系科目において 言語カを育成することによりどのような効果が期待できるのか。言語カ育成協力者会議に おける言語力の基本的な考え方および言語カの重要性は以下のように示されている。. (中略:西沖)言語カは,知識と経験,論理的思考,感性・情緒等を基盤として,自らの考えを深め,他者. とコミュニケーションを行うために言語を運用するのに必要な能力を意味するものとする。. また,言語力のうち,主として国語に関するものについて論じるが,言語種別を問わない普遍的かつ基 盤的な能力を培うとの観点から,外国語や非言語等に関する教育の在り方についても必要に応じて言及す る。. 言語は,文化審議会答申(平成16年2月)が国弔カについて指摘するように,知的活動,感性・情緒等,. コミュニケーション能力の基盤として,生涯を通じて個人の自己形成にかかわるとともに,率化の継承や 創造に寄与する役割を果たすものである。3皿. このように言語力の重要性を示した上で,社会系科目における言語カの育成に関しては, 以下のように示されている。. <社会、地理歴史、公民〉. ○ 社会科,地理歴史科,公民科では,身近な地域の観察・調査などを行う学習において,的確に記述し 解釈を加えて報告すること,法則性や概念を基に事象を説明すること,価値判断や未来予測,また,未 来がどうあるべきかという議論が必要な場面を設けて各自の解釈・判断を論述したり,意見交換したり することが考えられる。. ○ また,言語カや思考カの育成のために,様々な資料を的確に読むことや,それらの資料を関連付けて. ・13・.
(18) 読む,比べて読む,批判的に読むなどの指導を充実することが望ましい31。. 上述に関して岩田は,言語力育成協力者会議が社会科に要請している内容はこれまで, 社会科教育界で,良い社会科授業の条件としてあげられている32と述べている。また,社会. 科授業は,講義,観察,調査,討議等の過程を通して展開されることから,どの過程にお いても言語力が育っていない限りは有効な社会科授業は展開できず,反対に社会科授業を 効率的に展開していけば,言語力は白ずと育っていく33と述べている。. これらから,社会科において言語を抜きには構成できないため,社会科授業の一つひと つの過程を緻密に効率のよい内容にすることが重要であることがわかる。とりわけ,中学 校学習指導要領社会編の基本方針にある説明や解釈といった過程を授業に意図的に組み込 むことにより,言語力ひいては読解力を育成するとともに,従来から求められている確か な学力の育成ができると考えられる。. 2.社会科における言語活動の充実 各学校段階および各教科において言語力の育成が重要視されている。それでは社会科に おいて具体的にどのような言語活動が求められているのか。大杉昭英は中学校学習指導要 領社会の改善の具体的事項にある「解釈」「説明」「論述」の視点がこれまでになく新しい34と. して,それぞれ以下のように整理している。. r解釈」. (中略:西沖)社会科は社会事象が学習対象となっている。そこで,その事象がなぜ存在しているのか,そ. の時代の社会にとってどのような意味があるのか,また他の時代の社会にとってどのような意義をもって いるのかを「解釈」するのである。. r説明」. 「説明」については,社会的事象の「特色」を説明することと,事象間の「関連」を説明することが中心とな っている。. そのうち社会的事象の「特色」は比較という方法を通して明らかにすることができる。 (中略:酉沖)続いて,事象間の「関連』について考えてみよう。この「関連」については様々なものが考えら. れる。ある出来事(A)が原因となって他の出来事(B)を引き起こすといった原因一結果の関連,また,目的. 一14・.
