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第2節  授業モデルの設計

 前述した基本的考え方に基づいて,本節においてはクリティカル・シンキングの因果関 係決定方略を用いた社会科における授業モデルを提示する。

1.学習内容の選定

 これまで述べてきた,クリティカノレ・シンキングの因果関係決定方略の理論およびフレー ムワークによる授業分析の結果,そして授業モデル開発に関する留意点を基に,授業モデ ルの開発を行う。

(1)開発授業の選択理由

 フレームワークによる分析の結果,一致法と帰納的方法が行われた事例は少なく,この 点を克服すれば,科学的に因果関係を明らかにすることができるといえる。

 ところで,今回分析した先行授業実践および授業モデルの30事例において,塩満貞徳の

「関東地方の特色」(分析事例No.25)はクリティカル・シンキングの因果関係決定方略に近い 手法を採っている。塩満の開発した授業を分析した結果,規準の第一段階において時間的 順序関係がレベル2に留まっていた。さらに,規準の第二段階において一致法が用いられ ているが,帰納的検証では帰納的方法が行われている。クリティカル・シンキングにおい

て真の因果関係を証明する方法は,共変関係・時間的順序関係が認められたのち,一致法 と差異法を併用することである。

 塩満の授業モデルは,「日本の諸地域」学習を扱っており,「なぜ疑問」を中核とした問い を設定し,意図的に下位の問いを構造的に配置しているため,社会事象の因果関係を明ら かにする授業が構成されている。

 そのため,塩満の授業モデルに関して言えば,時間的1唄序関係をレベル3に高め,一致 法と差異法の併用を行なうよう改善することにより,gリティカル・シンキングの因果関係 決定方略を用いた「日本の諸地域」学習の授業モデルを開発できるといえる。

 しかしながら,地域の特色は一つの因果関係だけで成り立っているものではなく,複数 の原因と結果の総合体として成立していると考えられる。「なぜ」と問うた探究の1サイク ルだけで地域の特色を明らかにすることは,授業時数が限られている中学校社会科地理的 分野において原理的に困難であると考えた。

 このことから,地域の特色を明らかにすることを試みるのではなく,社会事象あるいは 地理的事象の因果関係の検証過程を提示することが適切である。ここでは,中学校学習指 導要領[社会]地理的分野における大項目(2)(ウ)「世界と比べた日本の地域的特色」の(工)「地 域間の結び付き」に関する授業モデル開発を行う。

(2)学習対象地域の選択理由

 今次改訂の中学校学習指導要領[社会コでは,(工)「地域間の結びつき」について以下のよ うに述べられている。

 この小項目は,我が国の地域的特色を地域間の結び付きの面から理解させることを主なねらいとしてい

る。

 『世界的視野から日本と世界との交通・通信網の発達の様子や物流を理解させる」とは,世界の空や海 の交通網そして通信網をみると,それらが集中する拠点が幾つかみられる中で,日本もその一つに数えら れること,物資の国際間の移動の様子をみると,日本は世界的にみても活発であることから世界各地と強

く結び付いていること,しかし,そうした結び付きをよくみると,様々な面で強く結び付いている地域や,

特定のことで結び付いている地域,相対的にみてまだ結び付きの弱い地域がみられるといった程度の内容 を取り扱うことを意味している。

 「国内の交通・通信網の整備状況を取り上げ,日本と世界の結び付きや国内各地の結び付きの特色を大

観させる」とは,我が国では,新幹線,高速道路,航路・航空路網,情報通信ネットワークなどの整備が 進み,国内各地の時問的な距離が短縮され,それに伴って各地域間の結び付きが変化していること、しか し,地方都市間では時間的な距離が短縮されていないところもあるといった程度の内容を取り扱うことを 意味している。12

 このように,世界から見た日本の交通網や通信網といった内容を取り扱い,その学習の 過程で地域間の結び付きの特色や状況を明らかにすることになる。

 フレームワークによる授業分析では,クリティカル・シンキングの因果関係決定方略が用 いられた事例がなかった。その理由として,一致法と差異法の併用がみられなかったため

である。

 そこで,交通網の中心である東京と大阪市を一致法における対象地域として扱う。大阪 市は広域中心都市として発展しており,西日本や近畿圏内における経済・政治・商業の中 心地となっている。大阪市を事例とすることが東京の事例と同じ原因・結果を学習者に追 究させることに適していると考えた。

 また,授業分析では具体的に原因・結果が異なる地域を扱っていなかった。クリティカ ル・シンキングの因果関係決定方略においては,一致法で扱った地域の原因と結果が異な る地域を事例とし,差異法を用いることが求められる。このため,東京・大阪市とは異な る原因・結果である鳥取市を事例とする。鳥取市は,鳥取県の県庁所在地として位置して おり,平成16年の市町村合併に伴う入口の増加,面積の拡大があったものの全国で二番目

