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第 6 章 結論

6.3. 結語に代えて ―― 地域開発における PPP の今後の適用可能性

国家レベルの大規模な経済インフラに加えて、今後は、地方自治体が事業主体となった地 域開発を目的とした小規模な事業においても、

PPP

に対する期待と導入がさらに進んでいく と考えられる。実際、地域開発への

PPP

の導入を後押しするポジティブな変化がみられる。

(1)

民間資金の変化

イギリスやオーストラリアでは

1990

年代から、企業年金や生命保険などの運用資金がイ ンフラファンドを経由してインフラ整備に流入していたが、日本でも

2016

年になって、最 初のインフラファンドが東京証券取引所に上場して話題を集めた(日本経済新聞[2016])。

現在は、

IT

におけるハードやソフト面のテクノロジーの進化から、「クラウドファンディン グ

91

」や「マイクロファイナンス

92

」に代表されるように、民間資金の流入する方法や手法 が多様化してきた。このほか、「グリーンボンド

93

」や「社会インパクト投資

94

」といった 新しい動きもみられる。

「社会課題の解決に対する投資市場は欧米中心に拡大しており、19年に世界で

5

千億ド ル(56 兆円)に達するとの予測もある」(日本経済新聞[2018a])。CSR(企業の社会的責 任)

95

が一般的な用語として定着し、機関投資家や個人投資家も、単に財務面だけをみたり、

短期的な利益の追求を目的とした投資ではなく、「社会的責任(SRI)投資

96

」や「ESG 投 資

97

」を重視するスタンスが主流になっている(安藤[2011])。これらはいずれも、地域開

91

クラウド(Crowd。群衆の意)と 資金調達(Funding)という言葉を組み合わせた造語で、イ ンターネット上で資金を募る仕組みのこと。資金を必要としている人に対して、それに共感し た人が、一口

1,000

円程度から、インターネットを通じて出資し支援をする。リターンのない

「寄付型」、金銭以外の物品や権利を購入する「購入型」、金銭的なリターンがある「金融型」

などがある。インターネットの普及に伴って市場が拡大してきた。(ReadyFor[2017])

92

主に新興国や開発途上国における貧困層に対して、起業や会社経営等の事業資金のために無 担保で少額の融資等を行うこと。(日本証券業協会[2017])

93

「調達資金の使途を環境改善効果のある事業(グリーンプロジェクト)に限定して発行される 債券」のこと。(環境省[2017])

94

「財務的なリターンと並行して、社会的および(もしくは)環境的インパクトを同時に生み出 すことを意図する投資」(

G8

社会的インパクト投資タスクフォース[

2016

],

p.9

)のこと。

95

企業は、自社の利益の追求だけではなく、あらゆるステークホルダー(利害関係者)に対して、

責任ある行動をとるべきであるという考え方のこと。(日本証券業協会[

2017

])

96

株式投資などをする際に、投資対象の収益力や財務状況といった面だけでなく、環境や社会 に対してどの程度貢献しているかという観点も勘案して投資する手法のこと。(日本証券業協 会[2017])

97 E

Environment

):環境問題への取り組み(生態系保全や温室効果ガス排出量の公表など)、

S

(Social) : 社 会 的 取 り 組 み ( 労 働 条 件 の 改 善 、 人 材 育 成 、 地 域 貢 献 活 動 な ど ) 、

G

Governance

):企業経営を監視する取り組み(行動規範、汚職防止、説明責任など)、を考

6

結論

発型

PPP

への民間資金の流入を後押しするものである。

(2)

民間企業の変化

PPP

1

つのプレイヤーである民間部門には、

NGO

NPO

のほか、民間企業におけるフ ィランソロピー

98

CSR

を通じた活動なども含まれる。しかしながら、補助金や寄付金、他 の事業活動の利益など、自ら創出したものではなく、他者(第三者)の資金に依存する割合 が高いほど、持続的な活動にはなりにくい。つまり、「新しい富の創造なくして、富の分配 を論じても、本質的な課題の解決にはならない」(名和[2015])のであり、持続的な地域開 発には、自立的な価値の創造、分配、循環が必要だといえる。

他方、いわゆるリーマンショックを機に、行き過ぎた資本主義や利益至上主義を修正する かの如く、新たな経営学の中で出てきた概念が、ポーター・クラマー[2011]らが提唱する

「CSV(共有価値の創造)」である。CSVとは、経済(的)価値(Economic Value)だけでな く、社会(的)価値(Social Value)を同時に追求し、事業活動に付随して義務的に行う

