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第2章 有価証券の保有目的区分の意義

Ⅰ 混合測定属性モデルとしての金融商品会計

1.米国会計基準

米国においては,1980年代まで金融商品毎に会計基準が設けられていたことから,新た に開発される画期的な金融商品の複雑性により会計基準の整合性を保つことが困難となり,

各方面から,これまでの会計基準は不完全で不適切として見直しが求められた.これを受 けてFASBが,1986年に「金融商品プロジェクト」を立ち上げ,金融商品会計基準に関す る包括的な検討を開始した.

認識と測定のプロジェクトにおいて,1993年には,FASB財務会計基準書(SFAS)第115 号「負債証券および特定の持分証券投資の会計処理」が公表され,有価証券を保有目的別 に「満期保有目的有価証券(Held-to-Maturity Securities)」,「売買目的有価証券(Trading Securities)」,「売却可能有価証券(Available-for-Sale Securities)」の3つに分類したう えで,このうち売買目的有価証券および売却可能有価証券は貸借対照表上で公正価値評価 するものとされた.また,これらの評価差額については,売買目的有価証券の評価差額は 当期損益として損益計算書に計上する一方,売却可能有価証券の評価差額は資本の部の独 立項目として計上する取扱いとされた.さらに,1998年公表のFASB財務会計基準書

(SFAS)第133号「デリバティブおよびヘッジ活動の会計」が公表された.

一方で,FASBは,ディスクロージャー改善プロジェクトにおいて,1991年12月にSFAS 第107号「金融商品の公正価値の開示」,SFAS第119号「派生金融商品および金融商品の公 正価値に関する開示」をそれぞれ公表しており,また,1999年12月には,金融商品の全面 公正価値会計の導入を提案した「予備的見解:公正価値による金融商品および特定の関連 資産,負債の報告に関する主な問題」を公表していることからも,SFAS第115号は暫定的 な基準として公表されたものといえる.

2.国際会計基準

国際会計基準では,国際会計基準委員会(IASC)が,1998年中のコア・スタンダード 完成を優先し,1997年10月に金融商品プロジェクトを暫定基準と包括基準に分割すること を決定した.その後,米国会計基準を基礎として作成された暫定基準であるIAS第39号「金 融商品:認識および測定」が1998年12月に承認された.

IAS第39号では混合測定属性モデルが採用されており,金融資産は,①損益計算書を通 じて公正価値で測定する金融資産または金融負債(A financial asset or financial liability

at fair value through profit or loss),②満期保有投資(Held-to-maturity investments),

③貸付金および債権(Loans and receivables),④売却可能金融資産(Available-for-sale financial assets)の4つに分類され,①および④については,公正価値評価を求め,②お よび③については取得(償却)原価による評価を認めている.

その後,包括基準を検討するため,会計基準設定主体の金融商品ジョイント・ワーキン グ・グループ(JWG)が,公正価値測定の原則にもとづく金融商品会計の包括的基準案を 作成するために1997年10月に組織された.2000年12月には,JWGは前述のとおり「JWG ドラフト基準」を公表したが,多くの反対意見が示された.

3.日本会計基準

日本では,1996年6月に銀行法および証券取引法が改正され,金融機関がトレーディン グ目的で保有する有価証券については時価評価することに決定したことを受け,1997年6 月,企業会計審議会金融商品部会は,「金融商品に係る会計処理基準に関する論点整理」(企 業会計審議会[1997])を公表した.この中で,金融商品の時価評価の導入といった会計 基準の大幅な見直しが提言された.

時価評価の導入を検討するうえで,商法の取得原価主義,利益計算上の取扱い等との調 整が必要となってきたことから,法務省と大蔵省が合同で「商法と企業会計の調整に関す る研究会」を1997年7月から検討を開始し,1998年6月に「研究会報告書」(大蔵省・法 務省[1998])を公表した.この中で,商法においても金融商品の時価会計が導入される ことが望ましいと提案している.

これを受けて,企業会計審議会は,1998年6月に部分的時価主義を導入することを提案 した「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書(公開草案)」(企業会計審議会

[1998])を公表し,「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「金融商品 意見書」という.)を1999年1月に公表した.また,この金融商品意見書によって,企業会 計審議会は「金融商品に係る会計基準」(企業会計審議会[1999].以下「改正前金融商品 会計基準」という.)を新たに制定した.改正前金融商品会計基準の制定を踏まえて,商法 および法人税法の改正が行われた.

その後,商法に代わって会社法が施行され,2006年5月に施行された会社計算規則等に 対応するため,企業会計基準委員会において,改正前金融商品会計基準を改正し,2006年 8月11日付で企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」として公表した.

日本の会計基準においても混合測定属性モデルを採用しており,債権・金銭債務は償却 原価によるものとし,有価証券については,保有目的の等の観点から,①売買目的有価証 券,②満期保有目的の債券,③子会社株式・関連会社株式,④その他有価証券の4つに分 類されている.①については時価評価3)とし,②および③は取得原価または償却原価,④ については原則時価評価することとされている.