博士(薬学)大西英博 学位論文題名
ローダサイクル中間体を経由する 新規環化反応の開発とその応用
学位論文内容の要旨
遷移企轗錯体によって進行する反応の中には、金属を含 む環状の中間体、いわゆる メ タラサイクル中間体を経由して進行する反応が数多く知 られている。メタラサイク ル 中間体は反応性が高く更に別の化合物や試薬と反応する ことができ、様々な環状化 合 物の構築反応として利用できる可能性を秘めている。こ のメタラサイクル中間体を 経 由する反応のーっとしてRh(I)錯体による4‐ペンテナー ル類の環化反応が挙げられ る。この反応は4‐ペンテナール類とRh(l)錯体との反応により6員環ローダサイクル中 間 体が 形成 され 、っ づい て還 元的脱離が起こり5貝環化合 物が生成する。著者はこの 反 応の途中で形成されるオキソローダサイクルの反応性に 興味を持ち新たな環化反応 への展開を目指し研究に着手した。
はじ めに 、6貝 環ロ ーダ サイクル中問体への多重結合の 挿入を種々検討したが、望 みとする反応は進行しなかった。そこで、4,6ージエナール類とRh(l)錯体との反応を検 討することにした。すなわち、4,6‐ジエナール類とRh(l)錨体との反庇;で生成ずる6員 環ローダサイク ル中間体倣、兀―アリル中間体を経由して、8貝環ローダサイクル中聞 体 との問で平衡状態になり、還元的脱離が抑制される可能 性がある。そして、これら の 中聞 体に 多重 結合 が挿 入す る なら ば、7も しく は9員環 化合物が生成するのではな いかと考えた。そこで、(42,6E)‑9‑フェニルノナ_4,6.ジエナールを用いてアルキンの挿 入 反応を検討したが目的とする環化体は全く得られなかっ た。しかし、興味深いこと に8員環ローダサイクル中聞体 から直接還元的脱離が進行し生成したと考えられる゛7 貝 環化 合物 が主 生成 物と して65%の収率で得られた。このように8貝環ローダサイク ル 中聞 体か らの 還元 的脱 離が 優先して起こり7員環化合物 が収率良く得られることに 興 味を持ち、本反応を詳細に検討することにした。その結 果|本反応において基質の ジ ェン部分の幾何異性の違い及ぴジェン末端の謹換慕の有 無が反応経路に影響を与え ることがわかった。
先に述べた7員環形成反応の検討途上、Rh(l)錯体によって1,3ージェンとオレフイン と の問で環化異性化反応が進行し5員環化合物が生成することを見いだした。Rh(I)錯 体 を用いたジェンーオレフインの環化異性化反応はこれま で報告されておらず非常に 興 味がもたれる。そこで、様々な基質を用いて本環化反応 の検討を行なった。その結 果 、本反応においては慕質のアリル位の元素の種類が重要 であり、アリル位が炭素で あ る場 合に は環 化異 性化 反応 が進行し5員環問化合物を良 い収率で与え、一方、ヘテ ロ元素(酸素あるいは窒素)の場合には4+2】環化付加が進行し二環式化合物のみを与え ることがわかった。
この よう に著 者はRh(l)錯体 によ る7員 環形 成反 応及び 環化異性化反応を開発する
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こ と が で き た 。 そ こ で こ れ ら の ニ っ の 環 化 反 応 を 組み 合 わ せ たタ ン デ ム 型環 化 反 応 を 計 画 し た。 す な わ ち、 側 鎖 に ジェ ン を 持 つ4,6‐ ジエ ナ ー ル類とRh(I)錯体 を反応 させる な ら ぱ 、 ま ず ヒ ド ロ ア シ ル 化 反 応 が 進 行 し7員 環 化 合 物 を 与 え 、 っ づ ぃ て7員 環 内 の オ レフイン と側鎖 のジエ ンとの 問で環 化・異 性化反 応が進 行し、一 工程で ビシク口ゆ,3101 デ セ ノ ン 骨 格 を 有 す る 環 状 化 合 物 が 得 ら れ る の で は な い か と 考 え た 。 そ こ で ま ず 、 (4E,6E.IOE,12E)‑15‑フェニーールペンタデカ.4,6,10、12‑テトラぎナールを合成しRh(l)錯体 と の 反 応を 行 っ た とこ ろ 、 . 目的 と するニ環 式化合 物は全 く得ら れず、 .一段 階日の ヒド ロ ア シ ル 化 反 応 の み が 進 行し 生 成 し た7貝環 化 合 物 が66% の 収率 で 得 ら れた 。 そ こ で、
