• 検索結果がありません。

第 7 章 調査・分析手順

7.1. 調査手順

7.1.2. インタビュー手法

以上のような状況から、本研究において密度の高い参与観察の実施を断念せざるを得なかっ た。従って、参与観察におけるデータ35を補助的なものとして捉え、研究メンバーのインタビューに もとづくデータ収集を心がけた。インタビューでは、事前に参与観察によって得られた経験をもとに 調査対象者の置かれている状況や研究の進捗状況、考え方の志向性を把握し、社内でしか使わ れない用語やA研究チームで必要とされる専門知識を学んだ上で臨んだ36。従って、日常会話に 近いスタンスをとりながらも、日頃の研究活動を通して知識や準拠枠がどのように変化していった のか、という問いかけに焦点を当てることができた。試行錯誤の上、結果的にインタビューは以下 の3つの手法を組み合わせた。1) ライフストーリー・インタビュー(桜井・小林, 2005)、2) 振り返り インタビュー、3) PAC分析インタビュー(内藤, 1997)である。

まずライフストーリー・インタビュー(桜井・小林, 2005)では、調査対象者の準拠枠を多様な観

33 20054月にA研究チームは母体であるMC研究所からMD研究所に転籍したが、筆者は契約上MC研究 所の所属のまま調査活動を続けた。A研究チームの転籍にともなう本調査における不都合は特になかった。

34 この経験は、調査結果の妥当性を確認するのに有効であったが、それ以上に質疑応答を通じて調査対象者の 準拠枠の根幹をなす工学的研究アプローチを実感するのにも役立った。

35 チーム内ミーティングに参加した際に書き留めたメモや、チーム・メンバーとの何気ない会話についてのメモや電 子メールを通じたやり取りのテクスト・データが該当する。

36 修士論文作成時におけるM社MC研究所でのフィールドワーク経験が大変役に立ったが、本調査において新た に勉強しなくてはならないことも膨大であった。特に専門知識については、チーム内で回覧されている資料や、O ーダーから推薦された関連する研究論文に積極的に目を通した。

Copyright © 2007 Takashi Yoshinaga All rights reserved 74 / 142

点から探る目的で行った。具体的にはA研究チームのコアメンバーであるOリーダー、P研究員、Q 研究員の 3 者に対し、自身の今までの研究キャリアを振り返ってもらい、その中からA研究チーム 設立検討や実際に研究を進めていく上でに鍵となった経験・イベントを思い返してもらった。Oリー ダーとP研究員は研究キャリアが重なっていたため、相互に想起したイベントを参照し合うことで、

新たに想起されたイベントや追加コメントを付記してもらった。さらに、3 者のライフ・ヒストリーの結 果を表37にしてまとめ、Nマネジャーに提示するとともにNマネジャー自身のライフ・ヒストリーを収集 した。これら一連のインタビューは2004年7月から2004年12月の半年間にわたって行われた。

次に 2) の振り返りインタビューは、5 章で触れた定点観測的なデータ収集を行うとの方針の 下、

造)分析(内藤, 1997)手法にもとづくインタビュー形式を採 用し

学者の内藤(1997)によって開発された定型的な手順(図 7-1 参照

前回のインタビュー書き起こし資料を提示し、その比較の観点から現在の研究の進捗状況や それに伴う心境を話してもらう、という方法で行われた。Oリーダー、P研究員、Q研究員の3者が その対象となった。振り返りインタビューでは、前回のインタビュー時と比較した“意識の変化”を中 心に問いかけを行った。これら一連のインタビューは、2005年 9月、2006 年3 月~4 月、2006 年9月の3回、半年毎に行われた。

最後に、3) のPAC(個人態度別構

た。本方法は2章でも触れた通り、調査者があらかじめ定めた概念に対する反応ではなく、調 査対象者自身が定めた概念(キーワード)にもとづき、その意味や概念間の関係性を共同で探究 していくことが可能な方法である。

実際の手順としては、社会心理

)にもとづき、日々の研究活動の文脈で調査対象者自身が想起した概念(キーワード)とその 関係性を、Ward法を用いた階層的クラスター分析38によって可視化する。この可視化作業によっ て、調査対象者の内的世界を象徴するデンドログラム(樹形図)が作成される(図 7-2 参照)。デン ドログラムによって、調査者が調査対象者によって構成された内的世界に踏み込む手掛りが得ら れ、インタビューを通じてデータの解釈を間主観的に行うことが可能となる39(内藤, 1997/2002:

