第 4 章 SWNT 構造最適化の考察 55
4.2 Brenner ポテンシャルによる構造最適化
4.2.1 計算結果
Brenner
ポテンシャルを用いて最適化した,グラフェンのボンド長はa c-c = 1 .4195[˚ A]
で あった.ゆえに,Eq. (2.21)
〜Eq. (2.23)
にa c-c = 1 .4195[˚ A]
を代入して計算されるベクトルa
1, a
2, a
Bを用いることで,グラフェンの最適化構造を再現することができる.グラフェンの最適化構造におけるベクトル
a
1, a
2, a
BをEq. (2.27)
〜Eq. (2.29)
に代入する ことで,SWNT
の最適化構造に近い構造を再現することができる(
以下,これをシリンダー 構造と呼ぶ)
.しかし,実際のSWNT
の構造最適化は曲率の影響によって,シリンダー構造 から微妙に変形する.a)
過去の研究との比較Fig. 4.2
に,Brenner
ポテンシャルを用いたSWNT
の半径,カイラル角,並進ベクトルの構 造最適化の結果を表す.最適化計算は直径が3.9 ˚ A
から30 ˚ A
の全てのSWNT
について行わ れている.また,全てのグラフは最適化構造のシリンダー構造からの変化量で表されている.SWNT
半径の変化量∆R
のグラフにおいて,全てのSWNT
は半径が大きくなっているこ とが分かる.このことは,グラフェンのシートを丸めた際に生じる歪みを半径を大きくするこ とで軽減しようとしている,と考えれば妥当な結果である.また,半径の変化量∆R
の点列 に一定のパターンを見ることができる.これは最適化計算が上手く収束しているために,カ イラル指数間の関係が表れたものであると考えられる.SWNT
並進ベクトルの長さの変化量∆T
はほとんどが正の値であることから,構造最適化 によりほとんどのSWNT
が軸方向に伸びることが分かる.しかし一部のSWNT
では軸方向 に縮むものもある.∆T
は∆R
と違い,分布に規則性を見ることができない.これは,並進 ベクトルの計算式Eq. (1.5)
にカイラル指数のn
とm
の最大公約数であるd
Rが入っているた め,もとの長さT
自体が直径に比例していないことが原因であると考えられる.SWNT
のカイラル角の変化量∆θ
は全てがゼロか負の値である.ここでカイラル角の変化 がないのはカイラル指数(n, 0)
で表されるzigzag SWNT
であるが,その原因はカイラル角の 求め方に起因すると考えられる.カイラル角はカイラルベクトルC
hと基本格子ベクトルa
1 のなす角であるが,zigzag SWNT
ではカイラルベクトルC
hがa
1の整数倍になる.そのた め,どのような構造になっても常に0
◦であり,カイラル角の変化量は常に0
となるのである.Fig. 4.1(a)
のPopov
によるtight-binding
近似の構造最適化の結果はBrenner
ポテンシャ ルにより計算された結果とは大きく異なり,∆T
が全て0
か負の値であり,また∆θ
は傾向が 似ているものの大きさがかなり異なる(
ただしFig. 4.1(a)
において∆θ = 0
◦の点がないのは,単純に
∆θ
だけzigzag SWNT
の結果がプロットされていないだけである)
.古典的なBrenner
4.2. Brenner
ポテンシャルによる構造最適化59
ポテンシャルと量子計算であるtight-binding
近似の違いを考慮すると,これらの差異はある 程度許容できるものであるが,ボンド長などの細かい構造が全く異なった傾向を示している 可能性も示唆している.いずれにせよ,Fig. 4.2
とFig. 4.1 (a)
の比較のみではBrenner
ポテ ンシャルの是非を議論することは不可能である.それゆえ,Brenner
ポテンシャルによる構 造最適化の考察をさらに進める.0 0.02 0.04 0.06 0.08
0 0.1 0.2
5 10 15
−0.006
−0.004
−0.002 0
Radius [Å]
∆ R [Å] ∆ T[Å] ∆θ [rad]
Fig. 4.2: Difference of radius ∆R, length of translation vector ∆T , chiral angle ∆θ between
cylindrical structure and optimized structure. It is calculated with Brenner potential.
4.2. Brenner
ポテンシャルによる構造最適化60 b)
ボンド長の変化の結果Fig. 4.3
にSWNT
の3
種類のボンドの長さの変化の割合ξ
nの,SWNT
直径に対する分布 を示す.ξ
nはSWNT
のボンド長r
n,
グラフェンのボンド長r
Gを用いて以下の式により計算 した.また,n = 1, 2, 3
はそれぞれFig. 4.4
の図に対応し,ξ
1がSWNT
軸方向に一番近いボ ンド,ξ
3がSWNT
円周方向に一番近いボンドを表している.ξ
n= r
n− r
Gr
G(n = 1, 2, 3) (4.1)
1 2 3
0 0.005 0.01 0.015
Tube diameter [nm]
Change ratio of bond length [−]
ξ1
ξ2
ξ3
Fig. 4.3: Change of bond length ξ
ncalculated with Brenner potential.
Fig. 4.4: The relation of the subscripts n = 1, 2, 3 of ξ
nand the direction of each bond.
4.2. Brenner
ポテンシャルによる構造最適化61 SWNT
ボンド長のグラフェンからの変化はFig. 4.1(b)
に示す通り,1/d
t2の直径依存性が ある.そこでξ
n× d
t2を計算し,カイラル角に対してプロットしたものをFig. 4.5 (a)
に示す.図において,
3
本のラインができていることからξ
nには強い1/d
t2依存性があることが分か り,ξ
n> 0
であることから3
つのボンド全てがグラフェンより伸びていることが分かる.(a) (b)
0 10 20 30
0.001 0.002
Chiral angle [deg]
ξn × dt2 [nm2 ]
ξ1 ξ2
ξ3
0 30 60 90
0.001 0.002
Angle from translation vector [deg]
ξn × dt2 [nm2 ]
ξ1
ξ2
ξ3
Fig. 4.5: Change of bond length ξ
nplotted against (a) chiral angle and (b) angle from translation vector. Each ξ
nis calculated with Brenner potential.
Fig. 4.5(a)
におけるξ
n× d
t2の3
つのラインは1
本に繋がっているように見える.それゆえ
Fig. 4.5(b)
に示す通り,3
つのラインを1
つに展開することを考える.このとき,横軸はSWNT
の軸方向と各ボンドとのなす角度θ
nであるとすればよい.このときθ
nとカイラル角θ
chはFig. 4.4
より以下の関係があることが分かる.θ
1= θ
ch, θ
2= 60
◦− θ
ch, θ
3= 60
◦+ θ
chFig. 4.5(b)
によると,SWNT
では円周方向に近いボンドほど伸びが大きいことが分かる.4.2. Brenner
ポテンシャルによる構造最適化62
ドキュメント内
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(ページ 58-62)