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補遺 4. 2.3 生活満足度に関する調査研究

5.3 欧州における SIA ( Sustainable Impact Assessment :持続可能性影響評価)の研究

5.3.4 最近の影響評価手法( IA )の動向

以上、これまでの調査結果によれば、特にスイスやベルギーなどの国々においてSIAの ような持続可能性影響評価が進められてきていることが分かった。ここで、このSIAとい う政策に対する影響評価手法は、OECDによれば、RIAやIAとは異なる評価手法として認識 されている(OECD 2010a)。当初は、実施される規制などが最大限に効果的かつ適切に施さ れるため、過剰規制の軽減やビジネスに対する不必要なコスト削減を行うような影響評価 手法(IA)、いわゆる規制的影響評価(RIA)として、2005年にはECによる「影響評価ガ イドライン」、2007年にはOECDが「RIA競争評価ツールキット」を公表することとなった。

しかし、本研究における持続可能性影響評価(SIA)については、とりわけ2008年1月 にOECDとECとの連携で行われた「持続可能性評価手法(SIAM)ワークショップ」、また、

2008年のOECD「RIA競争評価ツールキット」の改訂が断続的に続けられており、更には2009 年1月にECも「影響分析(IA)ガイドライン(2005年版)」を改訂するなど、OECDおよび EUの加盟国においても、韓国やオーストラリアなどSIAと称さずとも、統合的影響評価手 法として、持続可能な発展に向けてIAあるいはRIAの更なる研究開発が進められてきてい る。

このようなIAおよびRIAの活用は、複雑かつ複合的な要素が含まれる持続可能性概念に 対しては、どのような政策オプションが考えられるか、いかなる影響が及ぶこととなるか、

それぞれの政策に関連するステークホルダーとは誰なのか、などといったことが考えられ なければならない。そのためIAの実施については、そのことを通じて次の4つが果たされ ることにより、最終的により一層適切に規制が施されると期待される(OECD 2011a)。それ らは第一に、IAによって推定される影響など、最終的な意思決定者に対して情報提供を行 う こ と に よ っ て 、 よ り 根 拠 づ け ら れ た 政 策 決 定 に 結 び つ く こ と が 予 想 さ れ る

(evidenced-based)。第二に、IAの実施は意思決定プロセスの透明化(見える化)の向上 につながることが考えられる(transparency)。第三に、同じく意思決定プロセスにおいて 多くのアクターが参加することによって、持続可能な発展を考慮するに当たり、より多種 多様な意見や観点を組み込むことができる(participation)。最後に、IAが行われること によって様々な優先課題や目的が明確となり、持続可能性に向けたより効果的な戦略につ ながることが予想される(achievement of goals)。

しかし、実際にIAを実施するに当たって多くの課題も残されている。例えば、方法論的 課題(methodological challenges)としては、政策の長期的な影響評価を行う場合、環境、

社会、経済のそれぞれの側面における要素が複雑に絡み合っており、単にデータやモデル 分析では解明することができない不確実性が含まれる。また、タイムスケールが異なるこ となどから、それらの様々な諸要素は統合することや比較することは容易ではない。その 他、参加型の政策決定プロセスの導入・実施には多くの課題が存在するだけではなく (participation)、費用、時間、労力などの資源不足(lack of resources)もIAを実施す るために不可欠な要素であることは理解に難しくない。さらに言えば、最終的な政治的決 定は、基本的には既存のヒエラルキー構造や利害関係における交渉と妥協によって行われ るとされるが、IA の実施はそのような伝統的な制度的枠組みと大きく異なるものとして、

政界の理解が求められる(competing interests)。

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IAに関するOECDの結論としては、持続可能な発展を実現するための不可欠な取組みと なることは間違いないとしつつ、このようなIAの実施にあたって世代間を超えた正義の問 題や国際的公平性の問題、またそれぞれの持続可能性領域である経済的、社会的、環境的 側面においてトレードオフが生じることなどを考慮しつつ、より適切な規制や政策をデザ インしていくことが求められている。最後にSIAおよびIAにおける共通の課題として、OECD はとりわけ以下4つの重要性を指摘している。

① 更なる部門間の協力や学際的な取組みの増進(increased interdepartmental and interdisciplinary work)

② 透明性と協議の改善(improving transparency and consultation)

③ 政府による優先課題と政策の一貫性の確保(the coherence of policies with the priorities of governments)

④ 長期的な費用対効果にもとづく意思決定の実現(the full consideration of long-costs and benefits in decision-making)

以上、このようなIAの取組みは、すでにいくつかのOECD加盟国で実際的に進められて おり、OECDの報告書によれば、ECに加えて、オーストラリア、韓国、オランダ、ポーラン ド、スイス、イギリス、アメリカのIAの動向が報告されている18(OECD 2011a)。表5.3.1 は、これらの国々で実施されているIAの経緯やそれぞれの制度的な位置付け、また持続可 能性やグリーングロース(GG)との関係性について記述したものである。またいくつかの 国では、独自の持続可能性要素をIAに組み込んで評価を行うことを進めているケースも確 認されている。

18ここで留意するべき点としては、イギリスやアメリカなどの欧米諸国とともに、最近では持続可能な発展に向 けて韓国などの動きが活発化してきており、このことは指標開発などに限らず、我が国における政策研究をさら に推し進めていくための動機付けとなる。そのため、特に示唆に富む韓国、オランダ、オーストラリア、EC 持続可能性指標の実施動向などに関しては、本稿補遺において、OECD2011a)の一部を抄訳する。

