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(1)

第3章では、第2章で述べた信頼度監視機能の系統状態予測サブ機能の状態 推定機能の検討を行なう。まず、状態推定機能に標準的に用いられている重み 付け最小自乗法とバッドデータ検出法を紹介する。次に、狭い地域に密集した 電力系統にこれらの標準的な手法を適用すると数値的に悪条件となり、状態推 定計算が実施できないことを述べる。この理由は、送電線のインピーダンスが 変圧器のインピーダンスに比べ非常に小さく、状態推定計算の行列計算におい て行列要素の大きさのばらつきが大きく、数値誤差を生じやすいためである。

そこで、系統縮約を行ない、インピーダンスのばらつきを小さくする工夫につ いて述べる。また、バッドデータ検出においては、標準的な手法は系統縮約後 も計算誤差のために使用できず、推定残差の組合せを用いた新しい手法を開発 した。その手法について述べる。

3.1 数値計算上悪条件を持つ系統の状態推定手法の開発の背景

状態推定(State Estimation)については、1970 年に最初の論文[3-1]-[3-3]が発表 されて以来、欧米諸国を中心に活発に研究され、現在、世界中の数多くの中央 給電指令所においてオンラインで用いられていることが報告されている[3-4]。更 に、今後運用が予定されている中央給電指令所のほとんどにおいて、状態推定 がオンライン機能の一つに予定されている。

ところが、状態推定においては、一つの手法がすべての系統に適用できるわけ ではなく、系統の条件に応じていろいろな工夫をする必要がある。著者らは、

1985年3月に運用を開始した香港電力中央給電指令所計算機システム用の状態 推定アルゴリズムを開発した。香港電力電力系統は、狭い地域に密集した電力 系統であり、送電線の距離が最長でも数kmと短いために、送電線のインピー ダンスは変圧器のインピーダンスに比べ非常に小さいという特徴を有する。し たがって、この系統は、多数の行列演算が必要である重み付け最小自乗法を基 本とする手法にとっては、行列要素の大きさのばらつきが大きいために、数値 誤差を生じやすい悪条件な電力系統である。

(2)

するための工夫と、その効果について説明する。なお、状態推定では、観測値 をもつ送電線はいかに短くとも数値計算上そのブランチをモデルとして扱わな ければならず、普通の潮流計算に比べインピーダンスのばらつきは大きくなる。

特に、都市部の密な系統を比較的低電圧の送電線で接続した電力系統では、こ のばらつきが問題となる。また、電圧階級の大幅に異なるループを含む系統で も、当然ながらインピーダンスのばらつきが大きくなる。本研究において開発 した手法は、このような数値計算上の悪条件を持つ系統の状態推定実施に役立 つものと思われる。

3.2 重み付け最小自乗法を基本とする従来状態推定手法の概要

状態推定の今日までの研究により、実用的な状態推定は後述する重み付け最 小自乗法(Weghted Least Squares Method)が標準手法として定まりつつある。

また、バッドデータ検出については、理論的には比較的正確に検出できるとい う理由から、統計的性質を用いた方法が良いと言われている[3-5]-[3-8]。ここでは、

これらについて概略を述べておく。

3.2.1 重み付け最小自乗法

観測値ベクトルyと母線電圧ベクトルxの関係は次式で表わされる。

y=f(x)+ε …(3-1)

ただし、

(3)

Minimize J(x)=(y-f(x))W(y-f(x))…(3-2)

ただし、W=R-1 ( R:共分散行列) 次に

H=δf(x)/δx|x=xk …(3-3)

をf(x)のヤコビアン行列とすると、(3-2)式の解は次のように求められ る[3-9]

(1)反復k=0とし、初期値xを与える。

(2)ヤコビアンHを作成する。

(3)次の連立一次方程式を解き、修正量Δxを求める。

(HWH)Δx=HW(y-f(x)) …(3-4)

(4)|Δx|<σ(σ:収束許容値)ならば終了。

そうでなければ、xk+1=x+Δx、k=k+1とし、(2)へ戻る。

以上の計算過程では、(3-4)式の連立一次方程式の解法が計算の大部分を占 める。この式の係数行列(HWH)をゲインマトリクスと呼ぶが、効率良く解 を求めるために、これらの扱い方ににより幾つかの変形が考えられる。

