第 4 章 SWNT 構造最適化の考察 55
4.3 tight-binding 近似による構造最適化
4.3.2 SWNT 混成軌道とボンド長の変化
4.3. tight-binding
近似による構造最適化67
4.3. tight-binding
近似による構造最適化68 a)
クーロン積分の変化とボンド長の変化1
ボンドあたりのクーロン積分の変化はそのボンドを形成する電子の引力エネルギーの変 化を表す[23]
.ここでは電子の引力エネルギー,すなわちクーロン積分の変化に対してボン ド長がどのように変化するかを考える.あるボンドが長さr
0,
全エネルギーE
0で原子核の反 発エネルギーと電子の引力エネルギーが釣り合っているとする.ボンドの長さが平衡長さr
0 からr
0(1 + ξ)(
ただしξ ¿ 1)
に変化したとき,全エネルギーE(ξ)
は調和振動近似を用いて,E(ξ) = E
0+ 1
2 C
0ξ
2(4.4)
と表すことができる.次に平衡距離
r
0のときにこのボンドのクーロン積分がδh
0だけ変化し たと仮定する.クーロン積分は距離の2
乗に反比例するため[23]
,変化量をξ
の関数で書き 表すと,δh(ξ) = δh
0µ r
0(1 + ξ) r
0¶
−2= δh
0(1 + ξ)
−2(4.5)
となる.このときボンドの全エネルギー
E
0(ξ)
はE
0(ξ) = E
0+ 1
2 C
0ξ
2+ δh
0(1 + ξ)
−2(4.6)
となる.
クーロン積分が変化したことにより,ボンド長が初期値
r
0から変化するが,変化後のボン ド長は全エネルギーE
0(ξ)
が最小値を取るときの長さなので,dE
0(ξ)
dξ = C
0ξ − 2δh
0(1 + ξ)
−3= 0 (4.7)
が成立する.
ξ ¿ 1
なので,(1 + ξ)
−3' 1 − 3ξ
と近似すると,C
0ξ − 2δh
0(1 − 3ξ) = 0 (4.8)
で,クーロン積分の変化
δh
0もC
0に比べて十分に小さいとして2
次の微小量δh
0ξ
を無視す ると3ξ = 2
C
0δh
0(4.9)
となる.以上より,ボンド長の変化は近似的にクーロン積分の変化量と線形な関係に近似で きることが分かる.
3ダイヤモンドではC0は35.2 eV程度である[23].
4.3. tight-binding
近似による構造最適化69 b)
ピラミッド化角,二面角の変化とクーロン積分の変化次にクーロン積分の変化量がピラミッド化角,二面角によりどのように表せるかを考察す る.
SWNT
混成軌道においてある原子とその最近接の原子との間に存在するクーロン積分は,再混成
σ
軌道同士のクーロン積分H
σ0,再混成π
軌道同士のクーロン積分H
π0,再混成σ
軌道 と再混成π
軌道のクーロン積分H
σπ0 の3
種類である.以下,これらを計算する.,再混成
σ, π
軌道Eq. (3.33)
において再混成σ, π
軌道を再混成π
軌道のs
性c
πを用いて表 した.ここでは以下の計算を簡単にするため,再混成σ
軌道ψ
σ0 と再混成π
軌道ψ
0πを表し 直す.再混成
σ
軌道のs
性は,Eq. (3.33)
より(1 − c
π)/3
である.炭素原子の2s
軌道ψ
2sとボンド の方向を向いた2p
軌道ψ
pσを用いると,再混成σ
軌道ψ
σ0 は以下の通りに表すことができる.ψ
0σ=
r 1 − c
π3 ψ
2s+
r 2 + c
π3 ψ
pσ(4.10)
再混成
π
軌道のs
性は,Eq. (3.33)
よりc
πである.炭素原子の2s
軌道ψ
2sとボンドに対し てθ
P だけ回転した2p
軌道ψ
pπを用いると,再混成π
軌道ψ
π0 は以下の通りに表すことがで きる.ψ
0π= √
c
πψ
2s+ √
1 − c
πψ
pπ(4.11)
ただし
2
つの2p
軌道は二面角θ
Dだけのねじれを持つ.各クーロン積分の計算 最近接の再混成
σ
軌道同士のクーロン積分H
σ0 は, Eq. (4.10)
で表し た再混成σ
軌道ψ
σ0 を用いると,以下の通りに計算することができる.H
σ0= 1 − c
π3 h
ss+ 2 p (1 − c
π)(2 + c
π)
3 (−h
sp) + 2 + c
π3 (−h
σ) (4.12)
式中の
−h
sp, −h
σは,Fig. 2.4
で示した通りh
sp, h
σが,異符号の波動関数の重なりを持って いることを想定しているため,σ
軌道のような同符号の波動関数の重なりを持つものの場合 には負号をつける必要がある.再混成
π
軌道同士の積分は,ピラミッド化角θ
P と二面角θ
Dの変化により,グラフェンのsp
2混成軌道におけるクーロン積分からSWNT
混成軌道におけるクーロン積分H
π0 に変化す る.θ
D= 0
◦のとき再混成π
軌道同士のクーロン積分H
π0 は,Eq. (4.11)
で表した再混成π
軌 道ψ
π0 を用いると,以下の通りに表すことができる.H
π0¯ ¯
θD=0
= c
πh
ss+ 2 q
c
π(1 − c
π)h
spcos θ
P+ (1 − c
π)(−h
σcos
2θ
P+ h
πsin
2θ
P) (4.13)
さらにθ
D6= 0
◦のときは,2p
z軌道の積分値h
πがFig. 3.4
に示したねじれのためcos θ
Dの平 行成分とsin θ
Dの垂直成分に分けられる.このうち垂直成分は波動関数の重なりを持たない ため,h
πはcos θ