(19) 一手段の関連,他地域.との関連などがある。それらは実社会では不可視であることが多い。そこで関連を とらえるための見方や考え方=「概念的枠組み」として知識・概念が登場することになる。 (中略:西沖)「需要」「供給」「価格」という概念で「バイオ燃料の重視」とギ豆腐の値段が上昇する」こととの関. 連をとらえ,それを説明するのである。. r論述」. 自分の意見を述べるにとどまらず.その正当性について根拠をあげて第三者を説得できるように論理的 に述べてゆくことが大切になってくる35。. また,岩田は社会科の授業では,様々な形で記述,説明,解釈,判断が行なわれ,これ らの場を言語力育成の有効性の高いものすることが可能である36とし,それぞれを以下のよ うに説明している。. r記述」. 社会事象を認識するに際しては,事象について考える材料が必要である。豊かな情報が欠かせない。そ れも体験と結びついた情報が形成されていかなければならない。この情報を形成していくためには,人の 表情が見えるレベル,ミクロなところまで目の行き届いた情報に価値がある。 (中略=西沖)「竈でご飯を炊いている様子」の絵がある場合には,何を燃やしているのか,どんな釜や鍋が. かかっているのか,周りにはどんなものが置かれているか,目の周りにいるのは誰か,子どもは何をして いるのか等のミクロなところまで読み込ませ,記述をさせる学習活動が求められる。. r説明」. 情報を蓄積するだけでは社会が分かるようにはならない。それは材料だからである。自然科学者が顕微 鏡を組み立てたり,建築家がさまざまな機械や道具を使って家を建てたりするように,社会事象が見える ようにするためには,各人が組み立てた概念装置が必要である。 社会科の場合には,地理学,歴史学,政治学,経済学,社会学などの社会諸科学から抽出された法具1」一性. や概念を組み立て概念装置を作っていく。この法具11佐や概念は,何故という間いに対する説明として形成. される。児童・生徒はこの種の概念や法則性を社会科授業の中で形成していく。人類は,何故と問い,原 因を見つけ,原因・結果の関係を法具一」性や概念として蓄積してきた。その法具1』性や概念を組み合わせて,. 社会事象を説明する概念装置を組み立ててきた。児童・生徒もこの過程を学習のプロセスとして経験して. 一15・.
(20) いく。他の人が納得せざるを得ない状況を構成して,事象間の関係を記述するのが説明である。. 他の人が納得せざるを得ない状況を作る基本は,事象の原因・結果の科学的検証である。社会科授業に おいては,帰納的説明,演線的説明,確率論的説明,・説明的スケッチと,さまざまな展開がなされている。. 言語カの基本はこの説明力と考えることが適切であろう。 (中略:西沖)社会科学習で科学知をさせる基本は説明であるので,上記の記載例の中で適切な箇所は,「説. 明」の用語を使用する。社会科学習の中で,説明の位置が明確になれば,言語カの育成に社会科が有効に 働くこととなる。. 「解釈・判断」. 社会科の授業は,科学知の形成のみを意図するのではなく,児童・生徒が教養知,定型知を習得し,人 間理解を進めていくことも目的としている。さまざまな価値判断場面や人々の行動を,一人ひとりが独自 の解釈をし,個性的な判断をしていくことが重要である。この際には,独断と偏見に満ちた解釈・判断に 陥らないような指導も必要である。そのためには,各自の解釈・判断を説明し,意見交換をする場の設定 が不可欠である。この場において,コミュニケーション能力も育ち,言語力形成の有効な場にもなる37。. これらから,両者に共通する用語は「解釈」と「説明」である。しかしながら,大杉の「解釈」. は社会事象がその時代にどのような意味や意義を持っているのかという事実に関して行な うのに対し,岩田の「解釈」は様々な価値判断場面や人々の行動に対して行なうことから, 全く別の意味で用いている。 もう一方の「説明」に関して大杉は,社会事象間を原因一結果の関連,目的一手段の関連,. 他地域との関連としてとらえている。また,岩田は事象間の関係を記述するのが説明であ るとしていることから,両者の「説明」は社会事象の法則性や概念を習得するものだといえ る。つまり,「説明」を授業の中で明確に位置づけることにより,社会事象の法則性・規則 性や概念を形成していくとともに,言語カの育成に寄与するものになるといえよう。 さらに,森分は社会科における「説明」することを以下のように述べている。. 理解する,認識するというのは,他人の存在を必ずしも必要としない精神活動である。理解する,認識 するのは私自身であり,理解させる認識させるといっても,理解し,認識するのは個々の子ども自身であ る。それらは本来認識主体の主観的な活動である。ところが説明というものは,誰かが誰かに何かを説明 するわけであり,必ず相手を前提としている。それは,本来,間主観的な活動であるわけである。説明す. ・16一.