3.2.2 バッドデータ検出法

ほとんどの統計的性質を用いたバッドデータ検出法は、重み付け最小自乗法に より求まる推定残差、またはそれを正規化したものを判断基準としている。推 定残差とは、各観測値とその推定値との差であり、次式で定義される。

(4)

Δyi=yi-fi(x) …(3-5)

ここで、xは(3-1)式の解である。

通常、推定残差は観測値ごとに設定したある値bi によって正規化され、この 絶対値がバッドデータの判定に用いられる。すなわち、その絶対値が大きいも のをバッドデータと判断する。biを決定する最も簡単な方法は、biとしてそれ ぞれの観測値の標準偏差を用いることである。しかし、この方法は通常の系統 には適当でない。この方法の欠点は、重み付け最小自乗法から求まった推定残 差間の相互関係を無視していることである。したがって、人工的にバッドデー タをただ一つ与えた場合、そのバッドデータに対応する正規化残差が必ずしも 最大とならないことがある。正規化するために用いる値は、それぞれの観測値、

観測値相互間の統計的性質および相互依存関係を反映していなければならない。

このようなbiは次式より決定することができる[3-6]-[3-8]

B=W-1-H(HWH)-1H …(3-6)

iはBのi番目の対角要素の平方根である。

i=√Bii …(3-7)

この方法では、|Δyi /bi |がある値(例えば3.0)を越えている観測値のなか で、|Δyi /bi |が最大のものをバッドデータと判定する。系統にバッドデータ がただ一つ存在し、他の観測値はすべて正しい仮定のもとでは、この方法はバ ッドデータを正しく検出することが数学的に証明されている。以上の方法は行

(5)

3.3 従来状態推定手法の適用結果

3.3.1 重み付け最小自乗法の適用検討

重み付け最小自乗法には前章で述べたようにゲインマトリクスの扱い方によ り次の4種類の方法がある。

(a)一定で、PQ分割。(FDWLS)

(b)反復ごと更新で、PQ分割(DWLS)

(c)一定で、PQ非分割。

(d)反復ごと更新で、PQ非分割。

既に実用化されているシステムでは、ゲインマトリクスを一定で扱っているこ とが報告されている[3-9]。特に、(a)項の有効電力-電圧(P-V)、無効電力-位 相 角 (Q-θ ) の 関 係 を 無 視 す る FDWLS(Fast-Decoupled Weighted Least

Squares)法は、ゲインマトリクスの1/2の要素を使用しなくて済み、記憶容量、

計算時間ともにオンライン処理向きである。

これらの方法を図3-1に示す香港電力系統の数セットの観測データに対し 適用し、収束の状況を調べた結果が表3-1である。

(6)

発電機 変圧器

図3-1 香港電力系統図

(7)

表3-1 数値計算結果(原系統)

方法

(a)

(b)

(c)

(d)

結果 発散 発散

系統構成により収束あるいは発散 系統構成により収束あるいは発散 方法

(a)

(b)

(c)

(d)

結果 発散 発散

系統構成により収束あるいは発散 系統構成により収束あるいは発散

この計算は、xは標準的な潮流状態に対して求めた潮流計算結果を用いており、

観測値には雑音が全く含まれない理想的なケースについて数値実験を行ったこ とになる。また、初期値はすべてフラットスタート(電圧|V|=1.0 p.u.、位相

角θ=0.0 deg )とした。表3-1の発散の原因は、主にヤコビアンとゲインマ

トリクスの悪条件(ill-condition)による。

表3-2に図3-1の系統の一部の線路インピーダンスを示すが、この悪条 件は表3-2のインピーダンスのばらつきが大きいために生じている。なぜな らば、インピーダンスのばらつきが大きいと、ヤコビアンの各要素の大きさの ばらつきも大きくなり、ヤコビアンの要素の積和で求められるゲインマトリク スにおいては、演算のけた落ちのために精度が悪くなる。また、ゲインマトリ クスは、ヤコビアンの自乗に相当するので、要素の大きさのばらつきは更に拡 大される。すなわち、(3-4)式の係数行列 HWHを求める段階とそれを解 く段階の、二つの段階において数値誤差が生じる。ちなみに、ゲインマトリク スの非零要素の値はオーダーで 101から 106までばらついている。状態推定 は、潮流計算と異なり観測値ごとにヤコビアン行列の列を作成するので、原系 統のようにインピーダンスの非常に小さい(距離の短い)送電線があり、しか もその送電線の潮流を観測している場合には、上述の悪条件が特にひどくなる。

