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クリティカル・シンキングの因果関係の検証過程

 これまで,クリティカル・シンキングにおける因果関係を科学的に決定する方略につい て述べてきた。しかし,実際の授業において授業時間の制約や学校で行なうことのできる 範囲でなければ構成することはできない。

 本節では,実際の授業で行なうことのできる範囲で,クリティカル・シンキングの手法 を用いた因果関係の検証過程を考察する。

1.クリティカル・シンキングにおける因果関係を決定する順序

 クリティカル・シンキングにおいて因果関係を証明する規準は共変関係,時間的順序関 係,もっともらしい他の原因の排除(第三変数)の3つが存在する。また,原因を推論する時 には,相関の錯覚ではないか,実は自然な原因で発生したのではないか,データが欠落し ているのではないか,といった他の原因を考えることが必要である。

 そして,因果関係を決定するには,一致法,差異法との併用を用いることにより,科学 的に有効な手段で判断できるといえる(図I1−3)。

3つの規準

因果関係のない共

変関係(偶然)

相関の錯覚

これらの条件が満たされたら

㌫驚きが1

前一後論法が用いられているのであれば

._/// ォ

同時発生の原因 自然の原因  平均方向への回帰欠落したケース

↓\

真の因果関係を決定するには

u

    麗

      ↓

図■一3因果関係を決定する方略(ゼットミスタ(1996)35より筆者作成)

2. Nリティカル・シンキングにおける因果関係を決定する検証過程

 これまで,真の因果関係を決定するための方略を示してきた。しかし,この方略そのま まを用いて因果関係を検証する授業を構成するとなると,時間の制約と手間がかかり実現 することが難しい。

 そこで,原因の推論の際に陥りやすい落とし穴を省略し,共変関係と時間的順序関係の 両規準と科学的な方略である一致法と差異法との併用法を用いることによって,社会科授 業で科学的に因果関係を決定することができるのではないかと考えた。

 そして,実際の社会科授業において,この方略を用いて因果関係を明らかにするために.

は,因果関係の規準を第一段階と第二段階の2つに分けて追究するアプローチを提案する。

規準の第一段階とは共変関係があると把握した上で時間的順序関係があるのかどうか検証 する段階である。規準の第二段階とはもっともらしい他の原因の排除(第三変数)を探る段階 であり,そのために一致法と差異法を併用する。社会科探究学習の仮説一検証過程におい てこの方法を用いることで,科学的に社会事象の因果関係を明らかにすることになるとい

える。

 また,クリティカル・シンキングの一致法,差異法の性質から,事例を3つ扱うことが 望ましい。ある地域を事例として追究し,同じ原因・.結果が起こった地域と比較(一致法)

し,次に別の原因により異なった結果が生じている事例との比較(差異法)をすることにより,

科学的方略を用いて因果関係を明らかにすることができるといえる。

 クリティカル・シンキングにおける,より客観的で科学的な方法である因果関係を検証 する手立ては以下のように示すことができる(図n−4)。

①麗錘姦

規準の第一段階

u

       麗

(同じ出来事が起こるときに共通して存在する原因を探る)

u

規準の第二段階

(一致法に加え,出来事が起こらない原因を探す)

」こL

図I1−4 因果関係を決定するための方略 (筆者作成)

 これまで明らかにした,クリティカル・シンキングにおける因果関係を決定する手立て によって,社会事象の因果関係を明らかにすることができる。

 第I章において,社会事象間の因果関係を明らかにし学習者の社会認識形成を図るなら ば,これまで展開されてきた探究学習の各段階をきめ細かく構成し,より詳細な探究学習 の理論が社会科に求められていると述べた。

 この手立ては,上述の探究学習の検証過程を細かく構成した理論であり,より客観的で 科学的な方略を用いることによって,学習者の社会認識形成を図ることになろう。

《1I章. クリティカル・シンキングの因果関係決定方略を用いた検証 註及び参考文献》

1森分孝治・片上宗二編『社会科重要用語300の基礎知識』明治図書,2000,p.94において,

 尾原康光は批判的思考について以下のように述べている。

  CriticaIThinking.他者や集団,機関の言葉や行動に疑念をもち,その真偽や妥当性,正当性を吟味  し,それを受け入れるか否かを決する能力,あるいはそうしようとする態度をいう。

2鵜木毅r社会科における批判的思考の育成原理」日本社会科教育学会『社会科研究』第32号,

 1984,p.27において,「社会科の目的を,社会の要求に応じ,社会にとって有為な形成者たり  得るような市民を育成すること,ととらえるならそま,社会科において育成されるべき思考力と  は批判的思考でなければならない。」と述べている。

3E.B.セッタミスタ・J.E,ジョンソン共著,宮元博章・道日日泰司・谷口高士・菊池聡訳『クリテ  イカルシンキング《入門編》』北大路書房,1996,p.38

4同上書,p.38 5同上書,p.38 6同上書,p.38 7同上書,p.39 8同上書,p.43 91同上書,pp.42・43 10同上書,p.44 11同上書,pp.44・45 12同上書,p.45 13同上書,p.46 14同上書,p.46 15同上書,p.48 16同上書,pp.48.49 17同上書,p.49 18同上書,pp.50・66 19同上書,pp.50 66 20同上書,p.51 21同上書,p.51 22同上書,p.53 23同上書,p.53 24同上書,p.54 25同上書,pp.54・56 26同上書,p.56 27同上書,p.62 28同上書,pp.63・66

29例えば,高根正昭は,因果法則を確定するための3つの条件を次のように示している。

 ①独立変数の変化が,従属変数の変化に先行するという,時間的順序が確立されなければならない。

 ②両変数間の共変関係を確かめなければならない。

 ③他の重要な変数が,変化しないという条件を確立しなければならない。

 高根正昭(1979)『創造の方法学』講談杜,p.83 30同上書,p.67

31同上書,PP.67−68 32同上書,PP,68−69 33同上書,pp.70−71 34同上書,p.73 35同上書,p.76

第皿章 クリティカル・シンキングの

      因果関係決定方略を用いた授業分析

 これまで,クリティカル・シンキングにおける因果関係を決定する検証過程について明 らかにした。それでは,これまでの社会科授業において,このような科学的な方法により 因果関係を明らかにする実践は行われてきたのだろうか。

 本章では,これまで述べてきたクリティカル・シンキングの因果関係決定方略をもとに,

授業分析フレームワークを示し,先行授業実践および作成した授業モデルの分析を行う。

そして,その分析結果から,クリティカル・シンキングの因果関係決定方略を用いた中学 校社会科地理的分野の授業設計の視点を明らかにする。

第1節 社会科授業分析