第 5 章 フィリピンにおけるバンドリングされた PPP の事例を用いた検証
5.2. 財務モデルによるシミュレーションを活用した検証(定量的検証)
5.2.5. With ケースにおける規模の経済等による費用削減
With
ケースの前提になっている規模の経済等による「初期投資額」や「支出」の費用削減 は、単独事業での実現は容易でないが、バンドリングにより、調査や建設、運営の各段階で ワークシェアリングやコストシェアリングができれば実現可能である。例えば、Withケースの
5
つのプロジェクトは所管官庁(図 5-3のエネルギー省)が同じ ため、各種届出や事業報告書等の様式に共通性があり、その作成に係る費用や時間が削減さ れる。また、調査や設計、建設の段階で、事業者(図 5-3のSPC)において、従事する技術
者や資機材を複数の事業で共有ができるため、単独の事業で必要な費用を積み上げたもの よりコストを抑制できる。そのほか、バンドリングする事業が増えるほど調達面でのバーゲ ニングパワーは増し、またバンドリングする事業が類似するほどシェアリングによるコス ト削減効果は働きやすい。さらに、SPC
内部の管理・事務系業務の人員についても、プロジ ェクトが5
つに増えたからといって、5
倍の人数まで増やす必要はない。これらの点がコス ト削減につながるのである。こうした具体的なコスト削減の推計は、初期投資額と支出の両方の内訳が記載されてい るタギボ川小水力発電とワワ川小水力発電の
2
つの調査報告書の経済・財務分析に係るそ れぞれのデータをもとに、両調査を担当したA
社の経済財務分析の担当者と、A社の現地 パートナー企業で両プロジェクトの運営責任者に対してヒアリングを行い74
、プロジェク トごとに、初期投資額と支出について、以下に基づいてそれぞれの削減率を算出した。5
つのプロジェクトにおける初期投資額と支出のそれぞれの削減率は表 5-5の通りで、そ の算定根拠は以下に記載の通りである。表 5-5 初期投資額と支出の削減率
事業 初期投資額 支出
タギボ川
2.6
%6.3
%ワワ川
2.7
%2.6
%上記以外の
3
事業2.7
%4.5
%74 With
ケースにおける5
事業のコストの合計は、実際のブトゥアンPPP
事業のデータに近似しているが、個別事業で実際にかかっているコストは、実際の各事業の
SPC
の財務諸表の数値か ら読み取ることができない。特に人件費など、ある人材が複数の事業に関与していても、厳密 に人件費を事業ごとに管理し、経理・会計上配賦することは現実的に不可能だからである。従 って、各事業のコストを算出するために、ヒアリングを実施して算出することとした。第
5
章 フィリピンにおけるバンドリングされたPPP
の事例を用いた検証初期投資額と支出におけるそれぞれの削減率の算定根拠は次の通りである。
初期投資額初期投資額については、以下の通り、2つのアプローチから削減率を算出した。
1
つ目のアプローチは、初期投資額を直接原価と間接原価に分類した後(表 5-6)、ヒアリ ングにより、間接原価の25%に相当する初期投資額の削減が可能とした。
25%の削減根拠は、バンドリングにより削減可能な費用として、バックオフィス部門の人
件費のほか、事務所の賃借料や光熱費、運営費用(旅費交通費や消耗品など)の間接原価全 体に占める割合が50%超あり、かつその削減幅が 50%程度あるとのヒアリング結果に基づ
いている(25%=50%×50%)。なお、これ以降の2
つ目のアプローチや、支出にある25%
の削減の根拠も同様である。
表 5-6 初期投資額の直接原価と間接原価
(単位:億ペソ) 直接原価 間接原価 合計
タギボ川
8.3 1.3 9.6
ワワ川
30.4 4.6 35.0
2
つ目のアプローチは、外注費用と内製費用(内部費用)に分類した後(表 5-7)、内製費用の
25%に相当する初期投資額の削減が可能とした。
表
5-7
初期投資額の外注費用と内製費用(単位:億ペソ) 外注費用 内製費用 合計
タギボ川
8.9 0.8 9.7
ワワ川
32.3 2.6 34.9
以上より、タギボ川を例にすると、
1
つ目のアプローチでは、間接原価の1.3
億ペソの25%
に相当する
0.3
億ペソ、すなわち初期投資額の3.1%(=0.3
億÷9.6億)の削減が可能で、2 つ目のアプローチから、内製費用の0.8
億ペソの25%に相当する 0.2
億ペソ、すなわち初期投資額の
2.1%(=0.2
億÷9.6億)の削減が可能ということになる。ここから、下限の2.1%
と上限の
3.1%の中間値に相当する 2.6%を採用した。
第
5
章 フィリピンにおけるバンドリングされたPPP
の事例を用いた検証同様に、ワワ川における初期投資額の削減率も、同じプロセスを通じて算出した下限の
2.0%と上限の 3.4%から、その中間値である 2.7%を採用した。また、残りの 3
事業については、本文にも記載の通り、初期投資額と支出のそれぞれについて内訳を示したデータがな いことから、タギボ川(2.6%)とワワ川(2.7%)の削減率の中間値の
2.7%を採用した。
支出支出については、以下の通り、管理費と管理費以外の支出に分類した後で(表 5-8)、管
理費の
25%に相当する支出の削減が可能とした。
表 5-8 支出の管理費と管理費以外の支出
(単位:千ペソ) 管理費 管理費以外の支出 合計
タギボ川
4,005 11,776 15,781
ワワ川
1,745 14,933 16,678
(注)管理費以外の支出には、維持管理費、設備投資、諸税等が含まれる。
以上より、タギボ川については、管理費(4,005千ペソ)の
25%に相当する 1,001
千ペソ、すなわち
6.3%(=1,001
千÷15,781千)の費用削減が実現可能ということになる。同様に、ワワ川の支出削減率も同じ計算プロセスから算出した
2.6%を採用した。また、残りの 3
事 業については、初期投資額と同じく支出の内訳データがないことから、タギボ川(6.3%)と ワワ川(2.6%)の削減率の中間値である4.5%を採用した。
なお、費用削減を測る上で、タギボ川とワワ川の
2
つのプロジェクトしか考慮していない が、削減幅は小さくても、規模の経済は働く。一方、削減率の多寡ではなく、削減すること 自体がNPV
やIRR
の向上に寄与し、Without
ケースとWith
ケースの差を生じさせることに なるため、2つのプロジェクトのデータによる検証でも妥当性は十分だといえる。第
5
章 フィリピンにおけるバンドリングされたPPP
の事例を用いた検証図 5-4は、ここまでの検証方法についての議論を整理したものである。
(出所)著者作成
図