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第 7 章 結論 108

B.4 各原子にかかる力の導出

B.4.2 電子のポテンシャルエネルギーとその微分

ここでは電子のポテンシャルエネルギー

E

bsの勾配

−∇

α

E

bsを求める.

Eq. (B.5)

に示した

Schr¨odinger

方程式を解くと,

N

原子系でユニットセル内に

4N

個の電子が存在しているこ

とから,エネルギー準位と波動関数は

4N

個だけ得られることになる.

Schr¨odinger

方程式を解いて得られる

4N

個のエネルギー準位を

E

1

, E

2

, · · · , E

4Nとし,

4N

個の波動関数をそれぞれ

C

1

, C

2

, · · · , C

4N とする.

n

番目の波動関数

C

nについてはその成分 を,

Eq. (B.10)

Eq. (B.11)

と同様に,

C

n

=

t

[C

1n

, C

2n

, · · · , C

Nn

] =

t

[c

n11

, c

n12

, · · · , c

nN4

] (B.74) C

αn

=

t

[c

nα1

, c

nα2

, c

nα3

, c

nα4

] (B.75)

と定義する.また

n

番目の波動関数を

Ψ

n

(r)

とすると,原子

α

i

番目の原子軌道

ψ

αi

(r)

の 線形結合として,

Ψ

n

(r) = X

N

α=1

c

nαi

ψ

αin

(r) (B.76)

と表すことができる.

B.4.

各原子にかかる力の導出

131 a)

電子のポテンシャルエネルギー

Schr¨odinger

方程式

HΨ =

を解くと,

N

原子系でユニットセル内に

4N

個の電子が存在 していることから,エネルギー準位は

4N

個だけ得られることになる.これらを

E

1

, · · · , E

4N とする.このとき,電子のポテンシャルエネルギーの合計

E

bs

E

bs

= X

4N

n=1

2f

F D

(E

n

, T )E

n

(B.77)

と記述することができる.ここで

f

F D

(E

n

, T )

Fermi-Dirac

分布である.また,係数の

2

1

つのエネルギー準位にスピンを考慮して

2

つまで電子を入れることができるという,パウ リの原理によるものである.

Fermi-Dirac

分布は以下の式で定義される.

f

F D

(E, T ) = 1 exp

µ E ²

F

k

B

T

¶ + 1

(B.78)

上式はエネルギー

E

の準位を占有する電子数の期待値であり,電子がパウリの原理を満たす フェルミ分布に従うという要請に基づいて導出された分布関数である

[8]

²

F はフェルミ準位

(フェルミエネルギー)と呼ばれている.

T = 0 K

では,

f

F D

(E, T ) =

( 1 (E < ²

F

)

0 (E > ²

F

) (B.79)

となる.

0 K

ではフェルミ準位以下のエネルギーを持つ電子軌道は完全に満たされ,フェル ミ準位以上の電子軌道は完全に空の状態となる.フェルミエネルギー

²

F を変換式

²

F

= k

B

T

F

(B.80)

により温度に換算した

T

F はフェルミ温度と呼ばれる.フェルミ温度

T

F は通常の金属で

10

4

10

5程度にもなり,室温よりはるかに高い.それゆえ,室温

T (≤ 0.01T

F

)

程度では,

T=0

の分布とほぼ同じ形になる.

Fig. B.1

T = 0

T = 0.01T

F における

Fermi-Dirac

分布を 示す.

0 0.5 1

εF E

fFD(E)

T = 0TF

0 0.5 1

εF E

fFD(E)

T = 0.01TF

Fig. B.1: Fermi-Dirac distribution at T = 0 and T = 0.01T

F

本章にて説明する

tight-binding

分子動力学では

Fermi-Dirac

分布として,常に

T = 0

の分 布を使用すると仮定する.

Fig. B.1

に示した通り,有限温度として室温程度の分布を考えたと き,その

Fermi-Dirac

分布は

T = 0

の分布とほぼ同じになるからである.

Eq. (B.79)

の仮定により,電子のポテンシャルエネルギー

Eq. (B.77)

の和は,フェルミ準 位

²

F 以下のエネルギー準位のみについて取ればよいことになる.

B.4.

各原子にかかる力の導出

132 b) Hellman-Feynman

の定理

電子のあるエネルギー準位

E

nは,基底状態の電子の波動関数

Ψ

nを用いると,以下の通り に表すことができる.

