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補遺 4. 2.3 生活満足度に関する調査研究

5.4 フランス・スティグリッツ委員会と新指標作成の動向

5.4.5 スティグリッツ報告後の国際協働の事例

我が国においては、スティグリッツ報告書は主観的幸福度指標について検討したという 面が強調されて報道されたこともあり、環境や持続可能性を計測する新指標の事例紹介が あまりなされていないのが現状である。そこで、フランス及び欧州、OECDにおいて、ステ ィグリッツ報告書の内容を反映した新指標の具体的な形式を紹介することは、我が国にお ける新指標開発にも資することと思われるので、フランスがドイツおよびOECDと協働で行 った新指標についての取組の事例を取り上げる。

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(1)サルコジ・メルケル報告におけるダッシュボードの例示

スティグリッツ報告書の内容は、概念的な大枠の方針の提示に留まったものであったた め、実効性を持った政策にその内容をどのように反映させるかについては、次の段階に残 された課題とされていた。そこで、フランスのサルコジ大統領とドイツのメルケル首相は 協働で、スティグリッツ報告書の具現化に向けての提案を報告書にまとめるよう命じ、そ の結果が2010年12月10日に「サルコジ・メルケルレポート(通称)21」として発表された。

その報告書には、経済、環境、社会の3分野における持続可能性に関する研究結果の報告 が記述されており、その中には過去持続可能でなかった経済のパターンの一例として、日 本の戦後からバブル期に至るまでの経済分析なども含まれている。サルコジ・メルケルレ ポートには、スティグリッツ委員会による「持続可能性の計測は、厳選された少数の指標

群で行うこと」とする提案の具体例が記載されている。それが表5.4.3である。

5.4.3 サルコジ・メルケル報告におけるダッシュボードの例

経済的福祉

1人当りGDP 労働時間当りのGDP 就職率(15-64歳)

1人当り国内純収入

1人当り最終消費(公共消費を含む)

消費分野ごとの収入の不平等指標 S80/S20 内部調整定量レシオ

生活の質

健康:損失機会年数 教育:15-24歳の学生数 役職付ポストへの就業率

政治活動とガバナンスへの参加:意見聴取と理解 社会的絆(文化、スポーツ、コミュニティ活動)

環境の質:浮遊物質汚染の影響を受ける都市人口 物理的経済的不安:リスクと貧困が存在しない割合

持続可能性

民間セクターの投資(対GDP) 研究開発費への投資(対GDP) サイクル変数の破綻修正 会計の持続可能性指標 対GDP民間クレジットレシオ 財の実態価格との乖離 温室効果ガスの排出水準 1人当りのGDP排出量

自然資源生産率(再生不可能DMIにおけるGDPレシオ)

21正式名称:Rapport du Conseil d’analyse économique et du Conseil allemand des

experts en économie. 作成担当はConseil des ministres franco-allemand であり、フランス側の執筆メンバー には今回インタビューしたINSEEのクレア・プラトー氏も含まれる。

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自然資源消費(1人当り再生不可能DMC) 生物多様性:野鳥の多さ指標

出典:Évaluer la performance économique,le bien-être et la soutenabilitéより筆者翻訳

(2)OECD ベターライフインデックス

2011年5月にOECDより発表されたベターライフインデックスBetter Life Indexは、ステ ィグリッツ報告書の提案を初めて具体化した指標である(OECD,2011b)。スティグリッツ報告書 の第二章では、生活の質について討議され、個人の福祉を規定する要素として①収入と仕事、

②主観的幸福、③住居、④健康状態、⑤仕事とプライベートの生活のバランス、⑥教育、⑦社 会的関係、⑧政治活動(市民として)への参加とガバナンス、⑨環境の質、⑩安全であること、

が列挙された。ベターライフインデックスは、スティグリッツ委員会が取り上げたこれらの福 祉の要素について指標を作成し、OECD 加盟国のデータをホームページ上で公表している。尚、

ベターライフインデックスでは、Web 上で閲覧者が指標項目を自由に選択して独自の指標を作 成できる機能もあるが、その結果は記録され、後の研究に反映される可能性がある。OECDでは、

ベターライフインデックスの基盤となるフレームワークを作成している。図5.4.1は、スティ グリッツ報告書における持続可能性についての理論的枠組みを図式化したものである。

スティグリッツ報告書においては、持続可能性の定義を、「現世代が享受している福祉

(Well-being)のレベルと少なくとも同レベルの福祉を将来世代が実現しうるだけのストッ

クを譲り渡すこと」としている。これは、1987年にブルントラント委員会においてなされ た「次世代のニーズを損なうことなく、現世代のニーズも満たすような発展」という定義 よりも、具体性のあるものとなっている。スティグリッツ委員会は、次世代に継承すべき ものをストックの概念で捉えることは、世界中のあらゆる思想的、政治的背景を異にする 人々との建設的な議論を進めるために有益であると論じている。そして、現世代の福祉

(Well-being)を構成する4つの資本(人的資本、経済資本、自然資本、社会資本)のそ

れぞれが持続可能であることが重要であることも強調されている。4つの各資本が保全さ れ、持続可能性を保つための道筋、及び各資本間の相互関連性についての研究は、今後に 残された課題である。

5.4.1 スティグリッツ報告の福祉

と持続可能性に関する理論のOECDによ る図式化

出 典 :Measuring Well-being and progress of societies. OECD Better Life Initiative.

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フランスの持続可能な発展省では、スティグリッツ報告書の具体化に関する追加的な研 究を続行している。2011年に刊行された報告書によれば、持続可能な発展のためには、環 境、経済、社会の3領域が共に持続可能であることの重要性が確認されており、特に経済 の持続可能性の重要性が強調されている。その理由として、国民の福祉を実現するための 財源として経済の持続可能性が必要不可欠であるとし、さらに経済に環境を融合する必要 性が論じられている。スティグリッツ委員会でコーディネーターを務めたパリ政治行政学 院のジャン・ポール・フィトゥッシ氏は、そのための具体策として今後エコシティなどの イノベーションの研究を一層推進することが肝要だと述べている22