第 2 章 SWNT 電子状態の計算 19
3.2 分子軌道法による SWNT 構造の解析
3.2.2 分子軌道法と SWNT
ここでは炭素原子における分子軌道法の一般論,特に
sp
n混成軌道についてまず説明し,そ の後SWNT
におけるsp
混成軌道についての計算を行う.a)
混成軌道炭素原子の原子価は
4
価であることは経験的に知られている.さらにメタンCH
4に見られ る通り,炭素原子の4
個の結合軌道は全て等価なものである.しかし,炭素原子の最外殻の 電子配置を考えると,例えば(2s)
2(2p
x)(2p
y)
である.これは不対電子が2
個あることを意味 し,それゆえ炭素の価電子は2
個となってしまう.これは炭素は4
価であるという経験的事 実と一致しない.そこで
Pauling
らにより混成軌道の考え方が提唱された.炭素原子の結合に関与する軌道関数
ψ
Cを,2s
軌道関数ψ
2sと2p
軌道関数ψ
2pとの線形結合によって以下の通りに表される とした[22]
.ψ
C= N (ψ
2s+ αψ
2p) (3.20)
ここで
N
は規格化定数,α
は波動関数ψ
2pの係数である.混成軌道ψ
Cの電子密度は|ψ
C|
2= |N (ψ
2s+ αψ
2p)|
2= N
2(|ψ
2s|
2+ α
2|ψ
2p|
2) (3.21)
で与えられる.この混成軌道の2s
軌道と2p
軌道の電子密度比が1 : α
2であることから,パ ラメタc
sを以下の通りに定義する.c
s= 1
1 + α
2(3.22)
これは混成軌道の
s
性と呼ばれており,混成軌道中のs
軌道の度合いを表している.混成軌道の考え方によって,結合の方向性や強度などの事実が巧みに説明された.
3.2.
分子軌道法によるSWNT
構造の解析49 b) sp
2, sp
3混成軌道炭素原子は物質によって
sp, sp
2, sp
3の三種類の混成軌道を生成することが知られている.ここでは
sp
2, sp
3混成軌道のみを簡単に説明する.sp
3混成軌道 例えば,ダイヤモンド構造であれば,炭素原子の2s
軌道ψ
2sと3
つの2p
軌 道(ψ
2px, ψ
2py, ψ
2pz)
の4
つが混成し,sp
3混成軌道を成す.sp
3混成軌道ψ
1〜ψ
4は以下の通 りに書き表すことができる.ψ
1= 1
2 ψ
2s+ 1
2 ψ
2px+ 1
2 ψ
2py+ 1
2 ψ
2pz(3.23)
ψ
2= 1
2 ψ
2s+ 1
2 ψ
2px− 1
2 ψ
2py− 1
2 ψ
2pz(3.24)
ψ
3= 1
2 ψ
2s− 1
2 ψ
2px+ 1
2 ψ
2py− 1
2 ψ
2pz(3.25)
ψ
4= 1
2 ψ
2s− 1
2 ψ
2px− 1
2 ψ
2py+ 1
2 ψ
2pz(3.26)
これらの関数が規格化直交性
< ψ
i|ψ
j>= δ
ij(3.27)
を満たしていることは,もとの
2s, 2p
軌道が規格化直交性を満たしていることを用いれば説 明できる[23]
.また,sp
3混成軌道におけるs
性は0.25
であることがわかる.sp
3混成軌道の 様子をFig. 3.2(a)
に示す.sp
2混成軌道 グラフェンにおける炭素原子には,炭素原子の2s
軌道ψ
2sと2
つの2p
軌道ψ
2px, ψ
2pyが混成したsp
2混成軌道と2p
z軌道が存在する.sp
2混成軌道ψ
1〜ψ
3は以下の通 りに書き表すことができる.ψ
1= r 1
3 ψ
2s+ r 2
3 ψ
2px(3.28)
ψ
2= r 1
3 ψ
2s− r 1
6 ψ
2px+ r 1
2 ψ
2py(3.29)
ψ
3= r 1
3 ψ
2s− r 1
6 ψ
2px− r 1
2 ψ
2py(3.30)
sp
2混成軌道もsp
3混成軌道と同様,規格化直交性Eq. (3.27)
を満たし,s
性は0.33
である.sp
2混成軌道の様子をFig. 3.2(b)
に示す.図中の赤色で示した軌道は2p
z軌道である.(a) (b)
Fig. 3.2: (a) sp
3hybrid orbital and (b) sp
2hybrid orbital.
3.2.
