第 13章
18.2 Higgs モデル
■σとηで表したLagrangian密度(18.11)について (∂µϕ∗)(∂µϕ) =1
2{∂µ(σ+iη)}{∂µ(σ−iη)}
=1
2(∂µσ)(∂µσ) +1
2(∂µη)(∂µη), V(ϕ) =1
2{(v+σ)2+η2} [
µ2+1
2λ{(v+σ)2+η2} ]
(∵|ϕ|2= (v+σ)2+η2)
=1
2{(v+σ)2+η2}1
2λ{(v+σ)2+η2−2v2} (∵µ2=−λv2)
=1
4λ(v2+ 2vσ+σ2+η2)(−v2+ 2vσ+σ2+η2)
=1
4λ{(2vσ+σ2+η2)2−v4}
=1
2(2λv2)σ2−λvσ(σ2+η2) +1
4λ(σ2+η2)2−1 4λv4
と変形し,V(ϕ)の計算の最右辺において定数項−14λv4を落とせば,Lagrangian密度の式(18.11)を得る.
によってその周りの摂動σ(x), η(x)(ともに実場)を導入すると,HiggsモデルのLagrangian密度は L=1
2(∂µσ)(∂µσ)−1
2(2λv2)σ2−1
4FµνFµν+1
2(qv)2AµAµ−1
2(∂µη)(∂µη) +qvAµ∂µη+ (相互作用項) と書き換えられる.ただし定数項は省いた.また場の2次の項を自由場項と見なし,場の3次以上の項を相互 作用項に含めた.この結果を解釈する前に,次の問題を解消しなければならない.すなわち
• 自由場項に双1次項Aµ∂µηが現れることは,Aµとηが独立な場ではないことを示唆している.
• 初めは質量のないベクトル場Aµを考えており,その独立な自由度は光子と同様に2であるのに対し,
書き換えられたLagrangian密度には質量項12(qv)2AµAµが現れるので,
ゲージ場は3つの偏極状態を持つ(16.3節).
このように自由度が見かけ上1つ増えていることは,
書き換えられたLagrangian密度が非物理的な場を余計に1つ含んでいることを意味している.
実際スカラー場η(x)は非現実的なゴースト場であり,[そのことを反映して,]局所的なU(1)ゲージ変換を 利用して場
ϕ(x) = 1
√2{v+σ(x) +iη(x)}
の位相を調節すれば,その虚部η(x)を消去することができる.このような場η(x)の現れないゲージは ユニ タリーゲージ と呼ばれ,このゲージにおいてHiggsモデルのLagrangian密度は
L= 1
2(∂µσ)(∂µσ)−1
2(2λv2)σ2−1
4FµνFµν+1
2(qv)2AµAµ+ (相互作用項) と表される.これが本節の最終的な結果である.
以上で見たことは次のようにまとめられる.すなわち理論のゲージ不変性を損なうことなくゲージ場Aµは 質量を獲得し,これに伴ってゲージ場の自由度は2から3に増大する.このような現象を Higgs機構 と呼
ぶ.一方Goldstoneモデルにおける,目障りな質量ゼロのη粒子は,Higgsモデルにおいてはゲージ不変性
を根拠に消し去ることができる.ゲージ場Aµの獲得した第3の自由度は,もともとはこの場η(x)が持って いた自由度に他ならない:
複素 スカラー場 ϕ(x), ϕ∗(x) (↔σ(x), η(x)) (自由度2) + 質量のない 実ベクトル場 Aµ(x) (自由度2)
↓
実 スカラー場 σ(x) (↔Higgsボゾン) (自由度1) + 質量を持つ 実ベクトル場 Aµ(x) (自由度3).
最後にこの理論の繰り込み可能性について言及する.質量を持つ中性ベクトルボゾン場の伝播関数はW ボ ゾンの伝播関数(16.30)と同じ形
iDFαβ(k, m) = i(−gαβ+kαkβ/m2) k2−m2+iε
を持ち,これはkαkβ/m2の項のために見かけ上,ループ積分の発散を引き起こす.ところが実際には自発的 に対称性を破っているゲージ理論では,実際の発散は見かけの次数よりも弱まり,理論は繰り込み可能とな る.このことを簡単に理解するには,’t Hooft[ト・フーフト,p.407参照]ゲージ
∂µAµ−mη= 0
の下でLagrangian密度に
−1
2(∂µAµ−mη)2
を付け加えれば良い.(したがって再びη(x)場が導入されることになる.)するとLagrangian密度からη(x) とAµ(x)の結合した双1次項が除かれるため,σ(x), η(x), Aµ(x)のそれぞれを独立な自由場と見なして量子 化を行うことが許される.そして場Aµ(x)を量子化すると,伝播関数として
iDαβF (k, m) = −igαβ k2−m2+iε
が得られることを証明し得る.この’t Hooftの結果では伝播関数に発散を起こす項kαkβ/m2が現れないた め,理論の繰り込み可能性が明白である.
18.2 について
■Lagrangian密度(18.17)について Lagrangian密度(18.15)において,共変微分はDµϕ∗ではなく(Dµϕ)∗ として含まれていることに注意する.
(Dµϕ)∗(Dµϕ) =1
2{(∂µ−iqAµ)(v+σ−iη)}{(∂µ+iqAµ)(v+σ+iη)}
=1
2[{∂µ(σ−iη)}{∂µ(σ+iη)} +{∂µ(σ−iη)}iqAµ(v+σ+iη)
−iqAµ(v+σ−iη)∂µ(σ+iη)
−(iq)2AµAµ{(v+σ)2+η2}]
=1
2{(∂µσ)(∂µσ) + (∂µη)(∂µη)}+qvAµ∂µη+1
2(qv)2AµAµ+ (相互作用項)
なので,微分の共変部分への置き換えによってGoldstoneモデルのLagrangian密度(18.11)に対する付加的 な自由場項は
qvAµ∂µη+1
2(qv)2AµAµ である.
■「質量を持つ実ベクトル場Aµ(x)」(p.488,l.3),「Aµ(x)は質量|qv|」(p.488 下から2 行目)について Lagrangian密度の自由場項の表式(18.17),(18.19b)を,質量を持つ自由な複素ベクトル場のLagrangian密 度(16.21)と比較する.「式(17.19b)[正しくは式(18.19b)]の2行目は,質量を持つ中性ベクトルボゾン場 のラグランジアン密度と同じであ」(p.489,l.22,23)る.
■場Aµの運動方程式(18.27)について Lagrangian密度(18.26)において場Aµを記述する項は
−1
4FµνFµν+1
2m2AµAµ−1
2(∂µAµ)2
であり,第1項と第3項はQEDのLagrangian密度(5.10):−12(∂νAµ)(∂νAµ)と等価である(p.490脚注4). よってこれは全体として,Klein-Gordon場のLagrangian密度と類似の形
1
2{(∂νAµ)(∂νAµ)−m2AµAµ}
と等価である.なお,場の方程式(18.27)自体はProca方程式(16.18)と変わらない.
■η場に対応する 幽霊粒子 と縦波・スカラー光子の類似性(最終段落)について このような幽霊(ゴース ト)粒子を我々はQCDにおいても見ている.(QCDのゴーストへの言及がないのは,QCDに関する章が第 2版において後から追加されたためであると想像される(訳者あとがき参照).)