著 者 はThorpe‑Ingold effctを 利J!Hし、 二段階I−の反 応であ る環化 異性化 反応を 促進さ せ る こ と を 考 え 、 側 鎖 の ジ エ ン と4,6. ジ エ ナ ール と の 問 、す な わ ち8位 もし く は9位 に ニ つ の 織 換 基 を 導 入 し た 基 質 を 合 成 す る こ と に した 。 こ れ ら基 質 は い ずれ も ジ エ ン 末 端 に 直 接4級 炭 素 が 結 合 し た 構 造 を 宥 し て ゎ り 、 こ の 部 分 を ど の よ う に 構 築 す る か が合成上火きな問題となった。
― ー 般 に ア リ ル 位 に4級 炭索 を 有 す る化 合 物 は アル キ リ デ ンマ ロ ナ ‐ ト誘 導 体 を 塩基 で 処 理 す る こ と に よ り 生 成 す る ア ニ オ ン の ア ル キ ル化 反 応 に より 合 成 で きる こ と が 知 ら れ て い る 。 一 方 、 ア ル ケ ニ リ デ ン マ ロ ナ ー ト 誘 導体 の 脱 共 役を 伴 う ア ルキ ル 化 反 応 の 報 告 は わ ず か 一 例 し か な い 。 お そ ら く 、 生 成 し た ア ニ オ ン の 負 電 荷 がo他 か らf位 に わ た り 広 く 非 局 往 化 し 、 位 置 及 び 立 体 選 択 的 な アル キ ル 化 反応 の 進 行 が困 難 な た め と 考 え ら れ る 。 そ こ で 著 者はPd錯 体をJ羽 い た ア ルケ ニ リ デ ンマ ロ ナ ー ト誘 導 体 の 脱共 役 を 伴 う ア リ ル 化 反 応 を 試 み る こ と に し た 。 ま ず アル ケ ニ リ デン マ ロ ネ ート 誘 導 体 と ア リ ル ア セ テ ー ト をjHい反 応 条 件 を検 討 し た とこ ろ 、 配 位予 と し てPPh、 、 塩 燕 とし て LHMDSを 用 い 、DMF中 に て 反 応 を ォ :fう と ア リ ル 化 反 応 は 他 臘 及 び 立 体 選 択 的 に 進 行 し 、 望 み と す る カ ッ プ リ ン グ 体 が 高 収 率 で 得 ら れ るこ と が わ かっ た 。 本 反応 は 適 用 範 囲 が 広 く4級 炭 素 に ジ エ ン ま た は ア ル ケ ン が 直 接 結 合 し た マ ロ ナ ー ト 誘 導 体 の 一 般 的 合成法と成り得ることが明らかになった。
そ こ で 、Pd錯 体 に よ る 脱 共 役 を 伴 う ア リ ル 化 反 応 を 利 用 し て9位 に ニ つ の メ チル エ ス テ ル を導 入 し た テト ラ エ ナ ール を 合 成 し、Rh(I冫 錯体 に よるタ ンデム 型環化 反応に つ い て 検 討し た 。lO.mol%Rh(I) 錯 体存在 下、ジク ロロエ タン中 、加熱 還流条 件にて 反応 を 行 っ たと こ ろ 、 ヒド ロ ア シ ル化 反 応 及 び環 化 異 性 化反 応 が 順 次進 行 し 、 二二 環 式 化合 物 が 単 一生 成 物 と して44% の収 率 で 得 られ た 。 こ のよ う にRh(I) 錯体が全 く異な るニつ の 環化反応 を触媒 し、一 工程で 立体化 学が完 全に制 御されたビシクロ【5.3.0]デセノン骨 格 を 構 築 で き た こ と は 非 常 に 興 味 深 い 。 本 タ ン デ ム型 環 化 反 応で 得 ら れ る二 環 式 化 合 物 は セ ス キ テ ル ペ ン 系 天 然 物 の 基 本 骨 格 と 同 一 で ある 。 