第 2 章 地域開発における PPP の果たす役割と課題
2.2. 地域開発の手段としての PPP
2.2.2. 地域開発における PPP と事業主体
第
2
章 地域開発におけるPPP
の果たす役割と課題第
2
章 地域開発におけるPPP
の果たす役割と課題地方自治体が事業主体となった地域開発を目的とした
PPP
が少ない理由は、法制度が十 分に整備されていないことに加えて、地方自治体に実績がなくノウハウが蓄積されていな いことや、職員の知識や能力が不十分だという公共サイドの問題が考えられる。フィリピン のミンダナオ島で地方自治体を管轄するミンダナオ開発庁(MinDA)の幹部による、「PPP の開発計画を実施するための政治環境が弱い」(経済産業省[2017a],p.28)との発言がこの
点を裏付ける。但し、これは、開発途上国に限定されるものではなく、先進国でも同様にみ られる問題である。他方、地域開発における
PPP
自体に、民間企業の参入を妨げる要因があることも考えら れる。日本の公共事業費をベースに分析した先行研究(中川ら[2007])で、地方自治体の 方が、国に比べて、公共事業の事業規模は小さいことが整理されている26
(図 2-5、表 2-4)。地方における
PPP
事業においても、事業主体は、国でなく地方自治体が中心になる場合が 多いと考えられるため、公共事業と同様に、PPP
の事業規模は小さく、収益の確保という観 点から民間企業の参入の障壁となることは十分に考えられる27
。26
なお、中川ら[2007
]は、地方自治体から発注される1
件当たりの請負金額が大きくない背 景について、「わが国の公共工事の細分化の理由は分割して中小企業に配分したほうが、地域経 済発展に好ましいとの観点」(p.592)があることにも言及している。27
実際、建設系の専門雑誌である「日経コンストラクション」で、「受注してくれない地方の小 規模工事」というタイトル下、「問題になっているのは、主に請負金額が数百万円規模の工事だ。今年度発注した案件の半分以上が不調(著者注:応札者がなく落札者が決まらないこと)とな った」(日経
BP
社[2017b],p.82)というある市町村の技術系職員のコメントが取り上げられ ている。第
2
章 地域開発におけるPPP
の果たす役割と課題(注)「国・公」は「国・公団」、「地方」は「地方自治体」、「全体」は「国全体」の意。
・我が国の公共工事
1
件当たりの請負金額の履歴(1960
年~2004
年)で、1995
年を基準にデフ レータ調整されているとある。・「年」を表した
X
軸のラベルで1978
年以降1999
年まで「19
」が欠けているのは原文ママ。(出所)中川ら[
2007
],p.593
図 2-5 日本の公共工事の
1
件当り請負金額履歴表
2-4 2004
年度の日本の公共事業の状況請負金額(
10
億円) 発注件数1
件当り請負金額(万円)国・公団
3,785
(28%)32,856
(11%)11,520
地方
9,949
(72%)278,311
(89%)3,570
計
13,734 311,167 4,410
(出所)中川ら[
2007
],p.593
第
2
章 地域開発におけるPPP
の果たす役割と課題そこで、公共事業と同様に、PPP事業においても、事業主体の違いによって事業規模に傾 向の違いがみられるのかについて確認する。例えばフィリピンでは、
PPP
事業の承認権者が、事業主体が国か地方自治体かで異なり、その上でそれぞれ事業規模に応じて変わっている が(図 2-6)、地方自治体の
PPP
は事業規模が小さいことが前提になっており、また地方自 治体の事業の方が事業規模も細分化されていることがわかる。(出所)BOT法施行規則(The Philippines BOT Law R.A. 7718 and its Implementing Rules &
Regulations
)の「2.7
節-
優先プロジェクトの承認」(Section 2.7 - Approval of Priority Projects
) をもとに著者作成図
2-6
フィリピンにおけるPPP
の事業規模と事業承認権者の関係地方自治体の事業(Local Project)
国の事業(National Project)
町(Municipality)
州(Province)
特別行政市(City)
地方開発委員会
(Regional Development Council)
投資調整委員会
(Investment Coordination Committee)
経済開発庁
(NEDA:National Economic and
Development Authority)
投資調整委員会
(Investment Coordination Committee)
20 50 100 200 300
0
事業規模(単位:百万ペソ)
承認権者
第
2
章 地域開発におけるPPP
の果たす役割と課題さらに詳細に分析するために、表 2-3のデータを、
PPP
事業の実施主体別、つまり国もし くはそれに準ずる機関が事業主体になっているものと、地方自治体が事業主体のものに分 類した。全体の42
のプロジェクトのうち、国もしくは国に準ずる機関が事業主体となって いるものが29(67.4%)を占めており、残りが地方自治体の事業となっている(表 2-5)。
表
2-5
フィリピンにおける国、地方自治体ごとのPPP
の実施数と事業規模セクター 事業主体:国 事業主体:地方自治体
プロジェク ト数(A)
事業規模
(B)
1
件当たり事業規模
(B/A)
プロジェク ト数(A)
事業規模
(B)
1
件当たり事業規模
(B/A)
エネルギー
0 0 0 1 2 2
IT 5 289 58 1 1 1
電力
14 6,312 451 1 5 5
不動産開発
2 415 208 6 35 6
道路
6 1,486 248 0 0 0
運輸
1 655 655 1 84 84
水道1 650 650 3 189 63
計
29 9,807 338 13 316 24
(注)出所の資料は英語。事業規模の単位は、百万米ドル。
・表
2-3
の注記にある通り、1
件の水道プロジェクトのデータを削除している。(出所)PPPセンター[2017]のデータから著者作成
両者の特徴を以下に整理すると、まず、1件当たりの事業規模において、国(1件当たり の平均:338百万米ドル)と地方自治体(1件当たりの平均:24百万米ドル)の
PPP
には大 きな差がみられる。また、国が事業主体のものは、経済インフラの電力(14件、全体の48.3%)
と道路(6件、同
20.1%)の 2
つのセクターが上位にあるのに対して、地方自治体ではそれ ぞれ1
件(7.7%)、0件となっている。つまり、こうした傾向の違いから、地方自治体が事業主体となった地域開発を目的とした
PPP
事業は、とりわけ事業規模とセクターの面で、国が事業主体となっているPPP
と異な る特徴があることがわかる。第