第 5 章 SWNT 電子状態の考察 78
5.4 分子軌道法による考察
5.4.
分子軌道法による考察89 5.4.2
最近接の再混成π
軌道のクーロン積分行列要素H
ABH
ABは,基準とするA
原子における再混成π
軌道と,その最近接のB
原子における再混 成π
軌道とのクーロン積分に位相項をかけて足し合わせたものである.構造最適化の考察と 同様,Fig. 4.4
の通りに最近接のB
原子に1,2,3
の番号を振る.すなわちSWNT
軸方向に最 も近いボンドを共有するB
原子をB
1,最も円周方向に近いボンドを共有するB
原子をB
3と する.このときのB
1〜B
3の位置関係をFig. 5.13
に示す.B
n原子の位置をR
nとすると,R
1= a
B− a
2, R
2= a
B− a
1, R
3= a
Bである.
A
原子とB
n原子の再混成π
軌道のクーロン積分をh
n(k)
とすると,H
AB(k) = h
1e
iR1·k+ h
2e
iR2·k+ h
3e
iR3·k= e
iaB·k³ h
1e
−ia2·k+ h
2e
−ia1·k+ h
3´ (5.7)
と計算することができる.a1
a2 Tube axis
circumference
A B
1B
2B
3aB
Fig. 5.13: A and B
1〜B
3atoms and primitive lattice vectors on graphene lattice.
SWNT
がシリンダー構造であると仮定する.このときa
Bはグラフェンと同じくa
B= a
1+ a
23 (5.8)
と表すことができる.また,逆格子ベクトル
k
をグラフェンの基本逆格子ベクトルを用いて,k = k
1b
1+ k
2b
2(5.9)
と表す.このとき,基本格子ベクトルと基本逆格子ベクトルの関係
a
j· b
j0= 2πδ
jj0 より,H
AB(k) = exp(i · 2π · k
1+ k
23 ) × ³ h
1e
−i·2πk2+ h
2e
−i·2πk1+ h
3´ (5.10)
と求められ,Eq. (5.6)
よりエネルギーギャップは以下の通りになる.E(k) = 2
¯ ¯
¯ ¯ exp(i · 2π · k
1+ k
23 ) × ³ h
1e
−i·2πk2+ h
2e
−i·2πk1+ h
3´¯¯ ¯ ¯
= 2 ¯ ¯ ¯
³ h
1e
−i·2πk2+ h
2e
−i·2πk1+ h
3´¯ ¯ ¯ (5.11)
5.4.
分子軌道法による考察90 5.4.3 M
n点の変化とクーロン積分の変化3
つのM
n点の逆格子空間での位置は,M
1: k
M1= b
12 , M
2: k
M2= b
22 , M
3: k
M3= b
1+ b
22
であった.これらを
Eq. (5.11)
に代入しすると,各M
点のエネルギーギャップはE(k
M1) = −2 (h
1− h
2+ h
3) (5.12)
E(k
M2) = −2 (−h
1+ h
2+ h
3) (5.13)
E(k
M3) = −2 (h
1+ h
2− h
3) (5.14)
となる.ここで
h
1, h
2, h
3< 0
なので,上式右辺には負号がついている.M
n点の変化δE
Mn はクーロン積分の変化δh
1〜δh
3を用いて,δE
M1= −2 (δh
1− δh
2+ δh
3) (5.15)
δE
M2= −2 (−δh
1+ δh
2+ δh
3) (5.16)
δE
M3= −2 (δh
1+ δh
2− δh
3) (5.17)
と表すことができる.
5.4.4 K
0点のエネルギーギャップK
0点のエネルギーギャップをE
K0とおき,逆格子空間で0 eV
ギャップ点のグラフェンから の移動量をδk
とおく.前述の「逆格子における0 eV
ギャップ点近傍のエネルギーギャップの 値は0 eV
ギャップ点からの距離にほぼ比例する」という近似を用いると,E
K0が0 eV
ギャッ プとK
点を通るカッティングラインとの距離に比例する.すなわち,E
K0∝ δk · K
1|K
1| (5.18)
と近似することができる.ただし
K
1はFig. 2.3
に示したSWNT
の基本逆格子ベクトルの1
つで,カッティングラインと平行なベクトルK
2に垂直であるという性質を用いている.そ れゆえδk
を計算すればE
K0を求めることができる.次に
δk
を計算する.0 eV
ギャップ点は曲率と構造最適化の影響を受けてK
点から移動す るが,その移動を次の2
段階に分けて考える.•
曲率と構造最適化の影響によるK
点でのクーロン積分変化δH
K1•
波数がK
点からδk
だけ変化することによるクーロン積分変化δH
K2以上の
2
段階でのクーロン積分の変化が打ち消しあう場所がSWNT
での0 eV
ギャップに相 当する.すなわち,δH
K1+ δH
K2= 0 (5.19)
を満たすよう
δk
を決定すればよい.5.4.
分子軌道法による考察91
以下,δH
K1とδH
K2を求める.K
点の逆格子空間での位置ベクトルk
K= (2b
1+ b
2)/3
を 用いれば,δH
K1はEq. (5.11)
からδH
K1= δH
AB(k
K) = δh
1+ δh
2e
−i·2π/3+ δh
3e
i·2π/3(5.20)
と計算することができる.
