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クリティカル・シンキングの因果関係を決定する方略   1.原因一結果について結論をくだす落とし穴

 これまで,ク・リティカル・シンキングにおける因果関係を証明する規準について明らか にした。しかし,因果関係について正しく結論をくだせるようになるためには,これまで 見てきた三つの規準のほかにもいくつもクリアしなければならない問題18があるとして,原 因の推論において人が陥りやすい四つの大きな落とし穴を以下のように示している(表n−

2)。

表■一2原因の推論において陥りやすい落とし穴

・相関の錯覚

・前一後論法(同時発生の原因,自然な原因)

・平均方向への回帰

・欠落したケース

(セックミスタ値(1996)19もとに筆者作成)

まず,相関の錯覚について以下のように説明している。

 実際には無関係で共変していない二つの出来事が共変しているように見えてしまったり、両者の間に実 際よりも強い関係があるように見えてしまうことがよくある。心理学では、このような関係性の誤認を相 関の錯覚と呼んでいる。この錯覚のために、因果関係を決定する規準の一つである共変関係の原貝11が満た されていると誤認してしまへ結果として因果関係を誤って判断してしまうという問題も生じるのである。

20

 つまり,相関の錯覚とは,これまでの直接・間接の体.験から得たなんらかの知識に基づ いた非公式な理論や「直観」から状況を理解してしまうことにより,現実には存在しない共 変を見てしまったり,あったとしても小さい共変を過剰に大きく評価してしまったりする 傾向が生じ21ることである。

 次に前一後論法について明らかにする。「以前はこうだったが,ある出来事の後でこう変 わった」という前一後を比較する論法22が前一後論法であるとして以下の例をあげている。

 (中略:西沖)裁判官は自分が現在の職に就いてからは,それ以前に比べて,より多くの件数が処理され るようになったことを自慢していた。彼は自分が裁判官になってからしかるべく行動したから裁判がスピ ードアップしたのだと主張しているのだ。これを因果関係的にいえば,彼の行動が原因であり,裁判のス ピードアップが結果ということになる。彼がこのような因果関係を考えた根拠は,彼が就任した「後」に比 べて,彼が来るr前」は裁判が行なわれるスピードが遅かったということに他ならない。23

 この因果関係を明らかにするためには,裁判官の就任したこと,そして裁判官の行動が 変化の原因であることを証明する必要がある。それは,他に原因となり得るものがないこ とを確認しなければならない24。つまり,第三変数を探り,もっともらしい他の原因の排除 を行なう必要があるということである。

 クリティカル・シンキングにおいては,上述のような前一後論法における変化の原因と なり得る要因を同時発生の原因と自然な原因の二つがあるとして,以下のように述べてい

る。

 同時発生の原因とは,この場合,裁判官の就任が他の出来事と同時に起こっていて,他の出来事の方が 真の原因である可能性があるということである。(中略:西沖)彼が就任したのは,たぶん人事異動の時期で あろう。だとすると彼の他にも検事や職員が多く入れ替わったかもしれないし,増員があった可能性もあ る。また,この時期に新しい法案が通過し,それが裁判の進行に影響を与えた可能性もある。自分こそが 唯一の原因であるという裁判官の主張が崩れる可能性も出てくわけだ。

 もう一つの要因である自然な原因についても考えてみよう。(中略:西沖)たとえば,五歳の時の身長が百 センチだった子どもが十歳の時には百四十センチになったと聞いたとしよう。他の情報が何もなくても,

あなたはその事実について深く考えないだろう。子どもは大きくなるものであり,この年頃の五年間で四 十センチ伸びることは自然な原因,つまり成長の結果としてふっうに期待されることだからである。

 (中略:西沖)この理屈を先ほどの裁判官の例に適用するとどうなるか。その地方で犯罪者になり得る人の 数,たとえば,十代から二十代の犯罪を起こしやすい若者の人口が自然に増加したことが原因で,その裁 判所で処理される件数が徐々に増加していった可能性もある。犯罪者の数が増えれば,当然法廷での真偽 の進め方を迅速にするための処理上の改革が必要になってくるだろう。くだんの裁判官はたちまち,ちょ うどこの変化が目に見えてきた頃に就任したのかもしれない。このような自然な原因により.この裁判官 が就任しようがしまいが,変化は生じたのかもしれない。25

 この二つの要因は,ふつうの出来事よりも何かしらめだつ出来事,また継続して起こっ ていることよりも何かしら突発的な出来事により注目し,それらを原因とみなすことで簡 単に見落としてしまうことになる26。

 そして,平均方向への回帰について以下のように述べている。

 (中略:西沖)良くも悪くも人が極端な成績をとった場合,その次はそこまで極端な成績にはならない,

つまり得点はふだんのレベルに戻る傾向があるという事実を見落としていることだ。この現象は,平均方 向への回帰と呼ばれる。先に見た自然な原因の場合と同じように,この変化は最初の成績を取った後の処 置(叱る,ほめる)とは無関係に生じたことであるのにもかかわらず,人はその処置こそが変化の原因である