表3-1の結果より最小自乗法は何らかの工夫をしないと、前述の系統には適 用できないことがわかる。その工夫および効果については3.4で述べること にする。

(8)

表3-2 香港電力系統の線路インピーダンスの一例

0.129×10 -1 6 7

線路番号 1 2 3 4 線路番号

1 2 3 4

接続する母線 1 2 1 3 1 4 1 5

実部R 0.436×10-3 0.436×10 -3 0.908×10 -3 0.908×10 -3

6 75 76 77 5 6 75 76 77

虚部 X 0.666×10-3 0.166×10 -3 0.130×10 -2 0.130×10 -2

6 8 52 55 53 56 54 57

0.151×10 -2 0.172×10 -2

0.114×10 -1

0.149×10 -1 0.149×10 -1 0.149×10 -1

0.668×10 -2 0.668×10 -2 0.668×10 -2 89

90 91 92 93 89 90 91 92 93 94 95 96

52 63 53 63 54 64 23 65 23 65 49 66 50 66 45 67

0.384×10 -1 0.384×10 -1 0.394×10 -1 0.374×10 -1

0.374×10 -1 0.253 0.253

0.258×10 -1

0.738 0.738 0.758 0.720 0.750 0.750 0.720 0.763

(9)

3.3.2 バッドデータ検出法の適用検討

B 法において(3-6)式の行列B の対角要素の値は、バッドデータが入っ

た場合の推定残差の分散を表わすので、理論的には正になるべきものである。

しかし、香港電力系統においては、数値計算上の誤差から単精度では負になっ てしまうものがあったり、計算誤差のためにバッドデータを与えた観測値の|

Δyi /bi |が必ずしも最大にならない。計算を倍精度で行うと、このようなこと はなくなるが、オンライン処理であることを考えると計算時間・記憶容量の点 から望ましくない。

3.4 系統縮約作成による数値計算条件の改善

ここでは、インピーダンスのばらつきをなるべく小さくするために、図3-1 の発電機および負荷に接続しているインピーダンスの大きい変圧器を最小自乗 法の対象系統から除くことを提案する。変圧器は図3-2に示すように変圧器 の高圧側の有効・無効電力を母線の注入電力に置き換えることにより、正しく 除くことができる。高圧側の観測値がない場合は、低圧側の観測値を用いて高 圧側の値を潮流方程式から計算することができる。

母線(高圧側)

線路潮流計測値 母線注入

変圧器 縮約系統

母線(高圧側)

母線(低圧側)

図3-2 変圧器の削除に関する概念図

(10)

変圧器を取り除いて作られた系統を以後「縮約系統」と呼ぶことにする。また、

変圧器を取り除く前の系統を以後「原系統」と呼ぶことにする。縮約系統では、

インピーダンスのばらつきが当然のことながら小さくなる。3.3.1で述べ た4つの方法を、原系統に適用した条件と同じ計算条件で、縮約系統に適用し た結果が表3-3である。同表より方法(d)のみが本系統に適用可能である ことがわかる。方法(b)のDWLS法が使えない理由は表3-2よりわかるよ うに、本系統の多数の送電線で抵抗分とリアクタンス分の大きさがオーダ的に 等しいために、P-V、Q-θの関係を無視できないためである。なお、縮約系統に おいてゲインマトリクスの非零要素はオーダで101~104ほどばらついている。

また、バッドデータ検出法に関しては、B法は縮約系統においても、計算誤差 のためにバッドデータを誤検出してしまう。そこで、縮約系統ではほとんどの 母線、送電線で線路の有効電力潮流と無効電力潮流が観測されていることを利 用した、新しいバッドデータ検出法を新たに開発した。次節ではこれについて 説明する。

表3-3 数値計算結果(縮約系統)

方法

(a)

(b)

(c)

(d)

結果 発散 発散

収束(精度は良くない)

収束 方法

(a)

(b)

(c)

(d)

結果 発散 発散

収束(精度は良くない)

収束

(11)