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5.3.1 様々なSIAの取組みと位置づけ

IAの実施と

システムの種類 IAの位置づけ

持続可能な発展 に向けた戦略やグリーン グロース(GG)との関連 性

経済、社会、環境のそれ ぞれの側面における統 合の程度(Degree of integration)

オースト ラリア

1985年から規制的影響 評価(RIA)が行われてい る

・効果的で効率的な 規制に向けてIAは強力 な位置づけとなってお り、最近の改正では新し い規制からビジネスを保 護することとなった。

・IAに持続可能性要素は 直接的には提示されて いないが、政策担当者は 経済、社会、環境のそれ ぞれの側面で影響評価 分析を行わなければなら ない。

直接的な関連性は ないが、1992年にオース トラリア政府審議会が持 続可能な発展に向けた 国家戦略(National Strategy for Ecologically Sustainable

Development)に合意す ることとなり、そのときに 環境的・社会的側面が経 済的側面に焦点をあてて いる RIA に組み込まれる こととなった。

経済的問題が主流であ り、統合レベルは比較的 低い

韓国

1997年から規制的影響 評価(RIA)が行われてい る

・ビジネス環境の向上と 市場の公開性につなが る

・RIA では持続可能性や 社会的・環境的問題は明 確な要素として取り上げ られていない

直接的な関係性はない

RIA において社会的、環 境的問題が明確に示さ れておらず、統合レベル は低いと考えられる

オラン ダ

・1994年から①競争力の あるビジネス環境の強化 テスト、②法的拘束力テ スト、③実現可能性テスト が行われている

・2011年から上記三つの テストを統合したテストが 行われている。

・IAの主な目的は政 策決定者に対して適切な 情報提供を行うことであ り、そのことによってビジ ネスや環境に対して過剰 負荷を避け、また管理上 の負担を減らすことが重 要とされる

直接的な関係性はない

立法案に対して行われる 影響評価は、それぞれの 側面において異なる評 価テストが実施されてき た。しかし、2011年から は新しいオンラインツー ルが導入され、それぞれ の影響評価テストが統合 されることとなった。

ポーラ ンド

2001年から規制的影響 評価(RIA)が行われてい る

・主な目的としては、①行 政的・政治的な意思決定 の質の向上、②選択され た政策措置による効果の 最大化、③社会的・環境 的側面における問題の 考慮、④持続可能性に 向けたすべての側面に おける平等な対処の促 進などが挙げられる。

直接的な関係性はない

RIA はある程度それぞれ の側面に対して統合的な 評価手法として捉えられ る。

133 スイス

・1999年から規制的影響 評価(RIA)が行われてお り、これは新しい規制に 対して実施が義務付けら れている。

・2002年から全ての新し い規制に対して持続可 能性評価(SA)が行われ ることが義務付けれらて いる

スイスの RIA は主に経済 的影響や新しい規制によ るコストに焦点があてられ ている。しかし、それによ って得られる環境的利益 も考慮されるべきとされ る。

スイスの SA は、スイスに おける持続可能な発展 に向けた国家戦略(SDS)

で設けられている15の評 価基準をもとに影響評価 するための手段として取 り入れられた。そのため RIA と SA の間に直接的 な関連性はない。

SA は持続可能性のすべ ての側面を統合して取り 扱っている。一方、RIA は それぞれ分けて影響評 価を行っており、とりわけ 経済的側面に焦点があ てられている。社会的・環 境的問題が検討されるの は、経済的側面において 測定されるときに限られ る。

イギリス

・1986年から規制的影響 評価(RIA)が行われてい る

・2004年にはそれぞれ 個々の評価テストと RIA をモジュール化して統合 する動きがある

・このようにモジュール化 されたものは①Specific Impact Tests, ② Sustainble Development Impact Test (SDIT)、③ Wider Environmental Test、④Greenhouse Gas Impact Test または Health IA と呼ばれる。

・経済的側面に焦点があ てられている。

・もし特定の影響が生じる 場合には、それに対する 具体的な影響テスト

(SIT)が施されることとな り、社会的・環境的問題も 考慮されることとなる。

直接的な関係性はない

持続可能性評価テスト

(SD impact test)は SIT の 一つであり、持続可能性 のそれぞれの側面の問 題とその他の SIT の結果 を統合することを目的とし ている。また、SDIT は最 終的評価をサポートする 役割として考えられる。

アメリカ

1981年から規制的影響 評価(RIA)が行われてい る

RIA は提言される規制や ビジネス環境に対する経 済的影響に焦点があてら れている。ただし、環境 的・社会的な側面も考慮 されるべきとされる

直接的な関係性はない

持続可能性のそれぞれ の側面は、分析のなかで 考慮されるべきとされる

EC

2003年から統合的影響 評価(Integrated Impact Assessment)が行われて いる

・すべての持続可能性に 向けた側面がバランスよ く対処されなければなら ない。

・IAは欧州経済戦略

(European Economic Strategy)や持続可能な 発展に向けた戦略

(Strategy for SD)の実施 手段として導入された。

IAはEUの持続可能な発 展に向けた戦略

(Strategy for SD)の実施 手段として導入されたも のである

持続可能性のすべての 側面と評価要求

(assessment

requirement)は単一のプ ロセスに統合される。

出典:OECD(2011a)