そ こ で次 に 、 著 者は 本 反 応 の 天 然 物 合成 への 応用を 目指し 、(土) ‐Epig10bulolの合成 を行うこ とにし た。タ ンデム 型 環 化 反 応 で 得 ら れ る 二 環 式 化 合 物 の ケ ト ン 部 位 を 保護 し 、 っ づい て 脱 炭 酸、 加 水 分 解 を 行 い カ ル ボ ン 酸 へ と 変 換 し た 。 得 ら れ た カ ル ボ ン 酸 を り ン 酸 エ ス テ ル ヘ と 導 き 、 B組0n法 に よ り 目 的 と す る 環 化 体 へ と 変 換 し た 。 っ ぎ に 、 二 つ の オ レ フ イ ン を 持 つ環 化 体 の 内 部 オ レ フ イ ン の み を 位 置 選 択 的 に ジ ブ ロ モプ ロ パ ン 化し 、 統 い てジ ブ ロ モ 部 位 の ジ メ チ ル 化 、 オ ゾ ン 分 解 、 脱 カ ル ボ ニ ル 化 反 応を 行 い ケ ター ル 体 を 得た 。 っ づ ぃ て 、 脱 ケタ ー ル 化 を行 い 、 得 られ た 生成物の 機器デ ータは (士) ‐Apoaromadendroneの文 献 値 と 完 全 に 一 致 し た 。 ま た 、 ( 土 ) ―Apoaromadendroneか ら 文献 記 載 の 方法 に 従 い
( 士)―Epi名10bu!ol′ヽの変換を行い、そのものの機器データも文献値と完全に一致し、こ こに(土)‐Epiglobulolの全合成を達成した。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 佐藤美洋 副査 教授 橋本俊一 副査 教授 高橋 保 副査 助教授 中村精一
学 位 論 文 題 名
ローダサイクル中間体を経由する 新規環化反応の開発とその応用
遷移金 属錯体に よって 進行する 反応の 中には,金属を含む環状の中間体、いわゆるメタ ラサイ クル中間 体を経 由して進 行する反 応が数多く知られている.メタラサイクル中間体 は反応 性が高く ,更に 別の化合 物や試薬 を反応させることができるため,様々な環状化合 物の構 築反応と して展 開できる 可能性を 秘めている.このメタラサイクル中間体を経由す る反応のーっとしてRh(I)錯体による4―ペンテナール類の環化反応が挙げられるが,大西 英博君 はこの反 応の途 中で形成 される「 オキソローダサイクル」の反応性に興味を持ち研 究を展開し,以下に示す成果を挙げた,
1. Rh触 媒 に よ る4, 6− ジ ェ ナ ー ル の 新 規 ヒ ド ロ ア シ ル 化 反 応 の 開 発 4,6ージェナール類とRh(I)錯体との反応で生成する6員環ローダサイクル中間体は,7匸―
アリ ル中間体 を経由 して8員環ロー ダサイ クル中間 体との 間で平衡 状態に なる.大西君は この ローダサ イクル 中間体に 着目し ,これら の中間体への多重結合の挿入反応を試みた.
その 結果,こ の中間 体への多 重結合 の挿入反 応は進行せず,当初予想した環化体は全く得 ら れ なか っ た が,8員環ロ ーダサイ クル中間 体から 直接還元 的脱離 が進行し7員環 化合物 が主 生成物と して得 られると ぃう興 味深い反 応を見い だした .この8員環 ローダサイクル 中問 体からの 還元的 脱離によ り,通 常合成が 困難な7員環 化合物が 収率良 く得られるとい う現 象に興味 を持ち 、更に本 反応を 詳細に検 討した,その結果,本反応において基質であ る4,6一ジェナ ールの ジエン部分,特に6位の幾何異性が反応に大きく影響を与えることを 見 い だし た . すな わ ち ,6位 の 幾何 配 置 がEの 基 質 を用 い た 反応 で は8員環Iーダ サイク ル 中 間体 か ら の還元的 脱離が 専ら進行 し7員 環化合 物を生成 するの に対し,6位の 幾何配 置 がZの 場 合 には6員 環ロ ー ダ サイ ク ル 中間 体から の還元的 脱離に より5員環化合 物を与 える ことがわ かった .また, ジェン 末端の置 換基の有無も反応経路に影響を与えることも 明らかにした.
