第 3 章 民間企業における PPP と事業評価
3.4. 民間企業の PPP 参入に向けた 2 つの課題
第
3
章 民間企業におけるPPP
と事業評価第
3
章 民間企業におけるPPP
と事業評価必要」であり、「事業規模として多いのは
10
億円以上50
億円未満」だと指摘している42
。 こうした取引のためにかかるトランザクション・コストといわれる費用は、事業規模や事 業形式、事業期間などによらず、固定費として、ほぼ一律に同程度の金額が発生する。従っ て、事業規模が小さければ、全体の事業費(初期投資額)に占める取引コストの負担割合は それだけ大きく、その分ネットキャッシュフローによる要回収金額を増加させることにな る43
。事業規模にかかわらず負担しなくてはならないこうした費用、つまり固定費の存在によ り、民間企業の観点に立てば、事業規模が小さいほど採算分岐点は高くなり(図 3-8でいえ ば、損益分岐点が右上に移動)、利益額は減少する(同図でいえば、事業
A
の利益が、利益①から利益②に減少する)。つまり、事業規模が小さいほど、この固定費用が重い負担とな り、一定程度の事業規模がないと、民間企業の参入が難しいことになるのである。実際、内 藤ら[2012]によれば、「大手建設会社(いわゆるスーパーゼネコン)では、設計、建設な ど初期投資額が
20
億~30億円以上の案件を応募する最低条件に掲げている」という。42
内閣府[2016a
]において、PPP/PFI
手法導入を優先的に検討する対象事業の基準の1
つに、「事業費の総額が
10
億円以上の公共施設整備事業(建設、製造又は改修を含むものに限る。)」というものがある。これは裏を返せば、
10
億円を下回る事業規模では、「民間事業者の資金、経営能力及び技術的能力を活用する効果が認められる公共施設整備事業」になりにくいという ことを示唆している。
43
トランザクション・コストは初期投資額の一部とした上で経済性の計算が行われるため、計算 されたIRR
には、既にトランザクション・コストが反映されている。しかしながら、事業規模 が小さい場合、この固定費の割合が増加し、資金回収のタイミングは遅れ、IRRの下方要因と なるのである。第
3
章 民間企業におけるPPP
と事業評価(注)左右いずれの図も「損益分岐点分析グラフ」をもとに作成したもので、通常は横軸(X軸)
には、「事業規模」ではなく、「売上高」が入るのが一般的である。
(出所)グロービス[
1998
],p.207
をもとに著者作成図
3-8
トランザクション・コストの有無による損益分岐点と利益額図 3-8では、同じ事業(費用)構造と収入の「事業
A」について、トランザクション・コ
ストがあることによって、損益分岐点が引き上がり、利益額が減少することが示されている。トランザクション・コストは、
PPP
事業に対する実績や習熟度合いに応じて、例えば弁護士 などの専門家への相談時間が減少していくなど、一定レベルまで低減する性質を有してい るが、こうした経験や学習効果で削減できる程度にも限界がある。事業規模が大きければ、全体の費用(初期投資額)に占める比率が小さいので、トランザ クション・コストも大きな負担とならないが、事業規模が小さければ、この逆に、全体費用 に占める比率が大きくなり、投資回収の観点から大きな負担になる。
これが本研究で着目する「バンドリング」の
1
つの意義である。バンドリングの本来的意 義は、複数事業を束ねることで事業規模を大きくし、民間企業が求める事業規模に対する要 求を満たすことにある。他方、バンドリングは、その付随的な効果として、本来1
つの事業 ごとにかかるトランザクションコストを、複数の事業間で配賦、すなわちコストシェアリン グすることで、一事業当たりの負担額を減らすことにも貢献するのである。収入
事業規模 費用
事業A
変動費 収入
固定費 事業規模 費用
事業A
利益② ケース①: トランザクション・コストなし ケース②: トランザクション・コストあり
損益分岐点 変動費
固定費 利益①
損益分岐点 トランザクション・
コスト
第
3
章 民間企業におけるPPP
と事業評価PPP
の実現には民間企業の参画が必須であり、民間企業の参画には収益性のあるPPP
事 業、換言すればバンカブル44
な事業でなければならない。そこで本章では、民間企業とPPP
に焦点をあてて、民間企業のPPP
の事業評価としてIRR
を活用していることについてみた 後、民間企業のPPP
参入の観点から2
つの課題があることを提示した。1
つは、民間企業が収益性を判断する基準として、収益率だけでなく、量としての収益額 も同時に重要視するということである。そしてもう1
つは、民間セクターがPPP
事業に参 入するためには、事業規模にかかわらず一定の固定費がかかるため、事業規模が小さいほどIRR
の下方要因になることである。逆にいえば、事業規模が小さければ、固定費部分(割合)を下げるために、事業規模を大きくすればよいということでもある。
ここから、規模が小さい地域開発型
PPP
においては、民間企業の参入を促す事業とする ために、質としての収益率とは別に、量としての一定程度の事業規模(収益規模)を確保す ることの必要性が導かれた。そこで次章では、事業規模が小さい地域開発型