分子軌道法によるSWNT
構造の解析50 c) SWNT
における混成軌道グラファイトにおける炭素の電子軌道は
sp
2混成軌道を形成しており,ある面内にσ
結合 をするsp
2混成軌道が存在し,π
結合をする2p
軌道,すなわちπ
軌道がそれに垂直に存在す る.ここでsp
2混成軌道とπ
軌道は直交しているためにσ
電子とπ
電子の重なり積分は0
に なる.しかし,SWNT
はその曲率のため,各炭素原子から最近接までの炭素原子までの3
つ のボンドは同一平面内にはない.それゆえ,SWNT
における混成軌道はsp
2混成軌道とsp
3 混成軌道の中間の軌道となり,σ
電子とπ
電子の2
つの軌道が重なりを持つ.これはπ-σ
再 混成と呼ばれる[24, 25]
.ここでは再混成後のSWNT
混成軌道について計算する.再混成前の
π
軌道にあたる軌道(
以下,この軌道を再混成π
軌道と呼ぶ)
をψ
π0,再混成前のsp
2混成軌道にあたる軌道(
以下,この軌道を再混成σ
軌道と呼ぶ)
をψ
0σ1〜ψ
σ30 とする.ただ し再混成π
軌道の向きをz
方向,再混成σ
軌道ψ
σ10 の向きをzx
平面内(
ただしx > 0)
であ るとおく.また,SWNT
の各炭素原子における3
つのボンド長が全て等しいと仮定すると,再混成
σ
軌道は全て等しくなると仮定できる.すなわち,再混成σ
軌道におけるs
性が全て 等しいと仮定できる.各軌道の係数を以下の通りにおく.
ψ
σ10ψ
σ20ψ
σ30ψ
π0
=
c
11c
12c
13c
14c
21c
22c
23c
24c
31c
32c
33c
34c
41c
42c
43c
44
·
ψ
2sψ
2pxψ
2pyψ
2pz
(3.31)
「再混成
σ
軌道におけるs
性が全て等しい」ので,c
11= c
21= c
31,「再混成π
軌道の向きがz
方 向」なのでc
42= c
43= 0
,「再混成σ
軌道ψ
σ10 の向きがzx
平面内(
ただしx > 0)
」なのでc
13= 0, c
12> 0
である.全電子密度の和は混成前の電子密度の和|ψ
2s|
2+ |ψ
2px|
2+ |ψ
2py|
2+ |ψ
2pz|
2 に等しいのでX
4i=1
c
in2= 1 (n = 1, · · · , 4) (3.32)
また,規格化直交性
Eq. (3.27)
を考慮すると,再混成軌道は
ψ
σ10ψ
σ20ψ
σ30ψ
π0
=
r 1 − c
π3
r 2
3 0 −
r c
πr 3
1 − c
π3 −
r 1 6
r 1
2 −
r c
πr 3
1 − c
π3 −
r 1 6 −
r 1
2 −
r c
π√ 3
c
π0 0 √
1 − c
π
·
ψ
2sψ
2pxψ
2pyψ
2pz
(3.33)
と求めることができる.ただし
c
241= c
πとおいた.c
πは再混成π
軌道のs
性に対応している.3.2.
分子軌道法によるSWNT
構造の解析51
次に再混成π
軌道と再混成σ
軌道のなす角を求める.再混成π
軌道の単位方向ベクトルをr
π, j = 1, 2, 3
に対する再混成σ
軌道ψ
σj0 の単位方向ベクトルをr
jとすると,各方向ベクト ルはr
π= (0, 0, 1) (3.34)
r
1= 1
√ 2 + c
π³ √
2, 0, − √
c
π´ (3.35)
r
2= 1 p 2(2 + c
π)
³
−1, √ 3, − √
2c
π´ (3.36)
r
3= 1 p 2(2 + c
π)
³
−1, − √ 3, − √
2c
π´ (3.37)
(3.38)
となるので,r
πとr
j(j = 1, 2, 3)
との内積はr
π· r
1= r
π· r
2= r
π· r
3= − r c
π2 + c
π(3.39)
と計算される.ゆえに,再混成
π
軌道と各再混成σ
軌道のなす角はすべて同じで,内積が負 の値を持つことから,角度は90
◦以上であることが分かる.Fig. 3.3
にSWNT
混成軌道の様 子を示す.Fig. 3.3: Hybridization orbitals of SWNT and pyramidalization angle θ
P.
3.2.
分子軌道法によるSWNT
構造の解析52
ドキュメント内
蜊伜ア、繧ォ繝シ繝懊Φ繝翫ヮ繝√Η繝シ繝悶髮サ蟄舌蜈牙ュヲ迚ゥ諤ァ縺ォ蜿翫⊂縺呎峇邇蠖ア髻ソ
(ページ 48-52)