第 7 章 結論 108
B.3 ハミルトニアン行列と波動関数の係数行列の定義
B.3 ハミルトニアン行列と波動関数の係数行列の定義
量子分子動力学法は毎ステップごとに電子状態を計算する.
tight-binding
分子動力学法を 用いる場合,Schr¨odinger
方程式は固有値問題HΨ = EΨ (B.5)
の形にまとめられる2.各原子にかかる力を求めるときも,波動関数の係数行列
C
やハミル トニアン行列H
は必要になる.ここではハミルトニアン行列H
と波動関数の係数行列C
を 作成する.B.3.1
ハミルトニアン行列と係数行列の成分構成ハミルトニアン行列と係数行列を作成する.第
2
章で説明した,グラフェンとSWNT
での ハミルトニアン行列H
と波動関数の係数行列C
は,ユニットセル中にA
原子とB
原子が存 在したことから,Eq. (2.51)
に示した行列H =
"
H
AAH
ABH
BAH
BB#
, C =
"
C
AC
B#
(B.6)
の通りに表すことができた.ただし,Eq. (2.50)
よりH
αβ=
H
11αβ· · · H
14αβ.. . . .. .. . H
41αβ· · · H
44αβ
, C
α=
C
1α.. . C
4α
(B.7)
である.
H
αβ(α, β = A, B)
は2
原子間のクーロン積分行列で,1
つの原子当たり4
つの軌道 を考慮してるため,4 × 4
行列である.それゆえ,H
は8 × 8
行列となった.またC
αはBloch
軌道の係数で,要素数4
個のベクトルであり,それゆえC
は要素数8
のベクトルであった.N
原子系でも同様にH
とC
が定義できる.すなわち原子α
と原子β (α, β = 1, 2, · · · , N )
のクーロン積分をH
αβ,原子α
の各軌道の係数をC
αとすると3,それぞれ以下の通りに書き 表すことができる.H =
H
11· · · H
1N.. . . .. .. . H
N1· · · H
N N
, C =
C
1.. . C
N
(B.8)
次に
H
αβ とC
αを示す.前述の通りH
αβは4 × 4
行列であり,原子α
と原子β
の2s
,2p
軌道の積分を表している.いまΓ
点を考慮しないのでBloch
の定理の位相項は考慮しなくて2Xuポテンシャルでは重なり積分は単位行列である.それゆえここでは重なり行列Sは記述していない.
3tight-binding近似での各軌道はBlochの定理により,格子中の同じ位置にいる原子の同種類の軌道をまとめ たBloch軌道の形にまとめられていた.しかしtight-binding分子動力学法では格子が十分大きく,Bloch軌道 を構成する各軌道同士は重ならないので,Bloch軌道はばらばらの原子軌道の集まりになる.それゆえここでは 敢えて「原子の軌道」と記述した.
B.3.
ハミルトニアン行列と波動関数の係数行列の定義125
よい.第2
章と同様に1, · · · , 4
をそれぞれ2s
,2p
x,2p
y,2p
z軌道とし,軌道i
と軌道j
の積 分をh
ij(r)
とすると,H
αβ=
h
11(R
αβ) · · · h
14(R
αβ) .. . . .. .. . h
41(R
αβ) · · · h
44(R
αβ)
(B.9)
とおくことができる.また
C
αは各格子中のα
番目(α = 1, 2, · · · , n)
の原子の波動関数の集 まりであるBloch
軌道波動関数の係数を表している.係数行列C
をC =
t[C
1, · · · , C
N] (B.10)
と定義し,
C
αをC
α=
t[c
α1, · · · , c
α4] (B.11)
とする.このとき
C
は,C =
t[c
11, c
12, · · · , c
N3, c
N4] (B.12)
というベクトルとなっている.Eq. (B.8)
の形,すなわちH
αβ のN × N
行列としてハミルトニアン行列を記述したとき,行列は「エルミート性」を持つ.ある行列
M
の随伴行列をM
∗と表したとき,「エルミート 性」はH
αβ= (H
βα)
∗(B.13)
と記述できる.いま
Bloch
の定理による位相のずれを考えていないので,ハミルトニアン行 列は実行列となり,エルミート行列であることは対称行列であることと同値である.ここで,個々の
4 × 4
行列H
αβ自体は次節で計算するように対称行列ではなく,従って個々のクーロ ン積分h
ij(R
αβ)
の4N × 4N
行列としてハミルトニアン行列を見たときには,対称行列でも エルミート行列でもない.しかし,tight-binding
分子動力学法におけるハミルトニアン行列H
の対角成分に位置する行列H
ααは,格子が十分に大きいため対角成分以外は値を持たな い.すなわち,H
αα=
²
2s0 0 0
0 ²
2p0 0 0 0 ²
2p0 0 0 0 ²
2p
(B.14)
であるので,
tight-binding
分子動力学でのH
ααは対称行列になる.それゆえハミルトニアン 行列は4N × 4N
行列としてみたときも対称行列となり,真の意味での対称行列になる4.4ハミルトニアン行列が真に対称行列であることは,理論の上ではそれほど重要ではない.しかし,数値計算 の上では重要である.なぜなら,対称行列の固有値を求めるソルバーを使用すれば,一般行列の固有値を求める ソルバーより高速に固有値計算をすることができるからである.ゆえにここでは敢えて詳しく記述した.
