博 士 ( 薬 学 ) 牧 野 充 裕
学 位 論 文 題 名
ヒ ト イ ン タ ー フ ェ ロ ン Q に よ る う つ 誘 発 作 用 機 序 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【背 景】
intelIfel‑on (JFN)製剤はウイルス性肝炎や腫瘍の治療に使用されているが、近年、副 作 用と し て 精 神障 害 の 報 告例 が 増 加 して い る 。特に うつ症 状に関 しては自 殺企図 に至っ た重 篤な症例 も報告 され、 社会的 な問題 となっ ている 。興味 深いことに、IFNによる精神症 状 の発 症 報 告 例はIFN‑Q製剤 に よ る もの が 殆 ど であ り 、IFN‑ロ や ッ製 剤 による報 告例は 非 常に 少 な い 。本 研 究は 、lFN製剤 による うつ誘 発作用 に焦点 を充て 、これ ら製剤 間の作 用 の差 異 を 動 物実 験 に お いて 再 現 す るこ と 、 さらに その作 用機序 の解明を 目的と した。
1.うつ誘発活性評価法の確立
マ ウ スや ラ ッ ト の強 制 水 泳 試験 で 認 め られ る無 動状態 は動物 の運動活 性とは 無関係 に生 じること から、 うつの 病態モ デルと 考えら れてい る。本 試験法は 比較的 簡便か つ再現 良く 評価でき るうえ 、自発 運動試 験との 組み合わせにより、抗うつ作用を明確に捉えられる ことから、抗うつ薬のスクリーニング試験として繁用されている。このモデルにおける無動時 間 の短 縮 が 抗 うつ 作 用 を 示す こ と か ら、 無 動 時間 の延長 はうつ 症状の 増悪を 反映す る作 用と 考えられ た。そ こで、 強制水 泳試験 法をう つ症状 の検出 評価系に 応用す ぺく、 繁用さ れているPoi‑soltらの方法を一部改良し、すなわち、訓練試行を実施しないことにより、マウ ス が無 動 状 態 を呈 し に く い評 価 法 を 考案 し た 。こ の評価 法にお いて抗 うつ薬 の作用 は評 価 可能 な う え 、臨 床 に お いて う つ 誘 発作 用 が 報 告さ れ て い る7種 類の 薬 物の 無動時 間の 延長作用を明確に検出できることが明らかとなった。
2.強制水泳試験におけるヒト】FNの作用
マ ウ ス 強制 水 泳 試 験法 の 有 用 性が 確 認 さ れた の で、本 法と自発 運動量 の測定 を組み 合 わせた 評価系 を用い て、ヒ トIFN製剤 のうつ 症状の 誘発f乍 用につい て検討 した。 その結 果、 強制水 泳試験 においてヒトIFNーQの単回投与(6―bo klU/kg,i.v.)は用量依存的な無 動時 間の延 長を示 した。また、単回投与て作用の弱かった6 kILゾkg,i.v.(臨床用量に相 当 ) に おい て も7日 間 連投 に よって統 計学的 に有意 な無動 延長f1三 用を示 すこと が確認 さ れた 。この ことか ら、ヒ ト】FN―nは連投 によってf乍用の蓄積性あるいは高感受性を示す可 能 性 が 示唆 さ れ た . 一 方、 ヒトIFN‑ロおよ びvはい ずれも 無動時間 に殆ど 影響を 及ばさ なかった;;また、ヒトIFNはいずZLもマウスの自発運動量には影響を及ばさなカ ったニとカゝ ら、ヒトl Fl¥'―Qによる無動延長作用;こは運動活性の影響は無いものと判断された。なお、
ラ ット強 制水泳 試験に おいて もマウス の場合 と同様 の結果 が得ら れた。 これら のげっ 歯類 動 物 に おい て 認 め られ た ヒトlFNの作 用は臨 床報告( 発現頻 度はa〉 〉ロ、y)に一 致して い た こ と か ら 、 ヒ ト で 認 め ら れ る う つf乍 用 を 反 映 し て い る も の と 考 え ら れ た . }
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3.強制水泳試験におけるマウスJF.Nの作用
ヒ トlFN―Qお よび口 はとも にJFNーnノ ロ受容 体を介 して作 用を発 現するカ;、aのみが 強制水泳:こおいてj!睦動延長作用を示す。この理由に、ヒトlFN−Q;まロおよびッと比較し て他 種への 交差反 応性か 高いことから、ヒトIFNの手重特異性の相違:こ上る可能性が危倶さ れた 。そこ で、マ ウスlFN(Qノロ、 序およ びッ) を用いて評価した結果、いずれも無動時間 に殆 ど影響 を及ぼ さなか った。従って、ヒトlFNの作用の柏違に種特異性は関与しないこと、
ヒ トlFN−aによ る 無 動 延長 作 用 はlFN−Q/ロ 受 容 体 を介 して いない ことが 確認さ れた。
4.ヒト1FN‑aの作用における中枢opioicl系の関与について