D倍となる.それゆえ,H
π0= c
π(−h
ss) + 2 q
c
π(1 − c
π)h
spcos θ
P+(1 − c
π)(−h
σcos
2θ
P+ h
πsin
2θ
Pcos θ
D) (4.14)
と表すことができる.4.3. tight-binding
近似による構造最適化70
グラフェンではσ
軌道とπ
軌道は直交しているため重なりはないが,ピラミッド化角θ
P の 変化により,ある原子の再混成σ
軌道とその最近接原子の再混成π
軌道とは重なりを持つよ うになり,クーロン積分H
σπ0 が発生する.Eq. (4.10), Eq. (4.11)
において,ψ
pσ, ψ
pπはピラ ミッド化角θ
P をなしているので,H
σπ0 は以下の通りに表すことができる.H
σπ0= s
c
π(1 − c
π) 3 h
ss+
s
c
π(2 + c
π)
3 +
s
(1 − c
π)
23 cos θ
P
(−h
sp)
+ s
(1 − c
π)(2 + c
π)
3 (−h
σ) cos θ
P(4.15)
各クーロン積分のプロット
Fig. 4.12(a)
〜(c)
に,クーロン積分H
σ0, H
π0, H
σπ0 の,再混成π
軌道のs
性に対する変化を示す.またFig. 4.12(d)
には各クーロン積分がグラフェンのsp
2混 成軌道の値からの変化を示している.プロットには文献[23]
で炭素間距離d =1.42 ˚ A
とした ときの各積分関数の値h
ss= −1.40 × ¯ h
2m
ed
2= −5.291[eV] (4.16)
h
sp= 1.84 × ¯ h
2m
ed
2= 6.953[eV] (4.17)
h
σ= 3.24 × ¯ h
2m
ed
2= 12.24[eV] (4.18)
h
π= −0.81 × ¯ h
2m
ed
2= −3.061[eV] (4.19)
を用いて計算した値を用いる.ただし,式中の
¯ h
はプランク定数を2π
で割った値,m
eは電子 の質量である.また,π
軌道のs
性c
πはsp
2混成軌道で0, sp
3混成軌道で1/4
なので,SWNT
混成軌道では0 ≤ c
π≤ 1/4
である.しかし,次節で計算する通り,SWNT
混成軌道のs
性は(5,0), (4,2), (3,3)SWNT
という直径が4˚ A
程度の極めて細いSWNT
であってもc
π' 0.06
程 度なので,以下ではc
π≤ 0.06
程度の比較的sp
2混成軌道に近い領域を想定し考察している.Fig. 4.12(a), (b)
に示す通り,再混成π
軌道のs
性c
πに対してH
σ0 はほとんど変化せず,H
π0 はほぼ線形な変化を示す.またFig. 4.12(c)
に示す通り,H
σπ0 はc
πに対して曲線的な変化を 示すが,c
πが0.06
以下のsp
2寄りの領域のみを見れば近似的にc
πに対してほぼ線形に変化 をすると考えることができる.またFig. 4.12(d)
よりc
πが0.06
以下ではH
π0 の変化が最も大 きいが,1
つのボンドあたり電子2
個存在するσ
結合に比べ,π
軌道は1
つのボンドあたりの 電子が2/3
個なので,ボンドあたりのクーロン積分の変化の寄与はH
π0 ではなく,もっと小 さい値にある.また
Eq. (4.14)
に示した通り,H
π0 は二面角θ
Dの変化に対して,h
π の係数がcos θ
Dに線 形に小さくなるので,二面角の変化に対するクーロン積分の変化はcos θ
Dに比例すると考え られる.以上の考察により,ボンド長の変化を引き起こすクーロン積分の,グラフェンから
SWNT
への変化量は,ピラミッド化角θ
P に対してc
π= 2/ tan
2θ
P にほぼ線形に,二面角θ
Dに対しcos θ
Dに線形に変化することが分かる.4.3. tight-binding
近似による構造最適化71
(a) (b)
0 0.1 0.2
−16.6
−16.5
−16.4
S character of π orbital
Transfer integral [eV]
sp2
sp3
0 0.1 0.2
−3
−2.8
−2.6
−2.4
S character of π orbital
Transfer integral [eV]
sp2
sp3
(c) (d)
0 0.1 0.2
−0.6
−0.4
−0.2 0
S character of π orbital
Transfer integral [eV]
sp2
sp3
0 0.1 0.2
−0.5 0 0.5
S character of π orbital
Change of transfer integral from graphene [eV]
sp2 sp3
Hσ Hπ
Hσπ
Fig. 4.12: Transfer integral of (a) nearest rehybridized σ orbitals, (b) nearest rehybridized π
orbitals, (c) nearest rehybridized σ and πorbitals. (d) is the change of each transfer integral
from graphene sp
2.
4.3. tight-binding
近似による構造最適化72
ドキュメント内
蜊伜ア、繧ォ繝シ繝懊Φ繝翫ヮ繝√Η繝シ繝悶髮サ蟄舌蜈牙ュヲ迚ゥ諤ァ縺ォ蜿翫⊂縺呎峇邇蠖ア髻ソ
(ページ 67-72)