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脱離するまでの拡散距離 x diff :定義

3. 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明

3.8. 吸着原子の拡散距離の影響

3.8.1. 脱離するまでの拡散距離 x diff :定義

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る。そして N 回のランダムウォーク後の原点周りに存在している確率は正規分布で表 され、原点からの平均距離は~√𝑁である。したがって原子が吸着した点から脱離する点 までの平均距離は√𝐷𝜏で与えられる。Dとτはそれぞれ式(3-13)と式(3-14)で与えられる ので

と計算できる。ただし長さの単位として a0を採用している。表面から脱離するために 必要なエネルギーEdesは通常拡散障壁よりも大きい。例えばSiだと拡散障壁Ediffが1 eV 程度であるのに対して脱離するために必要なエネルギーEdesは4.2 eVであり、この値を 式(3-64)に代入すると、バルクの融点温度の90%においてもxdiffは10 μmのオーダーに もなる[176]。テラス幅が10 μmとなるオフ角はわずか0.0017°なので、通常のオフ角の 基板を用いている限りにおいてはxdiffはテラス幅と比べて十分に長いと考えられる。

式(3-64)からわかるように𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓は温度の関数であり、低温になるほど xdiffは長くなる

(図 3-23)。低温になると単位時間あたりの拡散の回数は減少するものの、脱離する確 率も減少するため脱離するまでの時間も長くなるためxdiffは長くなる。後述するように Lnucは成長速度に依存するが、xdiffは成長速度に依存しない。

図 3-23 xdiffの温度依存性。

xdiffがテラス上の吸着原子密度に与える影響を考える。Kinetic係数が無限に大きく、

平衡密度はゼロと仮定する。すなわちステップにおいて𝜌 = 0であるという境界条件を 与えると密度は、

1/𝑘𝑇 ln 𝑥 𝑑𝑖 𝑓𝑓

𝐸 𝑑𝑒𝑠 − 𝐸 𝑑𝑖𝑓𝑓 2

TT

𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓 = exp[(𝐸𝑑𝑒𝑠− 𝐸𝑑𝑖𝑓𝑓)/2𝑘𝑇], (3-64)

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で与えられる。テラスの中心(𝑥 = 0)での最大密度を 1 としたときの規格化された密 度は、

と計算できる。𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓/𝐿0をパラメータとして計算した𝜌(𝑥)/𝜌(𝑥 = 0)を図 3-24 に示す。

xdiffL0と同程度の場合には密度は放物線状になる。xdiffL0よりも小さいと、中心付 近の密度は𝜌 = 𝐹𝜏でほぼ一定になり、ステップからxdiff程度の領域においてステップに 向かって密度が減少する。これは以下のように理解できる。ステップからxdiff以上離れ ている領域では吸着した原子はステップにたどり着くことができないので、正味の拡散 流束がなくなる。すると吸着原子の密度は入射と脱離のバランスのみで決定される。

xdiff以内の領域に入射した原子はステップまでたどり着くことができるので、この領域 内の密度はステップに向かって減少する。

xdiffL0が同程度である場合には、テラスに入射した原子を上下両方のステップで取 り合うため、片方のステップが取り込む原子の量はもう片方のステップの位置に左右さ れる。例えば、ステップ間の距離が縮まった場合にはそれだけ互いのステップが取り込 み得る原子量が減少するために、ステップの速度は減速する。一方、𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓 ≪ 𝐿0である 場合には各ステップの近傍に入射した原子しか取り込まない。すると、例えステップ同 士が近づいたとしても、そのステップ間隔がxdiffより大きい場合には、それぞれのステ ップに取り込まれる量はほとんど変化しない。そのため、表面に入射する原子のランダ ム性によってステップはほとんど独立に前進する。3.4節で述べたようなESB効果によ るステップのバンチングや等間隔化などはステップ同士の速度が影響し合うことで発 生する。そのため、𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓≪ 𝐿0である場合にはESBが存在していても、ステップの速度 はほとんど独立になり、不安定性、安定性は発現し難いと考えられる。

図 3-24 において、見かけ上xdiffが小さくなるほどρ は大きくなるように見える。し かし、xdiffを小さくするには温度を上げることが必要であり、温度を上げると式(3-65)に おいてτが急減するため、実際にはρは小さくなることに注意が必要である。

𝜌(𝑥) = 𝐹𝜏 {1 − cosh(𝑥/𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓)

cosh(𝐿0/2𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓)}, (3-65)

𝜌(𝑥)

𝜌(𝑥 = 0)=cosh(𝐿0/2𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓) − cosh(𝑥/𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓)

cosh(𝐿0/2𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓) − 1 , (3-66)

𝜕𝜌

𝜕𝑡 = 𝐹 −𝜌 𝜏= 0,

∴ 𝜌 = 𝐹𝜏.

(3-67)

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図 3-24 吸着原子密度ρと脱離するまでの拡散距離xdiffの関係。

xdiffは成長速度にも影響を与える。式(3-65)からステップに流入する原子の流束、すな わちステップの成長速度を計算すると、

が得られる。成長速度と𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓/𝐿0の相関を図 3-25に示す。xdiffL0に対して短い場合に は、成長速度はxdiffに比例している。実際、式(3-68)において𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓/𝐿0≪ 1と仮定すると

が得られる。すなわち、ステップの前後xdiffの範囲に吸着した原子のみがステップの前 進に寄与する。逆にxdiffL0に対して長い場合(𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓/𝐿0≫ 1)には、

が得られる。すなわち、表面に入射した原子がすべてステップに取り込まれるため、v はxdiffに対して依存性を持たず一定である。オフ角Φが微小である場合には𝛷~1/𝐿0

𝐹𝜏

𝑥

𝑑𝑖𝑓𝑓

𝑥

𝑑𝑖𝑓𝑓

L

0

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

-0.5 0 0.5

ρ( x)/ρ( x= 0)

x/L

0

x

diff

/L

0

= 1

0.1 0.01

𝑣 = 2𝐹𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓tanh ( 𝐿0

2𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓), (3-68)

𝑣 ≅ 2𝐹𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓, (3-69)

𝑣 ≅ 𝐹𝐿0, (3-70)

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関係があるので、図 3-25の横軸はΦに比例していると考えてもよい。すなわち、オフ 角を大きくしたときの成長速度の変化は図 3-25のようになると期待される。L0に対し てxdiffが短い場合には基板オフ角を変化させたときに成長速度が有意に変化する。オフ 角を変えた時の成長速度の変化を式(3-68)でフィッティングすることによって xdiffの見 積もりが可能である。ただし、実験的には低オフ基板を用いた場合にはテラス上で核生 成が起こり、これが成長速度に寄与する。これは式(3-68)では考慮されていないので、

テラス上で核生成が発生していないデータのみでフィッティングする必要がある。

図 3-25 成長速度と /𝑳𝟎の相関。横軸はオフ角Φに比例している(Φが微小 であるとき)。