δH
K2は,グラフェンシートで波数をK
点からδk
だけ変化させた時のクーロン積分の変化 として計算する.グラフェンでの最近接π
軌道同士のクーロン積分はh
1= h
1= h
3= h
πな ので,δH
K2は以下の通りに計算できる.δH
K2= H
AB(k
K+ δk) − H
AB(k
K)
= X
3n=1
h
π³ e
iRn·(kK+δk)− e
iRn·kK´
= h
πX
3n=1
e
iRn·kK³ e
iRn·δk− e
iRn·0´ (5.21)
ここで十分小さな数∆x
に対する近似e
i∆x− e
0i∼ de
ixdx
¯ ¯
¯ ¯
¯
x=0× ∆x = i∆x (5.22)
を適用する.
δk
が十分小さいとして,δH
K2∼ h
πX
3n=1
ie
iRn·kK× R
n· δk
= h
πn iR
1· δk + ie
−i·2π/3R
2· δk + ie
i·2π/3R
3· δk o (5.23)
と計算できる.ベクトル
δk
を2
つの実数δk
1, δk
2を用いてδk = δk
1K
1+ δk
2K
2(5.24)
と表したとき,
δH
K2= h
π½ i(δk
1− 2δk
2)
3 + i(−2δk
1+ δk
2)
3 e
−i·2π/3+ i(δk
1+ δk
2) 3 e
i·2π/3¾
= h
π( √
3
2 δk
1+ i( δk
12 − δk
2) )
(5.25)
と計算することができる.Eq. (5.19)
にEq. (5.20)
とEq. (5.25)
を代入することにより,δk
の2
つの係数δk
1, δk
2の式を立てることができ,それを解くことでδk
1, δk
2を,すなわちδk
を 求めることができる.5.4.
分子軌道法による考察92 5.4.5
構造最適化と曲率によるクーロン積分h
nの変化前項までの考察で,
M
n点の変化とK
0点のエネルギーギャップはともに最近接の再混成π
軌道同士のクーロン積分の変化δh
nの関数として与えられることが分かった.それゆえここ ではδh
iが曲率と構造最適化から受ける影響について評価する.前章の考察により,最近接の
π
軌道同士のクーロン積分は,曲率のみによってグラフェン のh
πからEq. (4.14)
に示したH
π0 に変化することを述べた.またその変化がピラミッド化角 効果Eq. (4.20)
と二面角効果Eq. (4.21)
に対して線形であることを述べた.次にクーロン積分が構造最適化によるボンド長の変化に対してどのような影響を受けるか を考察する.構造最適化によるボンド長の変化に対し,クーロン積分はボンド長の
−2
乗に 比例する.Eq. (4.1)
で定義したボンド長の変化の割合ξ
を用いて,クーロン積分h
nをのξ
の 関数h
n(ξ)
に拡張すると,近似的に以下の式が成り立つ.h
n(ξ) = h
n(0)
(1 + ξ)
2(5.26)
ただし,ここで
h
n(0)
は構造最適化によってボンド長が変化する前のクーロン積分の値であ り,すなわちEq. (4.14)
のH
π0 そのものである.再混成
π
軌道同士のクーロン積分h
n(ξ)
の,グラフェンh
π からの変化δh
nは以下の式で 計算することができる.δh
n= h
n(ξ
n) − h
π= h
n(0) (1 + ξ
n)
2− h
π= h
π× 1 − (1 + ξ
n)
2(1 + ξ
n)
2+ h
n(0) − h
π(1 + ξ
n)
2= h
π× µ
− ξ
n(2 + ξ
n)
(1 + ξ
n)
2+ h
n(0) − h
πh
π× 1
(1 + ξ
n)
2¶
(5.27)
ボンド長の変化は第4
章で考察した通り,もとのボンド長に比べて小さく,直径が4 ˚ A
程度 のSWNT
でも1
〜2 %
である.すなわちξ
n¿ 1
とおくことができ,ξ
nの2
次以下の微小項 を無視できる.また,クーロン積分の変化h
n(0) − h
π ももとの値h
πに比べてそれほど大き くはない.それゆえ,h
n(0) − h
πh
π× ξ
nの項も無視することができる.以上を適用して,
δh
n∼ h
π×
½
−ξ
n(2 + ξ
n)(1 − 2ξ
n) + h
n(0) − h
πh
π× (1 − 2ξ
n)
¾
∼ h
π×
½
−2ξ
n+ h
n(0) − h
πh
π¾
= (h
n(0) − h
π) − 2h
πξ
n(5.28)
と計算することができる.
Eq. (5.28)
よりクーロン積分の変化δh
nは,曲率によるクーロン 積分の変化である第1
項と,ボンド長の変化である第2
項の線形和として表すことができる.曲率によるクーロン積分の変化とボンド長の変化はともに第
4
章の考察の通り,ピラミッド 化角効果,二面角効果,円筒効果の線形結合で表すことができるので,Eq. (5.28)
で表される クーロン積分の変化も3
つの効果の線形結合で表すことができる.
ドキュメント内
蜊伜ア、繧ォ繝シ繝懊Φ繝翫ヮ繝√Η繝シ繝悶髮サ蟄舌蜈牙ュヲ迚ゥ諤ァ縺ォ蜿翫⊂縺呎峇邇蠖ア髻ソ
(ページ 88-93)