B.3.
ハミルトニアン行列と波動関数の係数行列の定義126
B.3.2
ハミルトニアン行列の具体的な成分計算いま直交座標系で考えているので,原子軌道同士の積分もグラフェンと同様であり,第
2.3.4
項と同様に計算できる.2
つの軌道i, j
を考え,それらを結ぶベクトルをR = (x, y, z)
,位置 ベクトルの大きさをR
,同じ向きの単位ベクトルe
Rをe
R= µ x
R , y R , z
R
¶
≡ (x
e, y
e, z
e) (B.15)
としたとき,
2
つの軌道のクーロン積分h
ii(R)
は,上三角要素がh
11(R) = h
ss(R) (B.16)
h
12(R) = x
eh
sp(R) (B.17)
h
13(R) = y
eh
sp(R) (B.18)
h
14(R) = z
eh
sp(R) (B.19)
h
22(R) = x
2eh
σ(R) + (1 − x
2e)h
π(R) (B.20)
h
23(R) = x
ey
e{h
σ(R) − h
π(R)} (B.21)
h
24(R) = x
ez
e{h
σ(R) − h
π(R)} (B.22)
h
33(R) = y
2eh
σ(R) + (1 − y
e2)h
π(R) (B.23)
h
34(R) = y
ez
e{h
σ(R) − h
π(R)} (B.24)
h
44(R) = z
e2h
σ(R) + {1 − z
e2}h
π(R) (B.25)
であり,下三角要素は上三角要素を用いてh
21(R) = −h
12(R) (B.26)
h
31(R) = −h
13(R) (B.27)
h
41(R) = −h
14(R) (B.28)
h
32(R) = h
23(R) (B.29)
h
42(R) = h
24(R) (B.30)
h
43(R) = h
34(R) (B.31)
と表すことができた.また
Xu
ポテンシャルでは4
種類のクーロン積分h
ss, h
sp, h
σ, h
π はEq. (A.24)
を用いて計算でき,h
α(r) = V
α× µ r
0r
¶
nexp
· n
½
− µ r
r
c¶
nc+
µ r
0r
c¶
nc¾¸
(B.32)
であった.ただしα
はss, sp, σ, π
の積分の区別を示す.B.3.
ハミルトニアン行列と波動関数の係数行列の定義127 B.3.3
クーロン積分の勾配ここでは後に述べる力の算出のため,クーロン積分
Eq. (B.16)
〜Eq. (B.31)
の勾配を求め る.ただし以下では,ある原子i
から見た原子j
への位置ベクトルR
ij の,原子j
の座標の 変化に対する勾配∇
jを求めると仮定する.演算子∇
jは原子n
の座標(x
j, y
j, z
j)
に対して,∇
j≡ ( ∂
∂x
j, ∂
∂y
j, ∂
∂z
j) (B.33)
と定義する.以下では簡単のため,ベクトル
R
ij の成分をR
ij= (x
j− x
i, y
j− y
i, z
j− z
i) ≡ (x, y, z) (B.34)
とおき,その長さをR
,ベクトルR
ijと同じ向きの単位ベクトルをe
R= (x
e, y
e, z
e)
と記述す る.このとき勾配は∇
j= ( ∂
∂x , ∂
∂y , ∂
∂z ) (B.35)
と書ける.
まず
R, x
e, y
e, z
eの勾配を計算する.長さR
をベクトルR
ij= (x, y, z)
の各成分として記 述するとR = p x
2+ y
2+ z
2なので,その勾配∇
jR
は∇
jR =
à x
p x
2+ y
2+ z
2, y
p x
2+ y
2+ z
2, z p x
2+ y
2+ z
2!
= e
R(B.36)
と計算することができる.
x
eの勾配は∇
jx
e= ∇
jx R =
à R
2− x
2R
3, − xy
R
3, − xz R
3!