E

n

=

n

|H|Ψ

n

i (B.81)

R

αに関する勾配

αは以下の通りに求められる

[71]

−∇

α

E

n

= −∇

α

n

|H|Ψ

n

i

= h(∇

α

Ψ

n

)|H|Ψ

n

i +

n

|(∇

α

H)|Ψ

n

i +

n

|H|(∇

α

Ψ

n

)i (B.82)

ここで,ハミルトニアンのエルミート性を考慮すると,

Ψ

H = (HΨ)

=

(B.83)

となるので,

Eq. (B.82)

の第

1

項と第

3

項の和は,

h(∇

α

Ψ

n

)|H|Ψ

n

i +

n

|H|(∇

α

Ψ

n

)i

= Z

{∇

α

n

)

}HΨ

n

dr + Z

n

)

H(∇

α

Ψ

n

)dr

= E

Z

{∇

α

n

)

n

dr + E Z

n

)

(∇

α

Ψ

n

)dr

= E∇

α

n

n

i (B.84)

と変形できる.固有状態では固有関数が

1

に規格化されているため

h(Ψ

n

)

n

i = 1

であり,

α

n

n

i = 0 (B.85)

が成立する.ゆえ

Eq. (B.82)

は,

−∇

α

E

n

= −hΨ

n

|∇

α

H|Ψ

n

i (B.86)

と求められる.以上より,

Hellman-Feynman

の定理を適用することで,ハミルトニアンの 勾配

α

H

を用いると電子のポテンシャルエネルギーの微分

−∇

α

E

bsを求められることが分 かった.

B.4.

各原子にかかる力の導出

133 c)

ハミルトニアンの勾配

ハミルトニアン行列を微分する.

Eq. (B.8)

より,

α

H =

 

α

H

11

· · ·

α

H

1N

.. . . .. .. .

α

H

N1

· · · ∇

α

H

N N

 

 (B.87)

となるが,

αは原子

α

の座標

(x

α

, y

α

, z

α

)

の変化に対してプロットされる.それゆえ,原子

β

と原子

γ

についてのクーロン積分行列要素

α

H

βγ は,

β, γ 6= α

である要素は全て値を持 たない.ゆえに上式右辺の行列のうち,値を持つ成分は

α

行成分と

α

列成分のみ,すなわち

α

H

βα

,

α

H

αγ成分のみである.

α

H

βα

Eq. (B.9)

より,

α

H

βα

=

 

α

h

11

(R

βα

) · · · ∇

α

h

14

(R

βα

) .. . . .. .. .

α

h

41

(R

βα

) · · · ∇

α

h

44

(R

βα

)

 

 (B.88)

と求められる.各要素の勾配の具体的な計算式は第

B.3.3

節で述べた通りである.また

α

H

αγ も同様にして求めることができる.

これを用いて

−∇

α

E

bsを計算する.

Eq. (B.77)

より,

−∇

α

E

bs

= X

4N

n=1

2f

F D

(E

n

, T )∇

α

E

n

=

X

4N

n=1

2f

F D

(E

n

, T )hΨ

n

|∇

α

H|Ψ

n

i (B.89)

と求められる.

n

番目の電子軌道

Ψ

nに対する

n

|∇

α

H|ψ

n

i

は,

n

|∇

α

H|ψ

n

i = X

N

β,γ=1

t

C

βn

α

H

βγ

C

γn

= X

N

β=1

³

t

C

αn

α

H

αβ

C

βn

+

t

C

βn

α

H

βα

C

αn

´ (B.90)

と,

α

行成分と

α

列成分のみの和になる.なお,

(α, α)

成分t

C

αn

α

H

αα

C

αn

2

回加算されて いるが,これは以下の理由により問題は生じない.すなわち,同じ原子同士のクーロン積分 行列

H

ααは,相対位置

R

ααが常に不変で

0

になるので,

α

H

ααの全成分の勾配が

0

になる のである.

Eq. (B.90)

2

つの項は,

H

が対称行列であること,すなわちt

H

βα

= H

αβであることを 用いると,

t

C

αn

α

H

αβ

C

βn

=

t

C

βn

α

H

βα

C

αn

(B.91)

となるので,

Eq. (B.90)

は以下の通りに計算できる.

n

|∇

α

H|ψ

n

i = 2 X

N

β=1

t

C

βn

α

H

βα

C

αn

= 2 X

N

β=1

X

4

i,j=1

c

nβi

c

nαj

α

h

ij

(R

βα

) (B.92)

B.4.

各原子にかかる力の導出

134

これを

Eq. (B.89)

に代入すると,

−∇

α

E

bs

= X

4N

n=1

2f

F D

(E

n

, T ) X

N

β,γ=1

t

C

βn

α

H

βγ

C

γn

=

X

4N

n=1

2f

F D

(E

n

, T ) X

N

β=1

X

4

i,j=1

c

nβi

c

nαj

α

h

ij

(R

βα

) (B.93)

という式が得られる.この式が電子のポテンシャルエネルギーの微分式である.

135

付 録 C tight-binding 近似計算プログラム

tight-binding

近似を用いた計算プログラムを添付する.添付のプログラムは以下の

2

つで

ある.

1. Hamada tight-binding [38]

による

SWNT

エネルギーバンド計算プログラム

2. Xu tight-binding [66]

による量子分子動力学計算プログラム

なお,どちらのプログラムも

Fortran 90

によって記述されており,実行の際には固有値問題 を解くためのソルバー関数が必要である.ソルバー関数は

Lapack

ライブラリの関数と

IMSL

数値計算ライブラリの関数が実装されている.プログラム中のコメントに従ってプログラム を改変して使用する必要がある.