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第 6 章 第一原理計算に基づく Kataura plot 96

6.3 optimized Kataura plot についての考察

6.3. optimized Kataura plot

についての考察

103

0.5 1 1.5

−0.1 0 0.1

Tube diameter [nm]

Error from PL experiment [eV] ES11

ES22

Bachilo et al.

Lebedkin et al.

Fig. 6.7: Error of optimized Kataura plot from photoluminescence experiments.

6.3.2 optimized Kataura plot

と完全な

1

電子系

optimized Kataura plot

Schr¨odinger

方程式を厳密に解いて求めたプロットではなく,

GW

近似と

tight-binding

近似という近似計算を行って求めたプロットであり,

Schr¨odinger

方程 式を厳密に解いた

1

電子系の状態からのずれが存在する.

tight-binding

近似は第一原理計算ではなく経験的パラメタを含めた近似であり,経験的パ

ラメタを何にフィットさせたかでその大まかな特性が決定する.

optimzed Kataura plot

作 成に用いた

Hamada tight-binding

では結果が局所密度近似

(Local Density Approximation, LDA)

を取り入れた密度汎関数理論による電子状態計算に適合するようパラメタフィッティン グしている.

LDA

はバンドギャップを小さく評価してしまうことが知られているが,この原 因は,密度汎関数理論が基本的に基底状態に関する理論であり,局所的な遮蔽の効果が計算 に入っていないためであると考えられる

[28]

GW

近似は前述の通り,準粒子状態をきちんと考慮し局所的な遮蔽効果を計算に入れて一 粒子グリーン関数を求めることで,密度汎関数理論の弱点を克服している.

GW

近似の計算 結果は

LDA

とは違ってバンドギャップの評価という点においても非常に信頼できるものであ ることが確かめられている

[63]

.それゆえ,

GW

近似のグラフェンのエネルギーバンドは

1

電子状態のグラフェンをほぼ完全に再現していると考えられる.

以上より,

GW

近似のグラフェンのエネルギーバンドはほぼ完全な一粒子状態(準粒子状 態)を再現していると考えられるが,

tight-binding

近似は

GW

近似のような電子

-

電子相互 作用は考慮していない.それらの足し合わせである

Kataura plot

は,グラフェンでの遮蔽 効果は考慮しているものの

SWNT

での遮蔽効果は考慮していない,と考えられる.しかし,

Eq. (6.3)

における,

zone-folding tight-binding

SWNT direct tight-binding

のギャップ値 の差

∆E

T Bii

zone-folding GW

のギャップ値

E

iiGW に比べて小さいため,

SWNT

での遮蔽効 果を考慮できていないことに対する誤差は極めて小さいと考えられる.

6.3. optimized Kataura plot

についての考察

104 6.3.3 exciton

効果による励起エネルギーの変化

− − −

− − − − +

!"#

Fig. 6.8: Exciton

実験で測定される励起エネルギーは,

1

子状態で計算された

価電子帯

伝導帯

の エネルギーギャップとは異なる値となる.こ れは

1

電子状態が電子の励起に相当する状態 を考慮していないことに起因し,励起エネル ギーを求めるには励起状態を考慮した多体問 題を解かなければならない.ここではその影 響について考察する.

optimized Kataura plot

の実験値からのず れの最大の要因は

exciton

効果であると考え られる.

Fig. 6.8

1

電子状態のバンドギャッ

プと

exciton

を考慮した励起エネルギーの違

いを示す.電子が励起されたとき,励起前の エネルギー準位にはあるべき電子がいない状

態,すなわちホールが形成させた状態となる.一方,励起後のエネルギー準位には励起された 電子がいる状態となる.

exciton

とは電子とホールの対を指す.励起された電子と正の電荷を 持つホールとの間には引力が働くため電子は完全な励起状態に遷移できず,電子はホールと 互いに束縛しあう状態になる.

1

電子状態で計算される伝導帯の準位は

exciton

を考慮してい ない状態であり,したがって固体全体に拡がる波動関数で表現されるので,ホールに束縛さ れる実際の励起状態とは異なった波動関数である.

exciton

を考慮するためには,電子とホー ルを考慮したニ粒子グリーン関数を取り扱う必要があり.その具体的な解は

Bethe-Salpeter

方程式を解くことで得られる

[57]

GW

近似も

tight-binding

近似も

exciton

の影響を考慮しない計算手法であるので,

optimized Kataura plot

exciton

の効果を考慮していない,

1

電子状態を計算した結果である.

1

電子

状態と

exciton

を考慮した状態では,以下の効果により励起エネルギーがずれることが分かっ

ている

[56]

電子とホールの相互作用により,励起後の電子のエネルギーが変化する効果

励起状態の電子とホールが発生することによる多体効果

前者は

“exciton binging energy”

と呼ばれ,励起エネルギーを下げる効果である.また後者は

“renormalization”

と呼ばれ,励起エネルギーを上げる効果である.

exciton binding energy

renormalization

2

つの効果はほとんど打ち消しあうが,完全に打ち消されることはな

く,励起エネルギーが数十

meV

程度変化することが知られている

[56]

構造最適化や曲率の影響を

zone-folding GW Kataura plot

に適用したように,

exciton

の影響 を定量的に評価して

optimized Kataura plot

にその効果を適用することができれば,

optimized Kataura plot

は実験とさらに良い一致を見るはずである.しかし現段階では,

exciton

は系統 的には研究されておらず,特に

“renormalization”

については,

exciton

による励起エネルギー の変化に影響を与える要因すら解明されていない.それゆえ,

exciton

による効果を

optimized

Kataura plot

に適用することは,現状では不可能である.