(21) るということは説明する者とされる者との間で,説明されていることを確認しあうことである。先に,社 会科セは自分なりに理解し納得するだけでなく,それぞれの理解をつき合わせ吟味し,一つの正しい理解 に到達することをねらいとすると述べたが,それは,子どもが各自理解したことにもとづき説明しあい,. その説明が正しいのか検討しあう過程としてとらえることができる。社会科の授業は,社会生活を正しく 「理解させる」,科学的に「認識させる」のではなく,社会生活を正しく「説明できるようにさせる」ことであ るべきであろう38。. このことから,社会科授業において「説明」することはねらいの1つになりうるものであ り,「説明」することにより正しい理解や認識に到達することでもある。また,森分は「説明」. することにより知識を吟味できるとし,知識を吟味する過程として授業を構成し組織して いくべき39であると主張する。. 以上のことから,学習指導要領で求められている社会科における言語カの育成は「説明」 することができることであるといえる。さらに言えば,社会事象を「説明」することは,授. 業構成において社会事象を授業者が問いの形(WHY)で明示し,学習者が事象の関係性を吟 味し記述していくことにより法則性・規則性や概念を形成することである。そうした授業 を構成し組織すれば,社会科は言語力育成に有効に働くことになる。. 第3節 前期中等教育学習指導要領における社会科の性質 前節では,学習指導要領が求める基本的方針および社会科における言語力育成の具体的 な方略を明らかにした。しかし,中等教育前期段階において求められている各教科目標に 則した内容の中で授業は構成していかなければならない。 そこで,社会科における目標を学習指導要領および各・研究者の著作等から抽出する。さ. らに,学習指導要領における地誌学習が大きく変わったことから,地理的分野が社会科に おいてどのような位置づけにあるのか,地理的分野の学習方法はどのように変化したのか を明らかにし,社会科で求められている「説明」とどのように関わりがあるのかを考察する。. 1、前期中等教育における社会科の目標 中等教育前期における社会科の目標はどのようなものか。今次改訂の学習指導要領にお ける社会科の目標は以下のように定められた。. ・17・.
(22) 広い視野に立って.社会に対する関心を高め,諸資料に基づいて多面的・多角的に考察し,我が国の国 土と歴史に対する理解と愛情を深め,公民としての基礎的教養を培い,国際社会に生きる平和で民主的な 国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う40。. この目標の「公民的資質の基礎を培う」は社会科の究極のねらいとされている。ところで,. 公民的資質とはどのようなものであろうか。祇園全縁は以下のように公民的資質を捉えて レ、る。. 社会科は「社会認識を通して,公民的資質を育成する」教科である。公民的資質は,社会科の究極目標と もいえ,それは「国際社会に生きる民主的,平和的な国家・社会の形成者としての必要な資質」といえる。 (中略:西沖)社会科でいう公民は,市民社会の一員としての市民及び国家の一員としての国民を意味して. いると解することができる。従って公民的資質は市民としての側面と国民としての側面とをもつ態度・能 力に重点がおかれた概念と解することができる41。. このように,公民は国民と市民を合わせた言葉であり,双方の態度・能力に重点がおか れた概念こそ公民的資質であり,社会認識を通して育成されるものであるとしている。ま た,岩田は社会科の目標を,社会認識を通して市民的資質(公民的資質)を育成することであ. るとし,社会認識について社会を知る働きとその結果としての知識の2つの側面が含まれ ると述べ,以下のように説明している。. 社会の認識という用語には,一人ひとりの思惑を越えた一般的共通性の性格がある。それに対して,社 会の理解という用語には,社会事象と一人ひとりの体験・知識との関係が絡まってくる。 すなわち,社会認識という用語を使用する場合には,料学的性格が強くなるという側面がある。. 社会認識の内容の背景には,地理学,歴史学,政治学,経済学,社会学.文化人類学,といった社会諸 科学が存在している。したがって,体系的な社会認識形成を図るためには,社会諸科学の研究成果として の法則性や概念の抽出が必要となってくる。42. また,森分は社会認識を以下のように定義している。. 社会科を教科として成り立たせる知的活動領域であり,社会科教育の成果として子どもの内面に形成さ. ・18・.