3.5 推定残差の組み合わせによるバッドデータ検出法

有効電力の観測値に対しては、バッドデータが存在しなければ保存則が成立 する。例えば、母線の有効電力注入の合計は理論的は零である。実際には、観 測値の非常に小さな誤差が加わって、合計は零とならないがあまり大きな値と はならない。従って、もし合計があるしきい値より大きければそれらの観測値 の中にバッドデータがある。また送電損失を考慮しても、送電線の両端で有効 電力の観測値がかなり違うとすれば、観測値のどちらか、あるいは両方がバッ ドデータである。無効電力の観測値についても同様である。

開発した手法は、後に述べる4つのルールや母線や線路に適用し、その組合せ によりバッドデータの候補を挙げる。この方法では、観測値の代わりに推定残 差を用いる。推定残差を用いてバッドデータの存在を検出する方法を、線路の 有効電力潮流を例にとり以下に説明する。

図3-3の有効電力潮流に対しては、送電損失の観測値をλ、推定値に対応 する送電損失をλとすると、

P L1+P L2=λ …(3-8)

が成立する。P L1、P L2の中にバッドデータが存在しない場合には、

P L1+P L2≦λ+μ …(3-9)

ただし、μ:観測値P L1、P L2の中に含まれる雑音の和 である。

(12)

PL1

PL1

PL2

PL2

PL1,PL2:有効電力潮流の観測値

PL1,PL2:有効電力潮流の推定値

N1 N2

N1 N2

ノード ブランチ

図3-3 有効電力潮流

このとき、送電損失の推定値、観測値はほぼ等しく、λ=λであるので、

次式が成立する。

|(P L1- P L1)+(P L2- P L2)|≦μ …(3-10)

またバッドデータが存在する場合には

|(P L1- P L1)+(P L2- P L2)|>μ …(3-11)

である。注入電力についても同様に、推定残差によりバッドデータの存在の有 無がわかる。

以上の推定残差を用いる方法では、送電損失や母線の調相設備を定式化しなく ても済むという長所を持っている。開発した手法では、推定残差があるしきい

(13)

(ルール2)有効電力潮流に関する推定残差が線路の両端であるしきい値以 上に異なるならば、これらの観測値の中に少なくともバッドデ ータが1個ある。

(ルール 3)母線の無効電力注入に関する推定残差の和があるしきい値より

大きいならば、これらの観測値の中に少なくともバッドデータ が1個ある。

(ルール 4)無効電力潮流に関する推定残差が線路の両端であるしきい値以 上に異なるならば、これらの観測値の中に少なくともバッドデ ータが1個ある。

(ルール1)と(ルール3)において、線路の該当する母線側の観測値がなく ても、もう片端の観測値がある場合にはこれで代用することができる。この場 合には、しきい値をいくらか増加させる必要がある。

有効電力の観測値に対して(ルール1)と(ルール2)を組合せてバッドデー タを検出する一例を、図3-4により説明する。

N1 N2 N3

P

L21

P

L12

P

L32

P

L23

(1) (2)

P

N2

ノード

ブランチ

図3-4(a) バッドデータ検出法のための例

(1)図3-4(a)のケース

線路潮流P L21、P L12、P L32、P L23と母線注入PN2は観測されているとする。

(14)

ル2)は成立していないが、母線N2において推定残差の和が大きく、(ルール 1)は成立している。この場合のバッドデータはPN2と判定される。

N1 N2 N3 N4

P

L21

P

L12

P

L32

P

L23

P

L43

P

L34

(1) (2) (3)

P

N2

P

N3

ノード ブランチ

図3-4(b) バッドデータ検出法のための例

(2)図3-4(b)のケース

線路潮流P L21、P L12、P L32、P L43およびP L34の観測値はあるが、P L23の観 測値はない。母線注入PN2 、PN3は観測されている。(ルール2)は線路(2)

に対して適用できないが、線路(1)および(3)においては成立しない。母 線N2およびN3において(ルール1)は成立する。この場合のバッドデータは P L32と判定される。

上述のルールを組合せて適用し、バッドデータが確定すれば、その観測値を バッドデータと判定し、これを推定に用いる観測値から取り除く。上記のルー ルでバッドデータを確定できない場合には、次のようにしてバッドデータを選 ぶ。

(a)バッドデータの候補となる観測値を挙げ、そのバッドデータを観測値

(15)

