博士(薬学)扇谷 悟 学′位論文題名
P450 発 現系 の新 規 構築 とその系を用いた CYPIA の 酵 素 活 性 の 種 差 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
1.序論
薬物代謝に おける種差は、薬物のヒトに おける安全性の予測を困難にする最大の問題であ る。薬物代謝 の種差の原因としては、動物種間における1)薬物代謝酵素の発現量の差、およ び2)薬物代謝 酵素自身の酵素活性の差、 の2っが考えられるが、後者についての報告は極め て少ない。
チ ト ク ロ ー ムP450(以 下 、P450あ るい はCYP)の中 で、CYPIA1とCYPIA2はい ずれ も 発 ガンへの関与 などの点から注目を集めてい る分子種である。しかし、これらの分子種の酵素 活性の種差を 同一条件下で検討した報告は ない。そこで本研究では、ヒト、マウス、ハムス タ ―、 モル モッ ト のCYPIA1とCYPIA2に つい て、 どの よう な酵素活性の違いが あるのか、
ま たそ の酵素活性の種 差は一次構造上のどの領域に 由来するのかを明らかにす ることを目 的 とし た。 本研 究 では 、P450の 酵母 発 現系 を新 たに 構築 し、これらについて 検討した。
2. 各 種 動 物 肝 CYPIA1、 CYPIA2お よ び P450還 元 酵 素 のcDNAク ロ ー ニ ン グ マ ウ ス 、 ハ ム ス タ ー 、 モ ルモ ット 肝cDNAラ イ ブラ リー からCYPI A1、CYPIA2 cDNAお よ びP450に 電 子 を 伝 達 す るP450還 元 酵 素 のcDNAを 単 離 し た 。 ま た 、 ヒ ト 肝cDNAか ら CYPIA1、 CYPJA2cDNAを polymearsech虹 nreacdon法 に よ っ て 単 離 し た 。 推定アミノ 酸の相同性は、CyPJA|cDNA間あるしゝはC即JA2cDNA間で は70ゲ。以上、P450 還元酵素では90%以上であった。また、P450還元酵素のFMN(navinmononucleodde)結合領 域近傍に、動 物から微生物に至るまでよく 保存された酸性アミノ酸クラスターを初めて見い だした。
3.P450およびP450還元酵素 の酵母発現系の検討
P450を酵母で発現させたと きの発現効率は、分子種に よって大きく異なる。そこで、cDNA の 非 コ ー ド 領 域 の 修 飾 に よ る 酵 母 内 発 現 量 の 変 化 に つ い て 検 討 し た 。 マ ウスCyplal cDNAをモ デ ルと して 、非コード領域除去の 影響について検討した。そ の 結果 、マ ウスCyplal cDNAの 非コ ード 領域 の除 去 によ り、 発現 効率 が 増加 した 。ま た 、 CYPIA2やP450還 元 酵 素cDNAで も同 様 な結 果を 得た 。以 上 の結 果よ り、 酵母 に おけ る発 現効率を増加させる方法につ いて明らかにした。
4. P450発現のための新規酵 母株の作成
酵 母P450還 元酵 素 から 動物P450への 電 子伝 達効 率は 低い 。そこで、ハムスターP450還 元 酵素を安定に高発現する新 規酵母株を作成した。6配列 を相同組換えのターゲットとして ハ ム スタ ーP450還 元 酵素 発現 ユニ ット を 酵母YPH500株 の染 色体の複数の位置ヘ導入し 、 高 いP450還 元 酵 素 活 性 を 示 す 酵 母 株‑ High一red酵 母 と 命 名 ― を 得 た 。
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ハ ム ス ターP450還元酵 素発現 ユニッ トはHigh‑red酵 母の第V染色体 に6コピ ー以上 挿入 されて いた。 また、High‑red酵母は富栄養培地中100世代以上にわたって安定な形質転換体 であっ た。