9)。さらに、調査対象者自身が思いもよらなかった概念間の関係性の解釈40を調査者が試み、提

37 Microsoft Excelの表作成機能を用いて作成した。イベント毎に、調査対象者名、イベントの内容、調査対象者に よるコメント欄、筆者によるメモ欄が記されている。フォーマットは筆者が用意したが、イベント内容とコメント欄は、イ

学医学部教授が開発したHALWIN ver. 6.25を用いた。内藤(1997/2002)によれば、

・メンバー同

6314日に青山学院大学 ンタビューに先立ち調査対象者自身によって入力された。インタビュー後に、筆者によって調査対象者名と筆者メ モ欄が追加入力された。

38 クラスター分析については、本研究では、統計分析用ソフトウェアとして事実上のスタンダードとなっているSPSS ではなく、高木廣文東邦大

SPSSは、併合された項目(キーワード)群と結束させていくのに対し、HALWINではあくまで項目の結節を続けるた め、その結節結果を丹念に読み解くことによって、キーワードの背後にある調査対象者の行動の連鎖のスキーマが 析出できるとしている(24)。以上のような解釈上の優位性を本論では重視し、HALWINによる出力結果に依拠した 解釈を試みた。尚、HALWINの最新版は、HALBAU 7として、シミック株式会社から発売されている。

39 PAC分析における間主観的理解とは、調査者(インタビュアー)と調査対象者(インタビュイー)との11の関係 における間主観性を想定しているが、本論ではもう一歩踏み込んで、筆者を媒介としたA研究チーム

士の間主観的理解を目指した。つまり、ある特定のキーワードや事象に関する、別の調査対象者の解釈をぶつけ て、それについて考えてもらうような誘導を行ったのである。意見が食い違うままインタビューが終了することもあった が、大抵の場合は、同僚(ないしは上司/部下)の意見を受け止め、自身の解釈をその場で発展的に変化させる結 果が多くみられた。このようなやりとりについても、本論の分析対象となっている。

40 デンドログラムの読解については、キーワードの結節結果の読み取りが重要であり、相当の熟練が必要である。

筆者は本調査に先立ち、13回のPAC分析インタビューを行っている。さらに、200

Copyright © 2007 Takashi Yoshinaga All rights reserved 75 / 142

示することで、調査対象者自身がより深い考察を行うことを促すことが可能となる。このことは、参加 型パラダイムに近づくためのアクティブ・インタビュー(Holstein & Gubrium, 1995)手法が内包さ れていることを示唆している。これらのPAC分析手法の方法論上の特性は、本論の依拠する研究 パラダイムである、構成主義と参加型の中間的スタンスと整合的である。加えて、PAC分析手法で は概念(キーワード)の感情情報を、ポジティブ、ネガティブ、ニュートラルの 3 類型41で簡易的に 付与することが可能であることから、概念間の論理的な矛盾(Engeström, 1987)だけではなく、そ の背後にある感情的な葛藤42にも着目して問いかけを行っている。

図7-1. 本調査におけるPAC分析インタビューの手順(内藤, 1997/2002)

で行われた内藤博士が講師を務めたPAC分析についてのワークショップ(青山学院大学国際コミュニケーション学 会コミュニケーション部門会・PAC分析学会共催PAC分析技法ワークショップ)に話題提供者として招かれ、その場 2003613日に行なわれたOリーダーのPAC分析インタビューにもとづくデンドログラム(本論の分析対象 外)を題材に、ワークショップ参加者の前でデンドログラム読解の指導を受けることができた。

41 デンドログラム上では、ポジティブは+(プラス)、ネガティブは-(マイナス)、ニュートラルは0(ゼロ)と表記され ている。感情判定に際しては、調査対象者に対して理性で考えず、キーワードを目にしたときに、うきうきするような 感じがしたらプラス、胸の部分が締め付けられるような感じがしたらマイナス、何も感じない場合はゼロと答えてもらう よう指示し、アナログ概念にもとづいて身体的認知を得られるよう配慮した。尚、当判定基準に代わるものとして、

Damasio(1999)が提示した背景的情動(快/不快、平静/緊張など)、一次的情動(喜び、悲しみ、恐れ、怒り、驚き、

嫌悪)、二次的情動(当惑、嫉妬、罪悪感など)を調査対象者に示して、それに近い感情をキーワード毎に複数回 答で選んでもらう方法が考えられる。

42 ポジティブな感情が付与されたキーワードとネガティブな感情が付与されたそれが結節した時に生じると仮定し て解釈を試みている。

Copyright © 2007 Takashi Yoshinaga All rights reserved 76 / 142