電圧に関しては、電圧の前処理(次節参照)によって著しいバッドデータはほ とんどなくすことができる。また、電圧の推定残差は、系統のインピーダンス が全体的に小さいため、潮流観測値の影響をあまり受けず、有効電力や無効電 力のバッドデータの影響をそれほど受けない。したがって、前述のルールとは 別に残差の大きさだけでバッドデータを検出することができる。

以上のバッドデータ検出法は、推定残差の組合せによる検出法であるので、C 法(Combinatorial Method)と名付ける。

図3-4(a)、(b)の具体例からわかるように、C 法は多くの推定残差、

すなわち観測値を必要とする。特に、バッドデータ付近の母線の電力注入に関 する観測値がないと、そのデータをバッドデータと判定できない場合がある。

しかし、縮約系統ではほとんどの母線の注入電力が観測されており、このため C法は効果的である。C 法はB 法と比較すると、組合せる推定残差がない場合 は検出不可能となるので、検出感度の点ではいくらか控え目であるが、他の多 数の推定残差と比較するのでバッドデータを誤検出しないことが長所である。

また、B 法は(3-6)式の行列を演算および格納しなければならないのに対 し、C 法は簡単な加算だけで済み、計算時間および記憶容量が少ないという利 点がある。

(16)

3.6 開発プログラムの概要

図3-5が開発したプログラムのアルゴリズムである。開発プログラムは

(1)前処理、(2)重み付け最小自乗法により解を求める、(3)バッドデー タの検出および除去、(4)後処理の4つの部分からなる。以下にそれぞれの部 分の処理内容について詳しく説明する。また本アルゴリズムの性能についても 説明する。

データ収集

1) 観測値

2) 線路定数

3) 系統構成状態

(ブロック1)

明らかにバッドデータと判定できる観測値の除去 (ブロック2)

潮流計算 縮約系統の作成

重み付け最小自乗法の実行 バッドデータの検出

バッドデータの判定

(ブロック3)

(ブロック4)

(ブロック5)

(ブロック6)

縮約系統の推定値の計算

バッドデータの除去

(ブロック7)

バッドデータ有り

(ブロック8)

バッドデータ無し

(17)

3.6.1 前処理

(a) 明らかにバッドデータとわかる観測値の除去

次の判定によって、明らかにバッドデータとわかる観測値を除去する。

(i)発電機母線において:有効電力は発電機出力の上下限の中になければ ならない。

(ii)負荷母線において:有効電力は負でなければならない。また、予想負 荷などを参考にして定めた下限値よりも大きくなければならない。

(iii)送電線において:有効電力と無効電力は、送電容量の上下限値の中に なければならない。

(iv)母線において:電圧は運用上下限内になければならない。また、母線 同士がインピーダンスの小さい送電線によって接続されている場合、

相互の母線電圧はほぼ等しい値でなければばらない。

(b)重み付け最小自乗法の初期値を求めるための潮流計算

重み付け最小自乗法の繰返し数を減少させるために、潮流計算の解を重み付け 最小自乗法の初期値とし、(3-1)式の解の近傍から計算を開始する。なぜな らば、プログラムの実行時間のほとんどは重み付け最小自乗法に費やされるた め、良い初期値を選ぶことにより、プログラム全体の処理時間をかなり短くす ることができるからである。この潮流計算は、母線の観測値(有効電力と無効 電力あるいは有効電力と母線電圧)を指定値とする。

潮流計算には、全ての母線の観測値が必要であるが、観測値がない場合は、線 路潮流を用いて母線の観測値を作成することができる。それらの観測値は、(a) 項において明らかにバッドデータとわかる観測値は除去されているが、バッド データを含む可能性は十分にある。しかし、若干のバッドデータがたとえある としても、潮流計算結果のほうがフラットスタートよりも良い初期値である。

ただし、潮流計算が未収束の場合は、重み付け最小自乗法はフラットスタート より実行させる。

(18)

(c)縮約系統の作成

高圧側の潮流の観測値を母線の注入電力とする。このことにより、縮約系統 は発電機や負荷母線およびそれらに接続する変圧器を取り除く。高圧側の観測 値がない場合、潮流方程式を用いて低圧側の観測値から高圧側の値を求める(図 3-2参照)。