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2.Rh触媒によるトリエンの新規環化異性化反応の開発,
,先に述べた7員環形成反応の研究途上,大西君はRh(I)錯体によって1,3ージェンとオレ フイン との間 で環化異 性化反 応が進行 し,5員環化 合物が生 成する ことを見いだした.こ のようなRh.(I)錯体によるジェン―オレフインの環化異性化反応は,これまで報告されてお らず新 規反応 であるた め,更 に本反応 を詳細に検討した.その結果,本反応においては基 質のア リル位 の元素の 種類が 重要であ り,アリル位が炭素である場合には環化異性化反応 が進行 し5員環問化合物を良い収率で与えるのに対し,ヘテロ元素(酸素あるいは窒素)の 場合には[4十2]環化付加が進行し,二環式化合物を生成することを見い出した,これらの反 応では 共通の ローダサ イクル 中間体を 経由するにも拘わらず,アリル位のへテロ元素の有 無 に よ り 反 応 経 路 が 分 岐 し 全 く 異 な る 生 成 物 を 与 え て お り 大 変 興 味 深 い .
3.(土)−Epiglobulolの合成
大西君は 上述の 通りニつ の新し い反応を 開発したが,更にこれらの環化反応を組み合わ せたタンデム型環化反応を計画した.このタンデム型環化反応を実現させるためには「1,3― ジェン末端に直接四級炭素が結合した4,6−ジェナール構造」を持つ極めて合成が困難な化 合物を合 成する 必要が生 じた.彼 はこの 問題点を,Pd触媒を用いたアルケニリデンマロナ ート誘導 体の脱 共役を伴 うアリル 化反応 を新たに開発することで克服した.この新たに開 発した方法を用いて合成した「ジェン末端に四級炭素を有する4,6―ジェナール誘導体」を 用い,Rh(I)錯体によるタンデム型環化反応について検討を行ったところ,10 mol%Rh (I) 錯体存在 下、ジ クロロエ タン中、 加熱還 流条件にてタンデム型環化反応が進行し,二環式 化合物が 単ー生 成物とし て44%の 収率で 得られた .この タンデム 型環化 反応では立体化学 が完全に制御されたビシクロ[5.3.O]デセノン誘導体が生成するが,この骨格はセスキテル ペン系天 然物の 基本骨格 によく見 られる 構造である.そこで次に,彼は本反応の天然物合 成への応用を目指し,(土)−Epiglobulolの合成を検討した.タンデム型環化反応で得られ た二環式 化合物 のケトン 部位を保 護し, っづぃて脱炭酸,加水分解を行いカルボン酸へと 変換した .得ら れたカル ボン酸を りン酸 エステルヘと導き,Barton法により目的とする環 化体へと 変換し た.更に ,二っの オレフ インを持つ環化体の内部オレフインのみを位置選 択的にジ ブロモ プロパン 化し,続 いてジ ブロモ部位のジメチル化,オゾン分解,脱カルボ ニル化反応,続く脱ケタール化を経て,文献既知の(土)‑Apoaromadendroneへと変換した.
得られた生成物の機器データは(土)‑Apoaromadendroneの文献値と完全に一致した.更に,
(土)−Apoaromadendroneから文献記載の方法に従い(土)−Epiglobulolへの変換にも成功 し,(土)ーEpiglobulolの全合成を達成した。
以上のように大西君は,Rh(I)錯体のヒドロアシル化反応の過程で形成される「オキソロ ーダサイ クル」 の反応性 の検討か ら研究を開始し,ローダサイクル中間体を経由するニつ の新規環化反応(4,6―ジェナールのヒドロアシル化反応,及びトリエンの環化異性化反応)
を開発し ,更に これらの 環化反応 を組み合わせた新規タンデム型環化反応の開発へと研究 を大きく 展開さ せた,ま た,この タンデム型環化反応の基質が合成困難であったため,こ の化合物 を合成 するため にPd触媒 を用いた アルケニ リデン マロナー ト誘導 体の脱共 役を
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伴うアリル化反応を新たに開発した.更に,これらの 自身が開発した四つの反応を巧みに 組み合わせることにより,最終的にセスキテルペン系天然物である(土)‑Epiglobulolの合 成をも達成した.従って,審査委員会は本研究成果が 博士(薬学)の学位を受けるに十分 値する業績であると判断した,
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