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第 3 章 知識の再構成プロセスについての先行研究レビュー

3.2. 知識再構成プロセス

3.2.2. SECI モデルを通じた知識再構成プロセス・モデルの批判的検討

項では、Nonaka & Takeuchi(1995)のSECI モデルおよび野中・紺野(2003)のコンセプト o

aka & Toyama(2003, 2005)は前者を、矛盾を克服する弁証法的なプロセスとして位置付け たが、KRP モデルでは、矛盾の克服過程の背後で感情的な葛藤(ポジティブ・イメージとネガティ ブ・イメージの混在)の克服過程が動いていることを示唆している。また、KRP モデルは、後者の感 情的な再構成がネガティブな感情からポジティブな感情のそれへと転換されることであると示唆し ている。表現を代えると、認知的には、KRP を通じて失敗に終わった研究コンセプトの“良い面”を 発見し、実際にそれをもとに現在の研究活動に活かしている状態を表している、つまり、Wilber

(1995)の言う発展的変化―当時の研究コンセプトを拡張するとともに“保存する”こと―が感情的な 状態の変化を伴っているのである。

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創造

表3-1. SECIモデル/コンセプト知識創造ステップとKRPモデルとの対応付け

SECIモ

(Nonaka ) (

ステップとの対応付け(図3-1参照)をもとに、KRPモデルの批判的検討を行う。Yoshinaga &

Toyama(2006)によれば、SECI モデル/コンセプト創造ステップとKRPモデルとの対応付けは、次

のようになる。1) 共同化(観察)・表出化(概念化)と実践を通じた経験からの問題への気づき、2) 連結化(モデル化)と問題解決モデルの生成、3) 内面化(実践化)と問題解決モデルの実践(38, 表3-1 参照)。また、KRPモデルでは並行して1) と2) の段階の間で感情面での葛藤が生じ、2)

と 3)の段階の間で葛藤が克服され、最終的に既存概念が再構成されて肯定的な感情を獲得する

プロセスが示唆されている。

デル(コンセプト知識創造ステップ) 知識再構成プロセス・モデル & Takeuchi, 1995; 野中・紺野, 2003 Yoshinaga & Toyama, 2006)

共同化(観察) 実践を通じた経験からの問題への気づき

〈葛藤の生成へ〉

表出化(概念化)

連結化(モデル化) ソリューション(問題解決モデル)の生成

〈葛藤の克服へ〉

内面化(実践化) ソリューション(問題解決モデル)の実践

〈既存概念の肯定的感情の獲得へ〉

KRPモデルについての批判は、主に次の 3つの観点から行うことができる。まず、両モデルの 最も

めには、感情面も含んだ包括的認知および実践(行為も含む)におけ る両

大きな相違点として、KRP モデルが、SECI モデルが依拠している暗黙知と形式知の概念を使 用していないことが批判の糸口となるであろう。KRP モデルはそれらに代わることのできる認知的な 側面からの知識の再構成の過程についてはまともに扱っていないのである。このことから、KRP モ デルが感情に主に焦点を当てるあまり、その他の認知的側面を矮小化してしまっていると言える。

次に、野中・紺野(2003)のような明確な形で行為と知識の再構成の関係について、KRP モデルは 何も説明していない。つまり、どのような行為が問題への気づきや問題解決モデルの生成につな がるかについて明らかにしていない。加えて、“実践(practice)”と“行為(action)”の関係が不明確 なままとなっている。このことは KRP における“実践”の定義が不明確であることが主要な原因の 1 つとして挙げられる。最後に、KRP モデルは、KRP がスムーズに行われるための組織的条件

―SECIモデルではビジョンやゆらぎ、最少有効多様性などがそれに対応する―を示していない。さ らに、知識の再構成におけるマネジャーの役割、特にビジョン開発の側面からの再検討も合わせ て行うことが必要である。

上記の批判に応えるた

側面と知識の再構成の関係性を再検討する必要がある。以降、本章の冒頭で触れたとおり、

前者は林(1999, 2001, 2004)の6眼(主体・客体眼、未来・過去眼、アナログ・デジタル眼)モデル とそれに付随するアプリシアティブ・インクワイアリー(Corperrider & Whitney, 1999)の先行研究、

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後者では“行為についての省察(reflection on action)”(Kolb, 1984)と“行為の中での省察

(reflection in action)”(Schön, 1983; Mezirow, 1991, 2000; Weick, 1995; Engeström, 1987, 2001, 2004)の先行研究を検討する。

3.3. 6 眼モデル(認知的枠組みの再構築)

節では、知識の再構成プロセスの認知枠組みを再構築する目的で、林(1999, 2001, 200

、未来、アナログ、デジタル」(150)の視座―ものを認識する立 場―

こと

4)が提唱する6眼モデルを取り上げ検討する。6眼モデルは、「ビジョンを描いて、それに向か

って問題解決して行く」(林, 2001: 149)ためのシミュレートに役立つことを目的として開発された対 話モデルである。6 眼モデルを取り上げる理由として、1) 異文化マネジメント論の領域で開発され たモデルであること、2) 野中等のSECIモデルや筆者等のKRPモデルを超えて含む認知的側面が 設定されていること、の 2 点がある。1 つ目は、前述したように、本モデルは文化的背景8の異なる 人やものの見方とのコミュニケーションを行う前提で設定された対話モデルであり、Pavitt(2005)の 示したイノベーション・プロセスの2つの命題―異質なものの見方の適切な組み合わせと不確定性 に対処する志向性と学習方法―に対し、本モデルがひとつの答えを示している点である。2つ目は、