3.6.2 重み付け最小自乗法による求解

|Δx|がある小さな値σより小さくなるまで(3-4)式の連立一次方程 式を解く。記憶容量と計算時間を削減するために、スパース行列演算を用いる。

これは、準最適リナンバリング、UDU(U:三角化後の右上行列、D:三角化 後の対角行列)分解および前進後退代入から成り、非零要素のみを格納・演算 する。

準最適リナンバリングは、UDU 分解の過程で増える非零要素を少なくする ために行う。例えば、非零要素の割合が 22.8%であるゲインマトリクスにリナ ンバリングを施さなければ UDU 分解後 50%以上に非零要素が増えるのに対 し、準最適リナンバリングを行うと32.4%にとどまる。

3.6.3 バッドデータの検出および除去

観測値と重み付け最小自乗法の解より求めた推定値に、前に述べた C 法を用 いバッドデータを検出しこれを除去する。バッドデータを検出および除去した 場合は(ブロック5)へ戻る。バッドデータが存在しない場合は、(ブロック8) へ進む。

(19)

すなわち、境界母線の有効電力、無効電力、電圧を重み付け最小自乗法の計算 から除き、次式のように固定する。

P+P1+P2 = P

Q+Q1+Q2 = Q

V = V

縮約系統

P

0

+ j Q

0

V

0

V’

P’ + jQ’

P

2

+ jQ

2

P

1

+ jQ

1

V

1

V

2

図3-6 削除系統に対する状態推定

3.6.5 計算時間

表3-4に本アルゴリズムの(ブロック4)以降の実行時間の一例を示す。こ れは、雑音が全く含まれない理想的な観測値に、有効電力の線路潮流のバッド データを1個加えたものに対して行った結果である。ただし、対象とした系統 は、母線数が93、線路数が 148、母線に関する観測点(母線電圧の大きさや母 線注入電力)が 91 箇所、線路潮流の観測点が 236 箇所、観測値の値は全部で

(20)

表3-4 計算時間

No. .

1 2

3 4 No. .

1 2

3 4

内容

(ブロック4)

(ブロック5)

(ブロック6)

(ブロック7)

(ブロック8)

合計

時間 (秒)

0.20 3.5

0.16 3.86

計算時間は、1983年当時の(株)日立製作所日立研究所の日立メインフレーム計算機による 計算実行時間である。

電圧の初期値はすべて1.0+j0.0として計算をスタートした。前にも述べたよ うに、実際には潮流計算を前処理として行うため、表3-4よりかなり少ない 計算時間で済む。表3-4ではバッドデータがあるために、(ブロック5)にお いて収束計算を5回繰返し、(ブロック6)、(ブロック 7)を経て更に(ブロッ ク5)において収束計算を3回繰返し終了した。すなわち、表3-4中の

No.2[(ブロック5)および(ブロック6)]に要した時間3.5秒には、リナンバ

リング処理、収束計算8回、バッドデータ処理計算を含む。

3.6.6 記憶容量

スパース行列演算をしない場合、ゲインマトリクスの要素全てを格納するのに 必要な記憶容量を Gとすると、本アルゴリズムは重み付け最小自乗法の実行、

およびバッドデータの検出について、表3-5に示す記憶容量を必要とする。

(21)

用意する必要があるが、それは母線数あるいは線路数であるので、ゲインマト リクスの配列に比べるとほとんど無視できると言ってよい。

現在最もよく使われているFDWLS法とB法を用いる方法の必要な記憶容量 も表3-5に示す。FDWLS 法と B 法を用いる方法は、P-V、Q-θの関係を無 視するので、重み付け最小自乗法は 1/4G で済み、B 法は(3-6)式の(H WH)-1の計算のために1/4Gを使用する。

以上より、本アルゴリズムは記憶容量の点では、最もよく使われている方法と 変わらなく、このことはスパース行列演算を行った場合でも同じである。

表3-5 記憶容量

方法

本アルゴリズム FDWLS法とB法

を用いる方法

重み付け最小自乗法の実行

1/2G 1/4G

バッドデータ検出

ほとんど必要なし

1/4G

(22)

3.7 第3章の結論

本章では、第2章で述べた信頼度監視機能の系統状態予測サブ機能の状態推 定機能の検討を行なった。まず、状態推定機能に標準的に用いられている重み 付け最小自乗法とバッドデータ検出法を紹介した。次に、狭い地域に密集した 電力系統にこれらの標準的な手法を適用すると数値的に悪条件となり、状態推 定計算が実施できないことを述べた。この理由は、送電線のインピーダンスが 変圧器のインピーダンスに比べ非常に小さく、状態推定計算の行列計算におい て行列要素の大きさのばらつきが大きく、数値誤差を生じやすいためである。