と誤って考えてしまうのである。

 (中略:酉沖)われわれが注意しなければならないのは,たった一度の極端な成績に基づいて選別したグル

一プに対してなんらかの処置を行い,その効果を判断しようと試みる場合である。処置の前と後で成績に 違いがみられた場合,それが実はたんに平均方向への回帰の結果であるのにもかかわらず,それを処置の ためであると信じ込んでしまう危険性があるのだ。

 クリティカル・シンキングにおいては,ある処置の効果を本当に立証したいのなら,平 均方向への回帰という要因で説明できる部分をきちんと排除して,それでも効果があるか

どうかを確かめるべきであるとしている27。

 また,原因の推論において陥りやすい落とし穴の4つ目である,欠落したケースについ て以下のように説明している。

 この問題は,何かを始めた人々のすべてが当初の予定通りにやり終えるわけではないということに起因

する。

 (中略:西沖)処置と前と後での変化を比較する時,グル』プのメンバーに欠落があるとすれば,測定結果 に偏りが生じている可能1性が高い。28

 この欠落したケースは,先の同時発生の原因や自然な原因と合わせて,前一後論法を考 える時に注意しなければならない落とし穴である。つまり,実験や検証されたデータある いは評価を提供された時,提供者に都合の良いデータや評価だけが提示されることによっ て,本来の結果に偏りが生じることになる。

 これまで,原因を推論する際に陥りやすい落とし穴を4点明らかにした。これらからい えることは,示されたデータや人の説明に対して,確かな根拠や裏づけされたデータから 原因を推論し,因果関係を証明していかなけれぱならないということである。さらに言え ば、これらは全て,もっともらしい他の原因の排除あるいは第三変数を探ることに関係し ており,クリティカル・シンキングにおける原因を推論することは,もっともらしい他の 原因の排除または第三変数を探ることを重視しなければならいないと考えることができる

(図皿一2)。

もっともらしい他の原因の排除

     (第三変数)

目関の錯覚 同時発生の原因,自然な原因 平均方向への回帰 欠落したケース 図Il−2原因を推論する際に必要な規準 (筆者作成)

2.真の因果関係を決定するための方略

 上述のように,クリティカル・シンキングにおける因果関係の規準を示すとともに、原 因の推論における陥りやすい落とし穴を示した。それでは,クリティカル・シンキングに

おいて,因果関係を決定するにはどのような順序性があるのか。ここでは,クリティカル・

シンキングにおける真の因果関係を決定する方略について明らかにする。

 クリティカル・シンキングにおける因果関係を証明するための規準の一つである,もっ ともらしい他の原因の排除(第三変数)は共変関係(相関関係)と時間的順序関係が確認されて から行なわれている。さらに時間的順序関係は共変あるいは相関がある一時に適用されるた め,クリティカル・シンキ!グの因果関係を立証していく手順は,①共変(相関)関係②時間 的順序関係③もっともらしい他の原因の排除(第三変数)となる。

 それでは,この規準だけで因果関係が検証できるのだろうか。これまで,上述した規準 のような因果関係を明らかにする条件は,これまでの先行研究により明らかにされてきた29。

しかしながら,もっともらしい他の原因の排除を行う時,具体的な方法や手立ては示され てこなかった。

 クリティカル・シンキングによると,因果関係を発見するためには,この方法さえ用い ればそれで完全に解決できるという切り札的な手法があるわけではない30としている。

 しかし,これを念頭に置いた上で,真の因果関係を決定するためのより客観的で科学的 な方略が「一致法」と「一致と差異の併用法」が具体的な方法である31とし、それぞれ以下のよ

うに説明されている。

.一

v法

 因果関係を決定する方法の一つである一致法とは次のようなものである。まずある結果を引き起こす原 因Xがこれではないかと目星(仮説)をつけたら,同じ結果の生じている別の状況でもやはりそのXが存在 しているかどうかを調べる。そのXが存在する全ての状況で,今問題にしている結果が生じているとすれ ば,そのXが原因である可能性がある。さらに,そのXが,すべての状況を通しての唯一の共通項である なら,そのXが原因らしいと強く主張することができるのである。

 (中略:西沖)一致法は有効な手段であると同時に,重大な弱点ももっている。つまり,複数の状況を分 析した結果、ある要因が全ての状況に共通していたことを見出したとしても,それが「唯]」の共通する要 因であるとは断定できないのである。日常の生活では,考慮しなければならない要因や条件が同時に数多

く存在しているのがふつうである。たまたま共通する要因を見つけることができたとしても,ひょっとし たら他の要因を見落としている可能性が十分にあるのだ。32

・一vと差異の併用法

 因果関係を推測するためには,一致法だけでなく,差異法も合わせて利用することで,はるかに有効な 分析を行えるようになる。差異法は一致法とは逆に,一方である出来事が起こり,一方で出来事が起こら なかったのなら,二つの状況で「違うもの」の中に原因があるはずだという探り方である。(中略:西沖)目星 をつけた原因について調べる際に,一致法とあわせて用いるのが一般的である。

 一致と差異の併用法では、原因と推測されるXが存在する時に結果Yが存在することだけでなく,その Xが存在しない時には,結果Yが存在しないことを立証して,因果関係を推測していく。つまり,Xが存