後に詳しく述べるように、6 眼モデルの想定する認知枠組みが、組織的知識創造理論における認 識論的次元(形式知と暗黙知)と感情的側面、および存在論的次元(主観と客観)を含んでいる上 に、その他の側面(時間的次元)についても明確に設定されていることから、より包括的な枠組みと して捉えることができることにある。

“6 眼”とは、「主体、客体、過去

のことを指し、「これら6つの眼を通して世界を見るという意味」(150)を持つ。さらに、主体・客 体眼を視点軸、過去・未来眼を時間軸、アナログ・デジタル眼をパラ・パラダイム軸(後述するように、

当モデルではモダニズム、ポスト・モダニズムに代表される“現実構成の仕方”をパラダイムとして設 定しており、アナログ・デジタル眼は副次的なパラダイム(para-paradigm)となっている)として設定 している(150、図3-5参照)。一方“モデル”は「主体によって構成された現実を単純化した「仮定の 集合」」(149)と定義されている。6眼モデルは、「6眼のインターアクションとして設定され」(150)、

インターアクション(inter-action)は「お互いを視野に入れて反応し、コミュニケートし、行動する動 的なプロセス」(152)と定義されている。本論においては、インターアクションは同じ軸内の眼同士 の間で働くと仮定する。視点軸においては主体眼と客体眼が、時間軸においては過去眼と未来眼 が、パラ・パラダイム軸においてはアナログ眼とデジタル眼がインターアクトする。従って、本論にお ける6眼インターアクションは、上記の3つのインターアクションに限定して想定されている。

さらに、6 眼モデルは、主体の意識界(consciousness-space)を表わすモデルと理解する

8 ここでいう“文化”とは、一般的に言われる国や民族によって区分される差異だけを示した概念ではない。専門性 や職業特性、性差、世代間で起こる考え方の差異も視野に入れている。そういう意味では、6眼モデルは本論で視 野に入れている準拠枠の差異を想定した対話モデルとして考えてよい。

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ができる。意識界は、6 眼それぞれに対応した 6つの半球体9によって構成されている(図 3-5 参 照)。各半球の大きさはそれぞれの意識の深さを表わす(150-151)。視点軸、時間軸、パラ・パラダ イム軸は意識界の球体内を串刺しにしている(150)。これらの軸が交差する点は“意識の中心”

(153)として設定されている。意識の中心は意識の意識とも表現され、意識のあるところ(焦点)が どの半球にあるか―意識が複数の半球に跨っていることもある―を意識するメタ意識を意味する

(153)。意識界の観点からの6眼インターアクションの意義は、人間の成長ないし変容を促す点に あるため、6眼モデルもまた知識の再構成のツールとして捉えることができるであろう。

「人間の意識の働きと成長を、意識界内および意識界内外のインターアクションとそのパターンの変化と して捉える。とくに意識界内外の活発なインターアクションは、ビジョニングや「ドラマ」(筆者注:客体を巻 き込んだ主体との相互作用)のリフレーミング(reframing)を通じて、創造性を高め、問題解決を推進し、

意識界の拡大と成長を促す。この様な仮定の下に、6眼対話(Six Lens Dialogue)は、6眼の間のインタ ーアクションを積極的に押進めて、新たな気づき、創造性を促すことにより、新しい現実構成、ビジョン開 発、問題解決を図るシミュレーションとして開発され、デザインされている。」(164)

さらに 6 眼モデルはパラダイムの発達過程にもとづき、多層構造を想定している。パラダイムと は、「知覚パターンを決定するモデル、リアリティを構成する基本的な枠組み」(153)と定義され、パ ラダイム毎にそれぞれ異なる 6 眼インターアクションがあるという前提になっている。例えば、林

(2001)は1階、2階という建物のメタファーを使って、モダニズム(機能、実証主義に代表される客 観的現実構成の仕方)とポスト・モダニズム(解釈・構成主義に代表される主観的現実構成の仕方)

の違いを下記のように説明している。

「1 階(筆者注:モダニズム)と 2 階(筆者注:ポスト・モダニズム)の違いは、意識界にある現実世界とは、

主体とは独立して客観的に存在している現実世界が心に映ったものと仮定するか、主体の意識そのもの が現実世界であり、現実世界とは主体が 5 感(+直観)の動きを通じて構成したもの(constructivism)と 仮定するかの違いである。」(158)

さらに、林(2001)は、人間が人間を支配する奴隷制的世界観である地下2階、神が人間を支 配する封建制的世界観である地下1階と、近年主に心理学の分野で注目が集まっているspirit(精 神、絶対的な生命体)の存在を仮定した3階を加えた5層(地下2階~3階)の構造を仮定してい る(159-160)。林(1999, 2001, 2004)はパラダイム間のインターアクションの有効性を示唆してい るが、本論では6眼のインターアクションにその検討範囲を限定し、6眼モデルの持つ多層構造の

9 6眼モデルの意識界は相互に独立した3軸によって構成されているので、球体以外にも、立方体としての形態で の表現は可能である。しかしながら、立方体の構造では、3軸間が同じ間隔で相互に独立している(90°で直交して いる)印象を与えてしまう。実際には、3軸間のインターアクションはより柔軟な関係性を持つであろう。従って、球体 の構造の方がより適切と考える。因子分析の方法論をメタファーとすると、立方体構造はバリマックス回転を適用で きる軸間の関係を想定し、一方で球体構造はプロマックス回転を適用する軸間の関係を想定している、という説明 になるであろうか。

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