そこで、系統縮約を行ない、インピーダンスのばらつきを小さくする工夫につ いて述べた。また、バッドデータ検出においては、標準的な手法は系統縮約後 も計算誤差のために使用できず、推定残差の組合せを用いた新しい手法を開発 し、その手法について述べた。

以下、第3章の主な結果を述べる。

(1)従来状態推定手法適用の問題点

狭い地域に密集した電力系統では線路インピーダンス値のばらつきが大きく な り 、 一 般 的 に 適 用 さ れ て い る FDWLS(Fast-Decoupled Weighted Least Squares)法やDWLS(Decoupled Weighted Least Squares)法では状態推定計算 が発散する場合があり、状態推定結果を算出できない。この理由は、送電線の インピーダンスが変圧器のインピーダンスに比べ非常に小さく、状態推定計算 の行列計算において行列要素の大きさのばらつきが大きく、数値誤差を生じや すいためである。

また、バッドデータ検出においても、一般的に適用されているB法も、上記

(23)

無効電力-位相角(Q-θ)の関係を無視しない方法では状態推定計算は収束し 適用できることが判った。FDWLS法やDWLS法を適用できない理由は、多数 の送電線で抵抗分とリアクタンス分の大きさがオーダ的に等しく、P-VやQ-θ の関係を無視できないためである。

(3)バッドデータ検出の工夫点とその効果

(2)の縮約手法を適用した系統においても、B法は計算誤差のためにバッ ドデータを誤検出してしまう。そこで、縮約系統ではほとんどの母線、線路で 有効電力・無効電力が観測されていることを利用した、新しいバッドデータ検 出法であるC法を開発した。

C法は4つのルールを母線や線路に適用し、その組合せによりバッドデータ の候補を挙げる手法である。C法はB法と比較すると、検出感度の点ではいく らか控え目であるが、バッドデータを誤検出しないことが長所である。

(4)開発したプログラムの特徴

開発したプログラムは、(a) 前処理、(b) 重み付け最小自乗法、(c) バッドデ ータの検出および除去、(d) 後処理の4つの部分からなる。

計算時間においては、重み付け最小自乗法の初期値を工夫することにより計 算の高速化を図り、計算容量においては、準最適リナンバリングなどにより、

一般的な状態推定手法と変わらないことを示した。したがって、開発したアル ゴリズムは計算時間および記憶容量についても、オンライン処理として充分適 している。

本状態推定プログラムは、1985 年3月より香港電力中給計算機システムのオ ンライン機能として稼動している。

実際の状態推定においては、本章でも述べたように、対象とする系統は線路イ ンピーダンスの大小の差が生じやすく、本章で述べた悪条件になる可能性が高 い。したがって、本アルゴリズムの効果は大きいものと思われる。

本研究は、悪条件な系統に対する状態推定機能の現在の研究の基盤となってい

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第3章の参考文献

[3-1] F. C. Schweppe, et al, “Power System Static-State Estimation, Part I:

Exact model “, IEEE Trans. PAS-89, 120, 1970.

[3-2] F. C. Schweppe, et al, “Power System Static-State Estimation, Part II:

Approximate model “, IEEE Trans. PAS-89, 125, 1970.

[3-3] F. C. Schweppe, “Power System Static-State Estimation, Part III:

Implementation “, IEEE Trans. PAS-89, 130, 1970.

[3-4] T. E. Dy Liacco, et al, “Survey of System Control Centers for Generation-Transmission Systems “, 1984.

[3-5] J. J. Allemong, et al, “A Fast and Reliable State Estimation Algorithms for AEP’s New Control Center “, IEEE Trans. PAS-101, 939, 1982.

[3-6] Broussolle, “State Estimation for Power System: Detecting Data Through Sparse Inverse Method “, IEEE Trans. PAS-97, 678, 1978.

[3-7] J. F. Dopazo, et al, “State Estimation for Power System: Detection and Identification of Gross Measurement Errors “, 8th PICA Proc., p. 313, 1973.

参照

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