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第2節  分析の結果と考察

 本節では,分析フレームワークを用いて先行授業実践および授業モデルを分析した結果 から,クリティカル・シンキングにおける因果関係決定方略の在り方を考察する。

1、分析結果

 ここでは,各視点の分析結果を明らかにする。

①分析視点1【問いの構造】

 ここでは,中学校社会科地理的分野における先行授業実践および授業モデルにおいて,

学習課題の提示や主となる問いが提示された後,その問いを明らかにする下位の問いは設 定されているのかについて明らかにする。また,それぞれの問いに対応した獲得される知 識はどのようなものか,そして因果関係を明らかにした説明的知識にあたる記述があるか

どうか分析した(表皿一3)。

 分析の対象となる先行授業実践および授業モデルは,学習課題や主となる問いに「なぜ疑 問」が設定されていることを選定の条件の一つとしている。この「なぜ疑問」と下位の問いに より社会事象の因果関係を学習者が把握していくことになる。

表皿一3 分析視点1【問いの構造】の分析結果 観点

(ア)間い(なぜ疑間の下位の問いが設定されている)

(イ)習得される知識(説明的知識にあたる知識の明示)

結果 27/30事例 24/30事例

(筆者作成)

 その下位の問いが設定されていたのは27事例であった。反対に設定されていないのは3 事例(No.1,2,21)であった。下位の問いには,What(何が),When(いつ),Where(どこで),

Wbo(誰が),How(どのようにして)が設定され,これらにより学習課題や主となる問いを明 らかにする学習過程となっていた。

 分析対象の事例No.11(「日本の工業立地」)では,次のように問いの構造が示されている。

レ、

a−1学校付近に工場はあるか。地図で工場を見つけよう。

a−2HPで天王寺区の工場を探してみよう。大阪周辺で工場が密集している地域はと

a−3天王寺区と東大阪市の高井田地域で,工場の密集度合を比べよう。

a−4なぜ東大阪区に多くの工場が密集しているのだろう。【学習問題】

b−1みんなで予想を出し合い,それを仮説に高めよう。何をどのような視点で調べる   と,これらの仮説を確かめることができるだろう。

      1仮説設定】

b−2東大阪の中で古くから工場が立地して一いるのはどこか。

b−3枚岡では何が立地条件となって伸線工場が立地したのか。

b−4高井田地域に多くの工場が集まっているのはなぜか。

b−5東大阪セ特に高度な技術を持っている工場名は。また,その工場はどこにあるのか。

b・6阪神工業地帯の中での東大阪の位置付けは。

b−7自社ブランド製品をもっている工場はどの程度あるのか。

b−8なぜ大阪市から多くの工場が移転してきたのか。

b・9東大阪の工場地帯の立地展開の特色についてどのようなことが言えるのだろう

  か。

b・10東大阪だけでなく日本全体の工場地帯のスケールにもあてはまるだろうか。

 このように,「なぜ疑問」を中心において,下位の問いを設定することにより社会事象の 因果関係を明らかにする過程を組み込んでいる。3事例を除く残りの事例は,このように「な ぜ疑問」を中心とし下位の問いを設定することにより,より説明力のある知識の獲得を意図

している。

 次に,習得される知識に関しては30事例中26事例に説明的知識あるいは説明的知識に 相当する記述を確認することができた。「なぜ疑問」が提示された後,下位の問いを解いて いくことによって説明的知識は獲得できる。

 反対に,この知識の記述が確認できなかったのは6事例である(No.1,4,5,8,9,28)。この6 事例に共通するのは,習得された知識を説明力のある知識に高める問いが設定されていな いことである。その例として分析対象の事例No.9(北海道地方一北海道の酪農)の問いの構 造をみてみよう。

ル、

a・1写真を見てわかることはどんなことだろうか。

a・2酪農とはどんな農業だろうか。

a・3北海道で乳牛は何頭ぐらい飼養されているのだろう。

a−4酪農の中心地域はどこだろう。

a・5なぜ北海道に乳牛が多いのだろう。

a−6乳牛の飼養頭数の変化をグラフで見てみよう。

a・7乳牛の飼養農家数の変化をグラフで見てみよう。

a・8北海道における乳牛の飼養頭数は年々増加しているのに,なぜ飼養農家数は   或少しているのだろう。【学習問題】

b−1なぜ,酪農をやめた(離農した)のだろう。グループ(4人1組)で考えてみよ   う。

b・2伊藤牧場で工夫している点は,どんなことだろう。

b 3ノートに今日の学習で印象に残ったことや疑問に思ったことをまとめてみ  よう。

a・1「放牧をしている」,「広々としている」,「牧草を食べている」。

a−2乳牛を飼養し,乳牛を生産する農業経営のこと。

a−3約80万頭(1988年)(全国の約40%)

a・4+勝,根室,網走,釧路,宗谷の各支庁(北海道の約79.0%)

a・5①広い耕地面積(1戸あたり11.9ha,都府県の約12倍)。②冷涼な気候や火   山灰地,・泥炭地などが多く,牧草以外の作物を栽培しにくい。③機械化の   進んだ大規模な経営をしている。④パイロットファーム,新酪農村など政府   が酪農振興にカを入れた。