(23) れる社会事象に関する知識体系。社会認識形成は社会科教育の日的原理であり,社会科教育学の中心概念 である。43. これらから,社会認識は社会科を構成する内容学から抽出された概念・法則一性を獲得す. ることに留まらず,問題発見,仮説,検証といった探究的方法も含まれた社会事象に関す る知識体系として定義することができる。. そして,森分孝治は社会科の授業を次のように捉えている。. 社会科の授業は,社会を認識させることを目的とし,社会を認識させる過程として構成される。社会科 の授業はどう認識させるかということに関する考えかたなくしてはなされない。社会科の授業をするとき,. 教師が意識すると否とにかかわらず社会の一定の認識のし方を子どもに教えている。一時間の授業,単元 の授業,学年を通しての授業は,それぞ丸一定の社会的事象一出来事を認識させる過程である。しかし, 授業は,唯,社会を認識させるのではなく,「科学的」に認識させることをねらいとし,「科学的」に認識さ. せていく過程として構成される。44. このことから,社会科授業においては科学的に社会を認識させることが求められるとい える。また,谷本美彦は社会科の本質を「学校教育の一教科である社会科を成り立たせてい る独白の性質45」と定義し,独自の性質は社会科をどのように根拠づけるかによって異なる と指摘している。しかし同時に「社会科は,子どもの認識を確かなもの,科学的なものにし. ていくことや,究極的には個々の青少年を民主主義社会の建設に寄与する一員として育て 上げることについては共通している46」と述べている。. つまり,学校教育の一教科を担う社会科が「社会認識と通して市民的資質(公民的資質)を. 育成する」ことを目標に掲げるならば,社会科授業は社会諸科学の研窄成果の概念・法則性. を科学的知識として獲得すること,さらに科学的な方法によって習得することが重視され るといえる。. これを踏まえて学習指導要領の社会科の目標をみると,「社会に対する関心を高め,諸資 料に基づいて多面的・多角的に考察47」という文言は解説により次のように説明されている。. 「社会に対する関心を高め」は,社会科の特質を踏まえて学習の過程を大切にし,生徒自ら社会事象を見. いだし,それについて課題を設定し追究する学習を重視するとともに,学習を通してさらに関心が高まる. ・I9・.
(24) ことなどを目指す意味である。「諸資料に基づいて多角的・多面的に考察し」は,社会的事象はそれらをと. らえる観点によって大きく見え方が変化することから,資料を適切に収集,選択,処理,活用し,それら の資料に基づいて多面的・多角的に考察し公正に判断する態度を身につけさせることを,情報化の進展に 対応する観点も踏まえて重視したものである。48. 学習指導要領における社会科の目標においても学習過程を重視していることから,科学 的な方法により社会事象をとらえ,社会事象の概念や法則一性を科学的知識として獲得する. 過程を社会科授業に組み込むことが必要となる。社会認識を育成することが学校教育の一 教科である社会科を成り立たせており,社会の形成者たる市民的資質を育成することが社 会科の目標といえる。. 2、学習指導要領における動態的地誌学習 上述したように,社会認識形成を目的とした教科である社会科は,中学校では地理的分 野,歴史的分野,公民的分野の三領域から構成されている。社会系教科目では社会認識形. 成を通した市民的資質の育成が目標であるとされている。そして,その基礎は空間軌時 間軸,人間軸の形成が必要である49。これまで学習者の時間軸は歴史で,空間軸は地理で, 人間軸は公民で形成されてきたと吉水裕也は述べている(図I−1)。. 時 間. 軸. ;. 一. ・一一一一・■一一■・.一・・■ =塞. ’. 社会認識. 萎1襲. ’ ’. ’. 姜 ’ ’. =11」1111111111111111苦≡=≡1≡1≡1111111111111. ’ ’. ’ ’. 匝. ’ ’. ’ ’. ’. ’ ’ ’ ’ ’. 図I−1時間軸,空間軸,人間軸と社会認識の座標. ・20・. (筆者作成).
