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修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた概念生成手順

第 7 章 調査・分析手順

7.2. 分析手順

7.2.2. 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた概念生成手順

前項で示したEngeström(2001)の拡張的学習サイクルモデルを用いた内容分析により、テク

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スト・データが本分析枠組みの諸段階に明確に対応付けることができれば、次のステップとして、

M-GTA(木下, 1999, 2003)を用いた“データないし現実に密着した(grounded)”概念生成を行う。

具体的には、テクスト・データに内包されている意味まとまり44に対して、それに形容するにふさわし い“概念”を生成し45、それをラベルとして付与していく。本論ではこの作業を“コード化”と呼ぶ。

概念生成の方法は、M-GTAの本来の方法である帰納的なアプローチに加えて、本論ではあら かじめ提示した分析枠組みにもとづく演繹的なアプローチを併用する。特に、6 眼に関する概念に ついてはあらかじめ生成しておく。但し、“データに密着する”という M-GTA の原則に依拠し、分析 枠組みでは想定していなかった概念を積極的に生成する一方で、テクスト・データには現れない、

または少数しか確認されない概念は分析に用いない。また、本分析枠組みを支援するマネジメント 概念については、先行研究ではNonaka & Takeuchi(1995)の知識創造活動の促進要件を例外と すればほとんど明らかになっていないため、文字通りデータに密着して概念生成を行っていく。

M-GTA では研究者の視点が重要であるとの前提にたっている(木下, 2003)。従って、テクス

ト・データは、調査対象者が発言したテクストだけではなく、筆者の発言についても分析対象とする。

筆者の発言は、調査対象者に対する問いかけ、調査対象者の考えの確認、他の調査対象者の発 言の引用、の3つに分類されるが、どの性質の発言も、A研究チーム・メンバー間、および筆者を加 えて間主観的に構成された現実にもとづく内容であり、分析対象として妥当である。そもそも、コー ド化作業自体が、筆者の視点を通したA研究チームの現実構成に他ならない。そのことはコード化 の妥当性を低めるものではなく、むしろポストモダン研究パラダイムに依拠する上で欠かせない前 提である。本論では、ポストモダン研究パラダイムの妥当性の観点から言えば、筆者自身によるテ クストの分析は筆者自身の現実構成の批判的検討を行うことに他ならないから、むしろその妥当性 を高める働きがあるであろう。

5章で取り上げたM-GTAに関する批判として、データをばらばらに切り刻んだ後再構成する、

との方法上の問題により、データの全体性と発展的継起性に考慮していないという2点を紹介した。

前者については、調査手順で示した PAC 分析によってある程度担保されているという前提に本論 では立つ。PAC分析にもとづくインタビューでは、調査対象者(および調査者)は、デンドログラムを 手許に置いて、常に全体性を意識した発言を行っている。したがって、概念を付与した意味のまと まりは、一定の全体性を内包しているとみなすことができる。加えて、本論では全体性が明確に表 れている意味まとまりに特に着目し、それらに対して重点的にコード化作業を行うことで、全体性の

44 木下(2003)は意味まとまりのことを端的に“概念”と表現している。本論において“意味まとまり”と表現するときは、

概念が付与された生データを意味する。意味まとまりは、分析の単位として客観性に欠けるであるとの批判は免れ 得ないが、これには、明確な基準(例えば一行単位)にもとづくシステマティックな“コーディング”と研究目的にとっ て有意義な概念生成に不可欠な深い解釈を研究方法として統合する(96)という意図が働いている。

45 木下(2003)は“コーディング”と“深い解釈”の間に“研究する人間”の視点を導入することで、両者の統合が可能 であると主張している。生成された概念の妥当性を他の研究者が判断できる基準として一般的なのは、複数の研究 者が試みたコード化の一致度を求めたKoenのカッパー(κ)係数であるが、この方法は、原理的にはデータに対し て浅い理解に留まる研究者のコード化基準が反映されるため、“深い解釈”が成り立たないのは明白である(97)。

彼は、この方法に代えて、概念名、概念の定義、概念付与のテクスト、概念に対する理論的なメモから成る“分析ワ ークシート”の作成を提案している。本論においても、木下(2003)に依拠し、分析ワークシートを概念毎に作成する 作業を取っている。また、分析ワークシートの情報は、A研究チームの機密情報保持に抵触せず、かつ冗長的にな らない範囲で明示していく。