親 酵 母 であるYPH500とHigh‑red酵母に マウスCYPIA1発現プ ラスミ ドを導 入し比 較する と、Higkred酵 母 はYPH500に 比 べ 、20倍 のP450還 元酵 素 活 性 を示 し 、 発 現し た マ ウ ス C1仰1A1の酵 素活性 はおよ そ250倍上 昇した 。この 結果より、本研究で作成したHgh・red酵 母 は 非 常 に 高 いP450酵 素 活 性 を 得 ら れ る 有 用 な 酵 母 で あ る と 考 え ら れ た 。 5. ヒ ト 、 マウ ス 、 ハ ムス タ ― 、 モル モッ 卜にお けるCYPIA1、CYPIA2の酵 素活性 の種差 ヒト 、 マ ウス 、ハムス 夕―、 モルモ ットのCYPIA1およ びCYPIA2をHigh‑red酵母で 発現 させ、それらの酵素活性の種差について検討した。
CYPIA1のべンゾ[ロ]ピレン3位水酸化酵素活性および7‐エトキシクマリン0‐脱エチル化酵 素活 性を比 較する と、マ ウスが 最も高 く、次 いでヒトであった。マウスとハムスターの71 エトキシクマリン〇‐脱エチル化酵素活性には60倍の差があった。次に、High・red酵母のカ ナバ ニン耐 性への 突然変 異率および生存率を指標とした新規変異原性試験法を開発し、4種 の 動 物 のCYPlA1のア フラト キシンB1代謝的 活性化 能を比 較した 。その結 果、ヒ トCYPlAl の ア フ ラト キシ ンBlの代 謝的活 性化能 が他の 動物種 のCYPlA1よ り低いこ とが示 された 。 CYPlA2の7゛エト キシク マリン〇・脱エチル化酵素活性ではハムスターが最も高く、次い でマ ウス、ヒトの順であった。また、カフェイン代謝反応では、カフウイン代謝物の比率は 動物 種によ って若 干異な ってい た。一 方、4種 の動物 のCYPlA2のア フラト キシンBl代謝的 活 性 化 能を 比較 すると 、ハム スターCYPlA2が他 の動物種 のCYPlA2よ りも非 常に高 い代謝 的活性化能を示した。
以上 の よ う に、 こ れ ら4種 の 動物 のCYPlAl、CYPlA2の酵素活 性には 大きな 種差が 存在 することを明らかにした。
6. マウ スCYPIA1と ハム ス タ−CYPIA1の7‐エ 卜キシ クマリ ン〇. 脱エチ ル化酵 素活性 の 種差に 関わる一 次構造 上の領 域の検 索
マウ スCYPIA1と ハムス ターCYPIA1に おける7.エト キシク マルン 〇‐脱 エチル 化酵素 活 性の種 差に関わ る領域 をキメ ラCYPIA1の 作成に より検 討した。
マウス 、ハム スター のCYPIA1の7− エトキ シクマリン〇一脱エチル化酵素活性の速度論的 パラメ ータを求 めたと ころ、KmよりもVmaxが大 きく異 なってい た。そこで、マウスCyplal cDNAと ハ ム ス タ ーCYPIAl cDNAを お よそ3分 割 し て 組み 合 わ せ たキ メ ラCYPIAl cDNA、 およ び 中 央3分 の1の 領域 を さらに2分割し て組み 合わせ たキメ ラCYPIAl cDNAを 作成し 、 Hiah‑red酵 母で 発 現 さ せた 。こ れらの キメラCYPIA1の中で は、中 央3分の1の前半 領域が マウス 由来であ るキメ ラCYPIA1が 高い7. エトキシクマリン〇―脱エチル化酵素活性を示し た。 ま た 、 この 高 い 酵 素活 性 を 示 すキ メ ラCYPIA1は ハ ム ス ターCYPIA1よ り も高いVmax を示 し た 。 この 結 果 よ り、 中央3分の1の 前半領 域が、 マウスCYPIA1とハム スターCYPIA1 のVmaxの種 差に最 も重要 な領域 である ことを明 らかに した。 この領域はこれまでに報告さ れてい るP450の機 能領域 とは異 なった 領域であ った。
6.まと め