a−6飼養頭数の増加傾向をつかまえる。

a・7飼養農家数の減少傾向をつかまえる。

a・8***

b−1①後継者不在。重労働のわりに収入が増えない。都会で暮らしたい。②大き

  な負債。設備や機械に資金がかかるわりに乳価が安い。借金の返済に困って   いる。③思うように規模を拡大できない。

b−2フリーストール型の飼育方法,糞の処理方法やコンピュータ化など。

b・3ノートに今日の学習で印象に残ったことや疑問に残ったことをまとめる。

 この指導案では,a−8において学習問題(なぜ飼養農家数は減少しているのだろう)が提示 され,離農の理由をグループごとに考えさせている。そして,b・1においていくつか離農の 理由が示されている。しかし,ここでは記述レベルに留まっており因果関係を説明するに

は至っていない。

 それでは,説明的知識が明記されているものとはどのようなものか。分析対象である事 例No.16(環境問題とヨーロッパ)の問いの構造を示す。

し、

a−1ヘリコプターが空中から石灰を散布しているが,なぜしているのか。

a・2なぜ酸性雨の問題が生じるのか。【学習課題】

b・1酸性雨とはどのようなものか。

b・2酸性雨によりどのような影響(被害)が生じるのか。

b−3どのようなしくみで雨は酸性雨になるのか。

b・4強い酸性雨が降るのは,どのような地域と考えられるか。

b・5なぜ企業は酸性雨の問題が生じるほどエネルギーを消費し,SOx・NOxを   多く放出するのか。

b.6ヨーロッパ内でみても,エネルギー消費が多い地域は,強い酸性雨が降ると   いえるのか,確かめてみよう。

b・7エネルギー消費が特に多いわけではないが,極めて強い酸性雨が降るのはど   こか。そしてそれはなぜか。

b・8エネルギー消費が少ないが,極めて強い酸性雨が降るのはどこか。そしてそ   れはなぜか。

b・9なぜ酸性雨という環境問題が生じているのか。【学習課題の再提示】

b.10酸性雨などの環境問題に対しては,どのような視点からの取り組みが必要   となるのか。

a−1酸性雨で土壌や湖水が酸性化しており,その中和のため,石灰の散布が行な   われている。

b・1酸性雨は,pH5.6以下の降水である。

b・2酸性雨は,森林や湖沼の生物に被害を与え,歴史的建造物や像を崩壊させる。

b・3酸性雨は,エネルギー消費の際に放出されるSOx・NOxがもとで生じてい  る。

b・4企業等の経済活動によるエネルギー消費が多い地域は,強い酸性雨が降る。

b・5経済活動は企業の利潤追求を重要な原理としている。そのため企業は社会的  費用を負担とせず,環境問題には無関心で,環境問題は深刻化する。

b−6ヨーロッパ内でみても,エネルギー消費が多い地域は,強い酸性雨が降る。

b・7ポーランド・チェコ・スロバキアは,酸性雨の問題に対する世論が弱く,政  府の対応が遅れたため,きわめて強い酸性雨が降る。

b・8ノルウェー・スウェーデン・フィンランドは,SOx・NOx放出地の風下に 位置するため,極めて強い酸性雨が降る。

b 9環境問題は,資本主義が抱える問題であり,地域の経済活動・政策・社会状 況,さらに他地域での状況等を背景に生じる。【説明的知識】

b−10環境問題に対しては,企業・政府・市民の取り組合,さらに広域的・国際 的な取り組みが必要である。

 この事例No.16め問いの構造は,a・2「なぜ酸性雨め問題が生じるのか」という学習課題と,

下位の問いにより因果関係を明らかにしようするものである。そして,b−9「なぜ酸性雨とい う問題が生じているのか」という学習課題の再提示がされたことにより,獲得される知識が一 説明的知識となっている。

 このような学習課題または主となる問いの再提示により説明的知識が獲得される事例は 7事例(No.6,13,14,16,24,27,30)である。この他の説明的知識が明記されている18事例は,

説明的知識が別の問いにより,あるいは,問いが設定されずに説明的知識が獲得されてい る。探究学習において説明的知識を獲得した後,学習者はそれを活用した問題発見を行っ ている。それは学習者が探究の1サイクルごとの知識を整理し,次の探究へ活用している のだといえる。そのためにも,説明的知識を獲得する際に授業者が学習課題や主となる問 いを再提示することによって,学習者が社会事象の因果関係を説明することができると考

える。

 以上のことから,分析対象とした事例の多くは『なぜ疑問」とその下位の問いが設定され,

説明的知識が獲得されている。しかし,説明的知識を獲得するに当たって,下位の問いに よって明らかにした記述レベルの知識を説明するレベルに高めるためには,授業者が学習 課題あるいは主となる問いを再提示することが必要である。

②分析視点2【仮説の関係性】

 ここでは,設定された学習課題や主となる問いのもと,社会事象の因果関係を求めてい くときの目星となる仮説がどのように設定されているのか分析した。誰が設定しているか

(授業者。r学習者),単数か複数か,そして,仮説が複数設定されているならば,仮説と仮 説の関係性,質を分析した(表皿一4)。