(25) 日本の中等教育前期における地理教育は社会科地理としての位置づけにある。岩剛ま社 会科地理について以下のように説明している。. 地理科,歴史科は,社会認識形成の重要な教科として,世界的にみると広く行なわれている。これに対 して,社会科地理は,地理科の教科としての独立をとらない教科論にたつものである。. 昭和22年度版の学習指導要領で社会科が成立し,わが国の社会認識教育は社会科という教科の下で行な われることになった。昭和30年以後の学習指導要領の改訂で,中学校の「社会科地理的分野」高等学校の「社 会科地理科目」が確立された。小学校では,分野,科目の考え方はとられていない。この社会科地理的分野, 社会科地理科目を「社会科地華」と称している。. 社会科地理は,地理科とは一性格を異にし,地理学の研究成果や地理的知識を学習することが目的ではな. い。その学習を通して,社会認識を形成することに中心的目標がある。学習対象となる地理的事象は,社 会認識形成のための学習素材である。50. 上述のように,学習対象となる地理的事象は社会認識形成のための学習素材であり,社 会認識を形成することに社会科地理の目標が置かれることになる。では,市民的資質(公民 的資質)の育成を掲げる社会科地理的分野の目標はいかなる内容であるのか。今次改訂され た社会科地理的分野の基本的目標は以下のように定められている。. 日本や世界の地理的事象に対する関心を高め,広い視野に立って我が国の国土及び世界の諸地域の地域 的特色を考察し理解させ,地理的な見方や考え方の基礎を培い,我が国の国土及び世界の諸地域に関する 地理的認識を養う。51. このことから,学校教育の一教科である社会科に位置づく地理的分野は,社会認識形成 のため我が国の国土認識と併せて,世界の諸地域に関する地理的認識を養うことを基本的 な目標としている。言い換えれば,世界の諸地域と員本の諸地域に関する地誌的な学習を 科学的な方法により社会的事象の概念・法則性を獲得することになり,地理的分野は社会 認識形成を担う領域として位置づいている。. その社会認識形成を担う地誌学習は,従来の羅列的・網羅的であるといわれた静態的地 誌学習からの脱却,さらには系統地理的学習方法でもある地域の社会事象の一般性・法則. ・21・.