本研究 におい て、高 いP450酵 素活性が 得られ る酵母発現系を新たに構築した。また、本 発 現系 を 用 いて、 ヒト、 マウ. ス、ハ ムスタ ー、モ ルモットCYPIA1とCYPIA2におけ る酵 素活性 の種差 につい て検討 し、以 下のよ うな結論 を得た 。
1)4種 の 動 物種のCYPIA1、CYPIA2の 酵素活 性には 大きな種 差が存 在する 。この 薬物代 謝 酵 素 自 身 の 酵 素 活 性 の 種 差 を 同 一 条 件 下 の 比 較 に よ り 初 め て 見 い だ し た 。 2) マ ウス と ハムス タ―のCYPIA1の酵 素活性 の種差6毒Vmaxの違 いに由 来して おり、 これ には中 央3分の1の前半 領域が 強く関 わって いる。 この領域はこれまで機能が未同定であ っ た 領 域 で あ り 、 本 研 究 に よ っ て 初 め て 機 能 を 明 ら か に し た 。
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学位論文審査の要旨 主 査 撒 授 鎌 滝 哲 也 副 査 教 授 横 沢 英 良 副 査 助教 授 澤田 均 副 査 助教 授 横井 毅
学 位 論 文 題 名
P450 発現系の 新規構 築とその 系を用 いた CYPIA の 酵 素 活 性 の 種 差 に 関 す る 研 究
薬 物 代 謝 能 に お け る 種 差 は 、 ヒ ト に お け る 薬 物 の 薬 効 ・ 毒 性 を よ り 正 確 に 予 測 す る 上 で 極 め て 重 要 で あ る 。 し か し 、 こ れ ま で の 研 究 に お い て は 、 動 物 種 間 に お け る 薬 物 代 謝 酵 素 の発 現 量の 差に 関す る研 究に 比ベ 、. 薬物 代謝 酵素 の 分 子 当 た り の 酵 素 活 性 ( 夕 ー ン オ ー パ ー 数 ) の 差 に 関 す る 報 告 は 少 な か っ た 。
本 研 究 で は こ の 点 に 関 し て チ ト ク 口 ー ムP450( 以 下P450ま た はCYP)を 中 心 に 詳 し く 研 究 し 、 数 々 の 新 発 見 を し た 。 本 研 究 は 薬 物 代 謝 に 関 し て 有 用 な 概 念 を 提 供 す る も の で あ り 、 以 下 に 詳 述 す る よ う に 極 め て 優 れ た 研 究 成 果 で あ る と 評 価 さ れ る 。
1)各 種 動 物 のP450とNADPH‑P450還 元 酵 素cDNAの 皇 離
ま ず 、 ヒ ト 、 マ ウ ス 、 ハ ム ス タ ー 、 モ ル モ ッ ト か らCYPIAヱ 、CYPIA2 cDNA を 単 離 し 、 そ の 塩 基 配 列 を 決 定 し 、 一 次 構 造 上 の 相 同 性 に つ い て 明 ら か に し た 。 こ れ ら の 中 で は 、 モ ル モ ッ ト のCYPIA1、CYPIA2 cDNAが 初 め て 単 離 さ れ たcDNAで あ っ た 。 ハ ム ス タ ー CYPIAヱ 、CYPIA2 cDNAは 本 研 究 と ほ ぽ 同 時 期 に 塩 基 配 列 が 報 告 さ れ た が 、 一 部 の 塩 基 配 列 が 異 な っ て い た 。 ま た 、 マ ウ ス 、 ハ ム ス タ ー 、 モ ル モ ッ ト か らP450還 元 酵 素 のcDNAを 単 離 し た 。 こ れ ら3種 は い ず れ も 初 め て 単 離 さ れ たcDNAで あ る 。 こ れ ら に つ い て 一 次 構 造 の 解 析 を 行 い 、 高 い 相 同 性 を 有 し て い る こ と を明 らか にし た。 特に 、 P450還 元 酵 素 か らP450へ の 電 子 伝 達 に お い て 接 点 と な っ て い る と 考 え ら れ るFMN結 合 領 域 付 近 の 酸 性 ア ミ ノ 酸 配 列 が 動 物 か ら 植 物 、 微 生 物 に 至 る ま で 非 常 に よ く 保 存 さ れ て い る こ と を 初 め て 見 い だ し た 。