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第2章 有価証券の保有目的区分の意義

Ⅱ IASBとFASBでの検討経緯

日本の会計基準においても混合測定属性モデルを採用しており,債権・金銭債務は償却 原価によるものとし,有価証券については,保有目的の等の観点から,①売買目的有価証 券,②満期保有目的の債券,③子会社株式・関連会社株式,④その他有価証券の4つに分 類されている.①については時価評価3)とし,②および③は取得原価または償却原価,④ については原則時価評価することとされている.

というものである.しかし,議論の中では,公正価値を用いた単一の測定属性モデルであ る全面公正価値測定の方が,混合測定属性モデルに比べて,財務報告を改善し,金融商品 会計基準を大幅に簡素化することになるというのが大方の見解である.

また,2005年10月の合同会議では,全面公正価値測定を長期的な金融商品会計基準の方 向性とすることで暫定的に合意された.合意内容は次の3点である.

① 長期的な会計基準の目的は,すべての金融商品を公正価値で測定し実現損益および未 実現損益は発生した期間に認識する公正価値測定モデルの採用である.

② ヘッジ会計の規定を簡素化し,また可能であれば,特殊な会計処理を縮小もしくは廃 止する.

③ 既存の認識の中止に関する基準と比較して,より簡素化し,適用をより容易にし,財 務報告の概念とより整合する,金融商品の認識の中止に関する収斂した新しい基準を 策定する.

ただし,全面公正価値測定は究極の目的であり,その採用には解決しなければならない 多くの問題点があるという共通認識が示されている(IASB[2005b]).

2005年10月の合同会議では,全面公正価値測定をIASBとFASBの長期目標とすることで 暫定的に合意されたことに対して,日本から以下のような反対意見について説明を行って いる(企業会計基準委員会[2005c]).

・全面公正価値は,JWGの意見が反対された経緯があるにもかかわらず,また,全面公 正価値が混合属性モデルより優れていることが,理論的に証明されておらず,実証研 究もされていないと思われる.

・事業投資が公正価値評価されていないので,金融商品を全面公正価値評価すると,事 業投資との間で評価の歪みが出る.現在の混合属性モデルはこの歪みを補正できるの で優れている.

・日本で考えている,金融投資,非金融投資のモデルが有用ではないか.

これに対しては,IASBにおいては,金融投資・非金融投資のモデルは経営者の恣意性が 介入するということで理解されていない.

全面公正価値測定をIASBとFASBの長期目標とすることで暫定的に合意されたことに 対して,2005年11月開催のIASBの基準諮問会議(SAC)会議において日本から,すべて の金融商品を公正価値評価し,その実現・未実現損益をそれらが生じた期に損益計算書に 計上する考え方に対して反対を表明している.その理由として,金融負債,関係会社投資,

あるいは信託投資等を公正価値評価する会計処理にどのような具体的な有用性があるか明 確な裏づけが行われていないことを挙げている.

これに対しては,IASB(Tweedie議長)から,混合属性モデルがミスマッチの原因とな っており,公正価値オプションがその問題を克服すること,混合属性モデルにおける区分 の問題の解決は1つの区分とすることであり,より簡素で容易なものが全面公正価値モデ ルであると説明している(企業会計基準委員会[2005d]).

さらに,金融商品に関する現行の会計基準を全面公正価値の採用によって置き換えると いう統合化項目は,IASBとFASBが2006年2月に合意した覚書(MOU)において,長期 プロジェクトの1つとして設定され,2008年までにデュー・プロセス文書の公表が目標と され,検討が進められていたものである(FASB and IASB[2006]).

(2)ディスカッション・ペーパーの概要

ディスカッション・ペーパーでは,金融商品の報告における複雑性の主要な原因を検討 するとともに,財務報告を改善し,複雑性を低減するための中間的なアプローチと長期的 なアプローチの双方について検討している(par.IN3).

ディスカッション・ペーパーは3つのセクションから構成されており,今日の複雑性の 主な原因の1つとして,金融商品の測定方法が多数存在することを指摘したうえで,セク ション1では,まず,金融商品が測定される際の多くの方法によって生じる複雑性と問題 点について議論している.そのうえで,測定に関する問題点に対する長期的な解決策は,

すべてのタイプの金融商品に対して単一の測定方法を用いて測定することであり,すべて の金融商品に適切な唯一の測定方法は公正価値であると考えられている(par.IN5).

