• 検索結果がありません。

第 5 章 研究アプローチ

5.2. 質的研究アプローチ

5.2.2. グラウンデッド・セオリー・アプローチ

回帰に立ち返って分析手順をシンプルにするとともに、テクストの分析単位を“概念”としたことであ ろう。木下(2003)は、M-GTAの 5つの理論特性を以下のように論じている。1) データに密着した 分析から独自の説明概念をつくって、それらによって統合的に構成された説明力にすぐれた理論 であること。2) 継続的比較分析法による質的データを用いた研究で生成された理論であること。3) 人間と人間の直接的なやりとり、すなわち社会的相互作用に関係し、人間行動の説明と予測に有 効であって、同時に、研究者によってその意義が明確に確認されている研究テーマによって限定 された範囲内における説明力にすぐれた理論であること。4) 人間の行動、なかんずく他者との相 互作用の変化を説明できる、いわば動態的説明理論であること。5) 実践的活用を促す理論であ ること。理論内容のどの部分に働きかければ相手の行動がどう変化するか予想できるので、ヒュー マン・サービス領域での実践的な活用に耐えうること(25-29)。これらの理論的特性のうち、本論の 目的の観点からは、4) の動態的説明のための分析手法理論である、という点において整合的で あると言える。さらに木下が説明しているM-GTAの分析作業上の特性(44-45)のうち、概念を最小 単位としてコード化していく、コード化に際して分析者の視点を重視する、面接型調査に有効に活 用できる、という 3 点においても後述する本論の分析方針と合致している。従って、本論では

M-GTA を土台とした分析を行っていく。図 5-2 は、M-GTA にもとづく分析のプロセス―テクスト・デ

ータの照合により概念生成、生成した複数の概念をまとめてカテゴリーを生成、カテゴリー間の相 互作用を明らかにする―を表している。この図からも、M-GTA の本質が概念生成主導の分析手法 であることが容易に読み取ることができる。

図5-2. M-GTAにもとづく分析手順のイメージ(木下, 2003: 214をもとに吉永一部修正)

本論におけるデータ収集・分析手法の確立にあたって、グラウンデッド・セオリー・アプローチ そのものに対する批判についても考慮する必要がある。能智(2006)は、コード化によってテクスト がばらばらに切り刻んだ後でカテゴリー、ないしはカテゴリー間の相互作用を構成するプロセス・モ

Copyright © 2007 Takashi Yoshinaga All rights reserved 65 / 142

デルによって統合するアプローチは、その質的研究の本来の定義である“状況依存的アプローチ”

の分析方針からはずれるのではないかと危惧している。代わりにデータそのものの時系列的な発 展の構造そのものにも焦点を当てるべきだとし、言語学で開発、使用されてきたシークエンス(継起 連鎖)分析(図5-1参照, 例えばWooffitt(1992)の研究)を代替分析手法として下記の様に示して いる(下線は筆者によるもの)。

「シークエンス分析は、データをなるべく切り刻まずに、発話の流れや全体的な形(ゲシュタルト)を大 事にしながら分析を進める点で共通する技法です。ここで言う「全体」とは、発せられた言葉のレベル における「全体」という意味のこともあれば、言葉が発せられた状況も含んだ、より広い「全体」が問われ ていることもあります。近年はわが国でもこうした方法を試みている研究者は決して少なくないように思 われます。にもかかわらず、KJ法やグラウンデッド・セオリー法ほどには技法や手続きの詳細が知られ ているわけではなく、質的研究の初学者にはなかなかとっつきにくいというのが現状ではないかと思い ます。(中略)「全体やコンテクストを大事にする」と言われても、どこまでを「全体」とすればいいのか、ど こまでが「コンテクスト」なのかが、最初からはっきり定義されているわけではありません。果ての見えな いデータの拡がりを前にして、途方にくれてしまいます。さらに、広い範囲を分析の単位とすると、その 見かけ上の形は多様に変化しますから、そこから共通の特徴を取り出しにくいということもあるでしょう。

分析のそのような困難に対処するために、シークエンス分析のなかで割とよく使われている会話分析 や談話分析、ナラティブ分析などでは、比較的わかりやすい形の分析の手がかりを呈示しているように 思えます。「隣接ペア」(会話における質問-答えなどペアになる構成要素)であるとか、「ポジショニン グ」(語りに登場する登場人物の間の位置関係)であるとかいった概念が、シークエンス的に与えられ た言語データに適用される枠組としてよく知られた例です。」(65-66)

上記のグラウンデッド・セオリー・アプローチ批判のうち、個々のデータの全体性に考慮するこ とや、継時的な流れを考慮した分析を行うべきとの指摘は重要である。しかしながら、本論の分析 枠組みにおける変容(発展的変化)の構造、つまり、第1段階(問題への気づき)、第2段階(ソリュ ーションの開発)、第3段階(ソリューションについての対話的実践)における活動の違いを確認す るためには、会話の流れを考慮したシークエンス分析では不十分である。真の意味での時系列的 なプロセスを追うのであれば、ワンショットのインタビューによって得られたテクストに依存するので はなく、発達心理学で試みられているような、半年毎ないしは1年毎といった定点観測を数年単位 で行う手法30が真の意味で有効だと考えられる31。もしそのようなデータを収集する事ができれば、

かえってM-GTAにもとづく分析方法の有効性が高まると言える。なぜならば、分析対象とするテク ストに時間情報を付与することで、概念間の関係の発展的変化に対する根拠を十分に確保するこ とが可能になるからである。

30 詳細は西條(2005)が編集して提示した様々な縦断研究法を参照のこと。

31 同様の議論は経営学においても提起されている。藤本・延岡(2006)は、「組織能力の具体的中身や発生過程 の動態を理解するためには、長時間の測定や定点観測が不可欠」(43)との研究方法論上の立場を明らかにして いる。

Copyright © 2007 Takashi Yoshinaga All rights reserved 66 / 142