げ っ 歯 類 やヒ ト にお いて、 ヒト1FN‑aに よる精 神症状 の発現 に中枢opioid系の 関与が 示 唆され ている 。そこ で、強制 水泳試 験にお けるヒ トIFN‑Qの 作用にopioicl系が関 与する か否か検討を行った。その結果、ヒト】FN‑aは中枢内投与(50 IU/lleacl,i.cist.)でも無動 延 長 作 用 を示 し 、 こ の作 用 は 非 選択 的 受 容 体拮抗 薬naloxoneに よって 拮抗さ れた。 従っ て 、ヒトIFN‑aは直接 中枢opioicl系に影 響を及 ぼして いるこ とが推察 された 。また 、ヒト IFN‑Qに よ る 作 用は6お よ びK受 容 体 拮抗 薬(naltrindoleお よ びnor‑BNI)で は 拮 抗 され ず 、凵お よび〃1受容体 拮抗薬 (ロ一FNAおよびnaloxonazine)に よって 拮抗さ れた。従っ て 、 ヒ トIFN‑Qに よ る マ ウ ス 無 動 時 間 の 延 長 作 用 に は 中 枢opioidU受容 体 、 特 にp1受 容 体が関 与して いることが明らかとなった。さらに、ヒトIFN‑Q(60 klU/kg,J.V.)はマウス tail‑pl‑essure法に おいて鎮 痛活性 を示したことから、ヒトIFNーQはopioid受容体作動活性 を 有 す る こと が 確 認 され た 。 な お、JFN‑ロ お よびッ は鎮痛 活性を示 さなか った。 また、
opioid作動薬であるJuorphine(Img/kg,sに)はヒトIFNーQ(60 klU/kg,I.V.)とほぼ同等の 無 動 延 長 作 用 お よび 鎮 痛 活 性を 示 す こ と、 両 薬 物 の作 用 は い ずれ もul受容 体 拮 抗 薬に より拮抗されたことから、ヒトIFN‑Qおよびmorphil・leによるこれらの作用には共通のメカニ ズ ムの関 与する ものと考えられた。さらに、ラット視床/視床下部膜標本を用いたin vitro受 容 体 結 合 実験 に お い て、 ヒ ト 】FN‑aは[3H]―DAMGO(opioid〃受 容体作 動薬) の結合 を 阻 害 し た が、IFN‑ロ お よ びvは いず れ も 阻 害し な い こ とか ら 、 ヒ トJFN‑Qはopioidp受容 体に対して直接結合活性を有することが明らかとなった。
5.強制水泳時のマウス脳内川onoalnirie動態
マウス 強制水 泳試験 では、 水泳開始3ー↓分 後より 無動を 呈する 動物が 現れ、6分後で は殆どが 無動状 態とな る。そ の際、脳内lilolioainilleの代謝はいずれも水泳開始前に比ぺ て 亢 進 すろ 。 ヒ トIFN‑Q投 与 では 、 水 泳 開始6分後 に お い て対 照 群 と の問 に 差 は 殆ど 認 められなかったが、無動状態が引き起こされる開始2分後ではllol'epineplll丶ine(NE)およ びdopaiiiilie(D:¥)の代 謝は亢 進して いた。opioicl系は特にDA神経機能と関連性の高い こと、うつ症状の成因にiiloiioaIlIIne神経機能の低下が関与していることを考慮すると、ヒト IFN‑nはopioid系 を 介 し てNEお よ びDA代 謝 を 過 剰 に 亢 進 さ せ た 結 果 、 ニ れ ら 神 経 機 能の低下 をもた らし、 結果と して対 照群よ り早い 時点( 水泳開始2分後)から無動状態を引 き起こした可能性が考えられた。
【結 論】
Poilsoli原 法 を 改 良し た マ ウ ス強 制 水 泳試 験法と 自発運 動試験 を組み合 わせた うつ 誘発f1ミ用の 検出評価系において、ヒトlFべ‑aは無動延長f乍用を引き起こすニとを明らかと した 。その メカニ ズムと して、ヒ トlFNーQは中枢opioicl〃受容r本の刺激を介してNEおよび D;A代 謝の 過 剰 亢 進を 引き 起こし た結果 、ニ2Lら の神経 機能の 低下をも たらし 、強制 水泳 試 験 にお い て 無 動延 長 作 用 を示 す も の と推 察 きれた 。本評 価で認 められ たヒトlFN−Qの 作用 は臨床 におけ るうつ 症状を反 映しているものと考えられ、本研究はヒトJF‑N‑Dによるう つ誘 発症状 の作用 機序解 明の一端 を担っ ている ものと 考える 。
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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主 査 教 授 長 澤 滋 治 副 査 教 授 野 村 靖 幸 副査 助 教授 高橋和彦 副査 助 教授 大熊康修
学 位 論 文 題 名
ヒ ト イ ン タ ー フ ェ ロ ン Q に よ る う つ 誘 発 作 用 機序 に 関す る研 究
近 年 、 ウ イ ル ス 性 肝 炎 や 腫 瘍 の 治 療 に イ ン タ ー フ ェ ロ ン (IFN)製 剤が 用い られているが、 その副作用として精神障害の報告例が増加している。特にうつ様症状 に関しては自殺 企図に至った重篤な症例も報告され、社会的な問題となりつっある。