(26) 性を導き出すことのできる動態的地誌学習が導入されることになった52。では,改訂された. 中学校学習指導要領〔社会〕における動態的地誌学習はどのような内容なのか。学習指導 要領に整理されている地理的見方や考え方を以下のように示す。. ①どこに,どのようなものが,どのように広がっているのか,諸事象を位置や空間的な広がりとのかかわ りでとらえ,地理的事象として見いだすこと。また,そうした地理的事象にはどのような空間的な規則 性や傾向性がみられるのか,地理的事象を距離や空間的な配置に留意してとらえること。 ②そうした地理的事象がなぜそこでそのようにみられるのか,また,なぜそのように分布したり移り変わ ったりするのか,地理的事象やその空間的な配置,秩序などを成り立たせている背景や要因を,地域と いう枠組みの中で,地域の環境条件や他地域との結び付きなどと人間の営みとのかかわりに着目して追 発し,とらえること。. ③そうした地理的事象は,そこでしかみられないのか,他の地域にもみられるのか,諸地域を比較し関連 付けて,地域的特色を一般的共通性と地方的特殊性の視点から追究し,とらえること。 ④そうした地理的事象がみられるところは,どのようなより大きな地域に属し含まれているのか,逆にど のようなより小さな地域から構成されているのか,大小様々な地域が部分と全体とを構成する関係で重 層的になっていることを踏まえて地域的特色をとらえ,考えること。 ⑤そのような地理的事象はその地域でいつごろからみられたのか,これから先もみられるのか,地域の変 容をとらえ,地域の課題や将来像について考えること。53. このように,中学校学習指導要領〔社会〕における動態的地誌学習は「ここにこのよう な特徴がみられるのはなぜか」といった問いを設定し,探究活動を行う形式をとる。静態 的地誌学習が設定された項目に沿って,「この地域はどのような特徴を持っているのか」と いう間いを立てるのとは異なったアプローチである。 これは,地理的事象の因果関係を明らかにし,必然的に「説明」が求められる学習方法で. あるといえる。地理的事象の特色を比較したり,事象間の関連をとらえる際の記述により 「説明」させることによって,社会についての正しい理解,つまりは科学的な社会認識の形 成につながると考えることができる。. ・22・.
(27) 一《I章.前期中等教育における社会科の意義と課題註及び参考文献》. 1小学館辞典編集部『現代国語例解辞典/第三版〕』小学館,2002,p.811 2降旗勝信『探究学習の理論と方法』明治図書,1974,p,10 3同上書,p.11 4同上書,p.12 5同上書,p.12 6森分孝治「社会認識」日本社会科教育学会編『社会科教育事典』ぎょうせい,2000.P.65 7前掲書2,pp.17’18 8同上書,p.18 9池野範男「探究学習」前掲書6,p.218 10同上書,p.218 11前掲書2,p.93 12森分孝治『社会科授業構成の理論と方法』明治図書,1978,p.1 森分は「探究としての社会科の授業構成」は,いくつかの論点をもっていると述べ,以下の三. 点を主張し ている。. ①社会科の授業を願望や信念からみるのではなく,論理実証的にみてゆくべきである。 ②社会科は,人間形成ということでもっと引き下がるべきである。 ③客観的に根拠づけられる,子どもにとってより意義のある社会科授業を構成する原理は, 「科学的知識を科学的探求の論理にもとづいて習得させる」というものである。 13梅津正美喉求学習」森分孝治・片上宗二編『社会科重要用語300の基礎知識』明治図書,2008,. P.274 14前掲書9,p.218 15前掲書13,p.274 16前掲書12,p.185 17同上書,p.185. 18前掲書14,p.274 19前掲書9,p.218 20一 ッ上書,p.218 21金子邦秀「「探究」型社会科授業諭の継承と革新」全国社会科教育学会『社会科研究』第50号, 1999, P.132. 22同上書,p.132 23同上書,p.132 24岩田一彦編『小学校社会科の授業設計』東京書籍,19911p.38 25文部科学省『中学校学習指導要領解説 社会編』日本文教出版,2008,p,1. 26同上書,pp.1−2. 27同上書,pp.2・3.. 28同上書,p.3, 29同上書,pp.6−7.. 30文部科学省「言語カの育成方策について(報告書)」『言語カ育成協力者会議配布資料』2007. 〈URL〉http〃wwwmext go]p化_men)s趾ngj/chous最shotou/036/sh1ryo/07081717/004htm (2011∫11/08). 31〈URL〉http〃wwwmext go]p乃_men〃sh1ng此housa/shoto)036/sh1ryo/07081717/004htm (2011/11/08). 32岩田一彦「」岩田一彦・米田豊編著『『言語カ」をつける社会科授業モデル中学校編』明治図 書,P.10.. 33同上書,p.7.. 34大杉昭英「中学校社会科の何が変わうのか,なぜかわるのか一中央教育審議会『答申』から一」 大杉昭英編著『新中学校社会科重点指導事項の実践開発』明治図書,2009,p.14、. ・23・.