セクション2において,全面公正価値を適用する前に解決すべき問題点があると審議会 も認識しており,その解決には長期間を要すると考えられることから,公正価値測定規定 を導入するより早期に今日の複雑性を低減することができるかもしれないいくつかの中間 的アプローチ(intermediate approaches)を提案している.具体的には次の3つのアプロ ーチを提案している.すなわち,

① 現行の測定規定の改正

② 現行の測定規定から公正価値測定への原則置き換え(ただし,選択的例外特例を認め る)

③ ヘッジ会計の単純化

である(par.2.4).この3つのアプローチについては,単独,あるいは組み合わせての導 入の可能性もあるものである(par.2.5).

なお,ディスカッション・ペーパーでは,中間的な変更が提案される場合には,以下の 規準を満たさなければならないとしている(par.2.2).

① 目的適合性があり,財務諸表利用者にとって理解が容易な情報を提供する.

② 公正価値の長期的な測定目的と首尾一貫している.

③ 複雑性を増加させない.

④ 改善および簡素化がそれらの変更に要する費用に見合うものである.

前述したとおり,長期的な解決策としては,すべての金融商品を同一の方法により測定 することであり,単一の測定方法を用いることにより,企業間ならびに同一企業内の複数 の会計年度の比較可能性が高まるとしている.そのうえで,すべての金融商品に適切な情 報を提供する唯一の測定属性は公正価値であると考えられるとしている.

あわせて,ディスカッション・ペーパーでは,公正価値および公正価値の変動について の表示に関連した懸念や問題点にも触れている.すなわち,次の3項目である(par.3.102).

① 実現の可能性の低い公正価値変動が収益認識される場合の収益のボラティリティ

② 未実現損益に関する表示

③ 市場ベースの情報が取得不可能な場合の金融商品の公正価値測定の困難および不確 実性

(3)中間的アプローチ:測定基準の改正

全面公正価値モデルを導入するよりもより早く改善し単純化することができる実行可能 な方法として3つの中間的アプローチを提案している.本章では,このうち,①現行の測 定規定の改正(par.2.6-2.14)および②現行の測定規定から公正価値測定の原則への置換 え(par.2.15-2.22)のそれぞれのアプローチについて順を追って詳述する.

金融商品では,IAS第39号「金融商品:測定および認識」において,4つの保有目的区 分,すわなち,①損益を通じて公正価値で測定される金融資産,②満期保有投資,③売却 可能金融資産,ならびに④貸付金および債権を設けている.図表2-1は,現行の会計基 準における有価証券の保有目的区分と中間的アプローチでの提案を筆者が整理したもので ある.

(a)満期保有目的区分の廃止:提案Ⅰ

「現行の測定規定の改正」では,第1のアプローチとして,IAS第39号とSFAS第115号 における満期保有目的の区分を廃止することを提案している(図表2-1・提案Ⅰ).これ は公正価値測定への移行であり,この分類の金融商品の多くはおそらく売却可能に分類さ れることになるであろう.

図表2-1 有価証券の保有目的区分・測定方法(上段:保有目的区分,下段:測定・認識)

米国会計基準 SFAS115

国際会計基準 IAS39

日本

金融商品に関する会計基準 売買目的有価証券

損益計算書を通じて公正 価値で評価される金融資 産または負債

売買目的有価証券

公正価値 公正価値 公正価値

売却可能有価証券 売却可能金融資産 その他有価証券 公正価値

リサイクリング

公正価値 リサイクリング

公正価値 リサイクリング 満期保有目的有価証券 満期保有投資 満期保有目的有価証券

償却原価 償却原価 取得原価(償却原価)

子会社株式・

関係会社株式

取得原価(償却原価)

こ の 変 更 に よ っ て , 満 期 保 有 目 的 の 区 分 か ら の 変 更 に 対 す る 「 テ イ ン テ ィ ン グ

(tainting)」(ペナルティ)条項の必要性を廃止することになり,これらの条項を廃止す ることはある誤った決定のために金融商品全体のグループを財務諸表作成者が再区分し直 さなければならないリスクを排除することが可能となる.しかしながら,このようなアプ ローチは売却可能投資からの利益を損益計算に再分類(リサイクリング5)するかどうか,

また再分類する場合にはどのように行うかという点に関してルールを引き続き求められる ことになるであろう(par.2.10).

提案Ⅱ

提案Ⅰ