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担保を出来うる限り追求していく方法をとる。後者の発展的継起性に対する担保は、前節での内容 分析により、あらかじめインタビュー・データを諸段階に分類することで対応する。具体的には、意 味のまとまり全てに、対応する第1段階(問題への気づき)、第2段階(ソリューションの開発)、第3 段階(ソリューションについての対話的実践)のダミー・コードを付与する。このことで、すべての意 味まとまりに段階特性が付与することができる。

コード化作業は、ドイツにあるVERBI社が開発した質的データ分析ソフトウェア(Qualitative Data Analysis (QDA) Software)であるMAXQDAを用いて行っていく(図7-3参照)。本ソフトウェア 採用に先立ち、佐藤(2006)による、代表的な 3 つのソフトウェアであるMAXqda2、NVivo7、

ATLAS.ti5 についての基本的な使い方について解説を参考にしながら、筆者自身がそれぞれのソ

フトについての使用感を評価した46。その結果、MAXqda2 が、直感的な操作感と動作の軽快さに おいて他ソフトウェアを圧倒していたため、本ソフトウェアを採用することとした。

本論で用いたバージョンは本論執筆現在(2007年6月)最新版の2007である。本バージョン のメニュー等はすべて英語(独語を選ぶこともできる)であるが、言語データのフォーマットは Unicodeに対応しているため、全く問題なく日本語データを読み込むことができる。さらに、作業の 全てを日本語で進めることが可能である47

MAXQDAの作業インターフェイスを図7-3にて示す。作業インターフェイスは、画面が4つに

分割されている。

左上の画面は、分析対象として読み込ませたインタビュー資料等のファイル48がリストになって 表示されており、読み込んだインタビュー毎の文書をアクティブ化/非アクティブ化することで、選択 的に分析対象にすることが可能となっている。さらに、文書毎にコードが付与された回数(以下、タ グ数と表記する)が表示される。

左下の画面は、コードの生成・管理画面となっている。コードは、木下(1999, 2003)の概念と 対応している。さらに、コードは階層的な管理が可能であり、この機能を援用すれば、複数の概念 を束ねた上位概念―M-GTA ではカテゴリーという用語を用いる―としての認識も可能である。加え て、概念毎のタグ数が表示される。

右上の画面は、アクティブにしたテクスト・データの中身についての閲覧画面であり、この画面 を使用して、コード化作業を行っていく。該当する意味まとまりを選択し、あらかじめ生成しておい た左下の画面に登録してある特定のコード(概念)にドラッグ・アンド・ペーストすると、当該コード

(概念)情報が意味まとまりに付与される。付与情報は、当画面の左部分に表示されるバーで確認 できる。一つの意味まとまりに複数のコードを付与することや、意味まとまりが部分的に重複したり、

一方の意味まとまりの内部に別の意味まとまりを設定したりすることも可能である。

右下の画面は、アクティブにしたテクスト・データ(左上の画面で選択)内でアクティブにしたコ ード(左下の画面で選択)が付与された意味まとまりの一覧が自動的に表示される。一覧画面の特 定のテクストを選択すると、右上の画面が瞬時に特定のテクストが含まれたインタビュー・データに

46 本論で挙げた3つの質的データ分析ソフトウェアは、いずれも評価版をダウンロードすることができる。

47 前バージョンであるMAXqda2は、コード(概念)が日本語で作成できないなどの不具合があった。

48 リッチ・テキスト形式で保存された文書を読み込むことができる。

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切り替わり、テクストの文脈を確認することが可能となる。

以上のインターフェイスおよび機能により、本ソフトウェアを用いることで、概念の生成およびコ ード化作業をスムーズに行うことができるとともに、特定の概念(コード)に対応したテクスト・データ を横断した意味まとまりの検索を行うことが可能になることが分かる。加えて、概念(コード)につい てのメモや、作業全体に関するメモを簡単に作成し、参照することが可能である。これらの機能によ って、本ソフトウェアでは、木下(2003)のM-GTAの分析作業の中心となる分析作業ワークシート―

概念名、概念定義、概念に対応したテクストのリスト、概念に関する理論的メモの4つの情報によっ て構成される―の生成を自動化するとともに、分析ワークシートを動的に閲覧することが可能となる。

従って、本ソフトウェアは、M-GTAにもとづく分析を行うのに適切なツールであると言える。

図7-3. MAXQDA2007のコード化作業インターフェイス http://www.maxqda.com/index.php/screenshots