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補遺 4. 2.3 生活満足度に関する調査研究

5.5 Point ( Policy Influence of Indicators )プロジェクトの研究動向

5.5.3 Point プロジェクトにおける今後の指標研究への勧告

POINT プロジェクトにおける全体的な研究成果・結果として、最終的に政策策定におけ

る直接的影響は、ほとんど見出すことができなかったとされる。このことは、対象とされ る政策分野において、単に指標による影響力不足によることに限らず、POINT プロジェク トで取り扱っている評価手法やアプローチが確定されておらず、指標による影響力を明確 にすることができなかった可能性も考えられる。いずれにせよ、このようにPOINTプロジ ェクトにおいて指標の役割や影響が限定的であったことに関しては、本研究でインタビュ ー調査を行った三人いずれの研究者からも同様に指摘がなされた。しかし、このことは

POINT プロジェクトにおいて実施された指標の役割や影響の分析評価の有効性を否定する

ものではない。実際にいくつかの指標は、政策策定に沿った形で開発・選定が行われてい るように、最終的に政策評価やモニタリング機能としての役割が果たされている。その他 にも、研究者やシンクタンクなどによって開発が進められ、新しく指標の分析枠組みやア プローチ手法が政策策定プロセスに導入・反映が進められている。

最後にPOINTプロジェクトは、今後の指標研究を進めていくに当たり、次の5つの点を

勧告(recommendation)として提示している。それらは1)政策策定プロセス、2)指標の

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影響、3)参加、4)指標の実質的効果、そして5)将来的研究の要請である。

① 政策プロセス

指標は、政策関連アクターにより、議論や交渉プロセスにおいて、それぞれの選好や利 益、あるいは価値観を優先させるために引き合い出されることが多く、政策策定プロセス やアジェンダ設定において影響を及ぼす。しかし、特に指標の策定者(producer)と使用

者(user)との間においては、指標の役割に対して、それぞれの考え方の違いが存在してお

り、その理解を進めるとともに、政策策定プロセスにおける相互の役割を認識することが 求められる。つまり、両者によって指標の策定と使用が行われることにより、最終的に政 策策定に対する補助的な役割として結びつけられなければならない。また、指標がコミュ ニケーション手法の一つとして、最終的に政策策定に多くの意見や観点が組み込まれるこ とにより、指標の不適切な利用ができるだけ回避されるだけでなく、政策的課題が明らか にされるとが期待される。実際、政策策定者は、常に効果的かつ適時的な情報にもとづい て合理的な政策選択を行っているわけではなく、「専門的」で理解することの難しい指標を 用いることは、政策策定者による政治的・戦略的な意味合いが含まれる。このような状況 では、最終的により適切な政策策定を望むことは難しい。このことを踏まえると、指標の 政治的策定や使用に関しては、さらなる透明性の確保や理解の容易さが求められる。

② 指標による影響

指標によってもたらされる影響は、単に一つの要因から測ることのできるものではない。

それ以上に、政策策定プロセスにおける指標による役割や影響の間には、トレードオフの 関係性が存在しており、指標による影響を測定することは非常に困難であると考えられる。

そのため、それぞれの政策策定の状況に応じて、とりわけ指標の策定者と使用者によって は、指標によって考えられる影響の種類が明確に認識されなければならない。ただし、POINT プロジェクトにおいて取り上げられている手続き的役割、概念的役割、政治的役割の三つ の指標が持つ役割は、それぞれが優位性(a priori)を持つものではない。

③ 参加の重要性

POINT プロジェクトにおける事例に限らず、政策課題や評価手法に加えて、取り扱う課

題の選定などに関しては、様々な社会的アクターの政策策定プロセスに対して参加を促進 することの重要性が高まりつつあることは間違いない。このことは、指標の政策策定に対 する直接的かつ手続き的役割の向上だけではなく、あらゆる意思決定のコンセンサスを得 るためには欠かせないプロセスである。

指標の役割としては、手続き的役割だけではなく社会的学習の向上などに結びつくこと も考えられる。社会的学習とは、例えば政策策定への参加を通じて取り扱う問題意識が高 まることにより、これまで不明確であった政策課題を見出すことにつながる。また、様々 な意見や価値観のインプットが実現されることによって、新たな指標の分析枠組みの構築 や指標策定などにおいて、適切な情報が得られることにもなる。このように、特に政治的 対立が激化しておりコンセンサスが得られない状況においては、様々な政策アクターやス テークホルダーが政策策定プロセスに参加することにより、意見交換や対話を通じて社会 的学習を果たすことは重要である。最後に、指標の質を形付ける要因としては、妥当性や 信頼性、適時性などが不可欠とされる。これまでの研究では、指標の最終的な結果

(end-product)が重要とされてきており、指標をどのように策定するべきかというプロセ

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スは比較的に軽視されてきた。そのため、指標策定の段階から多くの意見や価値観を組み 込まれることとなれば、最終的に適切かつ効果的な指標に結びつくこととなることが考え られる。

④ 指標による実質的効果

特に政策策定における直接的利用や、手続き的役割の向上のように、指標の実質的効果 を得るためには、次のような点が考慮されなければならない。それらは 1)指標の「使用 者」との関係性、2)科学的正当性、3)測定可能性、4)国ごとの特殊性の反映、5)指標 の定期的なモニタリングや影響評価が求められる。まず、最終的に指標を用いることとな る「使用者」との関係性については、指標内容が簡素であり理解することが容易であるこ とが求められ、同時にそれぞれの社会情勢や変化を反映されていなければならない。また、

科学的正当性については、客観性や合理性などを確保するために、このような科学的およ び技術的な知見に基づいたデータが不可欠となる。続いて、測定可能性に関しては、基本 的には測定が容易であり、適切に実証化されていることが求められる。さらに、指標によ る実質的効果を得るためには、国ごとの特殊性が反映されていなければならない。例えば、

持続可能性指標は理想的にはEUレベルで実施されることが期待されるが、実際にはそれぞ れの指標は国や地域に適した形で用いられなければならない。そのため、それぞれの国や 地域における政策内容や政治的状況などの考慮が求められる。最後に定期的なモニタリン グや評価手法に関しては、それぞれ用いられる指標が、実際に環境政策などの策定プロセ スに適応しているかどうかの立証プロセスを求めるものである。

⑤ 将来的研究の要請

POINT プロジェクトそのものの継続的な研究は、インタビュー調査によれば、資金面な

どの関係から行われないとされているが、プロジェクトの報告書では次のような点が将来 的研究の課題として集約されている。第一に、それぞれ異なるガバナンス・プロセスにお いて果たされる指標の役割についてである。つまり、マルチアクターによるガバナンスの 文脈において指標はどのような役割が考えられ、最終的にどのようにして政策策定プロセ スに影響を及ぼすこととなるかがさらに検討されなければならない。第二に、政策オプシ ョンに関する測定や将来を見越した政策策定プロセスにおいて指標が用いられることによ り、どの程度それらの影響が高まるかである。第三に、POINTプロジェクトの特徴として、

指標の役割や影響の分析評価に当たり、多くの政策アクターやステークホルダーがプロセ スに参加することが重要となる。このような参加の手続きを踏むことにより、社会的学習 効果や問題意識の向上につながるだけでなく、今後指標の分析評価がより適切かつ効果的 に行われることにつながる。このような協働的分析(collaborative analysis)が実現さ れるためには、参加者・政策決定者の特徴の把握や政策決定へのアクセスの確保、あるい は社会文化的な要素までの様々な要素が考慮されなければならない。

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