第 4 章 SWNT 構造最適化の考察 55
4.3 tight-binding 近似による構造最適化
4.3.1 計算結果
tight-binding
近似を用いて最適化したグラフェンのボンド長はa c-c = 1 .41538 ˚ A
であっ た.次にグラフェンの最適化構造であるシリンダー構造を初期値としてSWNT
の構造最適化 計算を行った.その計算結果を以下に示す.a)
過去の研究との比較Fig. 4.8(a)
に,tight-binding
近似を用いたSWNT
の半径,カイラル角,並進ベクトルの 構造最適化の結果を表す.最適化計算はBrenner
と同じく直径が3.9 ˚ A
から30 ˚ A
の全てのSWNT
について行われている.またFig. 4.8(b)
に,比較としてPopov
の結果を再掲する.(a) (b)
0 0.05 0.1
−0.3
−0.2
−0.1 0
5 10 15
−0.02
−0.01 0
Radius [Å]
∆R [Å]∆T[Å]∆θ[rad]
Fig. 4.8: Difference of radius ∆R, length of translation vector ∆T, and chiral angle
∆θ between cylindrical structure and optimized structure. (a) is calculated with Tang’s
environment-dependent tight-binding method, (b) is Popov’s result (same as Fig. 4.1(a)).
4.3. tight-binding
近似による構造最適化65 tight-binding
近似での計算結果はBrenner
の計算結果と違い,Popov
の結果に傾向がよく 似ており,全体的にSWNT
半径が大きくなり,SWNT
軸方向の並進ベクトルの長さが短く なっている.半径が大きくなるのはBrenner
の項で説明した通り,グラフェンのシートを丸 めた際に生じる歪みを,半径を大きくすることで軽減しようとしている,と考えることがで きる.カイラル角は全体的に小さくなっているが,これは
∆R
と∆T
の傾向から説明を与えるこ とができる.SWNT
は半径∆R
が大きくなり軸方向長さ∆T
が小さくなっている.Fig. 1.3
において半径に伸ばし,軸方向を縮めるとグラフェンの基本格子ベクトルa
1, a
2のなす角が 小さくなるよう変形する.それに従いカイラル角も全体的に小さくなったものであると考え られる.なお,∆θ = 0
◦の点がzigzag SWNT
であることはBrenner
計算の考察で説明した 通りである.Fig. 4.8(a)
の各グラフにはFig. 4.8(b)
と違って,点列に一定のパターンが見られるが,こ れは最適化計算がPopov
の計算より上手く収束しているために,カイラル指数間の関係が表 れたものであると考えられる.Fig. 4.9
にzigzag SWNT
のボンド長の変化とボンドのなす角についての計算結果を示す.この結果は
Fig. 4.1(b), (c)
のKanamitsu
らによるLDA
の研究と比較することができる.(a) (b)
0 0.02 0.04 0.06
−0.02 0 0.02
d−d0 [Å]
1/dt2 [Å−2] d1
d2
0 0.02 0.04 0.06
112 116 120
1/dt2 [Å−2] θ1
θ2
Bond angle [deg]
Fig. 4.9: Difference of (a) bond length and (b) bond angle of zigzag SWNT.
ボンド長の変化が
LDA
に比べ1.5
倍程度小さいものの大体の傾向はLDA
の結果と合って いる.またボンドのなす角の結果はLDA
とよく一致している.これは,tight-binding
近似 の構造最適化がLDA
の構造最適化計算とよく一致する結果となる,というPopov
の考察[29]
にもよく対応している.
Fig. 4.9
において,点が3
つおきに点列からずれた場所にあるが,これはmod 1
,すなわちn − m
を3
で割った余り1
のSWNT
であり,mod
依存性が表れていると考えられる.しかしFig. 4.1(b), (c)
のKanamitsu
らのLDA
の結果にはそれが見られないという違いも存在する.4.3. tight-binding
近似による構造最適化66 b)
ボンド長の変化の結果0 10 20 30
−0.002 0 0.002
Chiral angle [deg]
ξn × dt2 [nm2 ]
ξ1 ξ2
ξ3
ξ1 ξ2 ξ3
Fig. 4.10: Change of SWNT bond length from graphene plotted against chiral angle.
Fig. 4.10
にSWNT
の3
種類のボンドの長 さの変化ξ
nの,カイラル角に対する分布を 示す.ξ
nはEq. (4.1)
によって規格化された ボンド長の変化である.n = 1, 2, 3
の区別 はBrenner
と同じくFig. 4.4
の図に対応して いる.これは
Brenner
ポテンシャルによる最適化の結果
Fig. 4.5(a)
とは大きく異なっている.また,各ボンド長の変化
ξ
nが3
本のライン に分裂していることが分かるが,これはmod
による効果であると考えられる.次に
SWNT
の軸方向と各ボンドとのなす 角度を横軸とした図をFig. 4.11(a)
に,また それをmod
ごとに分類した図をFig. 4.11(b)
に示す.Fig. 4.11(b)
より分裂している3
本 のラインはmod
による影響であることがわ かる.mod
はカッティングラインがK
点付近を通る通り方が異なるために発生する,逆格子を考慮して初めて現れる分類なので,
Brenner
による幾何学的な計算だけでは表れず,電子状態を考慮したtight-binding
近似で初めて表れ る効果である.またFig. 4.11(b)
のグラフにおいて金属SWNT
のラインが真ん中に1
本あっ て,mod 1
とmod 2
の半導体SWNT
のラインが上下に分裂している格好であるが,30
◦以 下と30
◦以上では上下関係が逆転していることが分かる.(a) (b)
0 30 60 90
−0.002 0 0.002
Angle From Translation Vector [deg]
ξn × dt2 [nm2 ]
ξ1 ξ1
ξ2 ξ3 ξ3 ξ2
0 30 60 90
−0.002 0 0.002
Angle From Translation Vector [deg]
ξn × dt2 [nm2 ]
Metal Mod1 Mod2
Fig. 4.11: Change of SWNT bond length from graphene plotted against the angle between
each bond and translation vector.
4.3. tight-binding
近似による構造最適化67
ドキュメント内
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(ページ 64-67)