IFNに はa、pお よ ぴ ァ の3つ の タ イ ブ が ある が、 興味 深い こと に、IFNに よる 精神 症 状の 発症 報告 例はIFN‑a製剤 によ るも のが 殆ど であ り、IFN‑,8やァ製剤による報 告例は非常に少 ない。
申 請 者 は 、IFN製 剤 に よ る う つ 誘 発作 用に 焦点 を充 て、 これ ら 製剤 間の 作用 の 差異 を動 物実 験に おい て再 現 する ことを解明することを試みた。薬物に起因した うつ症状を動物 で検出しうる試験系は殆ど報告されていなかった。マウスやラットの 強 制水 泳試 験に おい て認 めら れ る無 動状態は動物の運動活性とは無関係に生じるこ とから、うつの 病態モデルと考えられている。そこで、強制水泳試験法をうつ症状の 検出評価系に応 用すべく、マウスが無動状態を呈しにくい評価法を考案した。このマ ウ ス強 制水 泳試 験法 用い 既存 薬 物に よる抗うつ作用およぴうつ誘発作用の検出を試 みた。その結果 、本評価法においても抗うつ薬の作用は評価可能なこと、うつ誘発作 用 の臨 床報 告が ある 薬物 の無 動 時間 延長作用を明確に検出できることが明らかとな った。
そ こ で 、 ヒ トIFNー ロ 、pお よ びy製 剤 の う つ 症 状 の 誘 発 作 用 に つ い て 検 討 し た。 その 結果 、ヒ トIFN‑aの 単回 投与(6―60 KIU/kg)は用量依存的な無動時間の 延 長を 示し 、60 KIU/kgでは統計学 的な有意差が認められた。また、単回投与で作用 の 弱か った 低用量(6 KIU/kg、臨床用量に相当)の7日間連投によっては統計学的に 有 意な 無動 時間 の延 長作 用が 認 めら れた 。一 方、 ヒトIFN‑pおよびァはいずれも無 動 時間 に殆 ど影響を及ぼさなかった。これらげっ歯類に認めら れたIFNの作用は臨床
報告(発現頻度はa 〉〉p 、Y )に一致していたことから、ヒトで認められるうつ作用 を反映しているものと考えられた。
次 に、強制 水泳試験で認められたヒトIFN‑a の作用におけるオピオイド系の 関与について、各種オピオイド受容体拮抗薬を用いて拮抗試験を行った。その結果、
非選択的受容体拈抗薬 naloxone によってヒトIFN‑a の作用は拮抗され、中枢移行性 の低い na.loxone methiodide では拮抗されなかった。したがって、ヒトIFN ーa によ る無動時間の延長作用には中枢オピオイド系の関与している可能性が示唆された。オ ピオイド受容体には 6 、だおよぴルの3 つのサブタイプが存在することから、ヒト IFN‑d による作用の特異性について選択的受容体拮抗薬を用いて精査した。その結果、
肛受容体拮抗薬およぴ彫1 受容体拮抗薬により拮抗された。したがって、ヒトIFN ― a によるマウス無動時間の延長作用には中枢オピオイドル受容体、特にル1 受容体が 関与していることが明らかとなった。
次にヒトIFN ーロのオピオイド作動薬としての鎮痛活性について検討した。ヒ ト IFN‑a ( 6 ー 60 KIU/kg) はマウスにおいて弱いながら用量依存的な鎮痛活性を示し た。したがって、ヒト IFN‑a はオヒオイド受容体作動活性を有することが確認され た。オピオイド作動薬であるmorphine も軽微ながら、統計学的に有意な鎮痛作用を 示す用量(Img/kg) においてマウス強制水泳試験における無動時間を延長させること ことから、両薬物によるこれらの作用には共通の作用機序が関与しているものと考え られた。ラット組織膜標本を用いたin vitro 受容体結合実験において、ヒトIFN‑a は オピオイ ド肛受容 体に対して 直接結合 活性を有することが明らかとなった。
ヒ トIFN‑a 投与で は、水泳 開始 6 分後に おいて対照群との間に差は殆ど認め られなかったが、無動状態が弓I き起こされる水泳開始2 分後ではノルエピネフリンお よぴドバミンの代謝回転の亢進が認められた。ヒトIFN‑a はオピオイド系を介して カテコールアミン代謝を過剰に亢進させ、結果として対照群より早い時点(水泳開始 2 分後)から無動状態を弓 f き起こした可能性が考えられた。 以上の結果からヒト IFN‑a は中枢オピオイドル 1 受容体の刺激を介してカテコールアミン代謝の過剰亢 進を弓I き起こし、その結果、カテコールアミン神経機能の低下をもたらし、強制水泳 試験における無動時間の延長作用を示すものと考える。
上 記の研究 成果は、 ヒトIFNa による うつ誘発作用に関する研究領域におい て 重要な知 見であり 、博士(薬 学)の学 位を受けるに値する業績と評価した。
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