に人口が少ない県庁所在地(約19万人)であり,人口密度も二番目に低い。

 そして,交通の中心となっている前述の地域とは異なり,新幹線は通っておらず,JRの 山陰本線,因美(いんび)線が通っているのみである。また,高速道路に関しては2009年に 鳥取自動車道が開通したが,それまでに県庁所在地に高速道路が通っていないのは鳥取市 だけであった。さらに,鳥取市では高速道路が開通した後であるが,人口が減少し,工商 業数(各事業所数)も市全体で減少している。このことから,東京と大阪市の事例とは異なる 原因と結果が成立している鳥取市を差異法でも用いることは,社会事象の因果関係を明ら かにする上で有効である。

 したがって,一致法,差異法の過程において少なくとも3つの地域を扱うことが科学的 に因果関係を証明することであり,学習者の説明的知識を獲得する過程において重要であ

る。

2.授業モデルの内容

 これまで述べられてきた内容をもとに,どのような授業モデルを開発すればよいのか。

ここでは,授業モデルで獲得させる認識内容の構造および指導過程について具体的に述べ

る。

(1)単元目標

①単元名  「日本の地域間の結び付き」(全3時間)

②対象学年 中学校第2学年

③単元観

 本単元『日本の地域間の結び付き」は,日本の首都である東京の交通を中核に据えてとら えさせる学習として構想した。東京都心部には1日あたり約340万人もの流入人口があり,

活発な経済活動が展開されている。その最大の要因として,首都および国際都市である東 京に高次の都市機能が集積していることを挙げたい。東京は江戸・明治期の都市計画・社 会資本の基盤として,その市街地を拡大させてきた。主要鉄道沿線には東京都心部へ向か う通勤・通学者のベッドタウンが形成され,郊外人口増加に伴う社会資本整備としての道 路網・鉄道網の発達もみた。さらに道路網・鉄道網の発達が要因となって,北関東では工 業地帯が形成されるなど,地域経済は大きく変容した。関東地方では,現在もなお,新規 道路・鉄道の建設が進行中であるとともに,多くの新線構想が控えている。

 そこで,本単元を通じて,獲得させたい説明的知識を2つ設定した。これらの説明的知 識は日本における交通網の特色を述べたものである。社会認識を深めさせていくためには,

個別事象を]般化し,どの地域をとらえる場合でも適用することのできる知識を獲得させ る必要がある。

 また,社会事象の因果関係を明らかにしていく上で,日本の交通網の中心である東京と 大阪府の交通網の中心である大阪市との比較を行い,地域の中心地には中枢管理機能が発 達し,そこを中心とした交通網の発達が起こることを認識させるようにした。また,鳥取 市を事例に扱うことにより,地域の中心地となっているが,交通網が発達していないこと を認識させる。この3つの事例から,中枢管理機能を持つ地域は交通網が発達することを とらえるようにする。

④単元の目標

○ 経済・文化・情報の中心地としての役割を持つ地域に交通網や通信網の発達が起こる  ことを,経済活動や歴史などを通して詳しく調べようとする。

       〈社会事象への関心・意欲・態度〉

○ 日本の地域間の結び付きを「東京を中心とする交通網」を中核として考察し,以下の知  識を獲得する。

A 東京は日本の政治・文化・経済の中心地であるとともに世界有数の国際都市としての地  位を確立している。そのため,企業や学校,文化施設等が集積し,全国の約1割の人口  が集中している。また,通勤・通学を目的とする周辺地域からの流入人口が多く,全国  各地から物資が集中する。したがって,旅客・貨物輸送の需要が高く,東京を中心とし  た道路網,鉄道網が発達している。

B 大阪府の府庁所在地である一大阪市は府の中枢機能や広域にわたる管理機能が備わり,鉄  道網・交通網の発達に伴い,中心地として発展した。したがって,交通網が発達し地域  の中枢管理機能をもつことが中心地となる条件である。また,同じ県庁所在地として鳥  取市を取り上げる。鳥取市は地域の中心地となっているが,他の県庁所在地と比べ広域  の中枢管理機能をもっておらず,交通網発達の遅れや人口の停滞,商工業事業者数の減  少などが見られる。広域にわたる中枢管理機能がある地域は鉄道や高速道路といった交  通網の発達が起こる。

(2)単元学習計画(全3時間)

時 段階 主な発問 学習内容 資料

情報収 ・写真を見てここ ・写真の位置を確かめた上で,家 ・写真:皇居周辺,

集 がどこか考え,位 から写真の場所に行くにはどんな スカイツリー,東

1 直を確かめよう。 手段で行くことができるかを考え 京タワー

る。 ・地図帳

情報の ・ところで,大阪, ・大阪,鳥取の交通網を比較し, ・資料:全国交通図 比較・ 鳥取のうち鉄道や 東京は全国各地の都市と鉄道や航 (鉄道,道路航空路