CSR

を超えて、企業の戦略そのものにしてしまうという考え方である。社会的な価値と企業にと っての価値を両立させ、企業の事業活動を通じて社会的な課題を解決していくことを目指 す新たな経営理念である。

実際、日本経済団体連合会が

2017

11

月に改訂した、会員企業の行動規範を記した「企 業行動憲章」にも、社会的課題や

SDGs

への配慮を求めた記述がみられる

99

国際社会では、「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)や「パリ協定」(2015年)

が採択され、企業にも社会の一員として社会的課題の解決に向けて積極的に取り組む ように促している。また、2015 年に国連で、持続可能な社会の実現に向けた国際統一 目標である「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択され、その達成に向けて民間セクタ ーの創造性とイノベーションの発揮が求められている。(日本経済団体連合会[2017],

p.1)

慮した投資のこと(安藤[

2011

])。日経[

2018b

]によると、「世界の

ESG

投資残高は約

23

兆 ドル(約

2530

兆円)とされ、世界の運用資産の

3

割に迫る」という。

98

ギリシア語の「フィリア」(愛)と「アンソロポス」(人類)に由来しており、「人類愛」「博 愛」などと訳され、今日的意味として、「社会貢献」と訳されることが多いという。(日本フ ィランソロピー協会[

2017

])

99

日経[2018c]は、SDGsに対応した製品やサービスの市場は世界で

12

兆ドル(約

1,330

兆円)

に膨らむとの予測があり、欧州では経営者の

6

割以上が新たなビジネスチャンスとみて取り組 んでいるとの調査があることに触れ、日本企業も

SDGs

対応に本腰を入れる必要があると結ん でいる。

6

結論

企業の活動は、他者に依存しない自立的なものであるため、常に利益創出のモチベーショ ンが働き、そのための収入増加やコスト減少を追及する。これこそが、所与の予算を分配す る公共部門とは異なる、民間企業の特徴であり得意分野である。

開発途上国における地域開発において、開発の初期段階でリスクが高いときは、長期で譲 許性の大きい開発資金が供与できるという点で、公共が大きな役割を担うことが求められ る。他方、本研究の背景でも述べた通り、公的支援のリソースに制約がある中、持続可能な 開発なためには、民間の参入と事業活動が不可欠である。経済開発が進み、リスクが低減す るにつれて、民間が徐々に大きな役割を担うことで、ヒト・モノ・カネが自立的に域内循環 するようになり、経済開発がさらに進んでいくのである。

図 6-1 に示した通り、PPP は、この間の橋渡しとしても活用できるものである。一方、

PPP

とは、端的にいえば「得意な人が得意なことをやること」であり、いわば官と民それぞ れの強みの合成と弱みの補完によって、VFMを最大化することである。一般的には、公共 が大きな役割と負担を担うべきと考えられている経済開発の初期段階でも、できるだけ民 間と分担することを考えて実行することが

PPP

だともいえる。それこそが持続的な地域開 発の早期の実現に帰着するのであり、その意味において、

PPP

と地域開発は親和性が高いの である。

(出所)著者作成

6-1

経済開発ステージに応じた官民の役割分担

(3)

官の変化

フィリピンでは、アキノ前大統領が

PPP

によるインフラ開発を積極的に推進した一方、

2016

6

月にドゥテルテ大統領が就任して以降は、政府負担が抑制できる反面、「PPPでは

高 低

PPP

官 民

ODA/公共事業

官と民の役割

事業リスク

民間事業 手法

経済開発段階 低 高

(初期) (後期)

6

章 結論

着工までに民間企業等の交渉に

30

ヶ月を要することが問題」(NNA[2017b])とし、公共事 業予算や

ODA

を活用したり、政府が建設を担い、民間企業に運営を委ねる「ハイブリッド 方式」(日本でいう「上下分離」)での

PPP

を促進するなど、PPP の活用はやや後退してい た。ところが、

2017

9

月にこうした方針を転換、「アキノ前政権がターゲットとしていた 大規模事業ではなく、マニラ首都圏外の小規模事業に集中して取り組む方針」を打ち出し、

地方自治体によるインフラ開発に活用する意向を示したという(NNA[2017c])。これは、

膨大なインフラ需要を前に、財政支出だけでカバーするのは不可能であり、改めて民間部門 であり、PPPの重要性や必要性が再認識された結果だといえる。

おわりに

最後に、PPPの活用によって、民間セクターの

3

つの強みである「資金」、「経営・運営の 効率性」、「革新する能力」が導入されることで(ADB[2017b])、地域開発の実現も大きく 進むはずである。本研究で対象にしたバンドリングが、実際の地域開発の現場で広く活用さ れる時期も遠くなく、本研究がそれに貢献できたら光栄の極みである。