= 1
R (e
x− x
ee
R) (B.37)
となる.ここでe
x= (1, 0, 0)
はx
軸方向単位ベクトルである.同様に∇
jy
e, ∇
jz
eはy, z
軸方 向単位ベクトルe
y= (0, 1, 0), e
z= (0, 0, 1)
を用いて∇
jy
e= 1
R (e
y− y
ee
R) (B.38)
∇
jz
e= 1
R (e
z− z
ee
R) (B.39)
と表される.
次に
Xu
ポテンシャルのクーロン積分の勾配を計算しておく.Eq. (B.32)
の微分はdh
α(R)
dR = h
α(R)
½ −n R − n
µ R r
c¶
nc× n
cR
¾
= − nh
α(R) R
½ 1 + n
cµ R r
c¶
nc¾
(B.40)
となるので,勾配∇
jh
α(R)
は以下の通りに計算できる.∇
jh
α(R) = dh
α(R)
dR ∇
jR = − nh
α(R) R
½ 1 + n
cµ R r
c¶
nc¾
× e
R(B.41)
B.3.
ハミルトニアン行列と波動関数の係数行列の定義128
∇
jh
ijを求める.2s
軌道同士の積分成分h
11はそのまま以下の通りとなる.∇
jh
11(R
ij) = ∇
jh
ss(R) (B.42)
また,
2s
軌道と2p
軌道の積分成分は以下の通りに求められる.∇
jh
12(R
ij) = (∇
jx
e)h
sp(R) + x
e∇
jh
sp(R) (B.43)
∇
jh
13(R
ij) = (∇
jy
e)h
sp(R) + y
e∇
jh
sp(R) (B.44)
∇
jh
14(R
ij) = (∇
jz
e)h
sp(R) + z
e∇
jh
sp(R) (B.45)
∇
jh
21(R
ij) = −∇
jh
12(R
ij) (B.46)
∇
jh
31(R
ij) = −∇
jh
13(R
ij) (B.47)
∇
jh
41(R
ij) = −∇
jh
13(R
ij) (B.48)
∇
jh
22(R
ij)
は以下の通りに計算できる.∇
jh
22(R
ij)
= (∇
jx
2e)h
σ(R) + x
2e∇
jh
σ(R) + (−∇
jx
2e)h
π(R) + (1 − x
2e)∇
jh
π(R)
= 2x
e(∇
jx
e){h
σ(R) − h
π(R)} + x
2e∇
jh
σ(R) + (1 − x
2e)∇
jh
π(R) (B.49)
同様にして,∇
jh
33(R
ij) = 2y
e(∇
jy
e){h
σ(R) − h
π(R)} + y
2e∇
jh
σ(R) + (1 − y
2e)∇
jh
π(R) (B.50)
∇
jh
44(R
ij) = 2z
e(∇
jz
e){h
σ(R) − h
π(R)} + z
e2∇
jh
σ(R) + (1 − z
e2)∇
jh
π(R) (B.51)
と計算できる.また∇
jh
23(R
ij)
は∇
jh
23(R
ij)
= (∇
jx
ey
e){h
σ(R) − h
π(R)} + x
ey
e{∇
jh
σ(R) − ∇
jh
π(R)}
= (x
e∇
jy
e+ y
e∇
jx
e){h
σ(R) − h
π(R)} + x
ey
e{∇
jh
σ(R) − ∇
jh
π(R)} (B.52)
となる.他の成分も同様にして以下の通りに計算できる.∇
jh
24(R
ij)
= (x
e∇
jz
e+ z
e∇
jx
e){h
σ(R) − h
π(R)} + x
ez
e{∇
jh
σ(R) − ∇
jh
π(R)} (B.53)
∇
jh
34(R
ij)
= (y
e∇
jz
e+ z
e∇
jy
e){h
σ(R) − h
π(R)} + y
ez
e{∇
jh
σ(R) − ∇
jh
π(R)} (B.54)
∇
jh
32(R
ij) = ∇
jh
23(R
ij) (B.55)
∇
jh
42(R
ij) = ∇
jh
24(R
ij) (B.56)
∇
jh
43(R
ij) = ∇
jh
34(R
ij) (B.57)
なお,原子
i
の位置の変化に対する勾配∇
ih
nm(R
ij)
は,∇
iR
ij= −∇
jR
ij, ∇
ix
e= −∇
jR
ij, ∇
iy
e= −∇
jR
ij, ∇
iz
e= −∇
jR
ij(B.58)
となることより,以下の関係が成り立つ.∇
ih
nm(R
ij) = −∇
jh
nm(R
ij) (B.59)
ドキュメント内
蜊伜ア、繧ォ繝シ繝懊Φ繝翫ヮ繝√Η繝シ繝悶髮サ蟄舌蜈牙ュヲ迚ゥ諤ァ縺ォ蜿翫⊂縺呎峇邇蠖ア髻ソ
(ページ 124-129)