(28) 35同上書,pp.15−16. 36岩田一彦「言語カの育成等に関する見解一社会科の視点から一」文部科学省HP『言語力育成協 力者会議(第2回)配布資料』2006. 〈URL〉htもp:〃www血ext,gojp化_menu/shingVcbousa/shotou/036/shiryo/06071220/006.htm (2011/11/08). 37 〈URLhttp:〃www.mext.go.jp化_men)shing此housa/shotou/036/shiryo/06071220/006,htm (2011/11/08). 38前掲書12,p.86 39同上書,p.87 40前掲書24,p.17 41砥国全縁「公民的資質」前掲書13,p.106 42岩田一彦「社会認識」同上書P.26. 43前掲書6,p.64 44前掲書12,p.40 45谷本美彦「社会科教育の本質と原理の研究」全国社会科教育学会『社会科教育学研究ハンド ブック』明治図書,2001,p.26 46同上書,p.26 47前掲書24,.p.17. 48同上書,P.17 49吉水裕也「科学的探究と空間的投影、そして地理的スケールの概念による考察一学習方法・学 習活動の観点から」『地理』56・3,古今書院,2011,p.35 50岩田一彦r社会科地理」前掲書13,p.193. 51前掲書24,p.19 52西脇は『地理教育論序説一地球的市民性の育成を目指して一』二宮書店,1993,p.106−107 において地誌学の2つに分類されるとし,以下のように説明している。 1つはドイツのシュペートマン(H.Spethmann)が提唱した動態地誌の立場である。それは,. 地域的特性を把握したら,その特性すなわち地域性を形成している最大の要素から,記述. を進めるべきであるという考え方である。他の1つは,動態地誌に対していわば静態地誌 と呼ぶべき立場である。この方法では地域の特性を記載するのに,地形や気候などの自然 的要素,人口・民族・経済・交通・集落などの人文的要素,これらすべてを並列的に記述 する。. 53前掲書24,pp.20.21. ・24・.
(29) 第■章 クリティカル・シンキングの 因果関係決定方略を用いた検証 社会科教育において探究学習を用いて社会認識を形成していくためには,探究学習の過 程で社会事象の因果関係を把握することが必須といえる。従来の探究学習において,因果 関係を明らかにする際,どのような資料を用いるのか,どのような手立てで検証すべきか といった具体的な方略は体系的には示されてこなかった。. そこで,本章ではクリティカル・シンキングの手法を用いた因果関係の検証に着目する。. クリティカル・シンキングは一般に批判的思考と訳され1,反省的に吟味するといった意味 。で用いることもあり,社会科だけでなく他教科においても,その論理と構造に着目した批 判的思考育成に関する研究が行なわれてきた2。. ここでは,クリティカル・シンキングの手法を用いた因果関係の検証を明示し,社会認 識形成に有効な検証過程を提示する。. 第1節 クリティカル・シンキングの因果関係を証明する規準 仕会科において社会事象の因果関係を「説明」することにより,社会事象の法則性や概念. を形成していくことになる。それでは,因果関係はどのようにして証明することができる のだろうか。. 本節においては,クリティカル・シンキングにおける因果関係を証明する規準を明らか にする。. 1.クリティカル・シンキングにおける共変関係 クリティカル・シンキングにおいて因果関係を決定する規準は,共変関係,時間的順序関 係,もっともらしい他の原因の排除3である(表1I−1)。. 表1I−1因果関係を立証する規準 ①共変関係(相関関係). ②時間的順序関係 ③もっともらしい他の原因の排除(第三変数) (セックミスタ他(1996)4より筆者作成). 上記の三点の規準がすべて満たされていることを証明しない限り,因果関係を確定する ことはできないとされ,これらの規準を考慮しないままに原因の推測を行なっている5とし ている。因果関係を立証する規準の一つである共変関係については,次のように述べられ. ・25一.
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